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7話 仲良くなるチャンス
しおりを挟むが、すぐにドタッと床に落ちた。
「い、いってぇ……」
背中がジンジンと痛んで、顔をしかめる。
あ、この前も落ちたな……。
ちょっと冷静になり、のそのそ起き上がってソファーに座った。
「浮かれすぎだぞ、オレ」
両手でペチッと頬を叩く。
落ちた漫画を拾った拍子に、帯の文字が目に飛び込んできた。
『累計百万部突破! 特別豪華版、予約受付中!』
うわ、これ百万部も売れてるんだ……。
BL漫画で百万部は、かなりすごい。てか、海乃先生って、どの作品もめちゃくちゃ売れてるみたいだしな。
『恋人レッスン』はアニメ化もされてるし、人気作家の作品ってだけで、相当な数のファンがいるはずだ。下手な演技で、原作のキャラクターイメージを崩そうものなら、SNSで血祭りに上げられるかもしれない……。
オレって、事務所の力を借りてるだけだしな……。
デビューして三年目の若手アイドルだし、このドラマが初主演だ。同年代の役者に比べれば、演技も未熟。
それでも、オレをルカ役にと、選んでくれた人がいるのだ。
「すげぇプレッシャーだけど……結城くんと仲良くなるチャンスだし!」
少しでも、憧れの結城くんに認めてもらいたい。
だから全力で頑張るのだ。
オレは今まで以上に気合いを入れて、役作りのために『恋人レッスン』を読み始めた。
+ + +
それからしばらく経って、ついに打ち合わせの日がやってきた。
LiPの雑誌撮影が終わった後にドラマの打ち合わせなので、スタッフに頼んで、しばらく控え室を借りることにした。
リーダーと王子は、撮影が終わるなりさっさと帰ってしまって、残っているのはマネージャーの吉良くんだけだ。
「琉生、これから打ち合わせだな」
「うん。顔合わせって、ドキドキするよな」
相手役が結城くんなのは知ってるけど、それ以外のキャストはまだ教えてもらってない。
これから対面すると思うと緊張してくる。
壁時計を見上げると、十九時を過ぎたところだ。
顔合わせは二〇時からだし、それまで原作読んでおこうかなぁ。
「琉生。本当に、俺がいなくても大丈夫か?」
吉良くんが眉根をよせて、オレを見た。いつも打ち合わせにも同行してくれるけど、今日は弟と食事の約束をしているらしい。吉良くんにはいつもお世話になってるし、せっかくの兄弟の時間をオレが邪魔するわけにはいかない。
「大丈夫だって。吉良くんは心配しすぎ」
「結城がいるから、心配なんだ」
「うっ、そこは頑張る……」
「悲鳴上げて、倒れたりするなよ?」
「そんなことしねぇよ!」
いくら結城くんファンのオレでも、LiPのナナとして、アイドルののイメージを崩すような真似はしない。
わざとふてくされた顔をすると、吉良くんが子供を見るような顔で言った。
「琉生、周りには気をつけろよ」
「え? 気をつけるって、なにを?」
「お前は若いし、主演も初めてなんだ。キャストやスタッフの中には、アイドルだからって見下してくる奴もいるだろ」
「そんなの、今に始まったことじゃないじゃん」
大手事務所だから、コネや圧力で仕事を取ったと陰口をたたかれることもある。アイドルの出演を快く思わない人も、一定数いる。
だから現場では、挨拶と笑顔が基本だって、先輩や事務所の人から口を酸っぱくして言われ続けた。
それでもなお、吉良くんは真面目な顔でオレに言い聞かせる。
「もし理不尽な目に遭ったら、ちゃんと俺に相談しろよ」
「分かってるって。吉良くん、過保護すぎじゃない?」
「琉生がもうちょいしっかりしてたら、何も言わないけどな」
吉良くんが困った顔でオレを見る。
いや、しっかりしてるし!
「オレ、もう二十二だよ!」
十四歳からこの世界に入って、十七歳でグループ結成して、デビューは十九歳だ。八年もこの業界もいて、舞台やドラマも、それなりの数をこなしてきた。タレントとしての経験だけでなく、芸能界という特殊な世界で生き残るすべも学んできたつもりだ。
今回は初めての主演ドラマだから不安もあるけど、やっと巡ってきたチャンスなんだ。
やる気だけは十分にある。
「撮影の時は吉良くんもいるし、何も心配ないって」
「まあ、そうだな」
吉良くんは頷くと、黒いビジネスバッグを肩にかけた。
「琉生、帰ったら連絡しろよ?」
「分かってるって」
「じゃあまた明日。お疲れ」
「うん。お疲れ、吉良くん」
吉良くんが帰ってしまうと、控室にはオレ一人だけになった。
顔合わせは、同じビルの会議室であるから、移動に時間はかからない。余裕を持って移動できるけど、あまり早く行くのも微妙だよな。
とりあえず、控室にある姿見で服装をチェックした。
今日の服は、白地にモノトーンのバラがプリントされた花柄シャツ。そこに薄手のパーカーを羽織って、下はジーンズにブーツを合わせている。
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