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最終章『黄昏の約束編』

139 魔術師、先生と会う

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 光に包まれ一瞬の浮遊感の後、目を開ける。
 そこにあったのは、薄暗い室内と鉄格子だった。
 どう見ても牢獄です、本当にありがとうございました。
 牢獄とは言っても綺麗な部屋で、本当に現代の技術がこの世界に使われているのだと再確認できる。

 手元にはカギが残っており、握ると光を発する。
 おそらく同じようにゲートを開いて戻ることもできるのだろう。
 牢獄内にいるのは、俺とエリィと倒れているミカゲ。
 ……うん、ミカゲも来ちゃってるんだよね。

「ちょっと! これどういうことよ!?」
「ミカゲ、どうなってるのこれ」
「……私にも、分からない」

 壁に寄りかかりながら掠れた声で呟くミカゲ。
 このままでは死んでしまう、そう思いほんの少しだけ回復してやることにした。

「とりあえず、〈中回復キュアーム〉」
「悪いね……」

 ミカゲが致命傷からぼろぼろの状態に回復する。
 魔法は使えるか、よかった。

「な、なんで回復するのよ?」
「あのままじゃ死んじゃうでしょ。見たところ、ミカゲも混乱してるみたいだし。生かしておけば役に立つかなって」

 完全に回復しているわけではない上に、ミカゲも戦意があるようには見えない。
 ゲートを通った先が牢獄なのだ、当然混乱もするだろう。

「何故、私が捕らえられてるのだ……? 先生、先生はどこにいる」
「ちょ、ちょっと! 説明してよ! 本当はどうなるはずだったのさ!」

 どこか虚ろな目でよろけながらも鉄格子を掴んだミカゲに問いかける。
 俺の声を聞いたミカゲは、一度俯き、冷静になったのか軽く深呼吸をしてこちらに向いた。

「私は、国宝を集め天界に戻れば世界を破壊するだけの力を手に入れることができると聞いていた。だがそんな様子もないのだ」
「そんな……」

 ミカゲにそれを教えたのは、先ほど呟いていた先生という人物なのだろう。
 力を手にれることができる、か。本来はその力を使ってルインが視たという隕石を降らせる予定だったのだろうか。
 ルインがそれを視たのだから嘘ではないのだろう。しかしこの状況はおかしい。念のため俺たちがゲートを通ってきたときのために用意していた、という可能性もあるが……

「それに、魔力を上手く操ることができない。おそらく魔術による結界だ」
「ほんとだ」

 言われて気が付く。アイテムをストレージから取り出すのがいつもよりも大幅に遅くなっている。
 ミカゲに使った〈中回復キュアーム〉も、本来よりも回復効果が少なくなっていた。
 魔法が使えなくなったわけではないが、弱体化されているといったところか。

「レクト、鉄格子の先へは出られないの?」
「やってみる。〈空間移動テレポート〉……あれっ?」

 〈空間移動テレポート〉を使うも、発動しない。

「〈瞬間転移ワームホール〉……もダメかぁ」

 どちらも転移する魔法だが、全く発動する気配がない。

「それも結界だ。この牢獄は転移無効空間となっているのだろう」
「徹底してるね……」

 魔術にも転移があるのだろうか。
 しかしここまでするとは、攻撃魔法で檻を破壊する……のは得策ではない気がする。
 ここはミカゲを人質に取って話し合いをしたいところだ。
 なんて物騒なことを考えていると、鉄格子の向こう側にあった扉がシュインと開かれた。

「おおお……ついに、ついにこの時が来た」
「先生!」
「あの人が……」

 出てきたのは、白衣のようなローブを着た男だった。
 白髪交じりの髪と、黒縁のメガネ。科学者なのか、魔術師なのか判断ができない。

「お前が、世界を壊そうとしてるってことでいいの?」
「君は……ああ、トワイライトの被験者か。確かに、御影くんを送り出したのは私だ」
「なら、ミカゲは渡さない。絶対に世界を壊させたりしない」

 俺は短剣をミカゲの首元に当てる。
 いつでも殺すことができる状況、相手もミカゲを殺されては困るだろう。

「何故私に怒る? 君は君を送り出した者を恨んでいるのではないのかね」
「恨んでるよ、でもお前だって恨んでるんだ。世界を壊して未来から来る侵略者を消す。確かにその侵略者は脅威かもしれないけど、いくら言い換えてもお前のそれは、人殺しだよ」

 日本を、世界を守るためにこの世界を壊す。しかし、この世界の住人は外の世界を侵略しようだとか、そんなことは考えていない。
 確かに未来では変わってくるかもしれないが、ミカゲのようにこの世界に送り出し、統治するなど他にも対処法なんていくらでもある。
 わざわざ、人を殺す必要なんてないのだ。

「だから何だと言うのだね?」
「……っお前は!!」

 平然とした顔で言うものだから、つい声を荒げてしまった。

「ふむ……まずは君の待ち焦がれた、現実に戻り話し合いをしようではないか。檻からも出してやろう」
「別に、ここでいいでしょ。それよりも答えて。世界を壊す以外に解決する方法はないの?」
「……どう思う、御影くん」
「そんなものは、そんなものはない!!!」

 俺の問いを、男はミカゲに流した。
 ミカゲは声を荒げ怒りを爆発させている。

「私はその侵略者に家族を殺されたのだ! 許せるはずがないだろう!」
「それは残念だけど、罪のない人々を殺す理由にはならないよ」
「しかし……」
「侵略者はどうなったの? 元の世界に帰ったの?」
「分からない。だが協力者を捕らえているから、現実世界に残り組織を作っている可能性がある」
「じゃあその組織をどうにかすればいい。そのほうがミカゲもいいでしょ」

 罪を犯したのはその侵略者であって、この世界の住人ではないのだから。

「敵の力は強大だ。今でこそそれほどの実力ではないが、未来の魔法は我々の魔術では対抗できないのだよ」
「ミカゲはどっちがいいの? 家族を殺した侵略者を倒すか、未然に防ぐために世界を壊すか」
「……私は、直接家族の仇を取りたい。だが、敵うはずがないのだから仕方ないだろう」

 敵うはずがない。そう諦めてしまうのは仕方のないことだ。
 ゲームで例えるのならレベル差の大きい相手と戦うということ、勝てるはずもない。
 しかし現実ではゲームと違って簡単に力を手にすることはできない。だから諦める。確かに仕方ないかもしれない。
 だけど。

「俺が協力するとしたら? 俺としても侵略者は脅威だからどうにかしたい。それとも、俺よりも強いの? その侵略者は」

 ミカゲに問いかけると、ミカゲは目を見開いた。想像もしていなかったのだろう。

「それは、分からないが。確かに……レクトの力があれば……」
「……それは我々に協力してくれる、ということでいいのか?」
「構わないよ。世界を守れるのなら」

 やることが増えてしまった。この世界に戻ってくるのは当分先になりそうだ。

「では、それについても話し合いをしよう。私としても、その話は前向きに検討したいと思っている」

 男は俺が協力してくれるのなら解決すると判断したのか、あっさりと承諾してくれた。
 急に味方っぽくなったが、苦悩があったミカゲと違ってこの男はあまり好きではない。
 警戒心はそのままにしておこう。
 ああ、そうだ。まだこの世界でやることがあるのだ。

「……その前に、このセラフィーについて、話を聞いてください」

 置いてけぼりだったエリィとセラフィーだ。
 天使としての身体を取り戻すことができるか、それを知りたい。
 話してみたまえと言われ、俺はセラフィーの身体を取り戻せるかなどの話をした。
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