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1話 結城くん
しおりを挟む番組の収録でスタジオに来た。まずは「LiP様」と張り紙のある楽屋に入る。中は和室になっていて、こじんまりとした小さな部屋だ。
LiPは大手事務所のアイドルグループとはいえ、デビューして三年目の若手グループだし、メンバーもオレを含めて三人だけ。あてがわれる部屋がしょぼいのも、毎度のことだ。
むしろ、楽屋が割り当てられているだけでも、ありがたい。
「お、琉生が一番乗りなんて、珍しいこともあるな」
後ろから付いてきたマネージャーの吉良くんが、感心した声で言う。
いつも到着はオレが最後になるのに、今日はまだ他のメンバーの姿がない。珍しく、オレが一番乗りだった。
ブーツを脱ぎながら、吉良くんを軽く睨む。
「これだったら、さっきコンビニ寄れたのにさー」
時間に遅れるからと、行きたかったコンビニをスルーされたのに、吉良くんは肩をすくめるだけで悪びれた様子もない。
俺より六つ年上の吉良くんは、いつも伸ばしたブロンドの髪を結んでいて、他のマネージャーに比べると服装も個性的だ。今も、英語のロゴが入った紫色の長袖シャツを着ていて、それがまた似合ってる。センスがいいんだよな。
オレも、派手めのファッションは好きなので、そういうところは気が合う。それに、吉良くんとは七年も一緒にいるので、タレントとマネというより、面倒見のいい兄貴とその弟みたいな関係だ。
「琉生、座布団」
「サンキュ」
吉良くんが出してくれた座布団に座る。
もう十一月に入ったけど、局内なのでちょうどいい気温だ。楽屋には備え付けのエアコンがあるけど、付けずにおく。ときどき、消し忘れたりするしな。
それより、雑誌だ。
黒のトートバッグから、いそいそと雑誌を取り出す。
家に帰ってから読むつもりだったけど、収録まで時間はあるし、メンバーもいないうちに、ひと目だけでも見ておきたい。
机の上にどんどん雑誌を積み重ねていくと、吉良くんがあきれ顔が見えた。
「琉生、それ、全部買ってきたのか?」
「うん!」
「待ち合わせの時間を変更したいって言うから、何かと思えば……」
吉良くんがわざとらしくため息をつく。
その反応も予想していたから、オレは気にせず、積み上げた雑誌を一つ手に取った。
買ってきたのは、エンタメ誌とテレビ誌だ。
エンタメ誌の表紙を飾るのは、オレの大好きな俳優、結城珂南。
オレは二十二歳だけど、結城くんは四つ上の二十六歳。
結城くんは、誰でも知っている海外ブランドのモデルをしてて、その縁もあってか海外セレブとも仲良し。CMもいくつか持ってるし、演技力が抜群で、役者としても名の知れた存在だ。
モデル出身だから美形なのは当然。黒髪にぱっちりとした二重の大きな目に、鼻筋の通った端正な顔立ちで、唇もふっくらしていて、写真で見るだけでもドキドキする。高身長なのもカッコイイし、細マッチョだからスーツがめちゃくちゃ似合うんだ。
ドラマや雑誌で、露出の多いセクシーショットを見ようものなら、息が止まって心臓がバクバクしてしまう。
そんな結城くんは、見た目もカッコイイけど、性格もとても良い。実力を評価されていっぱい賞を取ってるのに、いつも謙虚でファンにも優しいのだ。向上心も強くて、すげぇ努力家。時々インタビューとかで語られる言葉は、結城くんの芯の強さを表していて、尊敬と憧れで胸が締めつけられる。
こんなにカッコイイ男がこの世に存在するなんて、同じ時代に生まれてきて良かったって、しみじみ思う。
なんてことを吉良くんやメンバーに言うと、「結城オタクなのは分かったから、外では絶対言うなよ」と釘を刺される。
アイドルが他のタレントを崇拝するのは、外聞が良くないんだって。
同じ事務所の先輩ならまだ良いらしいけど、正直、結城くんよりカッコイイ人、いないしな。
「結城くん、今日もカッコイイっ!」
発売したばかりの雑誌を眺めて、うっとりため息をもらす。
高級ブランド「ヴェルトス」の新作スーツを身にまとった結城くんは、海外のモデルにも負けないほどエレガントな着こなしで、オレの心を浮き立たせる。男女ともによくモテるのも、納得のビジュアルだ。
一通り眺めて、次はテレビ誌を手に取る。こちらには、今度公開される結城くん主演のドラマの情報が載っていた。そして、オレのグループ「LiP」のインタビュー企画も載っている。うちのメンバーは、爽やか優等生の「リーダー」と、抜群に歌がうまい俺様系の「王子」。そしてオレ、末っ子担当の「ナナ」の三人だ。オレの愛称は、名字の七海からきている。
リーダーと王子に比べたら、オレは小柄で肌も白い。黒目は大きくてぱっちりしてるけど、ややたれ目で顔のパーツが小さく、中性的な顔立ちだ。
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