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番外編(第2.5章)

最終遠征『サイハテの孤島』

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 地図にない島、サイハテ。その島は迷いの霧で囲まれており、外から入ることができなくなっている。
 500年前、俺はこの島から魔界に転移したのだ。巨大な魔力リソースを使った一方通行の転移。再び魔界に行こう、と思っているわけではない。ただ、強くなれそうな何かがありそうだからわざわざ来たのだ。
 このサイハテには小さな集落があった。そこに住む全員が強力なスキル使いだったため、俺はそこでスキルを強化したのだ。
 今も集落があるのかは知らないが、何かが残っている可能性もある。強力なスキルが手に入るかもしれない。

 ちなみに、今落下中。

「地上、見えました!!!」
「着地するぞ! 準備しろ!」
「うわ、ほんとにある!?」

 迷いの霧は落下中には発動しない。インフェルノで島があるであろう上空まで運んでもらい、一気に突破する作戦だ。横に移動しようとしたら空間ごと別の場所へ移動してしまう。
 もちろんインフェルノも落下している。すごい、ドラゴンが落下してる。違和感がすごい。
 少しすると、霧が無くなる。どうやら霧を抜けたらしい。ここまで来たら移動しても大丈夫だ。

「霧ヲ抜ケタ。乗ルガイイ」
「いや、フォトと俺はどうにかなる」
「インフェルノ!!! はよ!!!!」

 リュートはインフェルノに乗り、俺とフォトは風スキルでの着地だ。
 地面すれすれで『フェザージャンプ』を発動させる。ふわっと身体が持ち上がり、落下速度がゼロになる。その場でジャンプしたかのような動き。これを空中で何度も使うことで空中を歩くことができるのだが、使いこなすのなら技術が必要だ。おすすめはしない。
 さあ、何はともあれ上陸だ。サイハテの孤島は雷鳴轟く巨大な岩山と、雪山で構成されている。さて、まずは人里を探そうか。

* * *

「…………ない」

 結論から言うと、島に集落はなかった。
 家だったものが散らばっていたので、場所はここで間違いないのだろう。
 そうなると、ここ100年で滅んだのか? 惜しかったな、もう少し残っていてくれたらよかったのに。
 まだ崩れていない廃墟はあるので探索をしようか。そう思い廃墟に近づく。すると、大量の線のような青い光が一か所から現れた。

「!?」
「わあっ!?」
「なんだぁ!?」

 後ろに飛びながら剣に手をかける。光から人影が出てきた。まだ誰かが生きていた?
 それにあの光。そうだ、知っている。あの光は転移スキルだ。なら、それを使える人間がいるとすれば。自ずと答えは見えてくる。

「爺さんの子孫、か」
「ふぉっふぉっふぉ、流石勇者と言ったところかのぉ」

 目の前に現れたのは、腰を低くし杖をついた白髪の爺さんだった。そっくりだな、同一人物かと思ったよ。
 この爺さんは俺を魔界に転移させた転移スキル使いの子孫だろう。あの爺さんにはよくしてもらった。懐かしいな。

「さて、俺たちはどうすればいい?」
「察しがいいのぉ。まずは、わしの話からさせてもらおうかの」

* * *

 爺さんの長話をまとめるとこうだ。
 この集落は百年ほど前に滅んだ。そして、爺さんの家族は何とか生き残り、いつか来る滅びに向けて過ごしていた。
 最後の生き残りである爺さんは、勇者が現れるのを待っていた。そして、その勇者にスキルを伝授させるために先祖からスキルを受け継いでいた。
 そして俺たちがやるべきこと。それは爺さんの技術をコピーすることだ。

 転移スキルは俺が。その他スキルは俺とフォトが。リュートはいつも通りドラゴンの相手を。
 このサイハテにいるドラゴンは二頭だ。一頭はブリザードドラゴン、もう一頭は俺の契約相手であるライトニング。
 サイハテへの遠征は俺とフォトとリュートのみの参加だ。あまりにも危険なためリーナは置いてきた。

「それで、転移スキルはどうやったら使えるんだ?」

 まず俺が指導を受ける。転移スキルの基礎を持っている俺しか使えないらしい。俺から他の人へ伝授するには常識外れの適性がないと無理なのだそうだ。悲しいね。

「背中を向けてみぃ」
「ん」

 言われるがまま背を向ける。これで何をするというのか。
 次の瞬間、爺さんが俺の背中に思いっきり拳を突き立ててきた。激しい痛みが走る。
 何すんだこの! って、これも必要なことなんだよな。仕方ない、受け入れよう。むしろこれだけで転移スキルが使えるようになるのだ。文句はない。
 痛みが引いてくると、魔力の中に新しく何かが増えたような不思議な感覚に気付く。スキルを習得した時の感覚だ。

「いっててて、これで使えるようになるのか。安いもんだ」
「ふぉっふぉっふぉ、そうじゃ。ちなみに、殴らずとも触れば伝授はできる。あまりにも来るのが遅いんで不安にさせた罰じゃ」
「修行終わったら絶対殺すからなジジイ」

 全てを教わったらこのジジイは用済みだ。ほっといても死ぬんだしどうせなら俺の手で殺してやる。
 そのくらい憎しみを持たなければスキルを覚えることはできないのだ。新たなスキルは普通に教わっても気の遠くなるような数だからな。絶対に全部覚えてやる。

「ほれ、お主も」
「は、はいっ!」

 フォトの背中に手を当てるジジイ。一瞬青く光った。ああ、今のでスキルの基礎の伝授はできたのね。つまり俺もあれでできたわけだ。ふざけやがって。
 というか長くないか。俺に触れたのは一瞬なので別に長く触る必要はないはずだ。さっさと手をどけろスケベジジイ。
 俺の睨みに気付いたのか、ジジイは手を離した。それでいいんだ。

「それでは各自修行開始じゃ」
「よっしゃあ! 僕はさっそく行ってくるよ!」
「おーう、ライトによろしくな」

 リュートはインフェルノに乗って岩山に向かった。
 んじゃ、俺は転移スキルでフォトがスキル習得か。長くなりそうだな。
 修行開始とは言うが、何をすればいいのか分からなかった。なので、実戦で戦いながら転移スキルに挑戦する。

「ふぉっふぉっふぉっふぉ」
「あああ! 気持ち悪い! その笑い方やめろ!」

 高速移動や転移を繰り返しながら俺の全ての攻撃を避けるジジイ。すばやいおじさん! いやすばやいジジイ!!!
 転移スキルを完成させるためとはいえ、このジジイの相手をすることになるとは。いやまあ、知ってるのがこのジジイだけだから仕方ないんだけど。
 はあ、さっさと済ませよう。やることは、これまでの修行と変わりないのだ。

* * *

 修行から軽く一か月は過ぎました。廃墟での生活にも慣れ、一日中修行の日々です。
 わたしとキールさんはスキルの基礎を習得したので、今は新たなスキルを実戦に向けてさらに練度を上げています。
 そんな中、わたしのエクストラスキルについてお爺さんと話をしました。

「お主のエクストラスキルはあれじゃな、勇者に憧れたものじゃろう?」
「そ、そうですね。キールさんの伝説に憧れて、そうなれたらいいなと思っていたらああなりました」

 小さい頃からの憧れを形にしたエクストラスキル。今は勇者様ではなくキールさん本人への憧れも大きいですが、それでも小さい頃からそうなりたいと願っていたわたしはこのエクストラスキルを完成させました。
 キールさんと同等になりたくて、伝説を越えたくて、そうやってできたエクストラスキルです。

「ならば名前を付けるべきじゃ。イメージを確定させれば、さらに完成度を上げることができる」
「わ、わかりました。考えておきます!」

 確かに、それはキールさんからも言われていました。スキルの名前を付けることでさらに練度を上げることができる、と。
 それは言葉にしたときにも効果を発揮します。スキル名を声に出したり、叫んだりしたら威力も上がるのです。なので、いい加減名前を付けたいなと思っていました。いい機会です、ずっと考えていた名前を付けてしまいましょう。

伝説への挑戦者ブレイブチャレンジャー

* * *

 雷鳴轟く岩山に転移する。『空間転移』を使いこなせるようになってから移動が楽で仕方がない。
 こんなに素晴らしいスキルが滅んでしまうとは。勿体ないな。いやでも、魔法にも転移できるやつあるしそっちでどうとでもなるだろ。
 っと、そんなことよりここに用があるんだった。

「よぉ、久しぶりライト」
「久しいな、勇者」

 目の前に佇むのは白銀の竜。電撃を司る竜であるライトニングドラゴンだ。
 かつて俺と契約したドラゴン。まあ、今もだが。とにかくこいつの力のおかげで俺は魔界で戦い抜くことができた。

「おう。ところでインフェルノってなんであんな喋り方なの? お前は普通に喋れるよな」
「喋るのに慣れてないのだ、ヤツは」

 それだけかい。長年の疑問が晴れたよ。

「ふーん。それでよ、よくリュートと契約したよなお前。気に入ったの?」
「あの青年がお前に似ていたからだ」
「なんだそりゃ。俺の周りの奴ら俺に似すぎだろ」

 フォトも誰かに俺に似ているとか言われてたし、リュートも俺に似てるとかよく言われてる。
 もしかしたら人間の根幹には俺がいるのかもしれない。私が神です。ありがとうございます。

「皆勇気があるのだろう。それに、リュートは私の電撃に耐えたのだ。認めざる負えん」
「あいつも同じことしたのかよ……」

 俺がライトと契約した時の条件じゃねぇか。そっか、リュートもいつの間にかそこまで成長したんだなぁ。
 今リュートが持っている力はインフェルノ、アクア、デザート、フォレスト、ライトニング、ブリザードだ。うわつよい。
 あいつ、地味に最強格だもんな。新しいスキルも次々に開発してるし、申し分ないくらいには主戦力だ。

「また、世界を救おうとしているのか」

 隣に座っていると、ライトはそう呟いた。
 また世界を救おうとしている、か。俺は別に世界を救おうとしているわけではない。ただ、目的を果たそうとしたら世界を救うことになっているだけなのだ。

「昔とはちょっと違うな」
「ほう? どう違うのだ」

 どう違うか。昔は確かに世界を救おうとしていた。世界を救って、認められて、やってよかったと思いたかった。間違っていなかったと思いたかった。

 今は違う。答えは簡単だ。

「いろんなものを守りたいんだ、俺は」

 仲間を、世界を、俺の好きな街を。そこに住む人々を。出会った人たちを。守りたい。

「……変わったな、勇者」
「お前は変わらなすぎだ」
「数百年程度で変わるものか」
「そういうもんか」

 二人……一人と一頭で朝日を拝む。今日も修行が始まるな。そろそろフォトも起きる。
 今後、このような長期的な修行をすることはないだろう。だから、今回の修行は限界まで鍛える。誰にも負けない最強の力を手にしてやる。
 いつか魔王候補が攻めてくるその時まで。
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