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第14話 幸せな思い出
しおりを挟む苦しい~って思って目を開けたら、クリスにしっかり抱きしめられていた。
あれぇ? いつお昼寝したんだっけ?
おぼえてないけど、クリスと一緒に寝ちゃったんだ。
「クリスー?」
「ノア、もう起きたの?」
頭の上からクリスの声がふってくる。
でも、なんでだか、声がかたい。
「うんっ」
身じろぎしてみたけど、クリスはまったく動かないから、抱きしめられたまま抜け出せない。
「くるしいよぉ、クリス」
「もうちょっとだけ待って」
「クリス?」
何とか頭を上げると、クリスの顔が少し見える。
でも、いつもと様子がちがう。
「ないてるの?」
「……ごめん」
クリスの胸に手を当てて、あのペンダントがないのに気づいた。
ロケットの中のしまってあった、『ルディ』を思い出す。
クリスとオリヴァーの、大切な人。
ロケットがなくなって、悲しいのかもしれない。
クリスをなぐさめたくて、手を伸ばした。
「ねえ、オリヴァーのせい? それとも、ルディのせい?」
「違うよ……」
「なかないで、クリス。オレがずっといっしょにいるからっ」
オレがそう言うと、クリスはゆっくりと腕を放して、オレを見つめた。
涙はなかったけど目元は赤くはれていて、胸がずきんと痛んだ。
だけど、いちばん辛かったのは、クリスの言葉。
「ずっと一緒にはいられないよ。ノア」
オレの頭を撫でながら、そう言った。
「どうして?」
「僕たちとノアは違うから」
「なにがちがうの?」
「ぜんぶだよ」
「ヤダ! クリスとオリヴァーといっしょにいるっ!」
クリスの言葉が信じられなくて、泣きそうになる。
でもクリスは穏やかに微笑んで、今度は優しくオレを抱きしめた。
「ノア。お前は僕たちとは違う……幸せになるんだよ」
「やだっ……ヤダ!!」
涙があふれてきたけど、クリスはオレを抱きしめたまま、優しくささやいた。
「僕もオリヴァーも、ノアを愛しているよ。だから、全部忘れるんだよ」
「やだぁ!!」
子供のオレにでも分かった。
クリスとオリヴァーとの三人の暮らしが終わる予感。
大好きな人達と離れなくてはいけない、別れの予感。
ただひたすら怖ろしくて、泣き叫んだ。
嫌だと言ってクリスの腕の中で暴れて。
でもクリスは、本当に優しくオレに言うんだ。
「愛してるよ。ノア」
何度も何度も。
オレに全部忘れろと言ったクリスが、それだけは繰り返す。
人に愛されるということが、こんなにも苦しくて幸せな気持ちになるのだと、それを教えてくれるかのように。
だから、オレの記憶は、いつも二人に愛された幸せな思い出から始まるんだ。
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