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65話 何て言えば良いんだよ!?

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「分かったから。心配しなくても、ご飯に連れて行くよ」
 フフッと笑われて、顔が赤くなる。
 え、オレが駄々こねたみたいじゃん!
 ちょっと恥ずかしくて、そっぽを向いた。
「琉生、お店は、いつものとこでいい?」
「うん」
 ポンポンと頭を撫でる手が優しい。
 子ども扱いされてる気がしたけど、珂南と触れあえるだけで嬉しかった。
 今日が、最後だから……。
 珂南と二人きりで過ごせる、最後の機会だから。オレは悔いのないようにしたい。
 頭を撫でる手が気持ちよくて、目を閉じる。
 珂南の手つきがとても優しいから、つい信じてみたくなる。
 ……今日、珂南に告白しようかな……。
 オレ、やっぱり、珂南を諦めたくない。
 一か八か、振られる覚悟で「好き」って言ってみようかな……でも、「ごめん」って言われたら、どうしよう。
 もう友達にも戻れなくて、珂南にも二度と会えなくなったら?
 そう思うと、すごく怖い。
 どうしたら良いか分からなくて、ぐるぐると悩んでいると、胸が苦しくなってきた。
「っ……」
「琉生? 寝ても良いよ」
 珂南が優しい声で肩を貸してくれる。頭を乗せて甘えると、珂南がオレの左手をそっと握りしめた。
 ああ……やっぱり、すげぇ好き。
 


 珂南の行きつけは、芸能人がよく使う隠れ家の店だった。
 個室があって、仕切りも分厚いので隣の部屋の話し声も聞こえないし、他の客と擦れ違うことさえほとんどない。
 まさに、密会にうってつけの店だ。
 今回のドラマの評判が広まるにつれ、事務所からマスコミには重々気をつけるように言われていた。だから吉良くんも、口を酸っぱくして注意するのだ。
 珂南と食事に行くとき、出入口が人目に付きにくく、隠れ家のようなこの店を選ぶのは自然の成り行きだった。
 それに、この店は創作料理が売りで、どのメニューもおいしいから、オレはとても気に入っている。
 珂南が予約をとってくれていたおかげで、すぐに店に入ることができた。奥の個室に通された後は、二人で向き合うように座る。
 まずはビールと前菜とつまみを注文した。
 配膳されると、やっと珂南と二人きりになって、ようやく肩の力を抜く。
「琉生、乾杯しよう」
「うんっ」
 お互いのグラスにビールを注ぎ合って、乾杯する。
「撮影、お疲れ様」
「おつかれさま!」
 冷えたビールは、とてもおいしかった。
 前菜を食べながら、ドラマの話題を振る。
「オレ、この前の放送リアタイしたんだ」
「俺も見たよ。ギリギリの撮影だったし、どう編集されてるか気になってたから」
「かなり良いラブシーンになってたよな。雰囲気重視っていうか」
「葉山監督は見せ方が上手いし、映像も綺麗だからね。BLドラマは女性向けの作品だから、女性が喜ぶように作られてて面白いよね」
「うん。現場では厳しかったけど、さすがだな~って思った」
「ベッドシーンは、すごくこだわってたしね」
「テイク数がすごかったもんな」
 撮影を思い返すと、めちゃくちゃ疲れたなぁっていうのが正直な感想だ。疲労でぐったりしてたオレと違って、珂南はまだ余裕がありそうだった。珂南の鍛えられた体は、見た目がカッコイイだけでなく、底なしの体力が備わっているのだ。
「オレも、珂南くらい体力があったら良かったのに」
「琉生は今のままで十分だと思うよ。俺みたいにムキムキになったら、ファンの子が泣くだろ?」
 冗談交じりの台詞に笑ってしまった。たしかに、オレがムキムキになったら、キャライメージが崩れる。小柄で男臭くないところが「ナナ」の魅力だもんな。
「それに、琉生がぐったりしてきたから、監督もあそこで切り上げたんだよ。体力残ってたら、撮影長引いたと思うし」
「えっ!? そうなの!?」
「そういう人だから」
「うわ~ダウンしてて良かったかも」
 あれ以上撮影が続くなんて、考えただけでうんざりする。
 しかもあのときは、ハプニングで体が大変なことになってたし。
 周りにはバレずにすんだけど、珂南はどうして、あんなことしたんだろう……。
「……か、珂南っ」
「うん?」
 思わず名前を呼んだけど、どう切り出すか迷っていた。
 オレが勃ってたの、気付いてたよね!? てか、珂南も勃ってたし!
 なんで本番なのに、煽ってきたんだよ? まるでセックスしてるみたいだったじゃん!
 とかって、何て言えば良いんだよッ!?
「琉生?」
「……あ、あのときの演技……ホントにやってるみたいだったねって、言われたッ……!」
 直接言われたわけじゃなくて、SNSでそう書かれてたんだけど。
 チラッと窺うと、珂南は動揺する様子もなく微笑んでいた。
「そっか。リアルに見えるように本気でやったから、良かったんじゃない? 俺も、あんなに集中して演技したの久々だったな」
「……」
「琉生が合わせてくれたから、すごくやりやすかったよ」





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