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お忍び王
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宿屋から出て、ギンの元へ向かう。早朝からギン成分補給だ。今のうちにギンと戯れて王様との会話で倒れないようにしないと。
馬小屋? というよりは、魔獣小屋だろうか。大きな屋根付きの建物に入り、昨日のお姉さんに話しかける。
「おはようございます、ギンいますか?」
「ああ、昨日の。いますけど、なんだか変な人がドラゴンがいると聞きつけて見学しに来てるので気を付けてくださいね」
「変な人?」
ギン近くには灰色のローブを着こみ、顔を隠した男が立っていた。顎に手を当てふむと真面目に観察しているようだ。
しかしどこで知ったのか。もしかしたら門の近くにいた? それとも移動しているところを見られたのか。
「うわ、本当に変な人だ。大丈夫ですかあれ」
「大丈夫じゃないから監視してるんですよ。一応見るだけで何もしないという約束はしたので」
「なるほど」
見たいと言われて、見るだけなら監視付きで許可した、と言ったところか。ただの見学なら、後にしてもらいたい。私は今からギンとイチャイチャするのだ。
「あの、すみません」
「ぬっ? ん、んん!! な、なにかな」
明らかに驚いた時の声と喋っているときの声が違う。わざと声を低くしているな。
「このドラゴンは私の仲間なんです。見学なら私がいないときにしてください」
「そうか。ところで、本当にこのドラゴンは君の仲間なのかい?」
む。別に普通の反応なのだが、馬鹿にされたような気がしてちょっと不機嫌になってしまう。
ちなみにだが、ポコと隊長はもうすでにギンのそばで遊んでいる。羨ましい。
「もちろんです。ほら、あそこで遊んでいるでしょう」
「ほお、これはなかなか……」
言われて気づいたようで、再び顎に手を当てて観察を始めた。
流石に女の子二人をまじまじと観察するのは気持ち悪いよ、おじさん。
「あの、流石にそこまで見られるのは……」
「ん、ああ悪かった。じゃあ私は帰るとするか。はぁ、帰ったら仕事かぁ」
意外と素直に帰ろうとするローブの男。
帰ったら仕事と言っているし、働きづめで癒しを求めてきたのかな? それならちょっとだけなら触らせてあげてもよかったかもしれない。
「あれ、遊ばないんですかーーー?」
「なにっ、いいのか!?」
ポコの提案に突然声が変わるローブの男。
なんだろうなぁ、この声、どこかで聞いたことがあるような、ないような。
「あ、はい。少し触るくらいなら別に……」
「よっしゃ! 行くぜギン!!」
「え、名前……」
お姉さんに聞いたのかもしれない。それなら納得だが、そうだとしてもちょっとはしゃぎすぎじゃないだろうか。態度が急に変わるのはあまりいい印象とは言えない。
「ほう、これがドラゴンの肌か。ふむ、まるで鎧だな。む、顎の下が柔らかそうではないか、どれ、触らせてみよ」
「クォォォ」
「おお、こやつめ。なかなか愛らしいではないか」
んーーー、どっかで聞いたことあるんだよな。いやほんとこればっかり言ってるけどさ、どっかで聞いたの。聞き覚えのある声というか、ここで聞くような声じゃないというか。
そんなことを考えていると、ギンがローブの男のローブを咥えて引っ張った。ああ、口の前にあったからつい挟んじゃったのか。
「や、やめろ! 過度なスキンシップは嫌われるのだぞ!」
「クォォン!!」
あ、ローブ引っぺがした。
「ぐ、ぐああああ!! しまった!」
必死で顔を隠すローブの男。いやもうローブ着てないか。ただの男だ。
そこまでして顔を見られたくないとなると、相当の美貌か、コンプレックスがあるか、知られてはいけないような立場の人間か。私、気になります。
というわけで覗き込む。見ちゃうよね。
「あっ」
ローブの下に隠れていた顔、それはこの国の王、フォルト王だった。
いやなんとなくそんな気はしていたのだが、まさか本当に王様がこんなところにいるとは思わず、顔をそらすことすらできずに固まってしまった。
「忘れよ!」
「いや無理ですよ!」
「なんという失態だ! 仕方がない、褒美をやるから見逃せ!」
片手で顔を覆い、もう片方の手をこちらに向けるという奇妙なポーズをする王様。
「それはあまりにも王様らしくないであります……」
「確かに。ちなみにその褒美とは?」
「聞いちゃうんだー」
ポコ、貰えるものは貰っておいた方がいいんだよ。
しかも王様直々の褒美、今ある資金を使わずともクリスタルを手に入れることができるかもしれないのだ、乗らない手はない。
「王様と握手できちゃう権利をやろうではないか」
要らない。
「要らない」
「口に出すな戯けが」
バシッと頭を叩かれる。バシッと叩かれる権利も貰っちゃった?
なんてことをしていると、お姉さんが戻ってきた。
「エファちゃんたち、あの人いつまで……って王様!?」
「違うが?」
「もう無理ですよ」
さも当然のように嘘をつくので思わず横から言ってしまった。
「まさか本物の王様がここに来るとは思いませんでした……」
「うむ。他言はするなよ? オレは城を抜け出してきているのだからな」
城を抜け出した……いわゆるお忍びという奴か。昨日のメイドさんの態度からして、バレたらこっぴどく叱られそうだ。
「え、勝手に来たんですか? なんでわざわざそんな……」
「昨日言ったであろう、ギンに会いたいとな。しかしこれほど懐くとは……やはり面白い」
「えっと、そういえば話があると言っていましたよね?」
「む、そういえばそうだったか。では城に戻るとしよう。オレはもう行くが、貴様らはどうする?」
「じゃあ、一緒に行きます」
だって王様が怒られてるところ見たいじゃん。
「いいよね二人共」
「いいよー」
「大丈夫でありますー」
二人共遊びながらそう言った。ギン成分を補給できない代わりに王様が怒られているのを見て一日を乗り切ろう。大丈夫、王様とも少しは親しくなったし、昨日よりは話がしやすいはずだ。
「そうか。ではローブを返してもらおう。つかの間の休息であったな……」
王様って忙しいのかな。それとも単純に仕事が多いとか。ギンと遊んで癒されたのだとしたら私としても嬉しい。もし王様さえよければいつでも来てくれてもいいのに。なんて思ったけど忙しくて無理そうだね。
ローブを着なおした王様と共に城へ向かった。
馬小屋? というよりは、魔獣小屋だろうか。大きな屋根付きの建物に入り、昨日のお姉さんに話しかける。
「おはようございます、ギンいますか?」
「ああ、昨日の。いますけど、なんだか変な人がドラゴンがいると聞きつけて見学しに来てるので気を付けてくださいね」
「変な人?」
ギン近くには灰色のローブを着こみ、顔を隠した男が立っていた。顎に手を当てふむと真面目に観察しているようだ。
しかしどこで知ったのか。もしかしたら門の近くにいた? それとも移動しているところを見られたのか。
「うわ、本当に変な人だ。大丈夫ですかあれ」
「大丈夫じゃないから監視してるんですよ。一応見るだけで何もしないという約束はしたので」
「なるほど」
見たいと言われて、見るだけなら監視付きで許可した、と言ったところか。ただの見学なら、後にしてもらいたい。私は今からギンとイチャイチャするのだ。
「あの、すみません」
「ぬっ? ん、んん!! な、なにかな」
明らかに驚いた時の声と喋っているときの声が違う。わざと声を低くしているな。
「このドラゴンは私の仲間なんです。見学なら私がいないときにしてください」
「そうか。ところで、本当にこのドラゴンは君の仲間なのかい?」
む。別に普通の反応なのだが、馬鹿にされたような気がしてちょっと不機嫌になってしまう。
ちなみにだが、ポコと隊長はもうすでにギンのそばで遊んでいる。羨ましい。
「もちろんです。ほら、あそこで遊んでいるでしょう」
「ほお、これはなかなか……」
言われて気づいたようで、再び顎に手を当てて観察を始めた。
流石に女の子二人をまじまじと観察するのは気持ち悪いよ、おじさん。
「あの、流石にそこまで見られるのは……」
「ん、ああ悪かった。じゃあ私は帰るとするか。はぁ、帰ったら仕事かぁ」
意外と素直に帰ろうとするローブの男。
帰ったら仕事と言っているし、働きづめで癒しを求めてきたのかな? それならちょっとだけなら触らせてあげてもよかったかもしれない。
「あれ、遊ばないんですかーーー?」
「なにっ、いいのか!?」
ポコの提案に突然声が変わるローブの男。
なんだろうなぁ、この声、どこかで聞いたことがあるような、ないような。
「あ、はい。少し触るくらいなら別に……」
「よっしゃ! 行くぜギン!!」
「え、名前……」
お姉さんに聞いたのかもしれない。それなら納得だが、そうだとしてもちょっとはしゃぎすぎじゃないだろうか。態度が急に変わるのはあまりいい印象とは言えない。
「ほう、これがドラゴンの肌か。ふむ、まるで鎧だな。む、顎の下が柔らかそうではないか、どれ、触らせてみよ」
「クォォォ」
「おお、こやつめ。なかなか愛らしいではないか」
んーーー、どっかで聞いたことあるんだよな。いやほんとこればっかり言ってるけどさ、どっかで聞いたの。聞き覚えのある声というか、ここで聞くような声じゃないというか。
そんなことを考えていると、ギンがローブの男のローブを咥えて引っ張った。ああ、口の前にあったからつい挟んじゃったのか。
「や、やめろ! 過度なスキンシップは嫌われるのだぞ!」
「クォォン!!」
あ、ローブ引っぺがした。
「ぐ、ぐああああ!! しまった!」
必死で顔を隠すローブの男。いやもうローブ着てないか。ただの男だ。
そこまでして顔を見られたくないとなると、相当の美貌か、コンプレックスがあるか、知られてはいけないような立場の人間か。私、気になります。
というわけで覗き込む。見ちゃうよね。
「あっ」
ローブの下に隠れていた顔、それはこの国の王、フォルト王だった。
いやなんとなくそんな気はしていたのだが、まさか本当に王様がこんなところにいるとは思わず、顔をそらすことすらできずに固まってしまった。
「忘れよ!」
「いや無理ですよ!」
「なんという失態だ! 仕方がない、褒美をやるから見逃せ!」
片手で顔を覆い、もう片方の手をこちらに向けるという奇妙なポーズをする王様。
「それはあまりにも王様らしくないであります……」
「確かに。ちなみにその褒美とは?」
「聞いちゃうんだー」
ポコ、貰えるものは貰っておいた方がいいんだよ。
しかも王様直々の褒美、今ある資金を使わずともクリスタルを手に入れることができるかもしれないのだ、乗らない手はない。
「王様と握手できちゃう権利をやろうではないか」
要らない。
「要らない」
「口に出すな戯けが」
バシッと頭を叩かれる。バシッと叩かれる権利も貰っちゃった?
なんてことをしていると、お姉さんが戻ってきた。
「エファちゃんたち、あの人いつまで……って王様!?」
「違うが?」
「もう無理ですよ」
さも当然のように嘘をつくので思わず横から言ってしまった。
「まさか本物の王様がここに来るとは思いませんでした……」
「うむ。他言はするなよ? オレは城を抜け出してきているのだからな」
城を抜け出した……いわゆるお忍びという奴か。昨日のメイドさんの態度からして、バレたらこっぴどく叱られそうだ。
「え、勝手に来たんですか? なんでわざわざそんな……」
「昨日言ったであろう、ギンに会いたいとな。しかしこれほど懐くとは……やはり面白い」
「えっと、そういえば話があると言っていましたよね?」
「む、そういえばそうだったか。では城に戻るとしよう。オレはもう行くが、貴様らはどうする?」
「じゃあ、一緒に行きます」
だって王様が怒られてるところ見たいじゃん。
「いいよね二人共」
「いいよー」
「大丈夫でありますー」
二人共遊びながらそう言った。ギン成分を補給できない代わりに王様が怒られているのを見て一日を乗り切ろう。大丈夫、王様とも少しは親しくなったし、昨日よりは話がしやすいはずだ。
「そうか。ではローブを返してもらおう。つかの間の休息であったな……」
王様って忙しいのかな。それとも単純に仕事が多いとか。ギンと遊んで癒されたのだとしたら私としても嬉しい。もし王様さえよければいつでも来てくれてもいいのに。なんて思ったけど忙しくて無理そうだね。
ローブを着なおした王様と共に城へ向かった。
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