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第一章『黄金の果実編』

068 商人、膝から崩れ落ちる

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「これは……」
「……戦ってる」

 案内した先では、カリウスとドレイクが戦闘をしていた。
 カリウスの実力もどんどん伸び、剣から出す謎の光を巧みに使いリーチを伸ばすという戦い方をしている。
 変わった戦い方にドレイクも慣れないらしく、隙を突かれて負けそうになることだってある。

「――――というわけで、こんな風に修行してるよ」

 バチバチに戦闘中の二人を横目に、シウニンさんとティルシアに説明する。

「なるほど。ダラカさんについては触れない方がいいのでしょうか」
「彼女の正体は炎竜ドレイクですね」
「……えっ?」
「色々あってトワ村にいるんですよ」
「え? え? え?」

 あ、バグった。
 運営さん、バグ残ってますよ。デバッカーの人は何やってるの。ちゃんと調べなきゃダメでしょ。
 ここでバラしていいのかという気持ちもあったが、どうせアルゲンダスクに連れて行くなら全部教えてもいいかなって結論に至ったよ。

「それは置いておくとして……では貴方は? 王子代理になったと知った時、驚きましたがなぜか納得できたんですよ。回復魔法も使えますし、妥当だなと。しかし貴方は無名だったトワ村の領主、実力と合っていません。理由はあるのですか?」
「理由、ですか」

 最初はこの世界の設定としてトワ村の領主になってしまった、という理由だったが、今は違う。
 間違っても、仕方なくトワ村の領主をしているというわけではないのだ。
 この世界の俺がこの領地を選んだのも納得できるし、今だって楽しく生活できている。

「単純に、自分に合っていたからですよ。俺にはそんな広い領地も、村も運営できないですから」
「意外です、もっと欲があるものかと」
「欲はありまくりですよ? ただ、思い入れというか、こだわりみたいなものなんです」

 俺はトワ村を気に入っている。他の領地を運営してくれと言われてもやる気は起きないだろう。
 まあ、貰えるなら貰うけどね。ただ、その時は運営は俺ではなく別の誰かに丸投げするんだけども。
 大臣みたいなものだ。政治はできる人に任せるよ。

「まあそれだけじゃ納得はできないですよね。どうせだから話しますよ。実は――」

 ここまで関わった商人なのだ、この場にいる人も俺の正体を知っている人ばかり。今更隠す必要もないだろう。
 俺は御伽噺『トワイライト』のライトであることや、世界の危機が迫っていること、それを食い止めるために活動をしていることなどを話した。

「外交どころじゃなかったぁぁぁああああぁぁあぁっぁぁあぁ!!」

 そう叫びながら膝から崩れ落ちるシウニンさん。
 話を聞いている最中も滝のような汗を流していたが、まさかここまでショックを受けるとは。
 ただ、自分が世界を救うメンバーの一人になっただけじゃないか。

 あくびをするティルシアと崩れ落ちるシウニンさんという奇妙な状況。さてどうしたものか。
 なんて思っていると、一際大きな音が鳴った。見ると、ドレイクの蹴りがカリウスの腹に直撃したようだ。
 俺たちの近くの木まで吹き飛ばされたカリウスは、土埃を払いながら立ち上がる。相変わらず硬いな。

「かー、負けた負けた! あれ、シウニンさんじゃねぇか。それに……お、王女様!?」
「惜しかったね。見てなかったけど」
「見とけよ!」

 いやでも惜しかったんだろうな。そのくらいにカリウスは成長しているのだ。
 そして同時にドレイクも成長している。人間の姿での戦闘に慣れてきたのだろう。
 もちろん俺も成長している。おかげで自信も取り戻せた。ジャスター、覚悟しろ。

「んで、こりゃどういう状況だ」
「ティルシアは遊びに来てて、シウニンさんは世界が危ないこと説明したらこうなっちゃった」
「どういう状況だ!?」

 ほんとだよね、どういう状況だ。
 ドレイクもこちらに気付き、背伸びをしながら近づいてくる。

「おん? おお、久しぶりじゃな! そっちは誰じゃ?」
「ティルシア、シャムロットの王女様だよ」
「ほお、エルフの王女じゃったか」
「よろしく、お願い、します……?」

 何故に疑問形?

「ああもう! いいですよ、やってやりますよ!!! アルゲンダスクにでもなんでも行ってやりますよ!!!!」
「よっ、その意気だよ!」

 突然飛び上がりながら叫んだシウニンさんを鼓舞する。
 俺やカリウスに高度なやり取りとか無理だから、頭のいい人の力が必要なのだ。

「いいのかよシウニンさん巻き込んで」
「いいのいいの。今回の作戦は単純に仲良くなることだからさ」

 そう、今回の攻略は国同士の交友関係を良くすることだ。
 いやまあ、シャムロットの時も似たような感じだったけども。あれは特殊なのだ。
 あれはライトとしての冒険者活動があったからできた攻略法なのだ。同じようにはいかない。

「でもそれだけで国宝を譲ってもらえるのか?」
「そこなんだよねぇ。でも、ある程度仲良くならないと始まらないし、それは後々考えるよ」

 国宝さえ手に入れば何でもいい。
 言ってしまえば、ロンテギアを襲撃した悪魔のようにアルゲンダスクを襲撃し、奪ってもいいのだ。
 しかしそのような非道な真似はしたくない。俺は気持ちよくレアアイテムを手に入れたいんだから。

「ティルシアよ、わしと遊ぶのじゃ!」
「……うん! 遊び、たい!」

 こちらの重々しい空気と違いあっちはかなり平和だ。
 うん、暗くなっていても仕方ないよね。楽しく行こう。

「よーし! じゃあカリウス、今度は俺とやろう!」
「おう、もう負けねぇぜ」

 近いうちにロンテギアに戻り外交に向かう報告をしよう。
 話では、ロンテギア城の修復が急ピッチで行われているのだとか。
 破壊されてしまった玉座の間も治るだろうし、いいタイミングだろう。

「私はどうすれば……」
「シウニンさんもやります?」
「お断りします!」

 冗談のつもりだったのだがめちゃくちゃ距離を置かれた。そんなに怖がらなくてもいいのに。
 俺vsカリウスの戦闘は、俺の勝利で終わった。カリウスの武器『騎士剣エクスカリバー』の光が厄介だった。どちらが勝ってもおかしくない戦闘だ。

 その後もティルシアはドレイクと遊び、俺とカリウスは修行をするというにぎやかな空間は続く。
 日も暮れ解散となり、シウニンさんは王都に帰ることになった。
 ティルシアは、王族権限でノアトレインに乗っていないため〈空間移動テレポート〉で家に帰した。
 ちなみに、無断でトワ村に来ていたティルシアはタランテさんにめちゃくちゃ怒られてたよ。
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