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34話 珂南とデート

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「良かった。時間は後でメールするから。空けておいて」
「うんっ!」
「ああ、琉生」
「な、なにっ?」
「今度のデート、楽しみにしてるよ」
「!?」
「じゃあ、お休み」
「お、おお、お休みッ!」
 珂南の甘い声に、心臓がバクバクと激しい音を立てる。
 推しとデートってだけで嬉しすぎるのに、そんなこと言われたら、心臓が持たない!
 通話を切ったスマホを床に置いて、ソファーにゴロンと寝転んだ。
 クッションを顔にあてて、抱いて思いきり叫ぶ。
「あぁぁぁぁッ!! カッコイイ!!」
 ゴロゴロと左右に身をよじって暴れる。
「やっべぇぇ! 何であんなにイケメン!?」
 見た目だけじゃない。
 性格も、振る舞いも、すべてが完璧で、カッコよすぎる!
 そんな珂南の近くに居られる幸せ!!
「珂南と、デート!」
 なんて素敵な響きなんだろう。
 ドラマで共演できただけでも幸せなのに、仮の恋人として、プライベートでも珂南と過ごせるのだ。
 推しとデートって!! マジでヤバい!!
 これまで珂南と食事に行ったことはあるけど、ちゃんとしたデートは初めてだ。
 オレ、生きて帰れるかな!?
 恋人ごっこのおかげで、珂南に慣れてはきたけど、二人きりのデートで感情が爆発しないか心配だ。
 ……大丈夫、だよな?
 撮影のときは、吉良くんが側で目を光らせてるから、危ないときはすぐ間に入ってくれる。でも二人きりだと、暴走しても止めてくれる人がいない。
 デートのときは、マジで気をつけよう。
 オレが珂南のガチファンだってバレたら、ぜったい引かれるし。
 クッションを胸に抱いて、決意する。
「デート、何着て行こう!?」
 それもまた大問題だ。
 憧れの珂南とのデート!!
 ライブでファンのみんなに会うのと同じ、一回限りの大切な機会だ。下手な格好で行くわけにはいかない。
 ここは本気で臨まないと!!
 オレはソファーから起き上がると、クローゼットに移動して、服を選び始めた。




 + + +




 そして、あっという間に約束の木曜日がやってきた。
 午前中だと大抵の店はまだ開いてから、買い物は難しい。なので、映画を観にいくことになった。
 珂南の都合で、朝の時間に上映する映画を選ぶ。チケットは珂南が予約してくれた。
 待ち合わせ場所は、映画館の入っているビルの近くだ。
 オレも珂南も芸能人だし、とくに珂南は人気俳優だから、それなりに変装しなくちゃいけない。
 オレは髪がピンクで目立つので、一つ結びにして大きめのハットを被る。メガネを掛ければ、意外とバレにくい。
 服装は、あれだけ張り切ったにも関わらず、無難なものに落ちついた。
 推しとのデートってことで浮かれてたけど、周りにバレたらダメだってことに、後から気づいたのだ。
 マスコミに嗅ぎつけられたら、大変だしな……オレだけ怒られるならまだしも、珂南の事務所から慰謝料請求とかなったら、大問題だ。
「もっと可愛い服あったのになぁ」
 お忍びじゃなかったら、と、泣く泣く諦めた。
 そんなわけで、今日のコーデは、明るめのグレーのシャツを羽織り、下は黒っぽいジーンズを合わせたカジュアルスタイルだ。
 ちょっと地味だけど、どこにでもいる若者っぽいし、これなら目立たないだろう。
 鏡の前でファッションチェックをして、タクシーで家を出た。
 朝の時間帯なので、通勤途中の人達ばかり目立つ。
 待ち合わせ場所より少し手前で降りて、ビルに向かった。目立たない格好をしてきたし、みんな会社や学校に向かうのに忙しいみたいで、オレを気に留める人もいない。
「えーと、待ち合わせはビルの前……って、もう来てる!?」
 入り口からちょっと離れた場所に、珂南が立っていた。
 まだ十分前なのに!! てか、先輩を待たせるって!!
 マズイ、と焦るけど、壁に寄りかかってスマホを弄っている珂南は、あまりにもカッコよかった。
 背が高いうえに、モデルだからスタイルも良い。白いシャツに黒のジャケットを羽織って、黒のスラックスを合わせている。
 きちんとしたコーデに、サングラスを掛けた姿は、どこからどうみても、ただ者じゃない。
 やべぇぇッ!! 今日もカッコよすぎる!!
 足を止めて、思わずうっとりと見惚れた。
 ただ立ってるだけで、絵になる男。
 オレの推し!! カッコイイ!! 写真撮りてぇ!!
 しかし、勝手に他人の写真を撮るなんて、プライバシーの侵害だ。沸きあがる欲望を、グッと堪える。
 いくらファンでも、いや、ファンだからこそ、節度ある行動が求められるのだ。
 推しに迷惑を掛けた時点で、ファン失格! そんなことしたら、二度とファンを名乗ることなど許されない。
「琉生?」
「ひゃぁぁっ!?」
 急に声を掛けられて、飛び上がった。
 えッ!? いつこっちに来た!?
 びっくりしすぎて、カチンコチンに固まる。
 えッ!? オレ、写真撮ってないよ!?





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