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第2.5章『魔王懐柔編』

104 コレクター、探られたり商談したりする

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 チェスをしながらいつもの調子でライトとの関係性や、今の状況、シャムロット、アルゲンダスクの国宝を持っていること、オルタガに行こうとしていることなどを話した。
 ちなみに当然だが俺はチェスでも負けた。

「――――ってことなんだよ。それで今、オルタガと交流を持つためにロンテギアが動いてるんだ」
「そーだったんだ」
「あんまり驚かないね」

 かなり衝撃的なことを言っているつもりだったのだが、目の前のルインは頬杖をつきながらキングを指先で揺らしていた。
 あんまり興味がない? てっきり、もっと首を突っ込んでくると思っていたのに。

「いや、それが失敗してこの世界が滅んじゃったらどうなるのかなーって思ったの。全部無駄になっちゃうんだよ? そんなの、面白くないじゃない?」
「成功する可能性だってあるよ。それならやらないわけにはいかないでしょ」

 世界が滅ぼされない方法は、国宝を守り抜くこと。
 俺がストレージに入れたままにしておけば安全……だと思うが、操られて無理やり奪われてしまう可能性だって否定できない。
 俺が死んでしまった場合、アイテムはどうなるのか分からない。ドロップするのか、それとも全て消えてしまうのか。国宝が消えてしまうのもそれはそれで問題だが、世界が滅ぶよりはマシだな。
 とはいえ俺も死ぬのは嫌なので戦う道を選ぶ。これ以外の選択肢が無いのだ。

「もし、世界が滅びることが運命で決まっていても?」
「それは……どういうこと?」
「もしもだよ。もしもそれを知ったら、キミはまだ戦える?」

 運命で決まっているか。
 もしも未来が決まっているのなら、俺はどうするだろう。
 ……戦うだろうな。世界が滅ぶなら俺は死ぬだろう。他のみんなもだ。
 俺が死ぬってことはアイテムが無くなるということ。それだけは嫌だ。
 約束も、諦めるのは嫌だ。滅びが運命だとしても、村やみんなのため、約束やアイテムのために戦っていたい。

「そうだね……それでも、やれるだけのことはやりたいな。それを知って何もできないのが一番嫌なんだ」
「嫌だから、かぁ」

 ルインは俺の意見について考えているのか、しばらく空中を遠い目で見つめていた。
 そして一度目を閉じると、再び俺の顔を真っ直ぐ見つめる。嘘はつくな、と言われているような気分だった。

「もう一度聞くけど、レクトくんは何者なの?」
「さっき言った通り、御伽噺のライトと似た存在だよ」
「ふーん……嘘はついてないっぽいし、そういうことにしておくよ。近いうちに全部聞かせてね」
「……そのうちね」

 隠し事があることはバレていたか。
 本当に、ルインは何でも見通しているような目をしている悪魔だ。

「ああ、そうそう。あたししばらくこの村に泊まろうと思ってるんだけど、泊まれるところってあるかな?」
「空き家は……物置になってるか。ルインが嫌じゃないなら、この屋敷の空き部屋に案内するけど」
「レクトくんと? いやーんえっち!」

 ルインはそう言いながら腕で胸を隠すように覆った。
 からかわれているのは分かっている。しかし、こうして近くで見るとやはり胸が大きい。俺じゃなかったら危なかった。

「っていうのは冗談で、お言葉に甘えてここに住んじゃおうかな?」
「はぁ、それでどのくらいいる予定なの?」
「未定。いやーキミと話すの楽しいなぁ」

 クククと笑うルイン、心の底から俺をからかって楽しんでいるのだろう。
 悪魔というか、やってることは小悪魔だな。俺はそこまで気にしていないし、むしろ話をするのは楽しいからいいんだけども。

「全く、思ってもないこと言わないでよ……」
「それはどうかなぁ? ……キミが求めるのなら、あたしはそれに応えるよ?」

 耳元に口を近づけたルインは、甘い声で囁いた。
 そして、胸元を見せつけるように扇ぐ。
 先程胸を隠した時と真逆の行為だ。

「っ……今はその予定ないから普通にしてていいよ」
「えーつまんないなぁ。あ、今はないってことはそのうち……」
「ない!」

 焦りながら力強く拒否する。
 全く、女の子が男相手にこんなこと……あれ、そういえばルインに女って思われてなかったな。
 言葉遣いとかで判断していたのだろうか。まあ、少し話せば男って思われるようになる程度だし疑問に思うほどじゃないね。

 こうして、旅する悪魔ルインがしばらくトワ村に住むことになった。
 村人たちはそれを知り最初は怯えていたが、にこやかに接してくれるルインにすぐに打ち解けるようになる。
 これなら問題は起こらなそうだ。元々ドレイクやティルシアがいるし受け入れるのも早くて助かる。

* * *

 ルインがトワ村に加わり三日が経過した。
 ティルシアやシウニンさんもかなりの頻度で来るため村はカオス状態だ。
 そんなある日、俺は思い出したようにシウニンさんを屋敷に呼び出した。

「今回呼び出したのはこれについてです」
「宝石花、ですか……」

 テーブルの上に置かれているのは『グリーンクローバー』と『ピンクブロッサム』ではなく、『エメラルドクローバー』と『ハートブロッサム』だ。
 いや突然なんだそれは、となるかもしれない。説明しよう。これは宝石花と言って、特定の植物を栽培した時に低確率で生えてくるアイテムなのである。
 二つとも花弁が宝石のように透き通り、硬くなっている。取り外して加工すれば本物の宝石と見分けがつかないだろう。

「以前紹介されたときは驚きましたよ。まさかこんな植物だなんて」
「それで、商品としてはどうですかね?」
「形も綺麗ですし、鑑賞用としても需要は高いでしょうね」

「ちなみに、『エメラルドクローバー』と『ハートブロッサム』は砕くと回復効果があります。ポーションのように摂取する必要がないので使い勝手がいいです」
「なんと……」

 宝石を砕くと、身体に魔力が流れ込み回復する。
 他の宝石花の場合は移動速度が上がったり、防御力が上がったり、攻撃力が上がったりする。
 戦闘中に高速で使うことができるので、戦略の幅が広がるアイテムだ。

「そしてこちらが加工した装飾品ですね。『クローバーリング』と『ブロッサムリング』です。装備していると傷が癒えやすくなります」

 ストレージから取り出した指輪をシウニンさんに自慢……じゃなくて、見せる。
 この世界では、特殊効果のある装備は魔法で効果を付与する必要があるため貴重品だ。
 貴重品ではあるが、作れないことはない。同じように加工し、魔法で効果を付与すれば同じものを作成することが可能だろう。

「……これはどこで入手されたので?」
「もちろん別の世界ですよ」
「ははは……」

 二つの指輪の違いは、回復量の差だ。
 『クローバーリング』は定期的に回復し、『ブロッサムリング』は持続的に回復する。
 合計の回復量に差はないので好きな方を使おうね。

「それで、どうですかね!」
「商品としてはとても素晴らしいです。ですがいいのですか? 元々この世界には無い物でしょう?」
「ああ、そのことについてなんですけども――――」

 俺はシウニンさんにあることを説明する。
 自然が多い国シャムロットで調査をした結果、『トワイライト』にあった植物の原種はこの世界にも存在していることが分かったのだ。
 それぞれ効果は薄いが『トワイライト』と似た効果を持っていた。ほんの少しだが宝石のようになっている変異種もあったので品種改良を重ねていけば全く同じ植物にすることもできるかもしれない。
 なのでこの植物で生態系などが壊れる心配は……そこまではない。今後はその植物の開発も行っていこう。

「ふむ、ということは一足早くこの世界に完成された植物を持ってきた、という状況ですか」
「そういうことです。まあそれもちょっとあれなんでその植物の開発も進めたいんですけどね」

 俺が村に渡したアイテムは、言ってしまえばズルだ。
 なので正真正銘トワ村としての実力にするため、今後も頑張らなければならない。世界の平和もトワ村の運営も両方やらねば。こう考えると仕事多いなぁ。

「というわけで、今回もそっちに任せますねー」
「そう言うと思ってました。お任せください……」

 宝石花はシウニンさんに任せよう。シウニンさんならどうにかしてくれるだろう。うん。
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