お見合いで運命の人に出逢いました～イケメン御曹司は純情リーマンに夢中～

11話 蘭：もっと相応しい人が他にいるだろ?!

「それで、こっちが左京さんの名刺ね。裏に連絡先が書いてあるから、今夜には連絡してあげてね」
「ああ。オレの連絡先は左京さん知ってんの？」
「耀さんに蘭の名刺を渡しておいたから、今夜には伝えてくれるはずよ」
「そっか」
　千鶴子が差し出した名刺を受け取りながらそんな会話をして、そこに書かれた左京の会社名と肩書に目を通し、蘭は絶句した。

「……は？」

　ようやく出た声は、掠れて、名刺を持つ手が震えた。
　そこに書かれていたのは、誰でも知っている大企業の社名だ。
　お見合いの席で外食産業の会社に勤めていると話していたし、見た目からして富裕層の人間なんだろうなぁとは思っていた。
　だけどまさか、全国に展開してる有名なチェーン店の、本社とは思わなかった。
　そのうえ、肩書が……。

「ぇ……え、これ、マジで……？」

　蘭は、おそるおそる千鶴子を見る。
　千鶴子は相変わらずニコニコしながら、
「ええ。左京さんは、久我ホールディングスの常務取締役で、一人息子だから次期社長らしいわよ」

「はあぁぁ?!」

「蘭？　大きな声を出さないの」
「いや、あのさ……え！　お母さんは知ってたの?!　左京さんが社長の息子だって」
「ええ」
　平然と答える千鶴子は、さらに続けた。
「ちなみに、耀さんはそこの専務よ」
「嘘だろっ?!」
「本当よ。家族経営なんですって」
　千鶴子はのほほんとした口調で告げるが、家族経営なんて言葉が似合わないほどの大企業だ。
　蘭はめまいがしてきた。
「えーと。じゃあ、その……耀さんも、オレが小っさい旅行会社の社員だって知ってたわけだろ？」
「もちろんよ」
「なんで、オレなんかと見合いしたわけ？　御曹司だったら、それなりの家柄の人とするもんじゃねぇの？」
　蘭の常識では、お見合いなんてものは同じレベルにいる人間同士がするものだ。
　しかし千鶴子は、にこやかに答える。
「独身の息子がいるって言ったら、紹介して欲しいって頼まれたの。耀さんは、家柄とか職業とかにはこだわらない人だし、左京さんと合うかどうかを一番に考えてるんですって」
　耀が他人を差別するような人間でないことは分かる。
　一人息子の左京を心配して、お見合いをセッティングしたのも、親心ゆえだろう。
　そこまでは分かるけど、なんで相手がオレなんだろ？
　しかも、よくよく考えれば、さっきお見合いの承諾の返事をしてしまった。
　名刺をもらった以上、連絡しないわけにはいかない。

　うわぁ……とんでもねぇ人と見合いしちまった！

　喜びよりも、焦りの方が大きかった。
　頭の中は軽くパニックで考えがまとまらない。

　オレより、もっと相応しい人が他にいるだろ?!

　あんなにカッコよくて優しくて、肩書も文句なしの一流で、蘭とは明らかに住む世界が違う人だ。
　それが、どう間違って蘭とお見合いして、そのうえにまた会うことになってしまったのか。
　蘭が呆然としながら名刺を眺めている間に、千鶴子は帰り支度をしていた。
「蘭。ちゃんと左京さんに電話するのよ？」
「え？　……わ、分かった」
「そんなに気負わないで、軽く付き合うくらいの気持ちでいいのよ」
「ん」
　蘭は頷いたものの、そんな簡単に気持ちを割り切れない。
　帰る千鶴子を玄関先まで見送り、部屋に一人取り残されても、まだ頭の中は混乱していた。
「……風呂はいろ」
　ひとまずお見合いの件はおいといて、風呂と晩ご飯の準備をすることにした。