気ままにダラダラ狩猟生活~冒険しながら世界を食らいつくします!~

瀬口恭介

文字の大きさ
上 下
46 / 65

お忍び王

しおりを挟む
 宿屋から出て、ギンの元へ向かう。早朝からギン成分補給だ。今のうちにギンと戯れて王様との会話で倒れないようにしないと。
 馬小屋? というよりは、魔獣小屋だろうか。大きな屋根付きの建物に入り、昨日のお姉さんに話しかける。

「おはようございます、ギンいますか?」
「ああ、昨日の。いますけど、なんだか変な人がドラゴンがいると聞きつけて見学しに来てるので気を付けてくださいね」
「変な人?」

 ギン近くには灰色のローブを着こみ、顔を隠した男が立っていた。顎に手を当てふむと真面目に観察しているようだ。
 しかしどこで知ったのか。もしかしたら門の近くにいた? それとも移動しているところを見られたのか。

「うわ、本当に変な人だ。大丈夫ですかあれ」
「大丈夫じゃないから監視してるんですよ。一応見るだけで何もしないという約束はしたので」
「なるほど」

 見たいと言われて、見るだけなら監視付きで許可した、と言ったところか。ただの見学なら、後にしてもらいたい。私は今からギンとイチャイチャするのだ。

「あの、すみません」
「ぬっ? ん、んん!! な、なにかな」

 明らかに驚いた時の声と喋っているときの声が違う。わざと声を低くしているな。

「このドラゴンは私の仲間なんです。見学なら私がいないときにしてください」
「そうか。ところで、本当にこのドラゴンは君の仲間なのかい?」

 む。別に普通の反応なのだが、馬鹿にされたような気がしてちょっと不機嫌になってしまう。
 ちなみにだが、ポコと隊長はもうすでにギンのそばで遊んでいる。羨ましい。

「もちろんです。ほら、あそこで遊んでいるでしょう」
「ほお、これはなかなか……」

 言われて気づいたようで、再び顎に手を当てて観察を始めた。
 流石に女の子二人をまじまじと観察するのは気持ち悪いよ、おじさん。

「あの、流石にそこまで見られるのは……」
「ん、ああ悪かった。じゃあ私は帰るとするか。はぁ、帰ったら仕事かぁ」

 意外と素直に帰ろうとするローブの男。
 帰ったら仕事と言っているし、働きづめで癒しを求めてきたのかな? それならちょっとだけなら触らせてあげてもよかったかもしれない。

「あれ、遊ばないんですかーーー?」
「なにっ、いいのか!?」

 ポコの提案に突然声が変わるローブの男。
 なんだろうなぁ、この声、どこかで聞いたことがあるような、ないような。

「あ、はい。少し触るくらいなら別に……」
「よっしゃ! 行くぜギン!!」
「え、名前……」

 お姉さんに聞いたのかもしれない。それなら納得だが、そうだとしてもちょっとはしゃぎすぎじゃないだろうか。態度が急に変わるのはあまりいい印象とは言えない。

「ほう、これがドラゴンの肌か。ふむ、まるで鎧だな。む、顎の下が柔らかそうではないか、どれ、触らせてみよ」
「クォォォ」
「おお、こやつめ。なかなか愛らしいではないか」

 んーーー、どっかで聞いたことあるんだよな。いやほんとこればっかり言ってるけどさ、どっかで聞いたの。聞き覚えのある声というか、ここで聞くような声じゃないというか。
 そんなことを考えていると、ギンがローブの男のローブを咥えて引っ張った。ああ、口の前にあったからつい挟んじゃったのか。

「や、やめろ! 過度なスキンシップは嫌われるのだぞ!」
「クォォン!!」

 あ、ローブ引っぺがした。

「ぐ、ぐああああ!! しまった!」

 必死で顔を隠すローブの男。いやもうローブ着てないか。ただの男だ。
 そこまでして顔を見られたくないとなると、相当の美貌か、コンプレックスがあるか、知られてはいけないような立場の人間か。私、気になります。
 というわけで覗き込む。見ちゃうよね。

「あっ」

 ローブの下に隠れていた顔、それはこの国の王、フォルト王だった。
 いやなんとなくそんな気はしていたのだが、まさか本当に王様がこんなところにいるとは思わず、顔をそらすことすらできずに固まってしまった。

「忘れよ!」
「いや無理ですよ!」
「なんという失態だ! 仕方がない、褒美をやるから見逃せ!」

 片手で顔を覆い、もう片方の手をこちらに向けるという奇妙なポーズをする王様。

「それはあまりにも王様らしくないであります……」
「確かに。ちなみにその褒美とは?」
「聞いちゃうんだー」

 ポコ、貰えるものは貰っておいた方がいいんだよ。
 しかも王様直々の褒美、今ある資金を使わずともクリスタルを手に入れることができるかもしれないのだ、乗らない手はない。

「王様と握手できちゃう権利をやろうではないか」

 要らない。

「要らない」
「口に出すな戯けが」

 バシッと頭を叩かれる。バシッと叩かれる権利も貰っちゃった?
 なんてことをしていると、お姉さんが戻ってきた。

「エファちゃんたち、あの人いつまで……って王様!?」
「違うが?」
「もう無理ですよ」

 さも当然のように嘘をつくので思わず横から言ってしまった。

「まさか本物の王様がここに来るとは思いませんでした……」
「うむ。他言はするなよ? オレは城を抜け出してきているのだからな」

 城を抜け出した……いわゆるお忍びという奴か。昨日のメイドさんの態度からして、バレたらこっぴどく叱られそうだ。

「え、勝手に来たんですか? なんでわざわざそんな……」
「昨日言ったであろう、ギンに会いたいとな。しかしこれほど懐くとは……やはり面白い」
「えっと、そういえば話があると言っていましたよね?」
「む、そういえばそうだったか。では城に戻るとしよう。オレはもう行くが、貴様らはどうする?」
「じゃあ、一緒に行きます」

 だって王様が怒られてるところ見たいじゃん。

「いいよね二人共」
「いいよー」
「大丈夫でありますー」

 二人共遊びながらそう言った。ギン成分を補給できない代わりに王様が怒られているのを見て一日を乗り切ろう。大丈夫、王様とも少しは親しくなったし、昨日よりは話がしやすいはずだ。

「そうか。ではローブを返してもらおう。つかの間の休息であったな……」

 王様って忙しいのかな。それとも単純に仕事が多いとか。ギンと遊んで癒されたのだとしたら私としても嬉しい。もし王様さえよければいつでも来てくれてもいいのに。なんて思ったけど忙しくて無理そうだね。
 ローブを着なおした王様と共に城へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜

アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。 だが、そんな彼は…? Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み… パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。 その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。 テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。 いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。 そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや? ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。 そんなテルパの受け持つ生徒達だが…? サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。 態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。 テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか? 【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】 今回もHOTランキングは、最高6位でした。 皆様、有り難う御座います。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...