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最終章『黄昏の約束編』

125 コレクター、開戦前日に国を回る

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 俺が霧の島に上陸し、ミカゲと話をしてから数日。
 ついに明日戦いが始まる開戦前日だ。
 今日ばかりは修行はせずに、各国を回って心置きなく戦場へ向かう覚悟をしたい。
 というわけで、俺は朝からシャムロットに向かっていた。
 シャムロット、アルゲンダスク、シャムロットの順番で見て回るつもりだ。

「どうも。調子はどうですか?」
「これはレクト様。順調ですよ、魔法部隊の仕上がりも十分です」

 シャムロット城に〈空間移動テレポート〉で転移しても、タランテさんは驚かない。
 ティルシアの送り迎えで何度も転移したのだ。もう慣れてしまったのだろう。
 シャムロットの魔法部隊は後方で魔法を使った攻撃をする部隊だ。前線では戦わないが重要な役割である。

「残る兵士たちはどうなってます?」
「今も交代制で魔法を撃ち込んでいます。国には結界が張られていますし、問題はないはずですよ」
「なるほど……少し見てきますね。では予定通り明日の朝ロンテギア城前で転移をするので、よろしくお願いします」
「はい、万全の状態で向かわせていただきます」

 タランテさんはいつにも増して真剣な表情をしていた。
 明日、世界の命運が決まるのだ。負ければ世界は滅びてしまう。
 全員が全員緊張しているのだ。緊張を解す言葉でも掛けられれば良かったが、タランテさん相手にそれはできなかった。

 城を後にし、城下町を出て森を進んでいく。
 家や畑が減ってくると、魔法の音が聞こえてくる。
 森が火事にならないように炎や雷の魔法は使われていないが、それでも様々な種類の魔法が使われているようだ。

「人間の貴族様ですか、いかがされましたか?」

 俺の顔はあまり知れ渡っていないらしく、休憩をしていた魔法使いは普通の貴族として話しかけてきた。
 ここで俺が明日の戦いの代表ですなんて言ったら大騒ぎになるだろうし、黙っておこう。

「シャムロットの防衛はどうなっているかを確認しに来ました。これは、すごいですね」

 目の前に広がっていたのは、複数人の魔法使いの集団。
 エルフとフェアリーが入り交ざった集団から、止まることなく魔法が撃ち込まれている。
 第一魔法から第三魔法までが何度も放たれ、定期的に第四魔法と思われる魔法が放出される。
 これに結界もあるのだ。戦力的に心配な気持ちはあったが、どの国よりも安定した防衛が出来ているのではないだろうか。

「そうでしょう。世界が救われたら、ぜひロンテギアでシャムロットの魔法技術を評価していただきたいです」
「王に伝えておきますね。では」
「わざわざありがとうございました。またお会いしましょう」

 エルフの魔法使いは、そう言いながら頭を下げた。
 必ず世界は救われると信じているのだ。他国のエルフも、俺たちに期待している。
 改めて、世界の運命を背負って戦うのだと認識できた。
 次はアルゲンダスクだ、あそこは、魔法よりも接近戦が基本なのでさぞ荒れていることだろう。

* * *

 アルゲンダスクに転移し、大王を探した。しかし今は王城にはいないらしく、国の防衛を見に行っているとのこと。
 ならば都合がいいと俺もそこに向かった。草原に出ると、そのモンスターの多さに驚く。
 元々、シャムロットよりもモンスターのレベルが高いのだ。それがさらに強化されたのだから当然強い。
 そして何より、音がすごかった。鳴り響く斬撃音、打撃音。モンスターの咆哮、断末魔。
 武器で戦っているのにここまで音が鳴るのかと思ってしまう。やはり筋力などが魔力で強化されているため音も大きくなっているのだろう。

「おっすー」
「む、レクトではないか。いよいよ明日であるが、ここに何の用があるというのだ」
「国に残る戦士の様子をねー。相変わらずすごいねここは」

 前から何度か戦闘に参加していたため、アルゲンダスクの戦士たちの戦い方は知っていた。
 しかし前に比べてモンスターも強くなり派手になっているため、来るたびに驚かされるのだ。

「当然だろう。おい! 休憩中の者をここに集めよ!」
「は、はいっ!」

 何をするつもりなのか、大王……ゴルドレッドは戦闘を終え休憩をしていた戦士を集め始めた。

「知っているかと思うが、こいつがレクトである。皆に残り国を守る皆に言いたいことがあるそうであるから、聞いていくがいい」
「えっ?」

 そんなこと一言も言ってないんですけど。
 と言える空気ではなく、獣人族の戦士たちは期待の眼差しをこちらに向けてきた。
 まあ、伝えたいことがないと言ったら噓になる。ここは腹をくくって一言伝えよう。

「えー、っと。俺たちは明日世界を救うための戦いに向かう。その間、皆には国を守ってもらうことになる。世界が救われた後にもこの世界を守っていくのは皆だから、どうかこの世界をよろしく頼みたい。……ってことを、伝えたかった、かな?」

 俺は世界を救った後、あまり前には出ずに過ごしたいと考えている。
 持っている物がこの世界にはないものが多いのだ。できるだけ『トワイライト』の技術などを伝えていきたいが、無理なものはどうしようもない。
 なので、終わったら楽しむことだけを考えて生きていこうと思う。コレクターらしく、世界を救うなどは関係なくアイテムを集めたい。
 まだまだ、知らないダンジョンは多いのだ。この世界にも元の世界にもやっていないことは山ほどある。

「それではまるで、レクトがこの世界からいなくなるようではないか?」
「しばらく戻ってこれなくなるかもしれないからね」
「ほう? まあ深くは聞かぬ。戻ってくるのだからな」
「そういうわけだから、皆よろしくね」

 戦士たちは、俺に応援されたということで喜んでいるようだった。
 今後、彼らがこの世界を守っていく。それはどこの国でも変わらない。
 世界のレベルが変わり始めている。新しい時代が始まろうとしている。
 俺は、そんな世界をずっと見ていきたいのだ。
 その後、俺はゴルドレッドに明日の朝はよろしくと伝え、転移でロンテギアに帰った。

* * *

 ロンテギアに帰ると、皆が迎えてくれた。
 この国はいつも通り、本当にいつも通りだ。
 他の国よりも出現するモンスターは強くないため、戦闘もあまり派手ではない。
 これからなのだ、人間の国は。これから大きくなっていく。

「勝とう、絶対」
「おう」
「そうね」
「だねー」
「そうじゃな」

 カリウス、エリィセラフィー、ルイン、ドレイクと集まり、ただ、時を待った。
 終わらせる戦いが始まる。
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