気ままにダラダラ狩猟生活~冒険しながら世界を食らいつくします!~

瀬口恭介

文字の大きさ
上 下
3 / 65

Re:豚から始まる異世界食生活

しおりを挟む
 お金を受け取り、食事分の肉を受け取った私は、早速豚肉を食べるために焚火をしていた。
 街の郊外、人はあまりいない場所だ。辺りは暗くなってきているので早めに済ませて宿屋に戻りたい。

「こんなところでいいの?」
「いいの。ちゃんとした料理じゃなくて、お肉の美味しさが知りたいから」

 昔食べたあのお肉はあまり味付けをしなかった。なら、お肉本来の美味しさを追求するべきだ。
 ここは塩だけで食べる。

「うぇぇ、こんなの食べるんだ。美味しくなさそう」
「何言ってるの、内臓はすごく美味しいんだよ。びっくりするよ絶対」

 内臓は基本的に腐りやすいのでその日に食べなければいけない。
 もしや街では内臓が食べられていないのでは……? それは勿体ない、絶対に食わせる。

「ほら焼けた。塩をかけて……はい、食べてみて」
「心臓……」

 初めての心臓には抵抗があるのかな? でも新鮮なお肉、内臓はとてもシャキシャキしていて美味しいのだ。これは取りたてでしか味わえない美味しさなので、ぜひ知ってほしい。

「んむっ……ん? んん!?」

 覚悟を決めハツにかぶりつくポコ。噛み切った後、串に刺さっている残りのハツを全て口に含んだ。
 お、これは確定では?

「どう?」
「ほいひぃ! らにこえ!」
「なんて?」

 おいしい、なにこれ? 冷静に考えたら何て言っているのか分かるが、咄嗟に言われたらちとわからねぇなぁ! 私もお腹空いたよ、食べよう食べよう。

「美味しいよ! すごい、こんなの初めて食べた……!」
「でしょ? 私はこういう美味しいものを食べたいから旅をするんだ。この世界には、まだ私の知らない動物が沢山いる。知らない植物が沢山ある。私はそういう出会いをしたいの。知らないということすら知らない物で溢れかえった世界を、私は知り尽くすんだ。それが私の夢なの」
「そうなんだ……」
「あ、ごめんね? 語りすぎちゃった」
「ううん。えっちゃんの夢、すっごーくいいよ! 素敵だと思う!」
「そ、そうかな?」

 自分のやりたいことを、夢を褒めてもらえるってこんなに嬉しいことなんだ。
 旅に出ると言った時、両親は猛反対だった。弟が継いでくれるから何とかなったけど。

「ポコはさ、何かしたいこと、ある?」
「わたしはねー……魔術師、かな? ずっと魔術師になるために頑張ってきたんだもん。魔術師として働きたい」
「え、でも魔術が嫌になって家出したんじゃ……」
「ううん。魔術はすごい好きなんだけど、親が許してくれないの。まだ人の役に立てるレベルに達してないーって」
「そうなのかな……」

 親が厳しいのはその家のことだから口出しはできないが、ポコは十分人の役に立てると思うのだが……。
 そんなことを考えながら、お肉を口に含んだ。豚特有のこってりした油が口の中に流れ込んでくる。塩だけの味付けなのに、味が濃く、旨味が口いっぱいに広がってくる。野生化していて獣の独特の匂いがついているが、気になるほどではなく逆にいいアクセントになっている。うむ、これは運動しなきゃですね。
 脂肪がお腹じゃなくもう少し上に行ってくれたら嬉しいんだけどなぁ。いやまだ成長途中だけど。

「ポコはどこで寝るの?」

 しばらく夢中で食事をし、一息ついたところで質問する。家出しているのだ、寝る場所が決まっているとは限らない。

「お外かなぁ、お家には帰れないし、お金も無駄遣いできないから」
「じゃあ、さ。私の部屋……来る?」
「えっ?」

 こうして、ポコを私がとっておいた部屋に招待することになった。部屋そのものの料金だから、値段は増えたりしない。ベッドは一人用だが、私が小さいので二人で使えるはずだ。
 いや私は小さくないんだけどもね。ベッドがでかいだけだからね。勘違いしないでよね。

* * *

 宿屋は木造の建物で、私の住んでいた部屋と似ていてとても落ち着く。外もいいが、危険のない室内もいいものだ。たまに家族と外でテントを張って寝たりしていたから、旅の途中で野宿をすることがあっても寝られないということはない。
 だから今のうちに宿屋を堪能しようそうしよう。

「いい部屋だねー」
「でしょ。いつでも贅沢できるように頑張らないと」

 今回稼いだお金は、すぐに無くなるとは思えないほどの金額だった。豚一頭であそこまで稼げる、となると魔獣はどうなるのだろうか。
 魔獣ならば皮や牙、爪を素材として売れる。そう考えるとこの旅はそれほど金銭面に悩まされることはなさそうだ。

「そういえばえっちゃんって旅人なんだよね? なら、城下町にコアクリスタルを登録しにいくってことかー」
「コア……なに?」
「えっコアクリスタル知らないの!?」
「う、うん」

 コアクリスタルか……聞いたことがないぞ。初耳だが、旅人ならば知っていて当然みたいな言い方なので重要なのだろう。

「コアクリスタルっていうのはね、各国にある大きな結晶のことだよ。そのクリスタルにブランククリスタルっていう結晶を置くと、ブランククリスタルにそのコアクリスタルが登録されるの」
「登録? そのクリスタルで何ができるの?」
「他の国に転移ができるよ。といっても行きたい国の転移クリスタルが必要なんだけどね。あ、行き先が登録されたブランククリスタルは転移クリスタルって呼ばれてるよ」
「なるほど……他の国に転移できるんだ」

 そのクリスタルを登録しておけば旅をして遠くの国に行っても、家に一番近いコアクリスタルで実家に帰れるってことか。またその遠くの国で登録しておけばすぐに帰れると。
 確かに旅人には必需品だ。あと、単純に欲しい。あの時食べた料理がまた食べたくなったらその日に行けるってことでしょ? 最高じゃん。

「と言っても高級品だから簡単には手に入らないかなー」
「だよねぇ、安く手に入るならみんな持ってるし」

 みんながみんな使えたら大変なことになってしまう。各国からいろんな人が行ったり来たりして、混雑なんてレベルではないほど人が集まるだろう。ちょっとした旅行にだって使えてしまう。

「そっかぁ、なら当面はそれを目標にしようかな」
「うん、頑張ってね! 応援してるよ!」
「ありがと。それじゃ、寝よっか」

 ベッドに入り横になる。ポコの顔が近い、女同士なのになんだかドキドキしてしまうな……いやでもでかい犬だと思えばなんとか寝られそう。

「んふふ、友達と一緒に寝るの初めてなんだ」
「そ、そうなんだ。私も経験はないかな」

 嬉しそうな顔をしてくれて私も嬉しい限りだけど、今日会ったばかりの同い年の女の子と同じベッドで寝てるんだよね私。すごい状況だ。

「すぅー……ふんふん、いいにおいするー」
「なっ……!?」

 私の胸元に鼻を近づけてくんくんとにおいをかぐポコ。微妙に肌と服が擦れてこそばゆい。
 どういう状況だこれ、いいのか、もしかしてこれいいのか? 許可出てるのか?
 いやでも、流石に初対面でそういう関係になるわけにはいかないし、そういう趣味ないし……よし、気にしないようにしよう。別のことを考えようそうしよう。

 そう、例えば今日の振り返りとか。それがいい。
 今日は色々なことがあってとても疲れた。まさか豚と戦闘になるとは……そのうち肉を傷つけないようにとかは気にしてられなくなるんだろうなぁ。強くならないと。
 なんて考えだした途端、ポコの寝息が聞こえてきた。

「ぐぅ……」
「ね、寝るんだ。早いな……」

 この子、私よりも子供なのではないだろうか。そう思った瞬間、眠気が襲ってくる。
 ふわぁ……私も人のこと言えないな……寝よう。寝て明日に備えよう。
 今日の狩猟は練習に過ぎない。これからもっと大変な毎日を過ごすことになるのだ。ポコとはこの街でお別れだし、明日はポコと一緒に過ごしたいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...