上 下
85 / 160
第二章『黄金の羊毛編』

085 コレクター、集中力を高める

しおりを挟む

 見 つ か ら な い 。
 気付けば空はオレンジ色に染まっている。
 一切見つかる気配はなく、ただひたすらに草原のモンスターを倒し続けていた。
 ストロングベア、マジカルコンドル、グレンライオンは既に冒険者ギルドに運んでいるため、残るは俺のホーンラビットだけとなる。

「おーい、もう帰ろうぜ? また明日探せばいいだろ」
「嫌だ! このテンションのまま倒したい!」
「どんなこだわりよ……」

 エリィにそう言われるが、どんなこだわりを持ってもいいだろう。
 ジャスターに逃げられ、リスティナにも逃げられたのだ。やってられるか。後味が悪いまま終わりたくない。せめて今日はホーンラビットを倒して気持ちよく寝るんだ。
 だが確かに夜になると視認性も悪くなる。どうにか明るいうちに姿だけでも見たいが……

「どわっ!?」

 突然茂みから何かが飛び出してきた。
 俺は咄嗟にそれを避けると、飛び出してきた影を見る。
 俺の視線の先には、巨大な角が生えた白い兎が赤い目を光らせながらこちらを見ていた。

「ビュィーーッ!!」」
「あいつだあああああああああああああああ!!!!!」

 確定! 依頼書に書いてある特徴そのままだ。
 長い角が生えた兎。名前はホーンラビット、『トワイライト』では色は違うがアルミラージという名前だったか。

「あははははははは殺せえええええええ!!!!!」

 ついにホーンラビットを見つけたのが嬉しくて、思わず笑いながら刀を手に取った。

「あれは随分と動きそうね」
「お前らは飛んで追いかけててくれ。オレは走る」
「なんじゃ、ならばわしが運んでやろう」
「は? っておい、まさか……」
「うははははは! 軽い! 軽いのじゃ!」
「やめろおおおおお!!! 降ろせ! 子供に運ばれてたまるかああああ!!!」

 チラリとみんながいる方を見ると、ドレイクがカリウスを後ろから抱きしめ飛んでいた。
 カリウスが飛べないから、ドレイクが運んでくれるってことか。なんかすごい嫌がってるけど、どうしたのだろうか。
 っと、今はあのホーンラビットを倒すことだけに集中しよう。
 俺の全速力と、ホーンラビットの全速力はほとんど変わらなかった。
 ほんの少し俺が速いかもしれないが、すぐに追いつけるわけでもないし、少しでも速度を落とせばすぐに突き放されてしまう。

「絶対に……追いつく!」

 高速で動く赤い光、いつかのジャスターを思い出す。
 速度はこちらの方が上だが、刀を持ち狙いを定めている状態での全速力ではホーンラビットの方が速い。
 何度も追いつきそうになり、刀が当たらず突き放される。という行動を繰り返していた。

「しまった、森に……!」

 そうこうしているうちに、ホーンラビットが森の中に入った。
 ここは、ホーンラビットの住処である森か。
 追いかけながら森の中に入るが、木々が複雑に入り組んでいるため走りにくい。
 ホーンラビットは森を熟知しているのだろう、迷うことなく森の中を走り回っている。
 そして、逃げるだけでなくこちらを攻撃し始めたのだ。ヒュンヒュンと風を切る音を立てながら角を使った突進攻撃を何度も避ける。

「くうっ……! どっちだ……!?」

 夕日は落ち、森の中は暗くどこからホーンラビットが飛び出してくるか分からない。
 立ち止まり、集中する。
 音と、赤い目。それを手掛かりに動きを読むんだ。
 がさり、がさり、ヒュンヒュン。木々の音、風を切る音。
 前、後ろ、左右。ぐるぐると高速で移動している。
 ……一瞬風を切る音が消えた……? それならっ!

「ピギュイーーー!!!」
「そこっ!」

 身体をすっと横に動かし、刀を振るう。
 すると、角を刀で受けることに成功する。

「いっ!?」

 のだが、刀に弾かれたホーンラビットの方角が変わり、俺の肩に角を突き立てた。
 肩を突かれ痛みに声を上げそうになるが、貫通はされていない。肩の上部分が切れただけだ。
 左肩か……ちょっと力が入れにくくなるけど、まだ軽傷だ。
 魔法が使えれば回復できるのだが、職業を変えている間に隙が生まれてしまう。ポーションも同じだ。
 逃げ出して一旦仕切り直せばポーションを飲んだりして回復をすることができるのだが、今見失ったら本当に見つけることができなくなってしまう。
 ゲーム内なら敵がひたすら攻撃してくるので逃げられる心配はないので安心してソロプレイできたのだが、ここは現実なのだ。逃げ出すわけにはいかない。

「集中するんだレクト。長時間ゲームをした培った集中力を活かせ……」

 そう呟きながら自分に暗示をかける。
 全てにおいて、思い込みというものは大切だ。
 理由のない自信、謎の自信は時に邪魔になるが、こうして自分を鼓舞するときにはとてつもない効力を発揮する。
 現に、今俺は信じられないくらいに集中しているのだ。大丈夫、何回ソロでモンスターを狩ったと思ってるんだ。

「……っ」

 音を聞き避けるが、頬を掠った。
 ツーっと生暖かい血が頬を伝う。大丈夫、痛みで感覚が鋭くなっている。もっと潜り込める。
 目で見ろ。耳で聞け。感覚を研ぎ澄ませ。
 一瞬の音の違いを聞き逃さない。
 木が軋む音……この音は、ホーンラビットが木を足場にして突進する音だ。

「――――ご無礼ッ!」

 振り向きざまに刀を振るった。
 俺の頭を狙っていたホーンラビットと目が合う。避けていなかったら完全に脳を貫かれていたよ。
 俺の刀は、真横を通るホーンラビットの腹を引き裂いた。

「ピィ……キュゥ……」

 腹を裂かれたホーンラビットは、勢いそのまま地面を擦り断末魔を上げながら絶命した。
 ……勝った。剣の技も魔法も使わずに、自らの実力だけで。
 勝利とは、こんなに清々しい気分なのか。頭の中が澄み渡っている。
 俺は強くなっている、間違いなく。戦えている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最古のスキル使い―500年後の世界に降り立った元勇者―

瀬口恭介
ファンタジー
魔王を倒すも石にされてしまった勇者キール。スキルが衰退し、魔法が発達した500年後の世界に復活したキールは、今まで出来ることのなかった『仲間』という存在を知る。 一見平和に思えた500年後の世界だったが、裏では『魔王候補』という魔族たちが人間界を我がものにしようと企んでいた。 それを知ったキールたちは魔族を倒すため動き始める。強くなり、己を知るために。 こうして、長いようで短い戦いが始まる。 これは、一度勇者としての役目を終えたキールとその仲間たちが自らの心象を探し求める物語。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。 ※元勇者のスキル無双からタイトル変更しました。 ※24日に最終話更新予定です。

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

神々の仲間入りしました。

ラキレスト
ファンタジー
 日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。 「私の娘として生まれ変わりませんか?」 「………、はいぃ!?」 女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。 (ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい) カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...