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第二章『黄金の羊毛編』

070 五人、アルゲンダスクに到着する

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 長い移動の末、俺たちはアルゲンダスクにたどり着いた。
 まあほとんどみかんとかを食べながら雑談していただけなのだが、シャムロットの時よりも格段に長かったのは確かだ。
 海沿いに国が広がっており、大陸も大きいため資源には困っていないんだろうな。
 ノアトレインの車内から見た街並みは、規模は違えどロンテギアと変わらない光景だった。

「ここがアルゲンダスクかぁ。なんか、普通だね」
「そりゃあシャムロットみたいな森の国と比べたら普通だろうよ」

 確かにシャムロットはエルフと妖精の国という特殊な国だった。
 国を広げるという気持ちもあまりないようで、中心の街以外はほとんど未開拓の森が広がっているのだ。
 それに比べてアルゲンダスクはひたすらに大きい。修学旅行で北海道に来た時と似た気持ちになる。うおおお、広い!

「全体が交流街って感じだね」

 獣人、エルフ、ドワーフ、獣人、獣人、人間、妖精。様々な種族が歩いている。
 ロンテギアの交流街によく似ているが、獣人の国なのでやはり獣人族が多い。

「獣人が多いだけで、他の種族も多く住み着いてるからな。人間もそれなりに住んでたはずだぜ?」
「なんか、ここまで大きいとロンテギアからみんなこっちに来ちゃいそうだね」

 あんな小さい国出て行ってやる! って人がこぞって引っ越してそうだ。
 最近王城が襲われちゃってたし、危険を感じてこっちに逃げてくる人がいてもおかしくはない。

「それがそうでもないんですよ。この国は他種族が多いため、それだけ種族の格差があります。人間なんて特に最弱の種族なので差別は絶えません。なので、この国に来る人間は冒険者として強くなった者や、引退した騎士がほとんどなんです。一般人はまともに生活できませんよ」
「……確かに。普通に生きるだけならロンテギアの方が良さそうですね」

 今は身体がそれなりに大きいカリウスがいるので大丈夫だが、見た目だけならひょろひょろしている俺とシウニンさんは舐められっぱなしだろう。
 ドレイクはまだいいとして、エリィは来ても大丈夫だろうか。まあ中にセラフィーがいるので危険はないだろうが、絡まれると面倒だ。

「ここ良さそうだな」

 路地に入り建物で囲まれた小さな土地で立ち止まる。
 ここに来た目的は、エリィとドレイクを連れてくることだ。

「よし。じゃあ連れてくるよ。〈空間移動テレポート〉」

 青い光に包まれながら瞼を閉じる。ふわっと浮遊感に襲われ、着地する。
 目を開くと、自分の部屋の中にいた。よし、後は待機しているドレイクとエリィを連れて〈空間移動テレポート〉するだけだ。
 錬金室に入ると、エリィの錬金術を退屈そうに見つめるドレイクがいた。休めよ。

「やっと来た」
「遅いのじゃレクト、退屈であったぞ」

 開口一番文句ですか。
 ノアトレインでの移動に掛かる時間は完璧には把握できていないし、人目に付かない場所を探すのにも時間がかかる。だから許して。

「〈空間移動テレポート〉する場所を探すのに少し手間取ってさ。もう準備できてる?」
「もちろんじゃ!」
「うん、もう大丈夫よ」

 二人が手を差し出してくる。その手に俺の手を重ね、〈空間移動テレポート〉を詠唱する。

「〈空間移動テレポート〉」

 全員が青い光に包まれ、再び路地に戻ってくる。
 シウニンさんが驚いた顔をし、カリウスは特に反応せずにあくびをしている。

「まだ信じられませんよ……本当にあったんですね、〈空間移動テレポート〉」
「まあ第五魔法なんでこの世界の人はまだ使えないですねー」

 御伽噺、過去に起こった話、または作り話と様々な説がある『トワイライト』では第五魔法は普通に登場していた。
 ドレイクは過去に経験しているので、実際に本物のライトが過去に第五魔法を使っていたのだろう。
 なら、この世界で魔法が廃れた理由は何だろうか。それとも、『トワイライト』はこの世界とは別の世界での出来事か……
 まあそれも追々わかるだろう。考えていても仕方がない。

「それで、どうするの? もうお城に行く?」
「んー、観光しながら行こう。何か面白そうなものがあったら買いたいし」

 意外にも乗り気なエリィにそう言う。
 夜通しノアトレインで移動したため、こちらもかなり疲れている。まだ時間も早いので、お城にはお昼過ぎにでも行けばいいだろう。
 街も広いのでお城までそれなりの距離がある。道中に店に立ち寄りながら向かおう。

「わしも久方ぶりのアルゲンダスクじゃからな、楽しみじゃ」
「昔来たことあったんだ」
「当然、世界中を飛び回ったこともあるのじゃ。財宝が増えてから火山から離れないようにしておったからの、こうして別の大陸に渡るのは久しぶりじゃ!」

 財宝は全て俺のアイテムストレージに入っているため、盗まれる心配はない。
 なのでこうして別の大陸にまで来れるというわけだ。
 この様子だとオルタガにも行ったことがありそうだが、あまり有益な情報は持っていなさそうだな。

「人が多いわねー。ほとんど人じゃないけど」
「しかもな、全員が全員それなりの戦闘能力を持っているんだぞ」
「戦闘民族かよ」

 思わずツッコミを入れてしまう。
 ドラゴンなボールを集める作品に出てくる種族を思い浮かべる。一般人でも強いんだっけか。
 戦い方を知らないだけで、能力はあると。つまり向かいを歩く獣人の少女も強いってことだ。
 そんな会話をしながら歩いていると、とあるお店を見つける。キラキラとした装飾が特徴的なお店だ。

「おおお! おいレクト! 宝石店じゃ!」
「本当だ! 入ろう! すぐ入ろう!」

 まさかの宝石店! いわゆるジュエリーショップだ。
 ちなみに、俺は中学生までランジェリーショップのことを宝石店だと勘違いしてたよ。馬鹿だね。

「仲いいですね、あの二人」
「馬鹿なだけだと思う」
「気持ちは分からんでもない。宝石、ロマンだよな」
「まあ、そうね……でもあれはちょっとおかしいわ」

 おかしいとか知らない。これが俺にとっての普通である。
 アイテムを前にして正気を保つとか正気じゃないだろ。
 アルゲンダスクは鉱山も多くあるため珍しい宝石がいくつもあると聞いている。
 レッツショッピング。このために金儲けをしたと言っても過言ではない!

 その後、大量の宝石を購入した俺たちは勢いそのまま道中の店で買い物をしまくったのだった。
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