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59話 慣れてきた?(ケイゴとルカ)

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 女性が苦手で、他人と手を繋いだことのないケイゴの為に、ルカは並んで歩くところから始めてくれた。キスまでは何とかできるようになったが、ルカに言わせればまだぎこちないらしい。
 パーティでライバルに見せつけるには、もっと自然に、人前でも平気でキスできるようにならないとダメだ。
「……分かった」
 ケイゴは覚悟を決めて頷く。
 ルカはニコッと笑って、さっそくバスルームへ向かった。
 ケイゴは自分の部屋に戻り、着替えを持ってバスルームへ行く。ちょうどルカが、バスタブにお湯をためてるところだった。
「お湯をためてるのか?」
「ケイゴのためだよ」
「俺の?」
「入浴剤で濁らせるから、バスタブの中なら見えなくなるし、そんなに恥ずかしくないだろ」
「なるほどな……」
 ルカの説明に頷き、その気遣いに感謝した。
 お湯がたまる頃に、二人で一緒にバスルームに入る。湯気で視界が悪いので、ケイゴにとっては幸いだった。
「ケイゴ。僕が背中洗ってあげる」
「ッ……ああ」
 ルカの裸を直視できず、視線をそらす。だけどルカはシャワーヘッドを握ると、ケイゴに椅子に座るように言った。
 ケイゴは一度目をつむり、覚悟を決める。
 ルカは、ケイゴの為にココまでしてくれてるのだ。
 ルカの裸を見ると興奮しそうなので、なるべく視線をそらしながら椅子に座る。
「ケイゴって、背中広いよね」
 そう言ってルカが、手のひらをぺたりとあてる。
「……ルカが、小さいだけだ」
「ケイゴが大きいんだよ」
 ルカが笑いながら答える。
 ケイゴは緊張しながらも、ルカとの触れあいにドキドキしていた。ルカは背中以外も洗おうとしたが、何とか断り、逃げるように湯船に浸かる。
「ケイゴ、お湯加減どう?」
「ちょうどいい」
「ホント? ちょっとぬるくない?」
「大丈夫だ」
 湯船は入浴剤のおかげで乳白色になっていた。胸から下が見えなくなってホッとする。
 ルカは手早く自分の体を洗うと、すぐにバスタブに入ってきた。
「ケイゴ、ちょっと端に寄って」
「ああ」
 ルカに言われるまま、バスタブの端に背中をつける。ケイゴの家のバスタブは、一人で入るにはゆったりできるサイズだったが、成人した男が二人では、かなり狭い。
「ルカっ、二人で入るのはムリだろ!」
「大丈夫だって。詰めればいけるよ」
「無理やり入っても、狭くて身動きできないぞ」
「だからいいんでしょ?」
 狭いと訴えても、ルカは余裕の笑顔で言い返してくる。
 体勢を変えながら、ちょうどいい位置を探っているようだ。
「ルカ……ッ」
「向き合うのは、やっぱムリだね」
「だから、ムリだと……」
「あ、これでいいんじゃない?」
 ルカが明るい声で、すとんと腰を下ろした。そして、ケイゴの胸に背中を預ける。
 ケイゴはルカを後ろから抱え込むことになり、硬直した。
「ッ!?」
 ザパザパとお湯があふれ出る。濁り湯のおかげでルカの体はほとんど隠れるが、白いうなじと肩が、バッチリ視界に入ってしまう。
 ルカの白い肌はなまめかしく、ケイゴの胸に触れる肌はすべすべして心地よかった。
 ケイゴより細いとはいえ、ルカは男だ。
 だけど、ケイゴの腕にすっぽりと収まる。ルカの濡れた髪からシャンプーの香りがして、鼓動が速くなる。
「うーん。やっぱ、狭いね」
「だ、だから言っただろ?」
「でも、ケイゴが近いから。これでいい」
 ふふ、と笑うルカは、ケイゴの腕を取ると、自分のお腹に回した。
「ルカっ!?」
「すぐに慣れるよ」
「初めてなのに、慣れるわけないだろ!」
 ケイゴは怒ったような声を出したが、動揺を悟られないようにする為だった。さっきから、ドキンドキンと早鐘を打つ心臓の音が、ルカに聞こえないだろうかと心配になる。
 さらに言うなら、理性が飛んでしまわないかと、本気で焦っている。
 だけどルカは、体を少しずらして、ケイゴの肩に頭を乗せる。そのまま上を向いて、ケイゴに話しかけた。
「ケイゴ、どう?」
「ど、どうって……何が?」
「ちょっとは慣れてきた?」
 ルカがからかうような目で見つめてくる。ここで「もうムリだ」と降参するのは何だか癪だ。
「……少し、慣れた」
 男のプライドでそう答えたが、本当は今すぐ逃げ出したい。
 ルカに惹かれているからこそ、その体にもっと触れたくなる。気を抜くと、ルカに無体を強いてしまいそうで、堪えているのだ。
「……ッ」
 それなのに、ルカは頬を上気させ、潤んだ瞳でケイゴを見上げる。
 温かい湯で、血行が良くなっているのだろう。そうと分かっているのに、色っぽい表情を見せるルカに、またドキドキしてしまう。
「ケイゴ?」
「ん?」
 ルカが、甘えるような声で囁いた。
「ねぇ、キスしよ?」
「ッ!?」
「ほら、ケイゴから、キスして?」
 これもレッスンだというルカに、ケイゴは思わずルカを抱きしめた。




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