上 下
10 / 160
序章『始まりの領地』

010 コレクター、酒場で情報を集める

しおりを挟む

 酒場でカリウスの就職祝いのようなもの(支払いはカリウス)をした後、俺はプレイヤーの情報を集めるためそこにいた人たちから話を聞くことにした。
 のだが。

「ぷれいやー? なんだそりゃ」
「聞いたことないな」

 昼間から酒を飲んでいたおじさんたちは、それぞれそう言いながら酒を呷った。
 うーん、そうだよねぇ。騎士であるカリウスがプレイヤーを知らないのだから、酒場のおじさんが知ってるわけない。
 というか、なんで酒場が情報を集める定番になってんの。情報屋どこ。

「ねぇ、カリウス。冒険者はいないの?」

 情報を持っているのは酒場に冒険者が集まるからだ。
 冒険者はその名の通り様々なところに冒険する者のため当然情報も持っている。

「あー、それならほら、奥にあるカウンター。あそこが冒険者の窓口だ。探すならあの近くだな」
「ふーん。じゃ、ちょっと行ってきますか」

 カリウスの言う通り、酒場の片隅には紙が貼られている掲示板があった。カウンターには受付嬢的な人がニコニコしながら立っている。
 まさに冒険者ギルドだ。よくラノベやweb小説のファンタジーに登場するあれが配置されている。
 普通の異世界転生主人公ならば、あそこで冒険者登録をし、チートでハーレムを作り上げるのだろう。
 が、領主になっている俺にその選択肢はない。ま、冒険者になるなら次の機会だね。

「ヘーイ!」
「え、な、なんですか」

 怖がられないように軽快な挨拶をしたのに、受付嬢さんは普通に怖がってしまった。
 くそっ、周りに冒険者がいないからとりあえず受付嬢さんに話しかけるのは政界ではなかったか。

「何してんだお前……」
「あーその、プレイヤーを探してるんだけど、知ってる?」
「ぷれいやー、ですか?」

 あ、これはダメだ。

「うん、知らなそうだし有名な冒険者が来た時に聞いてみてほしいな。ああ、それと『トワイライト』って知ってる?」

 今の今まで失念していたが、『トワイライト』がこの世界で知られているのかも知っておきたい。
 もしも俺より前にこの世界にプレイヤーが転生していた場合、そいつは『トワイライト』の名前を出すかもしれないのだ。

「トワイライト……ええ、知ってますよ」

 返ってきたのは予想外の言葉。
 どうせ今回もとわいらいと? とか言われてしまうものだと思っていた。なのに、この受付嬢さんはそれを知っている。

「……そっか。なら、ちょっと聞かせてよ」
「はい。トワイライトとは――――」

 俺がカウンターに背中を掛けると、受付嬢さんはゆっくりと語り始めた。

* * *

 テーブル席に座りながら頬杖をつく。
 結果だけ言うと、受付嬢さんの言う『トワイライト』は御伽噺おとぎばなしだった。
 そして、その内容はVRMMORPG『トワイライト』のストーリーそのもの。
 この世界は、確かに『トワイライト』と繋がっていた。

 だが、全く腑に落ちない部分がある。
 プレイヤーの情報が一切ないのだ。もしもプレイヤーがストーリーを御伽噺として広めたなら、少しはその情報が残っててもいいはずだ。
 もちろん、情報が無くなり伝えられなかったのならそこまでだが。どうにも納得できない。

「おうおうねーちゃん、オレらと遊ぼうぜ」
「……?」

 ふてくされていると、冒険者らしき男がこちらを見ながらそう言ってきた。
 背後を確認するが、後ろの席に女性はいない。ならこの冒険者は誰に話しかけているというのか。
 …………あ、俺か。

「すまないがこいつはオレの連れなんだ。これから用事もある。諦めてくれ」

 おいなんで俺を女性として扱ってるんだ。

(お前っ……!)
(この方が楽でいいだろ?)

 小さな声で咎めるが、カリウスはニヤリと笑いながらそう言った。
 それで本当に楽になるの?

「ちょっとくらいいいだろうがよォ。おっ、いい指輪付けてんじゃねぇか」
「触るな!」

 冒険者の男が俺の指にはめられた指輪に触れようとしてきたので、咄嗟にパンッ! と弾いてしまった。
 男の目が変わる。先程のからかうような目から一転、睨みを利かせた怒りの目になった。

「テメェ……!」

 男が殴りかかろうとしたその時、

「そこまで」

 いつの間にか俺と冒険者の間に立っていた人物が、双方の肩を掴み止めてくれた。
 俺は喧嘩なんてするつもりはなかったのに、嫌なことに巻き込まれるなぁ。
 俺の肩を掴んできた人物は、白髪と黒髪が混ざった青年だった。

「ギ、ギルド長……」

 なんと、ギルド長だったらしい。
 人間の国が一つしかない以上、人間の運営する冒険者ギルドは一つだけとなる。
 つまり、この人が人間の冒険者ギルドで一番偉いということになる。

「詳しく説明してもらえるかい」
「んじゃ、オレが。先程――――」

 最初から最後まで見ていたカリウスがギルド長に事情を説明する。
 当然、絡んできた男も弁解しようとするが、ただ触ろうとして拒否されただけなので弁解のしようがない。
 結局、男はギルド長に厳重注意を受けその場を去った。

「さて、まさか貴族の方が来られるとは。今日はいったいどのようなご用件でしょうか」

 向かいの席に座ったギルド長は、一息つくと冷静にそう言った。
 ふむ、なぜ貴族とバレた。服装かな? 魔術師装備の中では地味な部類のはずなんだけど、この世界だと高級品になっちゃうか。
 それに、ステータスを底上げする指輪などの装飾品も付けたままだ。一般人とは思われないだろう。

「ちょっと情報収集にね」
「なるほど。自分から足を運ぶとは、珍しいですね」

 まあ貴族がのこのこと酒場に来るのは普通に考えたら珍しいよね。だから酒場のおじさんとかは気付かなかったのか。
 ギルド長が気付いたのは、経験の差、みたいな? 冗談はさておき、この人は高級品かどうかの目利きが鋭いのだろう。それで気付いたのだ。

「いや、本当に助かった。まさか絡まれるとは」
「カリウスがこいつは男って説明すればすぐ終わったでしょ」

 そう言えば、あの冒険者は興味を無くして去っていくに違いない。

「そうかぁ? 疑って無理やり服を脱がされてたかもしれないぞ」
「うわ、それは勘弁」

 可能性はゼロではなかった。
 『トワイライト』でも、男と説明してもセクハラしてくるプレイヤーは一定数存在していた。
 くそっ、この世界にもHENTAIはいるというのかッ!

「確かに、男とは思えない美貌ですよね。ほんと、今まで話題にならなかったのが不思議なくらいです」
「……部屋に籠って研究生活してたからね」

 とりあえず、いつものごとく咄嗟に嘘をつく。俺の手によって俺の過去が改変されていく。
 しかし話題になるほどの美貌とは、男とはいえそんな褒められ方をされたら照れてしまう。
 これは顔がいいせいで国が傾いてしまうのではないだろうか。ないか。ないね。

「なるほど。それで、他にこのギルドに用事はありますか?」
「あー、こことは関係ないんだけど一つ。商人を紹介してほしいんだ」

 ロンテギア王国に一晩泊まり、朝からトワ村に帰る予定だ。
 なので、王国を探索できるのはあと数時間となる。その間に、商人と取引の話をしておきたかった。
 ギルド長に、商人ギルドの場所を聞いた俺たちは、本日最後の用事としてそこへ向かうことにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最古のスキル使い―500年後の世界に降り立った元勇者―

瀬口恭介
ファンタジー
魔王を倒すも石にされてしまった勇者キール。スキルが衰退し、魔法が発達した500年後の世界に復活したキールは、今まで出来ることのなかった『仲間』という存在を知る。 一見平和に思えた500年後の世界だったが、裏では『魔王候補』という魔族たちが人間界を我がものにしようと企んでいた。 それを知ったキールたちは魔族を倒すため動き始める。強くなり、己を知るために。 こうして、長いようで短い戦いが始まる。 これは、一度勇者としての役目を終えたキールとその仲間たちが自らの心象を探し求める物語。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。 ※元勇者のスキル無双からタイトル変更しました。 ※24日に最終話更新予定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...