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第二章

リュートの覚悟

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 最初はキールに馬鹿にされたように感じて竜との戦闘をすると言ったが、今は真面目な気持ちで加護を受け取ろうと思っている。
 そんな僕は竜と共に開けた場所に来ている。木が少なく、魔獣の住処になっていたであろう土地だ。

「よしっ、ここでいいですかね。えっと、炎竜様」
「ワタシノコトハインフェルノト呼ブガ良イ」
「わ、わかりました」

 うわー、マジかよ! 名前は無くて種族がインフェルノドラゴンらしいが、僕には難易度が高い。それに、恐れ多くて緊張する。でもこれから戦うんだもんな。里のみんなのような気持ではいけないのだ。覚悟、覚悟を決めよう。

「ソレニダ、貴様ハコレカラワタシト対等ナ存在ニナロウトシテイルノダ。口調モ変エヨ。キールノヨウニナ」

 いやそれもキールがおかしいだけだと思うんだ僕。
 でも、僕にはそうしなければいけない理由があるんだ。目の前の竜、インフェルノを倒して対等な存在になる。炎竜の魂を受け取るために。

「わ、わかった。インフェルノ」
「ソレデイイ。デハリュートヨ、本気デ来ルノダ」
「本当にいいのそれ? それこそ戦力が減っちゃうんじゃ…………」
「心配スルナ、キールガ完璧ニ回復シテクレルソウダ」
「あいつ何者だよほんと」

 400年前の人間だとは言っていたが、それにしたって本当の実力が見えてこなさすぎる。あれだけ強いのなら過去の記録に名前があるはずだし。
 なのに、無いんだよね。ギルマスと一緒に探っては見たものの、どの人物にも当てはまらない。400年前後だけでなくそれより過去も、近い時代も調べた。でもわからない。

 勇者の時代まで遡ったので、なぜか勇者には詳しくなった。勇者は魔王を倒したという偉大な功績があるにもかかわらず、情報がほんの少ししかないのだ。その少しの情報でとんでもなく強い人だったのが分かるのだからすごい。
 プレクストンにいる勇者の子孫はそんな雰囲気は微塵もなかったなぁ、むしろキールの方がオーラがあった気がする。ほんと、何者なんだあいつ。

「イツデモイイゾ、サア来イ」
「うっし…………行くよ!」

 槍を構え、集中する。インフェルノは巨大な体を動かし、体中で攻撃してきた。
 ゴオオっと音がするほどの速度で迫ってくる尻尾を屈んで避け、下に潜り込む。手始めに槍を一突きし、一旦下がる。
 堅い!! 全く効いていないのではと思うほど堅かった。スキルを使えばダメージは通るかな。

「コチラカラモ行クゾ!」

 インフェルノはそう叫ぶと地面に爪を食い込ませた。ガシガシと前足を地面に叩きつけると、地面に赤い線が走る。そして、インフェルノの前方、僕のいる方向の地面から炎の柱が噴き出した。

「なにそれっ!?」

 魔獣も上位種族になると魔法のようなものを使うとは聞いていたが、まさか竜にこんな攻撃方法があるとは。魔法というよりはスキルかな。
 僕は最初の加護を受け取って火への耐性を得た。なのでそこまでのダメージは無いのだが、これを何度もやられたら流石に魔力の消耗がきつい。
 単純な戦闘能力はインフェルノの方が上だ。だが身体が大きく攻撃も大振りなのでこちらの方が隙を狙いやすい。のだが、回り込んでいては決定的な攻撃を与えることができない。

「…………なら!」

 正面からいくのみ! 心臓付近は誰だって弱点なんだし、そこを狙えばいいよね!

「ふっ! はっ!」

 キン! キィン! と爪と槍がぶつかる。
 インフェルノも正面から攻めてきているのを見て真正面からの勝負を始めた。難しいことを考えずに真っ向勝負! これが一番楽だ。なんだか思考がヴァリサに似てきた気もするけど気のせい気のせい。

「『ダッシュスピア』!」

 何度爪を弾いても、圧倒的なパワーで後退させられてしまうので、一瞬の隙をついて近づいた。『ダッシュスピア』、キールに教えてもらった槍の通常スキルだ。
 まずは一撃、胸部に当てる。刺さりまではしなかったが、傷を負わせることはできた。やはり正面からなら最大限の攻撃ができる。

「グウッ!」
「竜槍術其のニ『乱れ竜』ッ!!!」

 畳みかけるようにスキルを発動させる。
 『乱れ竜』。一瞬で槍を振るうことによって、首が複数ついた竜の噛みつきのような攻撃を繰り出すことができるスキルだ。今回は三つ首だったか、最高は四つ首だ。
 魔力が真っ赤な竜の形になり、インフェルノを襲う。技を一気に出せばこちらにも勝機はある。

「甘イゾリュート!」
「なあっ!?」

 『乱れ竜』が胸部に直撃する直前、インフェルノは翼を大きく動かし飛び上がった。そうだ、飛ぶんだった。
 そう思ったのもつかの間、強風に思わず目をつむってしまう。

 これが失敗だった。

 次に目を開けたとき、視界には火球が映った。避けることができない、槍で受けようにも、あんな魔力の塊を防ぎきることはできないだろう。

「う、わあああああああああ!!!」

 直撃。中途半端に避けて大怪我を負うよりは、槍で多少防いで吹き飛ばされた方がダメージが少ないと判断したのだ。
 その判断が功を奏したのか、全身黒こげになる程度で済んだ。いや十分大怪我ですけどね!?
 でも、もし中途半端に避けて腕にでも当たったらもうその時点で僕の負けだったかもしれない。

「耐エタ、カ」
「――――――竜槍術奥義」
「……ッ!!!」

 槍を構えた。

 魔力も体力も残ってはいない。スキルも、出すことができるのは残り数回だろう。
 足はまだ動く、手も支えられる。それなら後は心だけだ。

 そう、まだ戦える。

「『業火激竜槍』」

 プスプスと煙が上がる身体を無理やり動かす。
 槍の先端に魔力が集まる。空気を引き裂くように前に、前に進んでいく。
 炎に包まれながら前進する。これはこのスキルによる炎だ。

「オオオ…………ナラバワタシモ全力デ迎エ撃トウ! グ、ウオオオオオオ!!!」
「はあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 キールの使っていた『神速』のように加速してく。
 自分自身が巨大な槍となり突撃するスキル『業火激竜槍』。このスキルが通じなかったら負けるかもしれない、でも、これが今出せる僕の全力なんだ。

 最後の竜槍術。僕の、奥義。

「マサカ! コノ威力ハ!!!」

 ――――――――灼熱の炎を突き破る。

 ――――――――――――――――襲い来る鉤爪を掻い潜る。

 竜の王者へ近づく一歩を、確かに踏みしめながら巨槍は竜に致命傷を与えた。
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