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最終章『黄昏の約束編』

137 愛と信頼のごり押し戦法

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 再び支援魔法の効力を上げるために魔方陣などを見直し、仲間を集めたレクトは氷竜の前に立つ。
 ここから首を切断し、最大火力をぶつけるのだ。
 氷竜の首は七つ。全ての首を一度に切断するのは至難の業である。
 だが、レクトにはこの状況を打破する技がある。それは修行の末生み出した『ツムカリ』の二つ目の特殊技だ。

「七つの首は俺が何とかするから、皆は一気に胴体を攻撃してほしいんだ」
「ああ、あれか。了解。心置きなくぶっ放してやろうぜ」
「これで決まるのよね……全力でやりましょう!」

 エクスカリバーを構えたカリウスと、天使の羽を生やしたエリィが頷く。

「それじゃあたしも頑張っちゃおうかな。今のところ、絶望は視えてないし」

 ルインは背伸びをしながら余裕綽々で氷竜を見据えた。

「ならわしは邪魔にならないようこっちの姿で戦うのじゃ!」

 ドレイクは竜状態でのブレスをやめ、火竜族の見た目になり氷ブレスの防御に切り替える。
 一点を狙う攻撃ならばこの姿の方がいいという判断だ。
 シャムロットの魔法部隊の支援魔法も十分すぎるほどに復活している。

「俺が攻撃をしたら畳みかけてね! 〈浮遊フロート〉!」

 空を飛んだレクトは、上空で『ツムカリ』を構える。
 そして、魔力を巡らせ集中し、技をイメージする。

「〔キルタイム〕〔天叢雲剣あめのむらくものつるぎ〕」

 まず、攻撃力の強化のため〔キルタイム〕と〔天叢雲剣あめのむらくものつるぎ〕を。
 続いて……最強の奥義を。

「〔ヤマタノオロチ〕」

 レクトがそう呟くと同時に、『ツムカリ』の刃が八つ首の蛇に変形する。
 これは、〈炎帝エンペラーフレイム〉を使ったときに炎が生き物の姿に変わった現象と同じだ。
 イメージ、この世界では固定化されている魔法だろうと、なんだろうとそこに意志が入るのだ。

 八つの首が七つの首を上から覆うように襲い掛かる。
 いともたやすく、七つの首は噛み砕かれる。
 再び再生しようとするが、勢いを緩めない八つの首は氷竜の首元に噛みついた。
 八つ首のうち七つの首が再生しようとしている首を、残る一つの首が中心である胴体を。

 レクトが首を破壊したと同時に、胴体への攻撃が始まる。

「〔騎士剣ナイトソード

 カリウスのエクスカリバーの光に銀と青が混ざる。
 それと同時にカリウスの鎧も発光し、能力が飛躍的に向上する。

「〔神々の黄昏ラグナロク〕」

 エリィの槍が赤黒い炎に包まれる。
 天使と天使の武器による神性により生成された炎は、神殺しをするほどの力を内包している。

 どちらも、ゲーム内には存在しない技だ。
 ゲーム内で設定された概念が変換され、この世界で威力を発揮しているのだ。

「あたしはそういうのないから、普通に殴ろうかなー。あっ、〔魔王パンチ〕ってどう? ほら、こうして拳に魔力纏わせてさ」

 大真面目にルインが技名を考えるが、ドレイクは呆れた表情を向けるのみだ。
 しかしその拳はカリウス、エリィに並ぶ威力を持っている。初めから強大な力を持っている者同士のため、あまりリアクションが無いのだ。

「うむ、わしは自分にセンスがあるとは思っておらぬが、お主はセンスが無いと思うのじゃ」
「そうかなぁ? ドレイクちゃんはどうするの?」
「わしも殴るのじゃ」

 ドレイクも修行こそしたが、特にこれと言った必殺技は習得していない。
 その代わり、これ以上成長しないと思われていた能力が向上している。
 ドレイクもルインと同じように青い炎を拳に纏わせ、殴る準備をする。

「〔火竜パンチ〕……」
「やめるのじゃ!!!」

 絶望的なネーミングに苦言を呈するドレイクだったが、諦めて自分が攻撃するタイミングを見計らうことにした。
 レクトが攻撃すると、まずカリウスが光り輝く剣を振るい胴体を斬りつける。
 深く斬りこむことに成功するも、内側までは届かない。
 エリィはまだ魔力をためているのか、攻撃せずに炎を滾らせている。

「次はわしじゃあ!!!」
「その次はあたしかなー」

 攻撃を緩めないために、カリウスが引いたタイミングでドレイクが突撃する。
 最大火力の炎がカリウスの作った亀裂に入り、さらに亀裂を広げていく。
 パンチの威力が弱まると同時に、入れ替わるようにルインが魔力を纏わせた拳で同じ場所を殴る。
 バキバキっと、氷のようで氷ではないような音が鳴り、内側へ貫通する直前まで亀裂が広がった。
 交代するべきか、と思ったルインは途中で背後の熱に気が付く。
 振り向くと、そこには先ほどとは比べ物にならないほどのエネルギーを発する炎があった。

「よっしゃー! いくぞエリィ! セラフィー!!!」
「はいっ!!!」

 レクトが叫び、氷竜を上と横から攻める。
 レクトが再生を止め、エリィが最後の一撃として最大火力をぶつける。
 炎の槍は亀裂に入り込み、槍先が内側に侵入する。

「はあああああああああああああああああああ!!!!」

 エリィの叫びと共に内側に炎が放たれた。
 固い氷は内側からの圧力により押し出され亀裂が広がる。
 形を保とうとしていた氷は、突然糸が切れたかのように崩れ、氷竜が消えていく。
 内側から出てきたのは、氷に包まれたミカゲであった。

「いっけえええええええ!!!!」

 迫りくる二人を見たミカゲは、様々な感情が入り混じった表情をしていた。
 怒り、憎しみ、悔しさ、悲しさ。
 ミカゲの臨んだ未来は、氷と共に瓦解した。
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