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第一章

久方ぶりのイチャイチャ

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 ナイアドを拘束し、リンクスにも起こったことの全てを伝え、ギルドに帰った。
 戦いが終わってからの動きは早く、詳しい話し合いなどは後日行うとしてその日は一旦解散となった。

「お疲れ、寝坊すんなよ?」
「頑張るよ」

 リュートは朝弱いから遅刻しそうで怖いんだよな。

「俺も帰るか。また明日な」
「キールさん」

 酒場から出ようとしたら、フォトに袖を掴まれた。
 振り向くとフォトは暗い顔をしていた。勝って、みんな生きていたのに。任務は大成功だったはずなのに。

「ん? なんだ?」
「あの、今日は、わたしの家に泊まってください」
「…………でも、ランクアップが……」

 俺はどうすればいいのだろうか。本音を言えば俺だって家で一人は寂しい。ナイアド以外の魔界からの敵について考えてしまい、不安になってしまうこともあるだろう。
 しかし、ゴールドランクまで別で住むと決めているのだ。例え明日ゴールドランクになれるとしても、今はお互いにシルバーランクなのだ。だから……

「お願い、します……」

 それは、ずるいだろう。

「……分かった、泊まるよ」
「そ、そうですかっ! ……嬉しいです」

 少し早いが仕方ないだろう。そう、仕方なのだ。大事件を解決した。もうそれだけでゴールドどころかダイヤランク以上の働きなのだから。いや、実際の実力は良く知らんけど。

* * *

 久しぶりのフォトの家。離れていたのは数週間ほどだというのに、数年ぶりに帰ってきたかのような感覚だ。
 正直狭い、一人で生活する前提の家なのだろう。それなのに落ち着く。

「ご飯作っちゃうのでゆっくり休んでてくださいねっ!」
「……ぁ」
「どうしました?」
「いや……懐かしいなって」

 無意識に声が漏れていたようだ。懐かしくて、暖かい。ここ数週間得られなかった幸福感がそこにはあった。

「わたしもです」
「そうか」

 台所で料理を作る後ろ姿。ああ、ほとんど変わらないはずなのに背中が大きくなって成長したように感じた。オーラだろうか? 強くなって、魔力の量も増えたはずだ。

 今日あったことや、バルカンを倒した時などの昔話をしながら夕飯を食べた俺達はイスに座りながらお茶を飲んでいた。花の香りがするお茶、心が落ち着く。
 そんな空間が心地よくて、ふとあることを思いついた。

「なあ」
「なんですか?」
「一緒に住まないか? お金も貯まってるし、新しく家を買ってさ」

 どうせ明日からも一緒に住むことになるのだ。それならば家も広い方がいい。

「ぶっ! ゴホッゴホッ……えっ、ええっ? それって……そういうこと、ですよね」

 流石に大金を使うことに驚いたのだろうか。フォトは飲んでいたお茶でむせてしまった。
 そういうこと、とは家が狭いことかな? 確かに二人だと狭いが、それで申し訳ない気持ちにさせてしまったか。反省だ。

「あー、フォトさえいいならだけどな」
「で、では。よ、よろしくお願いします!」
「? おう、よろしくな」

 まあ流石に決めたのは俺だし金は俺が払うさ。
 少女と二人一緒の家で生活。感覚が麻痺しているのだろう、特に危機感とかは感じてないんだよな。リュートに話した時はクソ野郎がって言われたけど。別に手だしてないし。

「ね、寝ましょうか!」
「そうだな」

 顔が真っ赤だ。家が新しくなるのが嬉しいタイプか。今の家が使えなくなるのが寂しくなるタイプじゃなくてよかった。むしろ俺の方が寂しく感じているまである。
 さてリビングで寝るかと思ったその時、あることに気づいた。寝具とか俺の部屋にあるじゃん。
 今から取りに行くのは面倒だ。床で寝ちまうか。リュートの部屋によく泊まってたから床で寝るのには慣れてる。

「あっ、寝る場所……」
「床で寝るからいいよ。慣れてるし」
「あ、あのっ。もしよければ一緒に、寝ませんか」

 普段は落ち着いているのにこの子は時にとんでもないことを言い始めるんだよな。それは流石に気恥ずかしくて無理だぞ。

「……いや、それはさすがにダメだろ」
「その、怖いんです。もし勇者様が死んじゃったらって。いなくなったらわたし……」
「俺は死なないよ。……死にかけたけど」

 次があるかは分からないがサウンドジュエルの対策は必要だよな。耳栓とか、音に慣れるとか。
 ああ、魔族なのに音を聞いても大丈夫だったナイアドに聞けばいいか。そうしようそれがいい。

「とにかく、あの時死んじゃうかもって思った時、今まで生きていた中で一番怖くなったんです。だから、お願いします」
「どうしたんだよ、珍しくわがままじゃないか」
「今まで貯まってた分、ですっ」

 うっかわいい。じゃなくてだな。一緒に寝るのか。
 フォトのベッドはそれなりに大きいからめっちゃ至近距離になるってわけじゃないが、だとしても恥ずかしい。バレるわけがないが、もしリュートにバレたら首を飛ばされるだろう。いや、槍だから脳天を貫かれるか。
 フォトのベッドの前まで来る。さてどちらから先に入るか。風呂には入ったから臭いは大丈夫なはず。大丈夫だよな?

「それでは、どうぞっ!」

 ベッドで仰向けになりながら両手を広げるフォト。はいかわいい。
 って、それどころじゃない。何してんの、どういうポーズ? 誘ってるの?

「いや、入りにくいよ」
「す、すみません」

 ごそごそとベッドに入りながらそう言う。

「それでは、おやすみなさい」
「おやすみ」

 さて寝よう。さあ寝よう。目と閉じて思考を停止する。花のような甘い香りが鼻を擽った。うん思考停止できてませんねこれ。
 ……フォトの匂いがして落ち着かない。寝れるのかなこれ。
 頑張って寝れるように集中する。すると背中に柔らかい感触が……えっ、フォト?

「お、おいフォト……?」
「勇者様の匂いがします」

 フォトはそう言いながら俺の背中に顔を近づけた。しかも背中に手を回してくる。抱き着かれてる? 確認できてないけど確実に抱き着かれてるよこれ。
 あっ、小さいながらもしっかりと柔らかい感触が当たってる……いかん相手は子供だぞ。

「……恥ずかしいんだけど」
「もう少しだけ、こうさせてください」
「……ああ」

 これはもうだめだ。諦めて寝よう。あっ柔らかい。眠い柔らかい。

「な、なあそろそろ」
「すぅ……すぅ……」
「……マジか」

 寝ていらっしゃる。抱き着いたまま、寝ていらっしゃる。
 ありえん、この状況で寝られるのか。そんなに落ち着くのだろうか。変態だと思われそうで嫌だが、フォトの匂いを意識して嗅いでみよう。
 ……あ、落ち着くかもしれない。ドキドキするけど。これなら寝れそうだ。それに抱きしめられるのはこれが初めてじゃない。いけそう。

 大雨の中帰ってきたフォトを抱きしめたあの日をうっすらと思い出しつつ、深い、深い眠りにつくのだった。
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