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最終章『黄昏の約束編』

144 コレクター、運営会社に潜入する

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 パンケーキを食べ終えた俺は、アルカナさんの車に乗り運営会社、研究所へ向かった。
 なんてことのないビル街の普通の会社、建物内も普通の綺麗なエントランスだ。ここが研究所? と不思議に思うが上の階はプログラマーなどが働いているのだそう。
 研究所は地下にあるらしいのでエレベーターに乗る。

「地下に研究所って、なんかいいよね」
「細菌の研究はしていないぞ」
「そもそも表向きが製薬会社でもないでしょ」

 地下の研究所が本当に細菌を研究している施設だとしたら生きて帰ることはできないだろう。
 俺は警官でもスパイでもないのだ。いや、ある意味スパイみたいなものか?
 まあまあ長い時間エレベーターに乗ると、やっと地下に到着する。魔術を使うから奥深くに作ったのだろうか。
 扉が開くと、そこは青白い廊下と真っ白な照明が特徴的な施設だった。

「うわぁ、研究所っぽい」
「実際に研究所だからな。これから研究所内を案内するが、堂々としていれば疑われることはないだろう」
「堂々と……難易度高いなぁ」

 今の時点で緊張しっぱなしだ。
 幸い普段着に黒が多かったため魔術師っぽい服装にはなっている。
 すれ違いざまに軽く会釈していれば疑われることはないはずだ。

「まずは大魔術師の解放だが……当然監禁されている部屋に入るにはカードキーが必要になる」
「持ってるの?」
「持っているわけがないだろう、馬鹿か」
「口悪っ。じゃあどうするのさ」
「どうにかして手に入れるしかないだろう。案外、施設内の案内に必要と言えば手に入るやもしれん」

 そう簡単にいくものだろうか。

「そうと決まれば管理室に行くぞ。すまし顔で歩くように」
「はーい」

 なるべくキリッとした顔で廊下を歩く。
 ここは脳内を中二病全開にしていこう。

 俺ははぐれ魔術師レクト。嫁であるアルカナに紹介され、研究所での仕事を請け負った。
 よしこれで行こう。

「ここが制御室だ。カードキーも保管されている」
「ふん、そうか。ならばさっさと受け取るぞ」
「どうしたのだ、急に」

 アルカナさんが呆れたような顔でこちらを見つめてきたので一旦元に戻る。

「いや、このテンションで行こうかなって」
「把握」

 理解してくれたらしいので、再び切り替える。
 口調がアルカナさんに近いが決してアルカナさんのことを馬鹿にしているわけではない。中二病のイメージがアルカナさんなわけないだろう。
 これは本当に偶然だ。この喋り方は、まだゲームを始めたころのロールプレイ、黒歴史が元に……うっ頭が。

 そうこうしているうちに、アルカナさんが持っていたカードキーで扉を開けた。
 薄暗い部屋で、様々な機械類が青く発光していた。

「科学魔術班か。何があった?」
「知り合いの魔術師を連れてきたのだ。施設内を案内したい、マスターキーを拝借できないだろうか」
「魔術師?」

 管理人の一人がそう呟きながらこちらを見ると、他の管理者たちの視線も俺に集まる。
 怖い怖い怖い怖い怖い!!! 内心ガクブル震えながら無表情を貫く。汗が止まらない。

「ほう、女の魔術師か。珍しい」
「男だ」
「は? 失礼、薄暗いものでな」

 どういう言い訳だよ。は? って言ったぞ、は? って。めっちゃ驚いてるじゃん。
 アルカナさんはうんうん頷いている。何で??? 間違えるのも無理はないな。みたいな顔しないで? かっこいい黒い服用意したんだよ?

「それは分かった。だがマスターキーである必要はないだろうよ。施設内の大半はお前の持っているカードキーで開けることができるのだから」
「彼は魔術師だ、科学魔術班のカードキーで行けない場所にも行かせてやりたい」
「ならば魔術師用のカードキーを渡そう。少し待ちたまえ」
「い、いやそれでは……」

 雲行きが怪しい。
 アルカナさんの様子を見るに、魔術師用のカードキーでは大魔術師のいる部屋には入れないのだろう。
 このままでは説得できなくなってしまう。
 やるしかないか……!

「大魔術師の元に行くためのカードキーはないのか」
「なに? 貴様何をするつもりだ」

 直球で言うとバリバリ警戒された。そりゃそうか。

「ただ話をしたいだけだ。一人の魔術師として、大魔術師の話を聞きたいと思うのは間違いではないだろう」
「まあ、そうらしいな。だがあれは参考にならないらしいぞ。それに危険だ、やめておけ」

 普通に心配してくれているらしい。実はいい人なの?
 そして参考にならないか、確かに時空魔術なんてすごい魔術の話を聞いても何の参考にもならないだろう。おそらく彼だけが使えるのだ。

「らしいらしいと。それは魔術師から聞いた話か?」
「そうだが」
「魔術師の俺が言うのもなんだが、魔術師の言うことなど信用ならん。自分の耳で本人から聞かねば納得できん性質たちでな」
「はあ、生意気な奴を連れてきたな。いいだろう、許可する。魔術師の奴らには言うなよ、面倒だ」

 咄嗟の言い訳が上手くいった。
 魔術師と科学魔術派が仲悪いおかげで、他の魔術師を信用していないムーブが想像よりも刺さったのだろう。
 俺は黒いカードキーを受け取ると、礼を言って管理室を出ようとする。

「スカイゲートに反応あり!」
「なんだと? 向こうとの通信は?」
「今繋いでいます!」

 突然、管理室が騒がしくなった。
 何かしらのエラーが出たのだろうか。機械の管理は大変そうだ。お疲れ様です。

「どうかしたか」
「お前は気にしなくていい。ただ、ゲートには近づくな」

 ゲートってなんだ? さっき言っていたスカイゲートかな。
 なんて思っていると、アルカナさんが間に入る。

「ミカゲが帰ってきたのか?」
「まだ分からん。だがこちらで何とかしよう。部署も違うのだ、気にしなくていい」

 ミカゲって誰だ。
 混乱しながらも話には入らない方がよさそうだと判断し、静観を決め込む。

「そうか、では邪魔をしないように出て行くことにしよう。行くぞ」
「ああ」

 アルカナさんが出て行こうとするので、俺もそれに倣って管理室を出て行く。
 扉がシュインと閉まり、緊張の糸が緩んだ。
 同時に膝に力が入らなくなり、どっと疲れが押し寄せてくる。

「大丈夫か、レクトくん」
「ちょっと、メンタルが……」
「レ、レクトくん。激レアアイテムのマスターキーを入手したんだぞ。喜ばないのか」
「激レアアイテム……?」

 俺は手に持っている黒いカードキーに目を落とす。
 ブラックカードを思わせる高級感。機能性も、見た目も素晴らしいアイテムだ。
 ゲームでも、研究施設に潜入した主人公がカードキーを手に入れるが、まさか本物を見ることができるとは。
 メンタルが回復していき、テンションが上がっていく。

「確かに!!! これ一つで施設内の全ての部屋に入ることができるんだから、超激レアアイテムだよ! おお、綺麗。アルカナさんのカードキーも見せて!」
「それでこそだレクトくん」

 我ながら簡単な性格だなぁ、と思いつつ一歩進んだことに喜ぶ。
 マスターキーを手に入れたのなら勝ちは目前だ。早いとこ大魔術師を解放させて、俺をコピーした奴を脅そう。楽しみだ。
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