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31話 彼女みたい

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 今日のお礼と、次のデートの約束を切り出して送信する。
 すると、すぐに電話が掛かってきた。
「もしもし? ケイゴさん?」
「ルカ、家に帰ったのか」
「うん。さっき帰ってきた。タクシーありがと」
「いや。遅くなったからな」
 ケイゴは当然だと答えるが、その後は沈黙が続く。元々、口数の少ない人なので、おしゃべりが苦手なのだ。
 ルカの方から、バイトの件を切り出す。
「それで、ケイゴさん。今日のお試しはどうだった? 合格?」
「……合格だ」
「フフ。じゃあ、パーティが終わるまで、僕はケイゴさんの恋人だね」
 予想通りの返事に、声が弾む。
 またケイゴとデートできると思うと、ワクワクした。レンタル恋人のバイトをやっていて、こんな気持ちになるのは初めてだ。
「ケイゴさんのラブラブな恋人になれるように、頑張るから!」
「あ、ああ……」
「僕の恋人レッスン、覚悟しててね?」
 わざと煽るように言うと、電話の向こうでケイゴのうろたえる声がした。
「あ、あまり、からかうな」
「うん。ごめんね」
 ケイゴに謝って、次のデートの話をする。
 ルカは久しぶりに、ウキウキした気分で、ケイゴとのおしゃべりを楽しんだ。



 ▲ ▲ ▲



 ドラマの撮影をしていると、とにかく忙しい。
 今までは脇役だったから、忙しいのはちょっとの間だったけど、主演ともなれば出番も多く撮影も長くなる。
 今日はLiPの新しいアルバムジャケット撮影だ。けど、その後にドラマ撮影が入っていたオレは、順番を最初にしてもらった。
 楽屋で久しぶりに会った王子は、オレの顔を見るなり、ニヤニヤした顔でからかってくる。
「ナナ、相手が結城で良かったな!」
 そういう反応をされるだろうと分かっていた。
 リーダーも「念願叶ったな」と軽口をたたいてくる。
 オレは二人に向かって、いかに珂南がカッコよかったかを、とうとうと語り聞かせた。
 すると二人は、面倒臭そうな顔になって離れていく。
 何だよ! からかうなら、ちゃんと最後まで話聞け!
 ちなみに吉良くんは、オレから何度も珂南の話を聞いているので、話しかけてもスルーされる。
 ジャケット撮影をささっと終わらせて、次の仕事へ向かった。
 車の運転はいつも吉良くんがしてくれるので、オレは車の中で寝たり、台本を読んだりする。
「琉生、ドラマみたぞ。評判も良かったみたいだな」
 吉良くんは運転しながら、明るい顔でそう言った。
 ドラマはすでに二話目が放送されている。深夜ドラマにも関わらず、けっこう話題になっていた。
 BLマンガが原作というのもあるけど、やっぱりキャスト陣だよな。珂南はもちろんだけど、椎名さんだって注目の若手女優なんだし。
 ちなみに、ケイゴとルカのデートシーンは、かなり好評だったようだ。
「現場で撮影してるの見てるけど、ああやって映像になると、琉生の可愛さは際立つな」
「そう?」
「結城の背が高いから、琉生の可愛さが増すんだよ」
 吉良くんの言うことは一理あると思う。
 オレと珂南とじゃ、身長差が十五センチくらい。恋人役を演じるので、スキンシップも多いし、並んだらオレが小さく見えるのも当然だ。
 男としては、可愛いを連呼されるのも複雑だけど、七海琉生としてはそれが売りだしなぁ。
「それに琉生、現場じゃ本当に結城の彼女みたいだぞ」
「えっ!?」
「自覚ないか?」
「ぜんぜん! なにそれ? どういうこと!?」
「琉生はもともと、結城オタクだろ? 好き好きオーラが出てるっていうかさ」
 吉良くんがため息をつくが、聞き捨てならない台詞に問い詰める。
「それって、吉良くんはオレが珂南のファンだって知ってるから、そう見えるんじゃないの?」
「いや? 俺の思い過ごしって感じもないぞ?」
「オレ、珂南のことは好きだけど、現場じゃ抑えてるし!」
「うーん、それはどうだろうな。結城も、琉生にやたらと甘い顔するしな。二人で話してるときの空気感が、カップルみたいに見えるっていうか」
「えー、吉良くんの勘違いだって!」
「いやいや。他のスタッフも同じこと言ってたぞ」
 吉良くんはそう言って譲らない。
 現場ではオタク丸出しにならないように気をつけてるけど、珂南はカッコイイから、つい目で追ってしまう。
 もし本当に周りからそんなふうに見られてるなら、自分の未熟さが恥ずかしい。
 オレはいま、プライベートで珂南と恋人ごっこをしている。
 ドラマの撮影が終わるまでの期限付きで、リアルに芝居をしているわけだ。
 そして珂南は、ちゃんとオレを恋人として扱ってくれる。
 メールも頻繁に届くし、時間を合わせて食事に誘ってくれたりもする。珂南の家に呼んでくれることが多くて、めちゃくちゃ嬉しい。
 そうやって、プライベートでも恋人役をやってると、ルカの気持ちがより深く分かるようになってきた。





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