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第二章

作戦会議inクリム火山

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 一旦竜の里に帰った俺たちは、族長と分かれて借りている家で作戦会議することにした。
 そしてドロップ経由でリンクスを呼び、状況を報告した。

『クリム火山に魔王候補!? どういうことにゃ!!!』

 テーブルの上に置いたペンダントから大きな声が聞こえてくる。リンクスが驚くのも無理はないだろう。俺だって驚いているのだ。
 だから今やるしかない。向こうがこちらの強さを見極めて慎重になったら、それこそ隙が無くなってしまう。フォボスは自分が不利だと悟り、引いたのだ。その判断ができる魔族が相手なのだから、長期戦はあまりしたくない。

「いやだから説明しただろ。魔王候補がいて、そいつを撃退したって。多分そう遠くないうちに仲間引き連れて襲いに来るんじゃねーかな」
『どどどどうするにゃ? とりあえず援軍を送るにゃ?』
「そうしてくれ。まあでも、到着する前に来たら地獄だなぁ」

 人間界まで来たってことは、もうすでにそれなりの準備は整っているということ。
 援軍が到着する前に向こうが攻めてくるという可能性は高い。今すぐにでも全力を出せるようにしなくては。

『とにかく、無理はしにゃいこと。それだけは守るにゃ。わかったかにゃ?』
「了解了解。ああそうそう、ナイアドも魔界に転移する手段を持っているかもしれない。逃がさないようにな」
『分かったにゃ。じゃーにゃー』

 相手が未知数なのでリンクスとは作戦会議はそこまですることができなかった。できたとしたら援軍くらいだろうか。
 しばらく敵の攻撃をしのぎ、最終的に援軍が到着して押し切る、という戦い方もできるのだ。

「あれだけでよかったのー?」
「ああ、これ以上言うこともないしな。さて、リーナ」
「なによ」

 隣で通信を聞いていたリーナの首にペンダントを付ける。

「俺が戻るまで付けてろ。これがあればこの馬鹿が守ってくれる」
「よっろしくぅー! ……えっ、馬鹿?」

 こればかりは馬鹿としか表現できないんだ。いい奴だけど馬鹿。馬鹿なんだよこの子は。ドロップは昔から変わってないんだ。そのおかげで安心できるんだけども。
 昔は何度も助けてくれたなぁ。魔界に行くまでの相棒みたいな感じだった。

「よろしくお願いするわ。目に見える精霊……本でしか知らなかったけれど、本当にいるのね」
「わたしも見たのはドロップさんが初めてなんです。そもそも大精霊さんを見る機会がないのでドロップさんというより、キールさんが珍しいだけなのですが……」
「なるほど、理解したわ」

 否定はしない。俺が変わり者じゃなかったら誰が変わり者だって言うんだ。
 それに大精霊か。探そうと思えば火口付近に沢山いるんじゃないかな。多いのが火の精霊で、土の精霊や風の精霊がそこそこと言ったところか。

「見る機会ならあるぞ。火山みたいな魔力が濃い場所は精霊だらけなんだから。多分精霊も竜と関わりあるんじゃねーかな」
「それなら手助けしてくれるかもですね!」

 ドロップが来た辺りから考えていた。知り合いの大精霊を火口から呼べるかもしれない。知り合いなら来てくれるはずだ。それ以外の精霊は……人間に興味ないから無理だな。無論俺にも。
 ナイアドを倒した時に助けた大精霊だってお礼だけして音沙汰無しだからな。いや別に何かしてほしいってわけじゃないけども。まあとにかく、命の恩人にもそうなるくらいには今の精霊は人に無関心なのだ。

「うん。だからこれから交渉でもしてこようかと思ってな。どうせ準備なんてしないんだ。いつでも戦えるようにしておく以外にやることがない」
「それなら、わたしとキールさんのどちらが先に竜の里に戻ってくるか勝負です!」
「おっやるか? 負けねーぞ?」

 フォトは距離こそあるものの、リーナを街に届けて戻るだけでクリアだ。俺の場合は、近いが交渉をしなければならない。正直どちらが勝つか分からない勝負だ。だが、勇者である俺が弟子のフォトに負けるわけにはいかない!
 最近は直線の『神速』なら俺といい勝負なのでちょっぴり不安ではあるが、負けない! 負けないぞ!!!

「あの人ら今の状況分かってるのかねぇ」
「はははっ、いいじゃないあのくらいの気持ちで。戦場で笑える人間は強いんだ。例え一歩間違えたら人類が滅ぶかもしれない状況でもね」
「笑えねー…………」

 ヴァリサさんとリュートの会話が聞こえてくる。
 人類が滅びるかもしれない、か。まあ確かにそうだな。さっき斬り合った時に実力を調べてみたが、わかる範囲でも魔力量は化け物。一人で四天王レベルか? そりゃ魔界で王にもなるわ。

 魔界は人間界と違って強い者が王になる。ナイアドは魔法や技術、仲間などで王になったのだろう。真の力を発揮する前に俺たちに倒されたのだ。ナイアドが全力を出せるとしたら自分のテリトリー、すなわち魔界の水の国だ。
 フォボスは一人で全力を出すことのできるタイプだろう。というか、ナイアドが珍しすぎたのだ。カオスな魔界で王になるには、基本的に一騎当千の力が必要なのだから。

「それじゃあ、気を付けていけよ。ドロップ、リーナを頼むな」
「任せといてー!」

 不安だ。

「うし。じゃあ俺たちは行くから、二人は何かあった時のために警備よろしく」
「おうっ!」
「安心して行っておいで」

 ヴァリサさんにこういうこと言われると本当に年上なんだなぁ、という気持ちになってくる。さん付けてるしなぁ、敬語使った方がいいのだろうか。しかし本人がタメ口でも気にしてないし。
 ま、それはまた今度決めればいいか。今は目の前の目標だけ考えておけばいい。

 そう思いながら扉を開け、フォトと同時に『神速』を使った。
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