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1章-1
ビビオは鬼族に遭遇する
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気落ちしたまま返却された図書を書架へ返すために整理へ向かうと、エルフの先輩司書ミステラが作業に取り掛かっているところだった。ミステラは物静かだが気さくで話しやすい人だった。
「ビビオさん、館長から何かお話が?」
ミステラが返却された図書を一つずつ叩いていくと、図書は水となってぱっと散る。
シュバニエルの図書は見かけは紙の本だが実際は全て水でできているため、汚れることも破れることもない。
司書に支給されている杖で叩けばもとあった場所に自動返却される仕組みだ。
この水の図書はただデータを映し出しているだけの代物で、原本となるデータは中央図書館の地下に保管してある。原本が保管されている限り、どの図書館でも水の図書に復元して書架に並べることが可能なのだ。
このシステムのおかげで、たとえ地方であっても世界中の情報に触れることができるという仕組みだった。
「異動の話でしたー……」
「まあ、ついに栄転ですか?」
「栄転、なんでしょうねえ」
浮かない顔のビビオに首をかしげるミステラへ、本当はここへいたかったと話すとしょうがないわねと笑われた。
「中央なんて行きたい司書が大勢いるっていうのに、変わってるわねビビオさん」
「いきたくないなんて贅沢なことなんでしょうけど」
「何年か努めたら転属願いをだせるんだけど、あなたは恐らく幹部候補ですから難しいかと」
「幹部候補のわりに最初から中央勤務じゃないのはどういうことなんですかね?別に中央で働きたいとは思いませんが分館で一生だらだら過ごせるという夢をみさせるなんて感じ悪いです」
まあまあ、となだめたミステラは「なにかあったらここに遊びにおいで」と慰めた。
何か特別な仕事をしていたわけでもないため引継ぎすることもなく、他の司書たちにもあらためて挨拶をしてビビオは司書専用道路へ向かった。
シュバニエルには司書特権があり専用道路が存在する。ただし一般的な道路ではなく地下通路だ。国内の各地に地下への転送スポットがあり、他者に邪魔されることなく目的地へ行くことが可能だ。
各分館にも必ず一つ転送スポットがあり、ビビオはそちらで起動スイッチを杖で叩くと地下へと降りていった。
地下には移動用スクーターがあり、全自動運転で目的地まで運んでくれる。スクーターを起動させるため杖の挿入口に杖をいれ、操作画面で目的地「中央図書館」を選択するとスクーターはふわっと浮かんで動き出した。
座席にもたれかかってぼんやりとしていたビビオは、操作画面に後部を映し出すモニターに後ろから爆音をとどろか
せて近づいてくるスクーターの存在に気が付いた。
スクーターは全自動モードにしている場合一定のスピードしかでないが、自動操縦モードにすると自分で運転することができる。スピードがあがっているようなので、ビビオを追い越そうとしているのだろう。
ほぼ無音に近いスクーターにあえてブーストのためのエンジンを積んで爆音を響かせるような司書なんてろくなやつじゃない、と顔をしかめていたビビオは並走する隣をちらりと見ると驚いて目を見開いた。
青みの強い銀髪をなびかせ細身の眼鏡に鋭い目を真っすぐ前に向けている。もっとも目に付く特徴は頭には二本の角があり、危ない空気しか感じない。
どう見ても鬼族の青年だった。
鬼族の司書は珍しい。団体行動を好まない、というよりできないし国に所属するより一人で放浪しているタイプが多いからだ。しかもオリジナルのスクーターは上級司書の特権である。
ビビオから見れば必要ある?と思うのだが、彼はスクーターを騎乗タイプにして車体を黒くし、赤い筋の入ったいかにもな外見にしていた。
その鬼族の青年はちらっとビビオのほうを見てきたため両者の目が合う。
「なんだ?」
ぶしつけ。ビビオは、あ、こいつ嫌いと一瞬で思った。しかしめんどくさいのでそれなりの返事をすることにした。
「いえ、変わったスクーターだと思いまして。何か理由が?」
「かっこいいからだが?」
バカだこいつ。ビビオは確信した。しかも見た目はインテリのくせに脳筋。詐欺野郎だ。「そうですか」と生ぬるく返事をすると、インテリ詐欺野郎は興味を失ったのかそのままスピードを加速させ走り抜けていった。
中央にはあんなクセ強そうなやつがいっぱいいるんだろうか、そう考えただけで今すぐ分館に戻りたいと考えるビビオだった。
「ビビオさん、館長から何かお話が?」
ミステラが返却された図書を一つずつ叩いていくと、図書は水となってぱっと散る。
シュバニエルの図書は見かけは紙の本だが実際は全て水でできているため、汚れることも破れることもない。
司書に支給されている杖で叩けばもとあった場所に自動返却される仕組みだ。
この水の図書はただデータを映し出しているだけの代物で、原本となるデータは中央図書館の地下に保管してある。原本が保管されている限り、どの図書館でも水の図書に復元して書架に並べることが可能なのだ。
このシステムのおかげで、たとえ地方であっても世界中の情報に触れることができるという仕組みだった。
「異動の話でしたー……」
「まあ、ついに栄転ですか?」
「栄転、なんでしょうねえ」
浮かない顔のビビオに首をかしげるミステラへ、本当はここへいたかったと話すとしょうがないわねと笑われた。
「中央なんて行きたい司書が大勢いるっていうのに、変わってるわねビビオさん」
「いきたくないなんて贅沢なことなんでしょうけど」
「何年か努めたら転属願いをだせるんだけど、あなたは恐らく幹部候補ですから難しいかと」
「幹部候補のわりに最初から中央勤務じゃないのはどういうことなんですかね?別に中央で働きたいとは思いませんが分館で一生だらだら過ごせるという夢をみさせるなんて感じ悪いです」
まあまあ、となだめたミステラは「なにかあったらここに遊びにおいで」と慰めた。
何か特別な仕事をしていたわけでもないため引継ぎすることもなく、他の司書たちにもあらためて挨拶をしてビビオは司書専用道路へ向かった。
シュバニエルには司書特権があり専用道路が存在する。ただし一般的な道路ではなく地下通路だ。国内の各地に地下への転送スポットがあり、他者に邪魔されることなく目的地へ行くことが可能だ。
各分館にも必ず一つ転送スポットがあり、ビビオはそちらで起動スイッチを杖で叩くと地下へと降りていった。
地下には移動用スクーターがあり、全自動運転で目的地まで運んでくれる。スクーターを起動させるため杖の挿入口に杖をいれ、操作画面で目的地「中央図書館」を選択するとスクーターはふわっと浮かんで動き出した。
座席にもたれかかってぼんやりとしていたビビオは、操作画面に後部を映し出すモニターに後ろから爆音をとどろか
せて近づいてくるスクーターの存在に気が付いた。
スクーターは全自動モードにしている場合一定のスピードしかでないが、自動操縦モードにすると自分で運転することができる。スピードがあがっているようなので、ビビオを追い越そうとしているのだろう。
ほぼ無音に近いスクーターにあえてブーストのためのエンジンを積んで爆音を響かせるような司書なんてろくなやつじゃない、と顔をしかめていたビビオは並走する隣をちらりと見ると驚いて目を見開いた。
青みの強い銀髪をなびかせ細身の眼鏡に鋭い目を真っすぐ前に向けている。もっとも目に付く特徴は頭には二本の角があり、危ない空気しか感じない。
どう見ても鬼族の青年だった。
鬼族の司書は珍しい。団体行動を好まない、というよりできないし国に所属するより一人で放浪しているタイプが多いからだ。しかもオリジナルのスクーターは上級司書の特権である。
ビビオから見れば必要ある?と思うのだが、彼はスクーターを騎乗タイプにして車体を黒くし、赤い筋の入ったいかにもな外見にしていた。
その鬼族の青年はちらっとビビオのほうを見てきたため両者の目が合う。
「なんだ?」
ぶしつけ。ビビオは、あ、こいつ嫌いと一瞬で思った。しかしめんどくさいのでそれなりの返事をすることにした。
「いえ、変わったスクーターだと思いまして。何か理由が?」
「かっこいいからだが?」
バカだこいつ。ビビオは確信した。しかも見た目はインテリのくせに脳筋。詐欺野郎だ。「そうですか」と生ぬるく返事をすると、インテリ詐欺野郎は興味を失ったのかそのままスピードを加速させ走り抜けていった。
中央にはあんなクセ強そうなやつがいっぱいいるんだろうか、そう考えただけで今すぐ分館に戻りたいと考えるビビオだった。
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