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21話 餃子を食べに行く

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 手元にある台本では、まだ結城くんとの絡みのシーンはない。でも監督がそんなに張り切っているなら、長丁場の撮影になりそうだ。
 ただでさえ緊張するのに、濡れ場って!!
 嬉しい反面、胃が痛くなるほどのプレッシャーを感じた。



 + + +



 アイドルグループ「LiP」としての活動と、ドラマの撮影が重なる中、オレはまた結城くんと食事に行くことになった。
 雑誌の撮影が終わった後、すぐに控室で私服に着替える。
「あれ? ナナ、もう帰んの?」
 急いでいるオレに、リーダーが衣装のまま声を掛けてきた。
「吉良くんは?」
「いないよ。この後は友達とメシ食いに行くから」
 マネージャーである吉良くんは、自宅までの送迎に加えて、撮影の時もずっと待っててくれる。
 けど、今日は先に帰ってもらったのだ。
「へえ。ナナがメシ行くなんて、珍しいな」
 リーダーの横で、王子がニヤニヤ笑っている。
 たぶん、女とデートだって思ってるんだろう。
「友達だからな!」
「何も言ってねーだろ?」
「じゃあ、何で笑ってんだよ」
「気のせいじゃねーの?」
「ニヤニヤしてんじゃん!」
「はい、ストップストップ!」
 王子に言い返そうとしたところで、リーダーが間に入って止める。
「王子。ナナにちょっかい出すな!」
「出してねぇって」
「ナナも、いちいち本気にするなって」
「してないしっ!」
「ほら、急いでるんだろ? 時間は?」
 リーダーが指さした壁時計を見て、ハッとする。
 待ち合わせに遅れたら大変だ!
 着替えを急いでいると、また王子が話しかけてくる。
「ナナ。メシって、なに食いにいくの?」
「……餃子」
「ギョーザ……ギョーザねぇ」
 微妙な顔でオレを見てくるけど、無視した。
 オレだって、なんでそのチョイスなんだって自分で思ってるよ!
 わざわざ結城くんが「何か食べたいものある?」って聞いてくれたのに、その時は何となく餃子の気分で「餃子が食べたい」と答えてしまったのだ。
 せっかく、結城くんとご飯行くのに!
 餃子なんていつでも、何なら一人でも食べに行けるのに、なぜもっと気の利いたメニューを言えなかったのか。
 今さら、どうしようもないけどさ。
 鏡の前でファンションチェックをする。LiPでの撮影だったから、それに合わせた私服だ。
 淡いピンクのシャツにパーカーを羽織り、下はベージュのワイドパンツにブーツ。腕には有名ブランド、ティティンのロゴを模した細いゴールドバングル。左の中指には、同じくジュエリーブランド、ルヴィーズのピンクゴールドのリングを、片耳にドロップピアス、もう片方にスタッドピアスを付ける。
 レディース物を取り入れたコーデが「七海琉生」のファッションスタイルだ。
 ピンクに染めた髪も、結んでハットを被れば目立たないし、ドロップピアスが揺れて可愛く見える。
「じゃ、お先に~」
「おつかれ、ナナ」
「気をつけて行けよ」
 バッグを片手に、二人の声を背中に聞きながら控室を出る。
 遅刻しないように、駆け足で待ち合わせ場所へ向かった。



 + + +



 駅近くのビルの前、待ち合わせの場所に着くと、すでに結城くんが待っていた。
 オレと同じように黒いキャップを被り、サングラスを掛けて立っているだけなのに、周りを行き交う人たちの視線が結城くんに集まっている。
 うわぁぁっ! マジ、カッコイイっ!
 今日の結城くんは、シンプルでスタイリッシュな服装だった。白いシャツに細身の黒いパンツを合わせ、薄手のコートを一枚羽織っただけなのに、スタイルが良すぎてすごくオシャレに見える。
 さすが、オレの推し!
 感心するほど、魅力的な出で立ちにうっとりしていると、結城くんがオレに気づいた。
「琉生」
「あっ! ご、ごめんなさいっ! 遅れました」
 慌てて駆けより、頭を下げる。
「俺も今来たところだよ」
 結城くんは優しく答えて、オレの肩をポンと叩いた。
「それに、敬語はナシでいいよ。友達みたいに話して」
「はいっ! あ、じゃなかった。うん!」
「ふふ。行こうか」
 結城くんの隣に並んで歩き出したけど、なんかもう、オーラがすごい。
 本当にオレが隣を歩いても良いのかな!?
 心配になって、ちらっと結城くんを見上げる。
 うわぁぁっ、ヤバイッ! 横顔もイケメン!
 しかも、これから二人きりで食事だし!
 ドラマで恋人役にならなかったら、こんな機会は一生訪れなかったよな。
「琉生」
「えっ!? な、なにっ?」
「ピアス可愛いね。その服も似合ってるよ」
「あ、ありがとうっ!」
 まさか褒められるとは思わず、ニヤニヤしてしまった。
 やっべぇ! 結城くんが可愛いって言ってくれた!
 今日の服装は後で写真に撮って、しっかり保管しておこう。
 浮かれる気持ちを隠しながら、結城くんと店まで歩く。
 それにしても、結城くん、よく時間作れたよな。





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