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39話 ご飯を作る

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 キス一つで赤くなってたケイゴのことだ。できもしないことを、できるとは言えないだろう。
「ね? 練習、しよ?」
「……分かった」
 渋々といった顔で頷くが、ルカはニコニコ笑う。
「大丈夫。できるようになったら、ケイゴはもっともっと、カッコよくなれるから」
「本当か?」
「うん!」
 ルカが頷くと、ケイゴが嬉しそうに微笑んだ。



 ▲ ▲ ▲
 



 ドラマの撮影は、ロケでいろんなトラブルがありつつも、それなりに順調に進んでいた。
 オレはあと、終盤の重要なシーンを撮れば出番が終わる。
 撮影もいよいよラストスパートというある日の夜、珂南から電話が掛かってきた。
「えっ!? 珂南!?」
 どうしたんだろうと、あわてて電話にでる。
「もしもしっ!」
「ああ、琉生? こんばんは」
「あ、こんばんはっ!」
 珂南の声が、いつもより低い。てか、すごく重たい。
 疲れてんのかな?
 聞くところによると『恋人レッスン』以外に、新しい映画の撮影が始まったらしい。珂南は他の仕事の話をしないので、詳細は分からないけど、珂南のマネージャーも忙しそうだったしな。
「琉生は、もうご飯食べた?」
「え? うん、食べたけど」
「……じゃあ、今から飲みに行かない?」
「え! 今から!?」
 時計を見ると、もうすぐ二十一時になるところだ。行こうと思えば行けるけど、明日も仕事が入ってるしなぁ。
 せっかくの誘いだけど、今からだと、日付前に帰って来れる怪しい。
 珂南だって忙しいはずだから、邪魔したくないし。
「いや、明日も仕事だから……」
「一杯だけで良いから、付き合ってくれない?」
 断ろうとしたら、珍しく食い下がってきた。
 珂南はいつも紳士的で、強引なことはしない。ちゃんと周りに気配りができる人なのに、一体どうしたんだろう。
 ちょっと心配になって、尋ねてみた。
「あの……何か、あった?」
「……」
「か、珂南っ?」
 あれっ!? 聞いちゃいけないやつだった!?
 地雷踏んだかも、と焦っていると、電話の向こうで珂南が囁くように答えた。
「ん……琉生の顔、見たくなったんだ」
「へ……?」
 えっ!? オレの顔!?
 何でオレなのか分からないけど、そんなふうに囁かれたら、ドキドキするじゃん!!
 珂南の圧倒的な演技力を知っている分、どこまで本気か分からない。
「か、顔を見たら、いいの?」
「電話はダメ。直接みたい」
「!? え、えーっと……」
 テレビ電話で話そうかって提案しようとしたのに。
 うーん。でも飲みに出かけるのはなぁ。
 ドラマの放送も後半に入ったし、下手に外を出歩いて、マスコミに見つかったら面倒だ。
 万が一、変な写真を撮られて記事にされたら困るし。
「外に出るのは、ドラマが終わってからがいいと思うけど……」
 それくらいのことは、珂南だって分かってるはずだ。
 本当に、どうしたんだろう……。
 具合でも悪いのかと心配したら、珂南がボソッと呟いた。
「でも、お腹空いたし……」
「ん? え、もしかして、まだご飯食べてねぇの!?」
「……うん」
 気まずそうな声が返ってきた。
 珂南が「お腹が空いた」なんて言ってるの、今まで聞いたことがない。
 ひょっとして朝から何も食べてないんじゃ……!?
「お、オレが、何か作ろっか!?」
「うん?」
「あ、えっと! 飲みに行くのはムリだけど、その、ご飯くらいなら作れるし!」
 勢い余ってそう言うと、珂南が嬉しそうな声を上げた。
「じゃあ、ウチに来てくれるんだね?」
「へっ!?」
 あ! ご飯作るってことは、珂南の家に行くってことか!
 自分で言い出しておきながら、やっとそのことに気付く。
 うわぁッ! オレ、大胆なこと言っちゃったよ!!
「ありがとう、琉生。待ってるね」
 珂南の弾んだ声を聞いたら、もう断れなかった。



 ということで、オレは珂南のご飯を作ることになってしまった。
 作るからには、おいしいって言ってもらいたい!
 たいした腕前でもないけど、はりきってスーパーで買い物を済ませると、珂南の家にやって来た。
「いらっしゃい、琉生」
 出迎えてくれた珂南は、今日もイケメンで笑顔だった。でも、心なしか疲れがにじみ出ている。
 着ている服もTシャツと黒いジャージだ。オフの格好なんだろうけど、スポーツクラブに行った帰りみたいでオシャレ。
 珂南はジャージでもカッコイイなぁ!
 オレは、部屋着のトレーナーから、ちゃんとシャツに着替えてきた。下はジーンズで、料理するからピアス以外のアクセサリーは無しだ。
「お、お邪魔しますっ!」
 珂南の部屋に上がるときは、いつも緊張する。
 だって、推しの部屋だし! 何回来ても慣れないし!
 ドキドキしながら珂南の後に続くと、リビングが見たこともないようそうになっていた。
「え……!?」





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