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77話 大丈夫

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 いちおう男同士のやり方は調べておいたし、下準備も、できるところはやってみたけど……。
 男とするの初めてだし。オレが下だもんな。
 てか、あんなでかいの、入んの!?
 この手で触ったことのある珂南の雄は、オレよりデカかった。それを受け入れると思ったら、ちょっと怖い……。
 浴室の鏡に映る自分は、不安げな顔をしている。
 けど、耳元でキラリと光った。
「あっ」
 左の耳に付けていたピアスのうち、ダイヤのスタッドピアスが、明かりに反射したみたいだ。
 珂南がくれた、ピアス。
 そっと指で触れると、またキラリと光る。
「……練習のときは、気持ちよかったな」
 珂南の引き締まった体を思い出して、ボッと顔が熱くなった。
 優しい眼差しで見つめられたことも、微笑んでくれたことも、すごく嬉しかったんだ。
 触れてくる珂南の手は、ちっともイヤじゃなかった。
 むしろ、オレを抱く逞しい腕を思い出したら、腰が疼いてくる。
「ッ……かなん」
 愛しい名前を呼ぶと、胸のあたりが甘くしびれるようだった。
 オレは、珂南が欲しい。
 そう思ったら、怖じ気づく気持ちも軽くなった。
「……大丈夫」
 珂南だって、オレを望んでいるのだから。
 鏡に映るオレが、幸せそうに微笑んでいる。
「珂南のこと、大好きだもんな?」
 鏡に尋ねると、満面の笑みで、にっこり笑った。



 浴室を出ると、白いバスローブが用意されていた。
 着替えを出しておくと言ったのに、バスローブ以外に、何も見当たらない。
 あれっ!? オレの服もない!?
 脱いだ服もなくなってて、混乱した。けど、珂南の意図が分かったとたんに、顔が真っ赤になる。
 ひゃぁぁっ! すげぇヤらしいんだけど!?
 完全にやる気満々の用意周到さに、頬が熱くなる。
 バスローブを羽織ってみると、どうやら新品のようだ。珂南が、この日を心待ちにしてくれたことが、何となく分かってしまった。
 恥ずかしいけど、今さら後戻りはできない。
 オレはドクンドクンとうるさく鳴る鼓動をなだめながら、バスルームを出てリビングへ向かった。
「琉生」
「あ、珂南っ」
 ソファーに座っていた珂南が、オレに気づいて立ち上がる。
 ふわっと嬉しそうに微笑むと、すぐオレの傍にきて、ぎゅっと抱きしめた。
「っ!?」
「いい匂いがするね」
「か、珂南っ!?」
「俺も入ってくるから、先に寝室で待ってて?」
 耳元で甘く囁かれ、オレはコクコクと頷いた。
 珂南はオレから離れると、そのままバスルームへ向かう。
 その後ろ姿を見送り、胸に手を当てた。
 ヤバイッ! めちゃくちゃ緊張してきた!!
 緊張と不安で、鼓動がどんどん早くなる。
「し、寝室」
 待っててって言われたから、寝室のドアを開けて中に入る。練習のときにも一度入ったけど、高そうなベッドが置いてあった。あのときは気に留めなかったけど、このベッド、けっこう大きい。
 珂南、背が高いから、ロング丈のサイズなんだな。
 身長が高いのは羨ましいけど、服のサイズがなかったり、寝るときのベッドも狭かったりして大変そうだ。
 照明が明るいので、ドキドキしながらベッドの端に腰掛ける。
 ギシッとマットレスが軋んで、また頬が熱くなる。
「き、緊張する……っ」
 珂南、あとどれくらいで上がってくるんだろ?
 枕元の時計と寝室のドアを見比べ、ソワソワしながら珂南を待った。
 オレ、うまくできるかな……失敗したくねぇっ!
 覚悟は決めたけど、初めてのセックスなので、不安がこみ上げてくる。
 良くなかった、って言われたくねぇし……。
「琉生」
 不意に名前を呼ばれて、ハッと顔を上げる。
「か……ッ!?」
 寝室の入り口に、珂南が立っていた。
 腰にバスタオルを巻いただけの半裸だった。
 艶やかな黒髪は、ポタポタと滴と垂らしている。タオルで一拭きしただけなのか、引き締まった体はしっとり濡れていた。
 ひぇぇぇっ!! え、ええエロいっ!!
 鍛えられた厚い胸板や割れた腹筋に、いくつも滴が伝い落ちていく。
 その凄まじい色気に、息を呑んだ。
「エロ……ッ!!」
 や、ややヤバいッ!! なにそのエロス!?
 つか、上がってくんの早ぇしッ!!
 珂南の裸を見るのは、初めてじゃない。
 けど、腰が疼いて、頭がクラクラした。
 ドクン、ドクンと心臓が再び大きな音を立てる。
 珂南は間接照明に変えて明かりを絞ると、こっちに歩いてきた。
「か、かか珂南ッ!?」
「琉生」
 珂南が隣に座って、髪を撫でてきた。
「緊張してる?」
「ひゃっ……!」
「ふふ……俺も、緊張してる」
 嘘だろ!? ぜんぜん余裕じゃん!!
 オレの心臓は、さっきからバクバクいってんのに!
 逃げ出したくなって、顔を背けた。
 けど、顎を掴まれて、珂南の端正な顔がグッと近づいてきた。
「ふぁっ!?」
「琉生」
 甘い声とともに、唇が重なった。
 触れた唇の熱さに、ビクリと震える。





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