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第二章『黄金の羊毛編』

095 コレクターvs蒼炎竜

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 お互いに身体が温まってきた。
 青い炎を操るドレイクとはまだ戦ったことがないため、ここから先は探り探りの戦闘になるだろう。
 観客席は恐ろしいほどに静まり返っている。氷がパキパキと割れる音や、炎がゴオッと燃え盛る音だけが聞こえてくる。

「ここからが本番じゃ、レクト!」

 翼を広げたドレイクは、その翼から青い炎を放出し高速で移動した。

「なっ、速い!?」

 まるでジェット機のような勢いに焦りが生まれる。
 一瞬で距離を詰められ、咄嗟に短剣で防御する。が、ドレイクはお構いなしに拳を叩きつけてきた。
 拳の勢いを利用し吹き飛ばされようとするが、威力が高すぎてダメージが入る。鈍い痛みが右腕に走るが、胴体には影響はない。
 もう一度受けたら右腕を負傷してしまうだろう。回復するか? いや、今回復したらその隙を突かれてしまう。

「もう一度じゃああああ!!!」
「これだから速攻型剣士タイプは苦手なんだっ! 〈瞬間転移ワームホール〉!」

 転移魔法は二種類存在する。
 まず一種類目は〈空間移動テレポート〉。一度訪れた場所に転移することができる移動魔法だ。
 そして二種類目の〈瞬間転移ワームホール〉。これは自身から半径約十メートルの空間に転移することができる魔法で、〈空間移動テレポート〉よりも使用魔力は少ない。
 戦闘に使うのが〈瞬間転移ワームホール〉で、移動に使うのが〈空間移動テレポート〉だと思えばいい。

「なんじゃと!?」
「〈中回復キュアーム〉っと」

 突撃してきたドレイクの背後に転移したため、ドレイクの反応が遅れる。
 それにより回復に成功することができたが、消費魔力が少ないからと言って〈瞬間転移ワームホール〉を乱発するのはあまりよろしくない。
 いくら少なくても魔力は消費するのだ。回数だって限られている。

「〈氷雪崩アイスアバランシュ〉」
「この程度、全て燃やしてやるのじゃ!」

 突撃される前にドレイクの動きを封じてしまおうと〈氷雪崩アイスアバランシュ〉で氷塊をいくつも落下させる。
 これで足止めにはなるだろうと他の作戦を考えていると、ドレイクが青い炎で空に浮かび上がった魔法陣に攻撃した。
 落下していく氷塊は、地面に落ちることなく魔力へ変わる。

「ええ……第四魔法だよ?」

 この世界ではエルフやフェアリーが大勢集まってようやく発動させることのできる第四魔法、それをいともたやすく燃やし尽くしたのだ。
 炎竜の名は伊達じゃないと次の魔法を詠唱する。

「〈大嵐テンペスト〉」
「くっ、これは炎じゃ無理じゃな」

 第四風魔法の〈大嵐テンペスト〉で巨大な竜巻を発生させる。
 それに伴い雨雲も発生する。雨が降り始め、フィールドに残った〈絶対零度アブソリュートゼロ〉の効果により雨と雪の入り混じったみぞれに変わる。
 本来ならば霙ではなく氷の粒であるあられが降ってくるはずなのだが、ドレイクの炎のせいか霙になってしまっていた。
 体温を奪う目的ではこちらの方が効果が高いかもしれないが、氷の粒によるダメージは期待できそうにない。
 というか、俺の体温もまずい。ドレイクと接近戦を行えば何とかなるか?

「さあどうする……? 右か、左か……!」

 闘技場の中央に巨大な竜巻が現れているため、ドレイクがこちらにくるには右か左から回り込んでくる必要がある。
 二択ではあるが、どちらかにドレイクの姿が見えた瞬間に詠唱を始めれば間に合う。
 左右に視線を動かしながら機会をうかがっていると、ふと竜巻の向こう側が青く光った。

「勝負じゃあああああああ!!!」
「正面!? 無茶苦茶だぁ!!!」

 ドレイクは、ダメージ覚悟で炎を放出し竜巻に突撃したのだ。
 風の壁を突き破り、ドレイクは拳に炎を纏わせた。魔法は間に合わない、短剣で受け止めたらダメージを負う。
 それならと、もう一本の短剣を抜き、二本の短剣で受け止めた。
 腕一本よりも格段にダメージを減らすことに成功する。でもまあ、これで手をついての受け身などができなくなってしまった。
 吹き飛ばされはしたが何とか着地する。が、魔法の詠唱をする暇もなくドレイクが突っ込んでくる。

「そらそら! 守ってばかりじゃ勝てぬぞ!」
「分かってるよ……!」

 今度は重い一撃ではなく連続でのラッシュだった。
 両拳が襲い掛かってくるが、二本の短剣で後退しながら捌き切る。
 攻めようにも、ここから短剣で攻撃する程の勢いは出せない。
 なら魔法だ。それも、一気に戦いを終わらせられるような大魔法を!
 俺は闘技場の中央付近を目指して後退する。そして、後ろに飛びながら地面に手を突いた。

「〈天津風あまつかぜ〉!」

 手を突いた位置を中心に、巨大な魔法陣が展開される。
 ドレイクは危険を察知し魔法陣の中から離れようとするがもう遅い。地面から突き上げるような風が吹き、ドレイクの身体をふわりと浮かせた。
 魔法陣内で天に向かって吹くこの風には、第二風魔法である〈風刃ストームカッター〉が混じっている。
 風により浮いているため、回避は難しい。飛べたとしても。出られないように風の壁ができているため逃れることはできない。

 俺も含めてね。

「ぐっ……ふっ、どうよ俺の魔法は?」
「お主、正気か!?」

 魔法陣内にいるのは、ドレイクだけではない。俺も入っている。
 そう、俺にも〈風刃ストームカッター〉のダメージは入るのだ。ダメージ覚悟の攻撃ってことだね。

「〈浮遊フロート〉」
「飛べたところで、脱出はできないのじゃ……!」

 先程出ようとして風に邪魔されていたため身をもって知っているのだろう、ドレイクはどういうつもりだと言いたげな顔でそう言ってきた。
 風の刃を受けながら上昇していく。その間にもドレイクは炎を飛ばしてくるが、風に邪魔されて攻撃は届かない。
 俺の攻撃も届かないだろう。魔法を使うことはやめ、なるべく風の刃を避けながら〈浮遊フロート〉で下に降下していく。

「なっ!? 何をしているのじゃ!」

 風の刃が多くダメージを受けやすい下部に移動していることを本気で心配をしているのかもしれないが、悪いけどこれも作戦だよ!
 ドレイクは上に、俺は下にいる。それなら、上にいるドレイクだけがダメージを負う魔法を使えばいい!

「〈疑似神雷ケラウノス〉!」

 身体が雷に包まれる。
 巨大な雷エネルギーが生まれ、神々しい光が辺りを包んだ。
 第五雷魔法〈疑似神雷ケラウノス〉。地上から天空へ昇っていくその雷は、疑似的に再現した神のいかずち

「ぐ、ああああああああああああ!!!!」

 叫び声を上げながら、ドレイクは神の雷を受ける。
 いくらドレイクでもこの魔法を受ければひとたまりもない。
 〈天津風あまつかぜ〉の効果時間が終わり、ドレイクが落ちてくる。
 俺は咄嗟にその場を離れた。ドレイクは飛べないほどのダメージを負っているが、まだ油断はできない。

「ま、だじゃ……」

 驚くことに、ドレイクは立ち上がった。ドレイクの目にも、腕にも青い炎は揺らめいている。
 まだ戦うつもりだ。最後の力を振り絞って、全力の攻撃を仕掛けるつもりなのだ。
 かくいう俺も、〈天津風あまつかぜ〉のダメージや魔法の連発で魔力を多く消費してしまい集中力も大きく落ちてしまっている。
 少しでも集中力を切らしたら、ドレイクの炎に飲まれてしまうだろう。
 そしてこの勝負、ドレイクからの挑戦状でもある。炎には、炎だ。

「ブルードラゴンブレス!!!」
「〈炎帝エンペラーフレイム〉ううううう!!!!」

 第五炎魔法〈炎帝エンペラーフレイム〉を発動させる。
 すると、赤黒い炎の巨人が現れ、ドレイクに襲い掛かる。
 〈炎帝エンペラーフレイム〉は炎帝を作り出し、一発殴るというシンプルな攻撃魔法だ。
 しかしその威力は絶対で、ダウンしたレイドボス相手によく使われていた。

 ドレイクは、ドラゴンブレスの青い炎バージョンを放っていた。
 ただの青いドラゴンブレスではない。炎そのものが、炎竜ドレイクのような形を模していたのだ。
 それは最初から技としてそうなっていたのか、はたまたドレイクの意志の強さがドラゴンを作り出したのか。
 分からないが、今考えるのは一つだけ。勝つのは俺だ!

「わしの炎に飲まれるのじゃああああああああああああ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 蒼炎のドラゴンと炎帝がぶつかり合う。
 お互いにお互いの炎を侵食していき、威力は拮抗していた。
 第五魔法と同等の攻撃……! ドレイクはそこに到達したのだ。
 だが、負けてたまるか。それを超えるほどの力を手に入れなければならないのだ。戦いに勝つには、ここでも勝たなきゃいけないんだ!!!

「グオオオオオオオオオオオオオ」

 炎帝が吠えた。
 本来発するはずのない声に、俺はさらに気合が入る。
 魔法が応えてくれている。そう、ここは『トワイライト』ではないのだ。ゲームではない、現実だ。
 だから不可能なんてない。可能性は、無限に存在する。

 勢いを増した炎の帝王は、蒼炎のドラゴンごとドレイクを殴り飛ばした。
 殴り飛ばされたドレイクは、壁にクレーターを作り、地面に倒れた。立ち上がる気配はない。

「勝者、レクトオオオオオオオオ!!!」

 大王の言葉に力が抜け、地面に両膝をつき短剣を落とす。ああ、魔力を使いすぎた。
 意識までは失わないが、上手く立ち上がることもできない。膝立ちでやっとだ。
 それでも、勝ったんだ。俺が優勝した。それがとても嬉しかった。
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