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第二章『黄金の羊毛編』
085 コレクター、集中力を高める
しおりを挟む見 つ か ら な い 。
気付けば空はオレンジ色に染まっている。
一切見つかる気配はなく、ただひたすらに草原のモンスターを倒し続けていた。
ストロングベア、マジカルコンドル、グレンライオンは既に冒険者ギルドに運んでいるため、残るは俺のホーンラビットだけとなる。
「おーい、もう帰ろうぜ? また明日探せばいいだろ」
「嫌だ! このテンションのまま倒したい!」
「どんなこだわりよ……」
エリィにそう言われるが、どんなこだわりを持ってもいいだろう。
ジャスターに逃げられ、リスティナにも逃げられたのだ。やってられるか。後味が悪いまま終わりたくない。せめて今日はホーンラビットを倒して気持ちよく寝るんだ。
だが確かに夜になると視認性も悪くなる。どうにか明るいうちに姿だけでも見たいが……
「どわっ!?」
突然茂みから何かが飛び出してきた。
俺は咄嗟にそれを避けると、飛び出してきた影を見る。
俺の視線の先には、巨大な角が生えた白い兎が赤い目を光らせながらこちらを見ていた。
「ビュィーーッ!!」」
「あいつだあああああああああああああああ!!!!!」
確定! 依頼書に書いてある特徴そのままだ。
長い角が生えた兎。名前はホーンラビット、『トワイライト』では色は違うがアルミラージという名前だったか。
「あははははははは殺せえええええええ!!!!!」
ついにホーンラビットを見つけたのが嬉しくて、思わず笑いながら刀を手に取った。
「あれは随分と動きそうね」
「お前らは飛んで追いかけててくれ。オレは走る」
「なんじゃ、ならばわしが運んでやろう」
「は? っておい、まさか……」
「うははははは! 軽い! 軽いのじゃ!」
「やめろおおおおお!!! 降ろせ! 子供に運ばれてたまるかああああ!!!」
チラリとみんながいる方を見ると、ドレイクがカリウスを後ろから抱きしめ飛んでいた。
カリウスが飛べないから、ドレイクが運んでくれるってことか。なんかすごい嫌がってるけど、どうしたのだろうか。
っと、今はあのホーンラビットを倒すことだけに集中しよう。
俺の全速力と、ホーンラビットの全速力はほとんど変わらなかった。
ほんの少し俺が速いかもしれないが、すぐに追いつけるわけでもないし、少しでも速度を落とせばすぐに突き放されてしまう。
「絶対に……追いつく!」
高速で動く赤い光、いつかのジャスターを思い出す。
速度はこちらの方が上だが、刀を持ち狙いを定めている状態での全速力ではホーンラビットの方が速い。
何度も追いつきそうになり、刀が当たらず突き放される。という行動を繰り返していた。
「しまった、森に……!」
そうこうしているうちに、ホーンラビットが森の中に入った。
ここは、ホーンラビットの住処である森か。
追いかけながら森の中に入るが、木々が複雑に入り組んでいるため走りにくい。
ホーンラビットは森を熟知しているのだろう、迷うことなく森の中を走り回っている。
そして、逃げるだけでなくこちらを攻撃し始めたのだ。ヒュンヒュンと風を切る音を立てながら角を使った突進攻撃を何度も避ける。
「くうっ……! どっちだ……!?」
夕日は落ち、森の中は暗くどこからホーンラビットが飛び出してくるか分からない。
立ち止まり、集中する。
音と、赤い目。それを手掛かりに動きを読むんだ。
がさり、がさり、ヒュンヒュン。木々の音、風を切る音。
前、後ろ、左右。ぐるぐると高速で移動している。
……一瞬風を切る音が消えた……? それならっ!
「ピギュイーーー!!!」
「そこっ!」
身体をすっと横に動かし、刀を振るう。
すると、角を刀で受けることに成功する。
「いっ!?」
のだが、刀に弾かれたホーンラビットの方角が変わり、俺の肩に角を突き立てた。
肩を突かれ痛みに声を上げそうになるが、貫通はされていない。肩の上部分が切れただけだ。
左肩か……ちょっと力が入れにくくなるけど、まだ軽傷だ。
魔法が使えれば回復できるのだが、職業を変えている間に隙が生まれてしまう。ポーションも同じだ。
逃げ出して一旦仕切り直せばポーションを飲んだりして回復をすることができるのだが、今見失ったら本当に見つけることができなくなってしまう。
ゲーム内なら敵がひたすら攻撃してくるので逃げられる心配はないので安心してソロプレイできたのだが、ここは現実なのだ。逃げ出すわけにはいかない。
「集中するんだレクト。長時間ゲームをした培った集中力を活かせ……」
そう呟きながら自分に暗示をかける。
全てにおいて、思い込みというものは大切だ。
理由のない自信、謎の自信は時に邪魔になるが、こうして自分を鼓舞するときにはとてつもない効力を発揮する。
現に、今俺は信じられないくらいに集中しているのだ。大丈夫、何回ソロでモンスターを狩ったと思ってるんだ。
「……っ」
音を聞き避けるが、頬を掠った。
ツーっと生暖かい血が頬を伝う。大丈夫、痛みで感覚が鋭くなっている。もっと潜り込める。
目で見ろ。耳で聞け。感覚を研ぎ澄ませ。
一瞬の音の違いを聞き逃さない。
木が軋む音……この音は、ホーンラビットが木を足場にして突進する音だ。
「――――ご無礼ッ!」
振り向きざまに刀を振るった。
俺の頭を狙っていたホーンラビットと目が合う。避けていなかったら完全に脳を貫かれていたよ。
俺の刀は、真横を通るホーンラビットの腹を引き裂いた。
「ピィ……キュゥ……」
腹を裂かれたホーンラビットは、勢いそのまま地面を擦り断末魔を上げながら絶命した。
……勝った。剣の技も魔法も使わずに、自らの実力だけで。
勝利とは、こんなに清々しい気分なのか。頭の中が澄み渡っている。
俺は強くなっている、間違いなく。戦えている。
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