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プロローグ
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一口食事を口に運んで、本日の主役である野バラは顔を盛大にしかめた。
「皿をさげて」
使用人が下げるのを忌々しそうに野バラは見送る。
「国王に親しい者たちのみ」が集まった晩餐の席でとった態度に、周囲は反感を覚えたのか礼儀のなっていない下賤な者、と野バラに聞こえるように隣同士でささやき合う。近くには野バラと結婚するという予定らしい国王の姿もあったが、彼らの嫌味をいさめるどころか彼女を不快と思っているのか顔をしかめていた。
(食べられないと言ったものを出すなんて礼儀がなってないのはどっちよ。こっちはわざわざ来てやってるんですけど?)
不満たらたらで唯一食べられそうなフルーツを口にしながら、あからさまに溜息をついた。それを見た周囲はぎょっとした顔をするが野バラは気にしない。
(こんなとこ、絶対さっさと出て行ってやるんだから)
フルーツを食べたら「このような会はもう結構です」と夫となるらしい存在に言い捨てて退出をしようと立ち上がる。使用人が慌ててとめようとするが「どいて」とドスの効いた声ではねのけ、一人で部屋へ自室へのしのしと帰っていった。
自室へ戻ると、野バラの世話係であるスアラが慌てて近づいてきた。
「お方様、まだ晩餐の途中では?」
「抜けてきましたの」
「ぬ、抜けた!?あれはお方様の歓迎会では」
「わたくしの歓迎会であんな食事を出すっていうの?歓迎する気なんかまったくないじゃない」
脱がせて、と言うとスアラは手早くドレスを紐解き、編み上げた髪もほどいていった。エメラルドを砕いて流し込んだような緑の髪と蜂蜜色の瞳、このような配色は珍しく彼女が「喰花族」であることを示していた。
野バラにとっては見慣れているが、この国の人間にとっては物珍しかったらしい。そのせいで、おかしなやからに取っ捕まりこのように誰とも知らぬ王というものと結婚させられるはめになったのだから。
そのあと湯につかった彼女はゆったりとしたワンピースをまといほっと息をついた。気を利かせたスアラが紅茶を出し、数々の花やハーブ、草を綺麗に盛り付けた皿を出した。野バラはまあ!と顔を輝かせた。
「晩餐を食べてなかったらお腹を空かせていらっしゃるのではないかと思いまして」
「そうなの!サラダとフルーツしか食べてないのよ。スアラは本当にお仕事ができる使用人ね」
「お方様のお世話係として当然のことです。それにしても、晩餐会の食事はどうなっていたのです?こちらからは生き物や卵など動物性のものは排除するよう伝えておいたはずですが」
「でてきましたわ、魚も肉も玉子も。本当に最悪、見た目は本当に美しいしもしかしたら動物に見える植物かと思ったのだけど、やっぱりクソ不味うございましたわ」
「クソなどという言葉を使ってはいけません。しかし、いったいどういうことでしょうね……曲がりなりにもこちらからお迎えした方ですのに」
「どうせ嫌がらせの一環ですわ、返す返すも嫌なところに来てしまったものね」
その名の通り野バラのように可愛らしくも美しい見た目に反して、彼女は口が悪い。王城内での立ち位置などなんのその、高貴な者たちの立ち振る舞いなどまったくせずに敵を増やし続けている。
真ん中で大きく彩るバラを指でつまんでパクリと食べる。
「んん~、やっぱり花が一番おいしい」
「お花を召し上がるなんて、いつ見ても本当に不思議です。苦くないのですか」
「苦味は全く感じないわね、植物によって甘味やさわやかさ、重厚な味わいと様々ね。わたくしにとってはお肉やお魚を食べるなんて狂気の沙汰なのだけれど。まあ種族が違いますもの、仕方がありませんわ」
今度はミントをしゃくしゃくと噛み、野バラは人差し指を口元にあてて首をかしげた。
「それにしても、これからどうしてくれようかしら」
「皿をさげて」
使用人が下げるのを忌々しそうに野バラは見送る。
「国王に親しい者たちのみ」が集まった晩餐の席でとった態度に、周囲は反感を覚えたのか礼儀のなっていない下賤な者、と野バラに聞こえるように隣同士でささやき合う。近くには野バラと結婚するという予定らしい国王の姿もあったが、彼らの嫌味をいさめるどころか彼女を不快と思っているのか顔をしかめていた。
(食べられないと言ったものを出すなんて礼儀がなってないのはどっちよ。こっちはわざわざ来てやってるんですけど?)
不満たらたらで唯一食べられそうなフルーツを口にしながら、あからさまに溜息をついた。それを見た周囲はぎょっとした顔をするが野バラは気にしない。
(こんなとこ、絶対さっさと出て行ってやるんだから)
フルーツを食べたら「このような会はもう結構です」と夫となるらしい存在に言い捨てて退出をしようと立ち上がる。使用人が慌ててとめようとするが「どいて」とドスの効いた声ではねのけ、一人で部屋へ自室へのしのしと帰っていった。
自室へ戻ると、野バラの世話係であるスアラが慌てて近づいてきた。
「お方様、まだ晩餐の途中では?」
「抜けてきましたの」
「ぬ、抜けた!?あれはお方様の歓迎会では」
「わたくしの歓迎会であんな食事を出すっていうの?歓迎する気なんかまったくないじゃない」
脱がせて、と言うとスアラは手早くドレスを紐解き、編み上げた髪もほどいていった。エメラルドを砕いて流し込んだような緑の髪と蜂蜜色の瞳、このような配色は珍しく彼女が「喰花族」であることを示していた。
野バラにとっては見慣れているが、この国の人間にとっては物珍しかったらしい。そのせいで、おかしなやからに取っ捕まりこのように誰とも知らぬ王というものと結婚させられるはめになったのだから。
そのあと湯につかった彼女はゆったりとしたワンピースをまといほっと息をついた。気を利かせたスアラが紅茶を出し、数々の花やハーブ、草を綺麗に盛り付けた皿を出した。野バラはまあ!と顔を輝かせた。
「晩餐を食べてなかったらお腹を空かせていらっしゃるのではないかと思いまして」
「そうなの!サラダとフルーツしか食べてないのよ。スアラは本当にお仕事ができる使用人ね」
「お方様のお世話係として当然のことです。それにしても、晩餐会の食事はどうなっていたのです?こちらからは生き物や卵など動物性のものは排除するよう伝えておいたはずですが」
「でてきましたわ、魚も肉も玉子も。本当に最悪、見た目は本当に美しいしもしかしたら動物に見える植物かと思ったのだけど、やっぱりクソ不味うございましたわ」
「クソなどという言葉を使ってはいけません。しかし、いったいどういうことでしょうね……曲がりなりにもこちらからお迎えした方ですのに」
「どうせ嫌がらせの一環ですわ、返す返すも嫌なところに来てしまったものね」
その名の通り野バラのように可愛らしくも美しい見た目に反して、彼女は口が悪い。王城内での立ち位置などなんのその、高貴な者たちの立ち振る舞いなどまったくせずに敵を増やし続けている。
真ん中で大きく彩るバラを指でつまんでパクリと食べる。
「んん~、やっぱり花が一番おいしい」
「お花を召し上がるなんて、いつ見ても本当に不思議です。苦くないのですか」
「苦味は全く感じないわね、植物によって甘味やさわやかさ、重厚な味わいと様々ね。わたくしにとってはお肉やお魚を食べるなんて狂気の沙汰なのだけれど。まあ種族が違いますもの、仕方がありませんわ」
今度はミントをしゃくしゃくと噛み、野バラは人差し指を口元にあてて首をかしげた。
「それにしても、これからどうしてくれようかしら」
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