48 / 134
第二章
収穫祭開始
しおりを挟む
街に戻ると、既に人が沢山集まっていた。売りに出さない分の作物も収穫して鍋にして食べるのだという。素晴らしい祭りだ。
そもそも収穫祭は売りに出した後に残りの作物を鍋を食べる祭りだったらしい。それが収穫と同時に行われることになった、それだけのようだ。
「流石大農場……お茶も美味しいです」
「お菓子も美味しいし、小麦も質がいいのばっかなんだろうな」
「躊躇わずに買っちゃいますよこんなの……」
「それは楽しみだ」
結局、あるのは大農場くらいなので特産品も当然作物だった。
質のいい小麦が安値で手に入るのでフォトが若干興奮気味だ。俺が食べるお菓子が美味しくなるし、フォトも楽しそうだしよかったよかった。
* * *
しばらくすると、人がさらに増え始めた。農具を持った人たちが集まっている。もう開始の時間か。
「はーい! トラブルがありまーしたが収穫祭を開始しまーすよ!」
広場に置かれた台に乗ったのはヘンジックスだった。お前かよ!
「それでは大農場へと続く門に並んでくだーさい!」
その場にいたほとんどの人が大農場へ続く一本道を見据える。
あの門がスタート地点か。収穫に速さを求めるのは当然だもんな、うん。
「位置についーて、よーい、スタート!!!」
ヘンジックスはそう言いながら炎魔法を空に向かって放った。七色に輝く変わった炎が祭りの始まりを知らせる。
それに反応してその場にいたほとんどの人が走り始める。うおおおおおおという唸り声が街中に響き渡り、ここでようやく祭りが始まったのだと自覚した。
「よっし、フォト。競争だ!」
「はいっ!」
今更スキルを隠す必要なんてない。高くジャンプし、屋根の上に飛び乗る。そして『神速』を使って一気に森へ向かった。
屋根の上で『神速』を使うのはかなりの技術が必要だ。少しでもミスをすれば高さの違う建物の壁に激突してしまうからな。それを理解しているフォトは悔しそうに走っていた。悪いな。
「さーてキノコキノコ」
木を避けながら『索敵』でモンスターであるマッシュタートルを探す。
早速付近に一体……大きいから一頭か? を発見し、スピードを維持したまま接近する。茂みから飛び出ると、のっそのっそと歩く巨大なカメが目に入った。あれだ。
「よっと、本当に大人しいな」
甲羅にでかでかと生えているベスト茸を根元から採取する。
甲羅が倒木のようになっていて、キノコが生えている。この甲羅の上にしか生えないのか……不思議なキノコだ。
同じように『索敵』でひたすらキノコを採取し続ける。
他のみんなはどうだろうか、さっきからチラチラとヘンジックスらしき目に悪い影は見かけるが。
「うおっ、急に暴れるじゃん」
先程までは大人しかったマッシュタートルだったが、今は落ち着かない様子だ。
その次のマッシュタートルも同様に暴れるように。さらにその次も、その次も。森の奥に行けば行くほどマッシュタートルは凶暴になっていく。
なんだ、最初のマッシュタートルは全く暴れなかったのに。元々こういう性格だとは考えにくい。
「ブモオオオオオオ!!」
「あぶねっ! 噛みついてきやがった……悪いけどさっさと済ますぞ」
ゆっくり採取していると襲われてしまう。できるだけ短い時間で、正確に根元を切り落とさなくては。
「う、うわああああああああああーあ!!」
多少手間取ってしまったが苦戦する程ではないため落ち着いて作業をしていると、遠くからヘンジックスが叫びながら走ってきた。
「どうした」
「マッシュタートルが暴れてまーす!」
「ああ、やっぱり? 聞いてた話と違うから困ってたんだ。でもゴールドランクなら余裕だろ?」
「ワタシ戦闘そこまで得意じゃないんでーす! ゴールドランクに上がったのだって、基本手伝い系ですし、最低限の戦闘しかできませーん!」
そうだった。採取とか手伝いでもランクアップできるんだよな。
ちなみに、危険な依頼は戦闘実績があるか護衛を連れるかのどちらかをしないと受けられないので安心だ。
「ダメダメじゃねーか」
「でも、本来ならマッシュタートルは暴れないんでーす! 何か原因があるはずでーす!」
「分かった分かった、それでも採取はできるだろ。あのくらいの暴れ方なら最低限の戦闘でもなんとかなる」
暴れるとはいえカメだ、元々戦闘が得意ではないのだろう。攻撃はのろのろと噛みついてきたり、足で蹴ってきたりする程度。ブロンズランクでも相手にできる。
「おーう、想像していたよりも優しいでーすね」
「うっせ。とにかく俺が調べとくからお前らは普通に採取してろよ」
「わかりまーした!」
ヘンジックスはそう返事するとまたしても遠くに走り去ってしまった。なんだあの変人。
すごい、短い思考の間に『ヘンジ』が三つも入ってる。クソどうでもいい。
「『索敵』」
魔獣やモンスターの反応は少ない、カメや弱い魔物だろう。
原因を探すのなら自分で歩き回るしかない。できるだけ魔力を感じられるように感覚を研ぎ澄ませながら走るんだ。
楽しむつもりだった祭りで事件に巻き込まれるなんてな。昔から変わっていないというか、俺はそういう体質なのだろうか。
考えていても仕方がない。僅かな魔力をたどって森の奥を目指す。
なにやら、不思議な魔力を微かに感じるのだ。
そもそも収穫祭は売りに出した後に残りの作物を鍋を食べる祭りだったらしい。それが収穫と同時に行われることになった、それだけのようだ。
「流石大農場……お茶も美味しいです」
「お菓子も美味しいし、小麦も質がいいのばっかなんだろうな」
「躊躇わずに買っちゃいますよこんなの……」
「それは楽しみだ」
結局、あるのは大農場くらいなので特産品も当然作物だった。
質のいい小麦が安値で手に入るのでフォトが若干興奮気味だ。俺が食べるお菓子が美味しくなるし、フォトも楽しそうだしよかったよかった。
* * *
しばらくすると、人がさらに増え始めた。農具を持った人たちが集まっている。もう開始の時間か。
「はーい! トラブルがありまーしたが収穫祭を開始しまーすよ!」
広場に置かれた台に乗ったのはヘンジックスだった。お前かよ!
「それでは大農場へと続く門に並んでくだーさい!」
その場にいたほとんどの人が大農場へ続く一本道を見据える。
あの門がスタート地点か。収穫に速さを求めるのは当然だもんな、うん。
「位置についーて、よーい、スタート!!!」
ヘンジックスはそう言いながら炎魔法を空に向かって放った。七色に輝く変わった炎が祭りの始まりを知らせる。
それに反応してその場にいたほとんどの人が走り始める。うおおおおおおという唸り声が街中に響き渡り、ここでようやく祭りが始まったのだと自覚した。
「よっし、フォト。競争だ!」
「はいっ!」
今更スキルを隠す必要なんてない。高くジャンプし、屋根の上に飛び乗る。そして『神速』を使って一気に森へ向かった。
屋根の上で『神速』を使うのはかなりの技術が必要だ。少しでもミスをすれば高さの違う建物の壁に激突してしまうからな。それを理解しているフォトは悔しそうに走っていた。悪いな。
「さーてキノコキノコ」
木を避けながら『索敵』でモンスターであるマッシュタートルを探す。
早速付近に一体……大きいから一頭か? を発見し、スピードを維持したまま接近する。茂みから飛び出ると、のっそのっそと歩く巨大なカメが目に入った。あれだ。
「よっと、本当に大人しいな」
甲羅にでかでかと生えているベスト茸を根元から採取する。
甲羅が倒木のようになっていて、キノコが生えている。この甲羅の上にしか生えないのか……不思議なキノコだ。
同じように『索敵』でひたすらキノコを採取し続ける。
他のみんなはどうだろうか、さっきからチラチラとヘンジックスらしき目に悪い影は見かけるが。
「うおっ、急に暴れるじゃん」
先程までは大人しかったマッシュタートルだったが、今は落ち着かない様子だ。
その次のマッシュタートルも同様に暴れるように。さらにその次も、その次も。森の奥に行けば行くほどマッシュタートルは凶暴になっていく。
なんだ、最初のマッシュタートルは全く暴れなかったのに。元々こういう性格だとは考えにくい。
「ブモオオオオオオ!!」
「あぶねっ! 噛みついてきやがった……悪いけどさっさと済ますぞ」
ゆっくり採取していると襲われてしまう。できるだけ短い時間で、正確に根元を切り落とさなくては。
「う、うわああああああああああーあ!!」
多少手間取ってしまったが苦戦する程ではないため落ち着いて作業をしていると、遠くからヘンジックスが叫びながら走ってきた。
「どうした」
「マッシュタートルが暴れてまーす!」
「ああ、やっぱり? 聞いてた話と違うから困ってたんだ。でもゴールドランクなら余裕だろ?」
「ワタシ戦闘そこまで得意じゃないんでーす! ゴールドランクに上がったのだって、基本手伝い系ですし、最低限の戦闘しかできませーん!」
そうだった。採取とか手伝いでもランクアップできるんだよな。
ちなみに、危険な依頼は戦闘実績があるか護衛を連れるかのどちらかをしないと受けられないので安心だ。
「ダメダメじゃねーか」
「でも、本来ならマッシュタートルは暴れないんでーす! 何か原因があるはずでーす!」
「分かった分かった、それでも採取はできるだろ。あのくらいの暴れ方なら最低限の戦闘でもなんとかなる」
暴れるとはいえカメだ、元々戦闘が得意ではないのだろう。攻撃はのろのろと噛みついてきたり、足で蹴ってきたりする程度。ブロンズランクでも相手にできる。
「おーう、想像していたよりも優しいでーすね」
「うっせ。とにかく俺が調べとくからお前らは普通に採取してろよ」
「わかりまーした!」
ヘンジックスはそう返事するとまたしても遠くに走り去ってしまった。なんだあの変人。
すごい、短い思考の間に『ヘンジ』が三つも入ってる。クソどうでもいい。
「『索敵』」
魔獣やモンスターの反応は少ない、カメや弱い魔物だろう。
原因を探すのなら自分で歩き回るしかない。できるだけ魔力を感じられるように感覚を研ぎ澄ませながら走るんだ。
楽しむつもりだった祭りで事件に巻き込まれるなんてな。昔から変わっていないというか、俺はそういう体質なのだろうか。
考えていても仕方がない。僅かな魔力をたどって森の奥を目指す。
なにやら、不思議な魔力を微かに感じるのだ。
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜
海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。
そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。
しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。
けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる