39 / 84
39話 ご飯を作る
しおりを挟むキス一つで赤くなってたケイゴのことだ。できもしないことを、できるとは言えないだろう。
「ね? 練習、しよ?」
「……分かった」
渋々といった顔で頷くが、ルカはニコニコ笑う。
「大丈夫。できるようになったら、ケイゴはもっともっと、カッコよくなれるから」
「本当か?」
「うん!」
ルカが頷くと、ケイゴが嬉しそうに微笑んだ。
▲ ▲ ▲
ドラマの撮影は、ロケでいろんなトラブルがありつつも、それなりに順調に進んでいた。
オレはあと、終盤の重要なシーンを撮れば出番が終わる。
撮影もいよいよラストスパートというある日の夜、珂南から電話が掛かってきた。
「えっ!? 珂南!?」
どうしたんだろうと、あわてて電話にでる。
「もしもしっ!」
「ああ、琉生? こんばんは」
「あ、こんばんはっ!」
珂南の声が、いつもより低い。てか、すごく重たい。
疲れてんのかな?
聞くところによると『恋人レッスン』以外に、新しい映画の撮影が始まったらしい。珂南は他の仕事の話をしないので、詳細は分からないけど、珂南のマネージャーも忙しそうだったしな。
「琉生は、もうご飯食べた?」
「え? うん、食べたけど」
「……じゃあ、今から飲みに行かない?」
「え! 今から!?」
時計を見ると、もうすぐ二十一時になるところだ。行こうと思えば行けるけど、明日も仕事が入ってるしなぁ。
せっかくの誘いだけど、今からだと、日付前に帰って来れる怪しい。
珂南だって忙しいはずだから、邪魔したくないし。
「いや、明日も仕事だから……」
「一杯だけで良いから、付き合ってくれない?」
断ろうとしたら、珍しく食い下がってきた。
珂南はいつも紳士的で、強引なことはしない。ちゃんと周りに気配りができる人なのに、一体どうしたんだろう。
ちょっと心配になって、尋ねてみた。
「あの……何か、あった?」
「……」
「か、珂南っ?」
あれっ!? 聞いちゃいけないやつだった!?
地雷踏んだかも、と焦っていると、電話の向こうで珂南が囁くように答えた。
「ん……琉生の顔、見たくなったんだ」
「へ……?」
えっ!? オレの顔!?
何でオレなのか分からないけど、そんなふうに囁かれたら、ドキドキするじゃん!!
珂南の圧倒的な演技力を知っている分、どこまで本気か分からない。
「か、顔を見たら、いいの?」
「電話はダメ。直接みたい」
「!? え、えーっと……」
テレビ電話で話そうかって提案しようとしたのに。
うーん。でも飲みに出かけるのはなぁ。
ドラマの放送も後半に入ったし、下手に外を出歩いて、マスコミに見つかったら面倒だ。
万が一、変な写真を撮られて記事にされたら困るし。
「外に出るのは、ドラマが終わってからがいいと思うけど……」
それくらいのことは、珂南だって分かってるはずだ。
本当に、どうしたんだろう……。
具合でも悪いのかと心配したら、珂南がボソッと呟いた。
「でも、お腹空いたし……」
「ん? え、もしかして、まだご飯食べてねぇの!?」
「……うん」
気まずそうな声が返ってきた。
珂南が「お腹が空いた」なんて言ってるの、今まで聞いたことがない。
ひょっとして朝から何も食べてないんじゃ……!?
「お、オレが、何か作ろっか!?」
「うん?」
「あ、えっと! 飲みに行くのはムリだけど、その、ご飯くらいなら作れるし!」
勢い余ってそう言うと、珂南が嬉しそうな声を上げた。
「じゃあ、ウチに来てくれるんだね?」
「へっ!?」
あ! ご飯作るってことは、珂南の家に行くってことか!
自分で言い出しておきながら、やっとそのことに気付く。
うわぁッ! オレ、大胆なこと言っちゃったよ!!
「ありがとう、琉生。待ってるね」
珂南の弾んだ声を聞いたら、もう断れなかった。
ということで、オレは珂南のご飯を作ることになってしまった。
作るからには、おいしいって言ってもらいたい!
たいした腕前でもないけど、はりきってスーパーで買い物を済ませると、珂南の家にやって来た。
「いらっしゃい、琉生」
出迎えてくれた珂南は、今日もイケメンで笑顔だった。でも、心なしか疲れがにじみ出ている。
着ている服もTシャツと黒いジャージだ。オフの格好なんだろうけど、スポーツクラブに行った帰りみたいでオシャレ。
珂南はジャージでもカッコイイなぁ!
オレは、部屋着のトレーナーから、ちゃんとシャツに着替えてきた。下はジーンズで、料理するからピアス以外のアクセサリーは無しだ。
「お、お邪魔しますっ!」
珂南の部屋に上がるときは、いつも緊張する。
だって、推しの部屋だし! 何回来ても慣れないし!
ドキドキしながら珂南の後に続くと、リビングが見たこともないようそうになっていた。
「え……!?」
90
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才有名音楽家少年は推し活中
翡翠飾
BL
小学生の頃から天才音楽家として有名で、世界を回って演奏していった美少年、秋谷奏汰。そんな彼の推しは、人気男性アイドルグループメンバー、一条佑哉。奏汰は海外から日本の佑哉の配信を欠かさず見て、スマチャもし、グッズも買い集め、演奏した各地で布教もした。
そんなある日、奏汰はやっとの思いで 望んでいた日本帰国を15歳で果たす。
けれどそれを嗅ぎ付けたテレビ局に是非番組に出てほしいと依頼され、天才少年としてテレビに映る。
すると、何とその番組にドッキリで一条佑哉が現れて?!!
天才美少年によるミステリアス人気アイドルへの、推し活BL。
※後半から学園ものです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
天然くんはエリート彼氏にメロメロに溺愛されています
氷魚(ひお)
BL
<現代BL小説/全年齢BL>
恋愛・結婚に性別は関係ない世界で
エリート彼氏×天然くんが紡いでいく
💖ピュアラブ💖ハッピーストーリー!
Kindle配信中の『エリート彼氏と天然くん』の大学生時のエピソードになります!
こちらの作品のみでもお楽しみ頂けます(^^)
♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡
進学で田舎から上京してきた五十鈴は、羊のキャラクター「プティクロシェット」が大のお気に入り。
バイト先で知り合った将が、同じキャンパスの先輩で、プティクロシェットが好きと分かり、すぐ仲良くなる。
夏前に将に告白され、付き合うことになった。
今日は将と、初めてアイスを食べに行くことになり…!?
♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡
ラブラブで甘々な二人のお話です💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる