69 / 160
第二章『黄金の羊毛編』
069 男三人、ノアトレインで冷凍ミカンを食べる
しおりを挟むアルゲンダスク。それは世界で最も広く、人口も多い国だ。
土地がとにかく大きいので、どこからどこまでがアルゲンダスクの領地なのかと疑問になる。
世界で言うロシア、日本で言う北海道である。でっかいどう。
「――――とまあ、ここまでがアルゲンダスクの特徴だな」
「なるほどねぇ」
ノアトレインでの移動中、俺はカリウスからアルゲンダスクについての情報を聞いていた。
ここ数日、俺は急ピッチで外交の準備を進めていた。
王様への報告、シウニンさんの予定合わせ、戦闘能力の仕上げなどなどだ。
もちろん、アルゲンダスクについての情報も集めた。まあ大国ということもあり、特徴がありすぎるのであまり集まらなかったのだが。
今のところ獣人族が多い国という話と、大王の図体がでかいという情報しかない。
「ノアトレイン、初めて乗りました……すごいですねぇ。本当に神様が作ったのでしょうか」
「ノアトレインの停まる場所に駅を建てたって話だからな」
カリウスの言っていることが本当なら、ノアトレインを設置した神様とやらは元の世界と関係があり、尚且つ列車がある時代を知っているということになる。
古代文字が日本語だったし、日本の神様なのかな? え、二つの世界同時に運営してんの?
ちなみに、乗車しているのは俺、カリウス、シウニンさんの三人だ。
ドレイクとエリィも来る予定だが、ノアトレインで連れて行くわけにもいかずシャムロットの時と同じく〈空間移動〉での移動となる。
つまり、全員集まった場合俺、カリウス、シウニンさん、エリィ、ドレイクの五人になる。
シャムロットの時よりも二人増えているが、何とかなるだろう。
「それにしても、凍らせたみかんがここまで美味しいとは思いませんでした。レクト様、これも商品化しませんか?」
「そうですねー、まあこればかりは簡単に真似できますしそっちで自由に売り出して構いませんよ」
「なんと……ではお言葉に甘えて、検討させていただきます」
それは商品化しないフラグなの?
シウニンさんなら普通に大金を手に入れてくれるだろうし、気にしなくてもいいかな。
お金には困っていない、というかお宝やポーションの稼ぎ、シャムロットでの高難易度依頼報酬などで大金が入ってきているため大金持ち状態なのだ。今更金を稼ごうとは思わない。
まあ、増えるなら嬉しいけど、そこを目的に動くことはないかな。
「そういえば、アルゲンダスクではどのように大王に近づくのですか?」
おおそうだ。移動時間を有意義に使えるかどうかができる大人の違いなんだぜ?
いやまだ学生だったけども。でも電車でも仕事してる人ほんと凄いと思う。
そうじゃない、作戦会議だ。一応事前に何をやってもらうかは決めていたが、当日の流れは決めていなかった。
「とりあえず、ポーションを出して交渉ですかね」
「私がですか……」
「はい。んでそこからある程度仲良くなり、国宝くださいと言います」
「無理だろ。そんな簡単にいくか?」
おっしゃる通りです。
来てポーションの紹介して、世界の破壊が迫っていると言って、国宝くださいと言い出す。うん、怪しすぎる。
「そこはそれ。長い目で見て信頼を得れば何とかなるよ。多分」
いきなりその日に国宝くださいはあまりにも怪しすぎる。
作戦としては、今日はシウニンさんに交易関係を任せつつ世界の破壊が近づいている云々の説明をし、そこから信頼されるために色々なことをする、って感じかな。
国が大きいのでトラブルも多いだろう。それを解決して信頼されるって作戦よ。
つまりシャムロットにライトとして信頼された方法を短時間で行う、それだけだ。
「今回はライトって名乗るのか?」
「必要ならね。できれば名乗らずに信頼されたいかな」
俺はライトと同一の存在としてこの世界にいるが、個人的には自分がライトだという認識が薄い。
ライトとしてゲームをプレイしていたわけではないのだ。自覚なんてない。
だから俺は自分で手に入れたもの、アイテムやゲーム内でのステータス、この世界で身に着けた戦闘技術などで勝負がしたいのだ。
「それと、出来れば短期間で国宝を手に入れたいな。今こうしている間にも他国の国宝が悪魔に狙われているかもしれないし」
「幸いロンテギアが襲われてから他国で被害が出たという話は聞いてない。アルゲンダスクの国宝を手に入れたら、半分をこっちが持っていることになる。そしたら、向こうもこっちを狙うようになるだろうな」
天界に、神の国に行くために国宝を集めているのだ。相手も同じだとしたら、相手の悪魔は後三つの国宝を手に入れる必要がある。
王様からの情報だと、悪魔の国であるオルタガの国宝はまだ無事らしい。
なのでまだまだこちらが有利になれるのだが、一つ気になることがある。
「『黄金の果実』を欲しがっていた理由は何だろうね。国宝以外にも何か必要なんて話はセラフィから聞いてないし、気になるなぁ」
「単純に病気とかの対策なんじゃね?」
「そんな単純かなぁ……」
相手は神なのだ、俺のようにプレイヤーとして何かしらのアドバンテージがあるのだろうが、もしそうならば大抵のことはアイテムでどうにでもなる。
なんたってHPを全回復し、魔力も回復し、状態異常も治す『エリクサー』があるのだから。
確かに病気ならばアイテムでは何もできないが、流石にティルシアのような人が何人もいるとは思えない。
「何はともあれ、こちらは国宝を集めるだけなのでしょう? すぐに全てを解決させる方法なんてないのですから、適度な息抜きも必要ですよ」
「確かに。じゃあ冷凍ミカン追加! 〈氷〉!」
「やったぁい!」
アイテムストレージからみかんを取り出し、最近覚えた生活魔法である〈氷〉で凍らせる。
『トワイライト』で言うならレベル0の魔法。名前だけならかっこいいけど、ただの火とか風とか、水とかを出すだけなんだよね。
とにかく、今はこうして冷凍ミカンを作り楽しもうじゃないか。
「お客様、大変申し訳ありませんが、他のお客様もいらっしゃいますのでどうかお静かに……」
「「「すみませんでした」」」
1
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
最古のスキル使い―500年後の世界に降り立った元勇者―
瀬口恭介
ファンタジー
魔王を倒すも石にされてしまった勇者キール。スキルが衰退し、魔法が発達した500年後の世界に復活したキールは、今まで出来ることのなかった『仲間』という存在を知る。
一見平和に思えた500年後の世界だったが、裏では『魔王候補』という魔族たちが人間界を我がものにしようと企んでいた。
それを知ったキールたちは魔族を倒すため動き始める。強くなり、己を知るために。
こうして、長いようで短い戦いが始まる。
これは、一度勇者としての役目を終えたキールとその仲間たちが自らの心象を探し求める物語。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
※元勇者のスキル無双からタイトル変更しました。
※24日に最終話更新予定です。
幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜
海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。
そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。
しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。
けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる