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番外編(第2.5章)

特別遠征『魔界』

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 『転移』を極め、さあ次はどうするというところ。牢屋から解放され毎日労働をしてるナイアドとフォボスに相談をする機会があった。
 俺が相談したのは、魔界に行く方法だ。魔王候補の二人を直接倒してやろうというわけではない。自分の実力に自信があっても向こうに有利な立地で戦おうとは思わない。
 ただ、ナイアドとフォボスの手下を味方に付けることができれば少しは有利になるかな、という軽い気持ちだったのだ。別に魔界に行くだけならナイアドとフォボスだけでいいのだろうが、行けるなら俺も行って過去の思い出に浸りたい。それと、その手下たちとも直接会えるしな。

 結論だけまとめると、魔界に行くことはできる。
 しかし、俺とナイアド、フォボスの三人だけだ。フォトやリュートを連れていくことも可能だが、あまり意味がないことと、準備や消費魔力の問題で無しになった。

 しかし元魔王候補である二人を解放するとなると、王国も黙ってはいない。
 何度も話し合いをして、もし敵対したら容赦なく殺すという条件で解放されることになった。
 思ったよりも簡単に話し合いが終わったのは、やはり俺に敵対されたくないからだろうか。昔はあんなに高圧的な態度だったのになぁ、500年も経てば変わるかぁ。

 まあ何はともあれ魔界に行けるようになったのだ。目的地は水の国と、火の国。他二人の風の国と土の国には近づかないようにしよう。

* * *

 ナイアドと俺が向かい合って手を前に突き出す。そして、お互いに転移を使う。
 俺は『転移』を、ナイアドは転移魔法を同時に使うことによって、魔力が合わさり俺でも魔界へ転移できるようになるのだとか。
 転移魔法自体は魔界の上位の魔法使いならば普通に使えるそうだ。他にもゲート作成魔法もあるらしいが、まあそれは別の話。

「『転移』」
「『エクサテレポート・ワールド』」
「おー」

 フォボスは何もしていないが、する必要もないため何かしろよとは言えない。
 魔力が合わさり、バチバチと電流が走る。え、なに。これ大丈夫なの?

 三人まとめて光に包まれる。普通の『転移』と違い、ヴン、という重い音が耳元で聞こえた。どうやらしっかりと転移できたらしい。
 目を開けると、紫色の空に、紫色の木々が見える。
 この禍々しい景色に濃い魔力。ああ、魔界だ。懐かしい。

「んっ、ああー! 久方ぶりの魔界だァ!」
「おい、言っとくけど裏切ったら」
「分かってるって―の。んじゃ帰りにこの木の下に集合な」

 転移……世界転移というところか。してきた場所のすぐ近くに、巨大な木が佇んでいた。ここが集合場所か、覚えておこう。
 予定としては、ある程度ナイアドとフォボスの説明が終わるまで俺が自由行動。少し経ったら、用事を済ませた俺が戻ってきて説明。と言ったところだ。
 特別修行などはしない。今回は特殊な遠征なのだ。

「では私は先に向かうことにします」

 シュイン、とナイアドが消える。転移魔法は光が小さくていいな。『転移』は綺麗だけど少し光が激しいのだ。まあ、それ以外は特に違いはないのだが。

「オレ様も行くぜ」
「じゃ、解散」

 パンッと手を軽くハイタッチし、お互いに目的の場所に転移する。
 フォボスは火の国、俺は魔界の荒野だ。かつて魔王城があったその荒野。俺が魔王と戦った場所でもある。
 『転移』による青い光に包まれながら瞬きをする。目の前に広がるのは、大昔から変わらない荒野だった。相変わらず廃れてるな。

「ここで、戦ったんだよな」

 ひび割れた地面を観察しながら歩く。本当に何もない、遠くには魔王城が見える。あれも変わっていない。
 ナイアドの話では、魔王になった者があの城の持ち主になるのだとか。

「ここは変わらない、となると」

 再び『転移』を発動する。次の目的地はこの荒野から少し離れた山岳地帯の麓。そこにある村だ。
 転移が完了し、目を開けるとそこにはただの岩場が広がっていた。

「……だよな」

 この村、ここにあった村は俺が当時住まわせてもらっていた村だ。それこそ、最後に泊まった村だな。
 クリム火山でデュラハンが言っていた滅ぼした村とはここのことだ。
 やっぱりもうないよな、そう思いながら散策していると、岩に文字が書かれていることに気付いた。

「これは……村人たちの名前か?」

 見覚えのある名前だった。魔界の拠点として使っていたため、滞在期間は長かったのだ。よく覚えている。
 墓、だろうな。それだけは残っていた。これだけの年月が経って、よく残っていたものだ。

「ごめんな」

 岩の前で膝をつく。守れなかった。再び狙われる可能性があったのにデュラハンを取り逃がしてしまったこと、後から倒せなかったことを思い出す。
 魔王を倒す前にデュラハンを倒さなかったことをひどく後悔した。もしデュラハンを倒せていたらこの村は滅ばずに済んだのに。

 ぽす、と何かが落ちた音がした。音の鳴ったほうを見ると、見知らぬ魔族が立っていた。
 青鬼族だろう、青い肌に小さな角が生えている。そういえば、この村にも青鬼族の女の子がいた。落としたのは花束だ。

「勇者さん、ですか?」

 俺のことを知っている。なら、やはりあの女の子か。ヒューレと同じで見た目の変化のせいでピンとこなかった。
 あの女の子として見ると確かに面影があるかもしれない。

「覚えていませんか? あの時、デュラハンから逃げていた魔族です」
「覚えている。生きていたのか?」
「ええ、私は何とか逃げ延びました。ですが他の村人たちは……」

 死んだ、か。
 まあ、そうじゃなければここに名前なんて残らないよな。ああ、この子が生き残っていたからここに名前が残っていたのか。

「……すまない」
「いいんです。仕方のないことですから」

 女の子は隣に座り、花束を置く。

「勇者さんは、どうしてここに?」
「伝えたいことがあったんだ」
「伝えたいこと?」

 ここに来た目的は思い出巡りだけではない。一つ伝えたいことがあったのだ。
 深呼吸をして、落ち着く。そして、息を吸い込み言葉を発した。

「デュラハンを倒した」
「……っ」

 驚いた顔をしていた。その顔を見て、さらに後悔する。

「ごめんな、500年前に俺が倒していればこんなことには……っ!?」

 懺悔の気持ちで吐き出すと、女の子が抱き着いてきた。
 俺にはフォトがいるんだ、と引きはがそうとするが泣いていることに気付きやめる。

「ありがとう、ございます。みんなの仇を取ってくれて」
「…………」

 聞こえのいい言葉は言えなかった。ただ、もう間違いはしない。後悔はしたくない、いや、しないと固く心に誓った。
 もう、用は済ませた。後はナイアドとフォボスの元に戻ろう。

 この遠征が終わったら、いよいよ今できる全ての準備は完了する。
 もちろんキレーネとディオネが攻めてこないことが一番なのだが、向こうも準備が整えばこちらに攻めてくるだろう。
 その時は、全面戦争だ。全てを掛けて、打ち倒す。
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