19 / 20
第19話 幸せを祈っている
しおりを挟むハッとして顔を上げる。
その瞬間、後ろからぎゅうっと抱きしめられた。
「ノア」
「……クリス?」
あの頃と同じ声。
「クリス……クリスなの?」
何が起こったのか信じられなくて、後ろを振り返ることも出来ない。
でも、背中から伝わる温もりは幻じゃなかった。
「ノア。会いたかった」
「クリスっ」
オレを抱きしめる、クリスの腕をつかむ。
ゆっくり振り向くと、そこにクリスがいた。
あの頃と何一つ変わらない、クリスが。
微笑みながらオレを見ている。
「クリスッ……!」
ぼろぼろと涙があふれてきて、視界がぼやけた。
「クリス、クリスぅっ」
「ここにいるよ。ノア」
必死に腕をつかんで、クリスに抱きつく。
思い出の中のクリスより、ずっと小さく感じる。
でも、本物のクリスだった。
夢を見ているようで、まだ信じられなくて。
涙があふれるまま、クリスの腕の中で声を上げて泣いた。
「クリスッ!」
クリスが、泣きじゃくるオレの背中を優しくなでてくれる。
何度も、名前を呼びながら。
「……もう一度だけ、ノアに会いたかった」
クリスの言葉に、ハッと顔を上げる。
「クリス……」
「オリヴァーが許してくれたんだ。だから、会いに来た」
「オリヴァーは? どこにいるの?」
辺りを見渡したけど、オリヴァーはいない。
霧のせいで辺りは真っ白だから、ここにはオレとクリスしか存在しないみたいに思えた。
「オリヴァーは近くにいるけど。ノアには会わないって」
クリスは悲しそうに瞼を伏せる。
「オリヴァーが……」
悲しいけど、分かるような気がした。
オレはずっと会いたいと願っていたけど、オリヴァー達には、きっと許されないんだろうって。
生きる時間が違うから。
それでも、クリスはオレに会いに来てくれたんだ。
「あのねっ、クリス。オレ……オレねッ」
だから、言わなくちゃ。
二人に会ったら言おうと思っていたこと、ぜんぶ。
「オレ、クリスもオリヴァーも、大好きだよ」
「ノア……」
「本当に大好きなんだ。二人のこと、忘れたことなんてなかったよ!」
涙があふれすぎて、目の前のクリスの顔さえよく見えない。
クリスが拭い取るように頬を撫でてくれたけど、後から後から流れ落ちる。
「オレ、幸せだったよッ! クリスとオリヴァーがいてくれて、ホントに、しあわせで……っ」
「僕も、ノアのことが大好きだよ」
「クリス……好き。ありがとう……ホントにありがとう、クリス」
「礼を言うのは僕の方だ。ありがとう、ノア」
クリスは、にこりと微笑んでくれた。
オレは涙でぐちゃぐちゃになった顔で、クリスに抱きつく。
大好きな人。
もう一度だけ会いたいと願っていた人。
神様……やっと、願いが通じた!
それとも、ばあちゃんが会わせてくれたの?
「ノアは、今幸せ?」
「うん! 幸せだよ!」
「それなら良かった。ずっと気になっていたから」
「クリス……」
あの時も、オレに幸せになれって言ったね。クリスは。
いつでもオレのことを考えて、オレを愛してくれて。
「……クリスは?」
「うん?」
「クリスは、幸せなの? オリヴァーと、もうケンカしてない?」
「ノア……」
クリスが驚いた顔になる。
「そんなことまで覚えてるのか」
「当たり前じゃん! ぜんぶ覚えてるよ。二人のこと」
腕でごしごしと涙を拭って、クリスを見る。
クリスは困ったような顔をしたけど、すぐに微笑んだ。
「オリヴァーとはもうケンカしてないよ」
「ホント?」
「うん。心配してくれてありがとう。僕は幸せだよ」
嬉しそうに笑うクリスを見て、ホッとした。
オリヴァーとケンカして泣いてたクリスは、思い出すだけで胸が痛むから。
今は仲良くやってるんだね。
よかったってオレが言ったら、クリスはオレの頭を撫でた。
そして。
「ノア……大好きだよ。これからもずっと……僕たちは、ノアの幸せを祈っているよ」
そう言って、オレを強く抱きしめる。
それで気づいた。
ああ、もう……お別れなんだ。
やっと会えたのに。
「クリス、行っちゃうの?」
これで最後なの?
もう会えないの?
言いたい言葉をのみこんで、クリスを見つめる。
「ノア」
クリスは声を震わせて、オレを呼んだ。
胸が締め付けられて、痛みに声がでない。
そうしているうちにクリスがオレから離れて立ち上がる。
「クリス……!」
「ノア」
オレの名前を呼んでくれるのに、クリスはオレから遠ざかる。
「僕もオリヴァーも、ずっとノアを愛しているよ」
優しい声で告げて、微笑んで。
クリスはゆっくりと霧の中に消えていった。
「クリス!!」
慌てて立ち上がって追いかける。
大声で呼びながらクリスが消えていった方へ走ってみるけど、白い霧に視界を遮られて、もう何も見えなかった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

【BL】記憶のカケラ
樺純
BL
あらすじ
とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。
そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。
キイチが忘れてしまった記憶とは?
タカラの抱える過去の傷痕とは?
散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。
キイチ(男)
中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。
タカラ(男)
過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。
ノイル(男)
キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。
ミズキ(男)
幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。
ユウリ(女)
幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。
ヒノハ(女)
幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。
リヒト(男)
幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。
謎の男性
街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる