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戦力が上がった
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馬車が王国に到着すると、他の狩人がぞろぞろと帰っていく。兵士からは、私が剥ぎ取ったデクセス一頭の素材以外の売却価格を受け取った。
他にも数組がお金を受け取っている。デクセスを倒したのはこれだけなのか……流石にあの森に大量に出現している、なんてわけじゃないからそもそも見つからなかったのだろう。
実際、アカネさん達も見つけることができなかったそうだ。
私が上げた煙を目印に、近くにデクセスがいるのではないかと期待して近づいてきたらしい。
「あー、そのなんだ。やっぱり」
「無理です。旅をするので」
別れ際に勧誘してくるアカネさんに即答する。
女狩人が少ないのは分かるが、私にはやりたいことがあるのだ。
「だよなぁ。まあ、気が向いたら遊びに来てくれ。しばらくここにいるのなら会うことだってあるだろ?」
「わかりました」
「またねー!」
手を振りながら武器屋に向かう。
アカネさんの住んでいる場所などは聞いているので、気が向いたら行ってみようか。
「面白い人たちだったねー」
「だね。色々教えてくれたし、話して正解だったかも」
武器は専門外だったらしく助言はもらえなかったけど、魔獣と戦うときに便利なポーションとか道具とか教えてくれたから大満足だ。
「くうう……重い」
剣やハンマーなどを選ばなくてよかった。選んでいたら、きっとまともに戦えないだろう。
持つと多少軽くなるらしいが、それでも大きな荷物に変わりはない。ポコも弓なのに折りたためるのだ。場所を取らないし運びやすい。
さてさて、この武器たちがどのように素材で改造されていくのかわくわくが止まりませんなあ。
「あ、エファちゃんたち! よかった!」
鍛冶屋が見えてくると、店先にお兄さんが立っていた。私達を見つけ、手を振っている。
しまった、待たせてしまったかもしれない。
「お兄さん、すみません遅くなりました。あの、もう遅いんで明日にしますか?」
「いやいや、すぐに終わるさ。ちょっと待っててくれ。爺さん、来たぞー」
お兄さんは鍛冶屋に来るように顎を動かした。
ポコと一緒に鍛冶屋に入る。ここに来るのは二回目だが、やはり暑い。暑いし、熱い。
溶鉱炉というのだったか、それや金床が並んでいて、熱が冷める要素がなさすぎる。あっついここ。
「おう、やっと来たか。片方は完成しておるぞ」
「えっ、本当ですか!?」
そう言って片方のナックルを渡してくる。爪の部分がラピットスの角でできている。
あの先端が先細った角を、よく角の形に加工できたものだ。あれは角というよりも宝石のようにも思えたが、それでも想像もできない技術だ。こんなにあったっけ? ってくらい爪に使われている。
「そして、お前さんのはここまでできておる」
「え、わたしも!?」
確かにポコも武器を渡していたが、まさか一緒に加工されるとは。
おじいさんが取り出した弓の中心には、青い宝石のようなものがはめ込まれていた。
え、これがあの角? すっごく綺麗じゃん、なにこれ本物の宝石みたい。
「後はお前さんらが持ってきた素材を加工して仕上げじゃ」
「お、お願いします!」
「やるのはわしではない。そうじゃろ?」
「ああ。二人共、見ててくれ」
頷いた後にお兄さんに素材を渡し、加工されていく様を見届ける。お兄さんは慣れていないのが伝わってくるくらいに、一つ一つ慎重に、震える手で加工をしてくれた。
爪はナックルの爪の部分に取り付けられ、牙は爪がない状態での攻撃に使う面に取り付けられた。
これで、殴った時のダメージが上がった。斬りやすくなり、殴りやすくなった。素晴らしい。
「ふぅ……どうだい?」
「ふむ……まあこんなもんじゃの」
素直じゃないんだから―もー。なんて思ってみたが、実際どうなのだろうか。素人目には綺麗だなーくらいの感想しか出てこない。
「まだ上があるんですか?」
「素材があればの。それこそ、もっと良い素材が手に入ればデクセスの素材はお役御免じゃ。デクセスは目撃情報が多い、希少価値はそこまでないからの」
つまりこれで十分ってこと。なんだ素直じゃないだけじゃん! わしなら比べ物にならないくらい別物になる、みたいな返答が来ると思ったのに。
珍しいわけじゃない……珍しかったら素材が良いものになるというのもおかしな話では?
触れてはいけないラインに触れそうになったので口には出さないことにした。
「次は弓じゃな」
「ポコちゃん、どうしたい?」
「どう……? うーん、威力を上げたい、かな?」
「威力……わかった」
そう言うと、おじいさんは弓の端と端に爪を、それ以外の場所に牙を取り付けた。
おお、一気にかっこよくなった。何て言うか、ごつい。
「これは何の意味があるんですか」
「デクセスの爪は魔力を通しやすいんだ。牙は武器内にため込む魔力を増やしてくれる。だから魔力を放出する爪を端に付けたんだ。適材適所、その場所に合った素材を選ばなくちゃいけない」
「なるほど……弦を出して……おおーっ!」
おそらくよくわかっていないポコはそう言いながら魔力の弦を出した。
ブゥンと聞き覚えのある音。青い魔力は心なしか勢いが強くなったように思える。
「どのくらい違う?」
「魔力がすっごい入るよこれ!」
魔力が入る。つまり一気に放出できる魔力が増えたということ。
これなら今までよりも大きな魔力の矢を放つことができる。まさしく威力が上がるってことだ。
色々と加工をしていたが、見た目的には本当に取り付けただけのような出来だ。違和感がない。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございましたー!!」
「ああ、こっちこそありがとう。他の素材を持ってきてくれたからかなり安くなりそうだよ」
ポコと一緒にお礼を言い、お兄さんにお金を払う。
当初は全財産使うのではないかという資金問題も、魔獣で全て解決した。
やはり魔獣は素晴らしい。そう思いながら鍛冶屋を去る。さて、宿屋探さないとね。空いてるかな。
「なっ、爺さん。修行してもいいだろ?」
「そうじゃな、ま、監修はするがな」
背後でそんな会話が聞こえ、個人の目標が叶ったことに内心喜んでしまう。
人が幸せになる瞬間は、やっぱりいいな。魔獣で困っている人がいるのだから、その人を助けるのもいいかもしれない。
他にも数組がお金を受け取っている。デクセスを倒したのはこれだけなのか……流石にあの森に大量に出現している、なんてわけじゃないからそもそも見つからなかったのだろう。
実際、アカネさん達も見つけることができなかったそうだ。
私が上げた煙を目印に、近くにデクセスがいるのではないかと期待して近づいてきたらしい。
「あー、そのなんだ。やっぱり」
「無理です。旅をするので」
別れ際に勧誘してくるアカネさんに即答する。
女狩人が少ないのは分かるが、私にはやりたいことがあるのだ。
「だよなぁ。まあ、気が向いたら遊びに来てくれ。しばらくここにいるのなら会うことだってあるだろ?」
「わかりました」
「またねー!」
手を振りながら武器屋に向かう。
アカネさんの住んでいる場所などは聞いているので、気が向いたら行ってみようか。
「面白い人たちだったねー」
「だね。色々教えてくれたし、話して正解だったかも」
武器は専門外だったらしく助言はもらえなかったけど、魔獣と戦うときに便利なポーションとか道具とか教えてくれたから大満足だ。
「くうう……重い」
剣やハンマーなどを選ばなくてよかった。選んでいたら、きっとまともに戦えないだろう。
持つと多少軽くなるらしいが、それでも大きな荷物に変わりはない。ポコも弓なのに折りたためるのだ。場所を取らないし運びやすい。
さてさて、この武器たちがどのように素材で改造されていくのかわくわくが止まりませんなあ。
「あ、エファちゃんたち! よかった!」
鍛冶屋が見えてくると、店先にお兄さんが立っていた。私達を見つけ、手を振っている。
しまった、待たせてしまったかもしれない。
「お兄さん、すみません遅くなりました。あの、もう遅いんで明日にしますか?」
「いやいや、すぐに終わるさ。ちょっと待っててくれ。爺さん、来たぞー」
お兄さんは鍛冶屋に来るように顎を動かした。
ポコと一緒に鍛冶屋に入る。ここに来るのは二回目だが、やはり暑い。暑いし、熱い。
溶鉱炉というのだったか、それや金床が並んでいて、熱が冷める要素がなさすぎる。あっついここ。
「おう、やっと来たか。片方は完成しておるぞ」
「えっ、本当ですか!?」
そう言って片方のナックルを渡してくる。爪の部分がラピットスの角でできている。
あの先端が先細った角を、よく角の形に加工できたものだ。あれは角というよりも宝石のようにも思えたが、それでも想像もできない技術だ。こんなにあったっけ? ってくらい爪に使われている。
「そして、お前さんのはここまでできておる」
「え、わたしも!?」
確かにポコも武器を渡していたが、まさか一緒に加工されるとは。
おじいさんが取り出した弓の中心には、青い宝石のようなものがはめ込まれていた。
え、これがあの角? すっごく綺麗じゃん、なにこれ本物の宝石みたい。
「後はお前さんらが持ってきた素材を加工して仕上げじゃ」
「お、お願いします!」
「やるのはわしではない。そうじゃろ?」
「ああ。二人共、見ててくれ」
頷いた後にお兄さんに素材を渡し、加工されていく様を見届ける。お兄さんは慣れていないのが伝わってくるくらいに、一つ一つ慎重に、震える手で加工をしてくれた。
爪はナックルの爪の部分に取り付けられ、牙は爪がない状態での攻撃に使う面に取り付けられた。
これで、殴った時のダメージが上がった。斬りやすくなり、殴りやすくなった。素晴らしい。
「ふぅ……どうだい?」
「ふむ……まあこんなもんじゃの」
素直じゃないんだから―もー。なんて思ってみたが、実際どうなのだろうか。素人目には綺麗だなーくらいの感想しか出てこない。
「まだ上があるんですか?」
「素材があればの。それこそ、もっと良い素材が手に入ればデクセスの素材はお役御免じゃ。デクセスは目撃情報が多い、希少価値はそこまでないからの」
つまりこれで十分ってこと。なんだ素直じゃないだけじゃん! わしなら比べ物にならないくらい別物になる、みたいな返答が来ると思ったのに。
珍しいわけじゃない……珍しかったら素材が良いものになるというのもおかしな話では?
触れてはいけないラインに触れそうになったので口には出さないことにした。
「次は弓じゃな」
「ポコちゃん、どうしたい?」
「どう……? うーん、威力を上げたい、かな?」
「威力……わかった」
そう言うと、おじいさんは弓の端と端に爪を、それ以外の場所に牙を取り付けた。
おお、一気にかっこよくなった。何て言うか、ごつい。
「これは何の意味があるんですか」
「デクセスの爪は魔力を通しやすいんだ。牙は武器内にため込む魔力を増やしてくれる。だから魔力を放出する爪を端に付けたんだ。適材適所、その場所に合った素材を選ばなくちゃいけない」
「なるほど……弦を出して……おおーっ!」
おそらくよくわかっていないポコはそう言いながら魔力の弦を出した。
ブゥンと聞き覚えのある音。青い魔力は心なしか勢いが強くなったように思える。
「どのくらい違う?」
「魔力がすっごい入るよこれ!」
魔力が入る。つまり一気に放出できる魔力が増えたということ。
これなら今までよりも大きな魔力の矢を放つことができる。まさしく威力が上がるってことだ。
色々と加工をしていたが、見た目的には本当に取り付けただけのような出来だ。違和感がない。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございましたー!!」
「ああ、こっちこそありがとう。他の素材を持ってきてくれたからかなり安くなりそうだよ」
ポコと一緒にお礼を言い、お兄さんにお金を払う。
当初は全財産使うのではないかという資金問題も、魔獣で全て解決した。
やはり魔獣は素晴らしい。そう思いながら鍛冶屋を去る。さて、宿屋探さないとね。空いてるかな。
「なっ、爺さん。修行してもいいだろ?」
「そうじゃな、ま、監修はするがな」
背後でそんな会話が聞こえ、個人の目標が叶ったことに内心喜んでしまう。
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