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73話 最高だったわよ!

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「いや、でも、オレがびっくりするからっ」
 小声で言い返すと、珂南が肩をすくめる。
「ところで、琉生のマネージャーさんは来てるの?」
「ううん。他の仕事があるから、オレだけ」
「そっか」
「珂南は?」
「俺のマネージャーは来てるよ」
 珂南が指した方を見ると、明るい色のワンピースを来たマネージャーの姿が見えた。いつもカジュアルなパンツスタイルだったから、ちょっとびっくりする。
「ワンピースも似合うね」
「そう? 後で伝えておくよ」
「えっ、いや、べつにいいよ!」
 あわてて首を振る。珂南のマネージャーとは、挨拶するだけで親しくはない。珂南のお姉さんだって知ってるから、変なことを口走らないように距離を置いていた。
「あ、ほら。監督、今日もばっちり決めてる」
 オレが監督を振り向くと、いつものスーツ姿だった。パンツスタイルで、仕事の出来るバリバリのキャリアウーマンに見える。
「みんな揃ったかしら?」
 監督のよく通る声に、おしゃべりがピタッと止んだ。
 見渡すと、みんな席に着いていて、店員が乾杯用のグラスを配っている所だった。
 オレもグラスを受け取って、前方の監督を見る。
 乾杯の音頭は監督が取ることになっていて、みんなに見えやすいように、監督は一人だけ立っていた。
 全員がグラスを持ったのを確認して、監督が挨拶を始める。
「昨日で無事に撮影を終えることが出来ました。皆さんのおかげです。ありがとう」
 監督の隣に座っていた脚本家の先生も、笑顔で頷いている。
「人気マンガの実写版ということで、いろんな意見がありましたが、とてもいい作品になりました。主演の二人はもちろん、他の役者さんも、私の細かい要求にきちんと応えてくれて、本当にありがとう。スタッフのみんなも、アクシデントにも負けず、最後まで完璧に仕事をしてくれて、ありがとう」
 感謝を述べる監督に、椎名さんが茶々を入れる。
「葉山さん、あいさつ長いわよ~」
 その声に監督は苦笑して、グラスを持った右手を高く上げた。
「今日は思いきり楽しみましょう。乾杯!」
「乾杯!」
 あちこちでグラスを鳴らす音が響き、それからはもう賑やかな会食となった。
 次々に出される料理を食べながら、グラスを持って思い思いに好きな席に移動する。
 小腹が満たされた頃に、オレや珂南を始めとした俳優陣から挨拶をして、各スタッフのリーダーからも挨拶があった。プロデューサーや放送局、ドラマ制作の協力会社の人たちも順に挨拶していく。
 だけどみんなお酒が進んでいるので、聞いてるのか聞いてないのか分からない状況で、ガヤガヤと楽しくおしゃべりしている。
 オレも、最初は珂南と居たけど、そのうちに珂南は他の共演者に呼ばれて、一人でチューハイを飲んでいた。
 そこへ、椎名さんがシャンパンの入ったグラスを片手にやってきて、ちょうど空いていた隣の席に座る。
「ナナくん、お疲れさまー!」
「お疲れ様です」
 椎名さんは、ルヴィーズのピンク色のカクテルドレスを着ていて、とても華やかで可愛らしかった。カメリアモチーフのネックレスはダイヤがキラキラ輝いていて、ルヴィーズで合わせているのがオシャレだ。
 昨年だったか「お嫁さんにしたい芸能人ランキング」で一位を獲り、ますます注目を浴びている。人気上昇中の売れっ子女優だけど、とても気さくで人懐っこい人なんだよな。
「ナナくん、乾杯しましょ」
「はい」
 椎名さんとグラスを合わせて乾杯する。
 シャンパンを飲みながら、椎名さんはものすごい笑顔を向けてきた。
「この前の撮影の時は、時間なかったから、言わなかったんだけどね」
「何ですか?」
「ケイゴとルカのベッドシーン、最高だったわよ!!」
「ぶっ……!!」
 口に含んだワインを吹き出しそうになった。
 まさか共演者からそんな台詞を聞くとは……いや、楽しみにしてるとは言ってたけど!
「結城くんもイイ体してたし。ナナくんもけっこう鍛えてるのね」
「まぁ、それなりに……」
 珂南と比べたら、大したことないけど。
 でも原作マンガが大好きな椎名さんに、そう言ってもらえるのはありがたい。
「まさか、あーんな際どいところまで放送するとはねぇ。葉山さんの本気、見せてもらったわよね」
「そ、そうですか?」
「そうよぉ。バスルームのシーンは、前日に決まったんだってね。撮影もかなり押したって聞いたし」
「ああ……まあ、すげぇ大変でしたね」
「そうでしょうね。ナナくん、すごく頑張ったんだなって思ったわよ」
 褒めてくれてるらしいので、素直にお礼を言う。
「ありがとうございます。オレも、すごく良い経験でした」
「もうドラマ終わっちゃうなんて、寂しいわよね~」
「はい」
 しばらく椎名さんとドラマのことを話していたら、監督がやってきた。
「七海君、お疲れ様」





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