バラのおうち

第20話 忘れないから（最終話）

　止まったはずの涙がまたあふれる。
　でも、声が聴こえたんだ。


「ノア」


　懐かしい声。
　姿は見えなかったけど、オレの大好きな声。
「……オリヴァー？」
　辺りを見わたすけど、姿は見つけられない。
　近くにいるはずなのに。

「ノア。幸せになれよ」

　一言だけ、告げて。
「オリヴァー！　オリヴァー……どこ？！」
　呼びかけても、それっきり、オリヴァーの声は返ってこなかった。
「オリヴァーッ！」
　ムダだと分かっているのに、姿を探す。
　オリヴァー……オレに、会いに来てくれたの？
　会わないって言ってたのに。
　一言だけ伝えに来てくれたの？
「クリス！　オリヴァー！」
　まだ、二人はオレの近くにいるかな？
　オレの声、届いてるかな？
　返事は返ってこないけど。
　何度でも言うよ。


「ありがとうっ！　育ててくれて、愛してくれて！　とても、幸せだったよ……ぜったい、死ぬまで忘れないから！」


　一生、忘れないよ。
　三人で過ごしたあの幸せな日々を。
　オレを愛してくれた、大切な二人のことを。
「クリス。オリヴァー」
　オリヴァーは、オレが泣いてると、いつも抱っこしてくれたね。
　オレのためにご飯を作ってくれて、そばにいなくても、気にかけてくれた。
　クリスは、いつも側にいて、たくさん遊んでくれた。
　森の中でも、家の中でも、一日中くっついても、嫌な顔ひとつしなかった。
　懐かしい思い出がよみがえる。
　涙は次から次に、とめどなく流れていくんだ。

「ありがとう。大好きだよ、クリス、オリヴァー。……二人とも、大好きっ！」

　オレの想いが届きますように。
　どうか、二人がいつまでも幸せでいてくれますように。
　ずっと祈っているよ。
　オレは二人に愛されて、これ以上はないってくらい、とても幸せだったから。










　＋　＋　＋










「……それで、おうじさまはどうなったの？　クリス」
「お姫様と結婚して、しあわせに暮らしました。これでおしまい」
「よかった～」
「面白かった？　ノア」
「うん！」
「ノア、そろそろ寝るぞ」
「えー！」
「オリヴァー、まだいいだろう。ノアも眠くないみたいだし」
「仕方ないな」
「やったぁ！」
「少しだけだぞ、ノア」
「うん！」
「ありがとう、オリヴァー」
「お前もあまりノアを甘やかすな、クリス」
「ふふ、ごめん」
「……」
「あーずるい～！　ノアにもぎゅ～っとして！　オリヴァー！」
「こっちにこい、ノア」
「クリスといっしょー！」
「はいはい。クリスと一緒にな」






　三人で体を寄せあって、暖炉の前で夜更かしをしたあの日。
　別れる前の、最後の夜。
　思い出すたびに、幸せな気持ちになるんだ。
　クリス。
　オリヴァー。
　懐かしい人達を想って。
　オレは何度でも夢に見る。
　あの愛しい日々を。






　（終）