104 / 160
第2.5章『魔王懐柔編』
104 コレクター、探られたり商談したりする
しおりを挟むチェスをしながらいつもの調子でライトとの関係性や、今の状況、シャムロット、アルゲンダスクの国宝を持っていること、オルタガに行こうとしていることなどを話した。
ちなみに当然だが俺はチェスでも負けた。
「――――ってことなんだよ。それで今、オルタガと交流を持つためにロンテギアが動いてるんだ」
「そーだったんだ」
「あんまり驚かないね」
かなり衝撃的なことを言っているつもりだったのだが、目の前のルインは頬杖をつきながらキングを指先で揺らしていた。
あんまり興味がない? てっきり、もっと首を突っ込んでくると思っていたのに。
「いや、それが失敗してこの世界が滅んじゃったらどうなるのかなーって思ったの。全部無駄になっちゃうんだよ? そんなの、面白くないじゃない?」
「成功する可能性だってあるよ。それならやらないわけにはいかないでしょ」
世界が滅ぼされない方法は、国宝を守り抜くこと。
俺がストレージに入れたままにしておけば安全……だと思うが、操られて無理やり奪われてしまう可能性だって否定できない。
俺が死んでしまった場合、アイテムはどうなるのか分からない。ドロップするのか、それとも全て消えてしまうのか。国宝が消えてしまうのもそれはそれで問題だが、世界が滅ぶよりはマシだな。
とはいえ俺も死ぬのは嫌なので戦う道を選ぶ。これ以外の選択肢が無いのだ。
「もし、世界が滅びることが運命で決まっていても?」
「それは……どういうこと?」
「もしもだよ。もしもそれを知ったら、キミはまだ戦える?」
運命で決まっているか。
もしも未来が決まっているのなら、俺はどうするだろう。
……戦うだろうな。世界が滅ぶなら俺は死ぬだろう。他のみんなもだ。
俺が死ぬってことはアイテムが無くなるということ。それだけは嫌だ。
約束も、諦めるのは嫌だ。滅びが運命だとしても、村やみんなのため、約束やアイテムのために戦っていたい。
「そうだね……それでも、やれるだけのことはやりたいな。それを知って何もできないのが一番嫌なんだ」
「嫌だから、かぁ」
ルインは俺の意見について考えているのか、しばらく空中を遠い目で見つめていた。
そして一度目を閉じると、再び俺の顔を真っ直ぐ見つめる。嘘はつくな、と言われているような気分だった。
「もう一度聞くけど、レクトくんは何者なの?」
「さっき言った通り、御伽噺のライトと似た存在だよ」
「ふーん……嘘はついてないっぽいし、そういうことにしておくよ。近いうちに全部聞かせてね」
「……そのうちね」
隠し事があることはバレていたか。
本当に、ルインは何でも見通しているような目をしている悪魔だ。
「ああ、そうそう。あたししばらくこの村に泊まろうと思ってるんだけど、泊まれるところってあるかな?」
「空き家は……物置になってるか。ルインが嫌じゃないなら、この屋敷の空き部屋に案内するけど」
「レクトくんと? いやーんえっち!」
ルインはそう言いながら腕で胸を隠すように覆った。
からかわれているのは分かっている。しかし、こうして近くで見るとやはり胸が大きい。俺じゃなかったら危なかった。
「っていうのは冗談で、お言葉に甘えてここに住んじゃおうかな?」
「はぁ、それでどのくらいいる予定なの?」
「未定。いやーキミと話すの楽しいなぁ」
クククと笑うルイン、心の底から俺をからかって楽しんでいるのだろう。
悪魔というか、やってることは小悪魔だな。俺はそこまで気にしていないし、むしろ話をするのは楽しいからいいんだけども。
「全く、思ってもないこと言わないでよ……」
「それはどうかなぁ? ……キミが求めるのなら、あたしはそれに応えるよ?」
耳元に口を近づけたルインは、甘い声で囁いた。
そして、胸元を見せつけるように扇ぐ。
先程胸を隠した時と真逆の行為だ。
「っ……今はその予定ないから普通にしてていいよ」
「えーつまんないなぁ。あ、今はないってことはそのうち……」
「ない!」
焦りながら力強く拒否する。
全く、女の子が男相手にこんなこと……あれ、そういえばルインに女って思われてなかったな。
言葉遣いとかで判断していたのだろうか。まあ、少し話せば男って思われるようになる程度だし疑問に思うほどじゃないね。
こうして、旅する悪魔ルインがしばらくトワ村に住むことになった。
村人たちはそれを知り最初は怯えていたが、にこやかに接してくれるルインにすぐに打ち解けるようになる。
これなら問題は起こらなそうだ。元々ドレイクやティルシアがいるし受け入れるのも早くて助かる。
* * *
ルインがトワ村に加わり三日が経過した。
ティルシアやシウニンさんもかなりの頻度で来るため村はカオス状態だ。
そんなある日、俺は思い出したようにシウニンさんを屋敷に呼び出した。
「今回呼び出したのはこれについてです」
「宝石花、ですか……」
テーブルの上に置かれているのは『グリーンクローバー』と『ピンクブロッサム』ではなく、『エメラルドクローバー』と『ハートブロッサム』だ。
いや突然なんだそれは、となるかもしれない。説明しよう。これは宝石花と言って、特定の植物を栽培した時に低確率で生えてくるアイテムなのである。
二つとも花弁が宝石のように透き通り、硬くなっている。取り外して加工すれば本物の宝石と見分けがつかないだろう。
「以前紹介されたときは驚きましたよ。まさかこんな植物だなんて」
「それで、商品としてはどうですかね?」
「形も綺麗ですし、鑑賞用としても需要は高いでしょうね」
「ちなみに、『エメラルドクローバー』と『ハートブロッサム』は砕くと回復効果があります。ポーションのように摂取する必要がないので使い勝手がいいです」
「なんと……」
宝石を砕くと、身体に魔力が流れ込み回復する。
他の宝石花の場合は移動速度が上がったり、防御力が上がったり、攻撃力が上がったりする。
戦闘中に高速で使うことができるので、戦略の幅が広がるアイテムだ。
「そしてこちらが加工した装飾品ですね。『クローバーリング』と『ブロッサムリング』です。装備していると傷が癒えやすくなります」
ストレージから取り出した指輪をシウニンさんに自慢……じゃなくて、見せる。
この世界では、特殊効果のある装備は魔法で効果を付与する必要があるため貴重品だ。
貴重品ではあるが、作れないことはない。同じように加工し、魔法で効果を付与すれば同じものを作成することが可能だろう。
「……これはどこで入手されたので?」
「もちろん別の世界ですよ」
「ははは……」
二つの指輪の違いは、回復量の差だ。
『クローバーリング』は定期的に回復し、『ブロッサムリング』は持続的に回復する。
合計の回復量に差はないので好きな方を使おうね。
「それで、どうですかね!」
「商品としてはとても素晴らしいです。ですがいいのですか? 元々この世界には無い物でしょう?」
「ああ、そのことについてなんですけども――――」
俺はシウニンさんにあることを説明する。
自然が多い国シャムロットで調査をした結果、『トワイライト』にあった植物の原種はこの世界にも存在していることが分かったのだ。
それぞれ効果は薄いが『トワイライト』と似た効果を持っていた。ほんの少しだが宝石のようになっている変異種もあったので品種改良を重ねていけば全く同じ植物にすることもできるかもしれない。
なのでこの植物で生態系などが壊れる心配は……そこまではない。今後はその植物の開発も行っていこう。
「ふむ、ということは一足早くこの世界に完成された植物を持ってきた、という状況ですか」
「そういうことです。まあそれもちょっとあれなんでその植物の開発も進めたいんですけどね」
俺が村に渡したアイテムは、言ってしまえばズルだ。
なので正真正銘トワ村としての実力にするため、今後も頑張らなければならない。世界の平和もトワ村の運営も両方やらねば。こう考えると仕事多いなぁ。
「というわけで、今回もそっちに任せますねー」
「そう言うと思ってました。お任せください……」
宝石花はシウニンさんに任せよう。シウニンさんならどうにかしてくれるだろう。うん。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
最古のスキル使い―500年後の世界に降り立った元勇者―
瀬口恭介
ファンタジー
魔王を倒すも石にされてしまった勇者キール。スキルが衰退し、魔法が発達した500年後の世界に復活したキールは、今まで出来ることのなかった『仲間』という存在を知る。
一見平和に思えた500年後の世界だったが、裏では『魔王候補』という魔族たちが人間界を我がものにしようと企んでいた。
それを知ったキールたちは魔族を倒すため動き始める。強くなり、己を知るために。
こうして、長いようで短い戦いが始まる。
これは、一度勇者としての役目を終えたキールとその仲間たちが自らの心象を探し求める物語。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
※元勇者のスキル無双からタイトル変更しました。
※24日に最終話更新予定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる