1 / 125
村編
プロローグ
しおりを挟む
俺こと神裂雄人は魔王を倒した。
剣から滴る血は黒ずんだ赤色をしている。
黒い石が敷き詰められた床に魔王の首がゴトリと落ちた。
俺は乱れた黒髪をかき上げながらその首を見つめる。
普通なら勇者が一度だけ目にするような光景だが、俺にとっては見慣れた光景だ。
それもそのはず、俺は今までに何十、何百の魔王の首を取ってきたのだから。
俺は日本で生まれ、日本で死んだ。
死因は確か、インフルエンザだったか。
知ってる? 人って簡単に死ぬんだよ、病気には気をつけようね。
俺が異世界に転生してから何があったか、思い出してみる。
あの時はだんだんと意識が薄れ、自分の体が衰弱していくのを感じた。
プッツンと何かが切れたかと思うと、目の前が真っ暗になった。
目を瞑った時のまぶたの先の光も消えた、何も見えない世界。
目の前が真っ暗になると同時に近くのセンターに運ばれるとかは無かったが、気配を感じた、目の前に人がいる。
何も見えない、真っ暗な世界で目の前にいる人物がこう言った。
『人の役に立ちたくはないか?』
常に通知表に静かでクラスに溶け込んでいる生徒です、と書かれるくらいに期待されていなかった俺はその誘いに乗った。
その結果、悪を倒す役目を果たすことになり、異世界に転生した。
最初の世界はかなり苦戦した、剣なんて使ったことがないのだから当然である。
そこからさらに、魔法を使えるときたもんだ、経験ゼロの俺は習得するのに数年掛かってしまった。
まあ最初の世界の記憶はほとんど忘れちゃったんだけど。
夢の異世界転生とは何だったのか。
俺がこの世界に来た理由は、魔王を倒して世界を救うためだ。
前の世界では確か……ドラゴンだったか。
次の世界はどんな所だろうか、炎の世界か、それとも氷の世界か。
どちらにせよ何度も行ったことがある世界なので、面白味なんてなかった。
世界が変わるたびに一からのやり直し、ということは無く、様々な世界で培った経験が蓄積されている。
炎の世界や氷の世界、はたまた毒の世界などは何度も行って、ある程度の耐性がついてしまった。
例えるなら、某カブゲーのレベル上限とステータス上限を消したみたいな感じだ。
わかりにくいね。
つまりチート・オブ・ザ・チートだ。
わかりやすいね。
俺は数々の世界で『英雄』と呼ばれてきた。
英雄ユウトである、ユウユウである。白書とかつきそう。
嬉しくないわけじゃないけど、やはり慣れない。
元々人に認められたい、人の役に立ちたいという気持ちで世界を救っていたのだ。
それが今はどうだろうか、まるで"作業"だ。
そしてその作業の中で分かったことがある。
人間側も、魔族側も、お互いに正義を持っているのだ。
俺は人間と魔族の共存を願った。
しかし、それは叶わなかった。
自分に許されているのは、目標となる標的を倒すこと。
その目的に背くことは許されていなかったのだ。
ターゲットの討伐に関係の無いことをしようとすると強力な頭痛が襲ってくる。
いや、正確には『目標の達成を諦めた時』だ。
頭痛を我慢して何度も命を落としそうになるが、精霊の加護で生き返ってしまう。
この精霊の加護っていうのはなかなかに凄く、不意打ちを食らい頭と体がセパレートしてしまっても生き返る優れものだ。
なんという生き地獄、これで病んでいない自分に驚きである。
仕方なく、俺はターゲットを倒し続けた。
次の世界に行き、また標的を倒す。
きっとそれは永遠に続くのだろう。
と、ここまでが俺が異世界に転生してからあった事だ。
よく覚えていないが、かなり長い年月を過ごしたのは確かだろう。
つまり見た目はショタで精神年齢はオッサン、またはおじいちゃんということだ。
……17歳はショタなのか?
そんなことを考えていると足元が光り出した。
転移の光だ、この光に飲み込まれて次の世界に転移させられるのだ。
……おかしい、いつもはターゲットを倒してから数時間は掛かるのに。
まあいい、この光に飲み込まれるのを待とう。
目を開けると真っ白な光りの中にいた。
ひかりのなかにいる、ってやつだな。
それは石か。
それにしても遅い。
いつもなら光の中に入ってすぐに次のターゲットを知らされるのに。
指示を出されないまま数分漂っていると、いっそう光が強くなった。
次の世界に転移する瞬間である。
だがまて、指示はどうした、次は何を倒せばいいんだ。
何がどうなっているかわからないまま、視界が黒く染まった。
* * *
目を覚ますと森の中にいた。
ふむ、今回の世界は普通の世界だな、毒とか炎とかの世界じゃなくて助かった。
で、俺は何をすればいいの?
奴の声なんてしなかったし……。
仕方ない、どこか村を探そう。
そう漏らしながら立ち上がり、振り向くとそこには村があった。
「転移して目の前に村か……」
某ブロックゲームならかなりのアドバンテージになるな。
まあ、俺には鍛えられた魔法があるからアドバンテージなんてないようなものだけど。
よし決めた、俺はこの世界で平和に暮らしてやる。
平和に過ごすために、居るのかは分からないが、魔族と人間の争いを止めてやる。
そう、全ては俺が平和に過ごすためだ。
指示がない今、俺は自由にさせてもらう。
命令を受けていない今、何を考えようが頭痛は襲ってこない。
そう、俺は遂に自由を手にしたのだ。
誰にも縛られない世界、もしかしたらすぐにでも指示が来て自由がなくなってしまうかもしれない。
それでも今は自由なのだ、目的も何も無い、自分の意思だけで行動ができる。
俺は初めてバイトの給料を渡された日のような、ウキウキした気分で村に向かった。
剣から滴る血は黒ずんだ赤色をしている。
黒い石が敷き詰められた床に魔王の首がゴトリと落ちた。
俺は乱れた黒髪をかき上げながらその首を見つめる。
普通なら勇者が一度だけ目にするような光景だが、俺にとっては見慣れた光景だ。
それもそのはず、俺は今までに何十、何百の魔王の首を取ってきたのだから。
俺は日本で生まれ、日本で死んだ。
死因は確か、インフルエンザだったか。
知ってる? 人って簡単に死ぬんだよ、病気には気をつけようね。
俺が異世界に転生してから何があったか、思い出してみる。
あの時はだんだんと意識が薄れ、自分の体が衰弱していくのを感じた。
プッツンと何かが切れたかと思うと、目の前が真っ暗になった。
目を瞑った時のまぶたの先の光も消えた、何も見えない世界。
目の前が真っ暗になると同時に近くのセンターに運ばれるとかは無かったが、気配を感じた、目の前に人がいる。
何も見えない、真っ暗な世界で目の前にいる人物がこう言った。
『人の役に立ちたくはないか?』
常に通知表に静かでクラスに溶け込んでいる生徒です、と書かれるくらいに期待されていなかった俺はその誘いに乗った。
その結果、悪を倒す役目を果たすことになり、異世界に転生した。
最初の世界はかなり苦戦した、剣なんて使ったことがないのだから当然である。
そこからさらに、魔法を使えるときたもんだ、経験ゼロの俺は習得するのに数年掛かってしまった。
まあ最初の世界の記憶はほとんど忘れちゃったんだけど。
夢の異世界転生とは何だったのか。
俺がこの世界に来た理由は、魔王を倒して世界を救うためだ。
前の世界では確か……ドラゴンだったか。
次の世界はどんな所だろうか、炎の世界か、それとも氷の世界か。
どちらにせよ何度も行ったことがある世界なので、面白味なんてなかった。
世界が変わるたびに一からのやり直し、ということは無く、様々な世界で培った経験が蓄積されている。
炎の世界や氷の世界、はたまた毒の世界などは何度も行って、ある程度の耐性がついてしまった。
例えるなら、某カブゲーのレベル上限とステータス上限を消したみたいな感じだ。
わかりにくいね。
つまりチート・オブ・ザ・チートだ。
わかりやすいね。
俺は数々の世界で『英雄』と呼ばれてきた。
英雄ユウトである、ユウユウである。白書とかつきそう。
嬉しくないわけじゃないけど、やはり慣れない。
元々人に認められたい、人の役に立ちたいという気持ちで世界を救っていたのだ。
それが今はどうだろうか、まるで"作業"だ。
そしてその作業の中で分かったことがある。
人間側も、魔族側も、お互いに正義を持っているのだ。
俺は人間と魔族の共存を願った。
しかし、それは叶わなかった。
自分に許されているのは、目標となる標的を倒すこと。
その目的に背くことは許されていなかったのだ。
ターゲットの討伐に関係の無いことをしようとすると強力な頭痛が襲ってくる。
いや、正確には『目標の達成を諦めた時』だ。
頭痛を我慢して何度も命を落としそうになるが、精霊の加護で生き返ってしまう。
この精霊の加護っていうのはなかなかに凄く、不意打ちを食らい頭と体がセパレートしてしまっても生き返る優れものだ。
なんという生き地獄、これで病んでいない自分に驚きである。
仕方なく、俺はターゲットを倒し続けた。
次の世界に行き、また標的を倒す。
きっとそれは永遠に続くのだろう。
と、ここまでが俺が異世界に転生してからあった事だ。
よく覚えていないが、かなり長い年月を過ごしたのは確かだろう。
つまり見た目はショタで精神年齢はオッサン、またはおじいちゃんということだ。
……17歳はショタなのか?
そんなことを考えていると足元が光り出した。
転移の光だ、この光に飲み込まれて次の世界に転移させられるのだ。
……おかしい、いつもはターゲットを倒してから数時間は掛かるのに。
まあいい、この光に飲み込まれるのを待とう。
目を開けると真っ白な光りの中にいた。
ひかりのなかにいる、ってやつだな。
それは石か。
それにしても遅い。
いつもなら光の中に入ってすぐに次のターゲットを知らされるのに。
指示を出されないまま数分漂っていると、いっそう光が強くなった。
次の世界に転移する瞬間である。
だがまて、指示はどうした、次は何を倒せばいいんだ。
何がどうなっているかわからないまま、視界が黒く染まった。
* * *
目を覚ますと森の中にいた。
ふむ、今回の世界は普通の世界だな、毒とか炎とかの世界じゃなくて助かった。
で、俺は何をすればいいの?
奴の声なんてしなかったし……。
仕方ない、どこか村を探そう。
そう漏らしながら立ち上がり、振り向くとそこには村があった。
「転移して目の前に村か……」
某ブロックゲームならかなりのアドバンテージになるな。
まあ、俺には鍛えられた魔法があるからアドバンテージなんてないようなものだけど。
よし決めた、俺はこの世界で平和に暮らしてやる。
平和に過ごすために、居るのかは分からないが、魔族と人間の争いを止めてやる。
そう、全ては俺が平和に過ごすためだ。
指示がない今、俺は自由にさせてもらう。
命令を受けていない今、何を考えようが頭痛は襲ってこない。
そう、俺は遂に自由を手にしたのだ。
誰にも縛られない世界、もしかしたらすぐにでも指示が来て自由がなくなってしまうかもしれない。
それでも今は自由なのだ、目的も何も無い、自分の意思だけで行動ができる。
俺は初めてバイトの給料を渡された日のような、ウキウキした気分で村に向かった。
0
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
戦車で行く、異世界奇譚
焼飯学生
ファンタジー
戦車の整備員、永山大翔は不慮の事故で命を落とした。目が覚めると彼の前に、とある世界を管理している女神が居た。女神は大翔に、世界の安定のために動いてくれるのであれば、特典付きで異世界転生させると提案し、そこで大翔は憧れだった10式戦車を転生特典で貰うことにした。
少し神の手が加わった10式戦車を手に入れた大翔は、神からの依頼を行いつつ、第二の人生を謳歌することした。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる