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野バラが王宮にきた理由 2

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「君、絶対喰花族だよね!?うわあー、王宮の伝承で見たことがあるけど実際に会うのははじめてだ。ちょっと一緒にきてくれないか?話を聞かせて欲しいんだ」

話を聞かせて欲しいと言いながら、その男は嫌だと言っても腕を離さない雰囲気だ。一応無言の抵抗を試みた野バラだが、全く意に介した様子もないためフードをかぶり直し腕を引かれて歩き出した。
近くの食堂に入ると、イスに野バラを座らせ注文をとりにきた女将へ上機嫌に声をかけた。

「やあ、ちょっと気分がいいから酒を飲もうかな、あと牛の煮込みも。あ、きみはどうする?お酒は飲めるかい?」
「いりません」

取り付く島もないほどそっけなく言ったにもかかわらず、男はまったく意に介した様子もみせずに笑顔でうなずいた。

「じゃあなにかジュースでも。ここの南国はフルーツが豊富だからおいしいジュースがあるんだよ」

(そんなこと知ってますけど?こいつ人の話も聞けなければわたしがこの町にいる理由も予想をつけることができないの?)

なにもかも受け入れられない男、と思いながらぴくりとも表情を変えずに黙っていると、さすがにまずいと思ったのか男はちょっと焦ったように話し出した。

「あの、君になにかしようと思って声をかけたわけじゃないんだ。ただちょっと話を、そう話を聞きたいと思って」
「そもそもあなた誰」
「あ……」

自分が自己紹介をしていないことにやっと気づき、男は慌てて自己紹介を始めた。

「すまない、俺はイルミネ・スベトって言うんだ。ギブラン王国の王宮で歴史研究をしていて、君たち喰花族の資料を読んでずっと会いたいと思っていたんだ。名前を教えてもらえるかい?」
「……野バラ」
「野バラちゃん!可愛い名前だね、王宮の歴史書には喰花族は植物から名前をつけるのが伝統と言っていたけれどそうなった由来はわかってる?あ、そういえば君どこに住んでるのかな、ここらへんに住んでるの?もしかして喰花族が住んでる村とかある?もしよかったらお邪魔させてもらえたら嬉しいんだけど」

運ばれてきた食事をにこにこと食べながら、またもお願いのように見せかけて強制的な命令をするイルミネ。きっと今までお願いを聞き入れてもらえないことはなかったのだろう、すでに行く気満々のようだった。

「わたしは旅でここに寄っただけですので……」
「嘘だね」

野バラが適当に誤魔化そうとしたら、にこにことした目を今度はぎらぎらさせてイルミネは断定した。

「君のその荷物は明らかにどこか定住していて買い出しにでてきたものでしょ。どこなの、教えてよ」

まったく引く気のない男に、野バラは目の前で盛大に舌打ちをした。そんな態度をとられたことがなかったのか、イルミネは目を丸くして野バラを見つめた。

「お前らみたいなのがいるから言わないんだよ」
「え?ええと」
「もう一回言いますね、お前らみたいなのがいるから居場所を教えないんだよ!」

店内に響き渡る大声で怒鳴りつけると、当然周囲の客たちは何事かとこちらを見るがかまわず野バラは続ける。

「いい?あんた自分が何してるかわかってるの?わかってないわよね、行っとくけど勝手に手を掴んで嫌がってる私を引っ張って店に連れ込んだあげく住む場所教えろなんて犯罪者と同じなんですけど!?ねぇいてる意味わかる?」

ぽかんとするイルミネにジュースを思いっきりぶっかけて、「お前みたいなやつには死んでも教えないから」と伝えるとやっと頭が回り始めたのかおろおろとしはじめたが、彼が何かを言う前に数人の男たちが駆け込んできて野バラをテーブルに押さえつけた。

「この方に暴行を働いたようだな、本来お前のような者が口をきいていい相手ではないのだ」
「ちょ、おい君たち穏便に」
「若、こいつを研究したいなら連れ帰って閉じ込めておけばいいでしょう。ここは目立ちます」

そう言われ、イルミネの様子が明らかに揺らいだ。その案に抗い難い魅力を感じたのだろう。

「……乱暴に扱うのはやめてくれ、丁重に」
「なにが丁重によクズ、誘拐犯、私を解体でもするつもり?」
「おい!」
「いいから、やめるんだ。野バラ、これは貴重な種族である君を保護するための措置なんだ、どうかわかってくれ」

ふざけんなよ、とその綺麗な顔に唾でも吐きかけてやりたい衝動にかられながら、野バラは連れていかれることになった。
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