バラのおうち

氷魚(ひお)

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第11話 すれ違っていく

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「オリヴァー……オリヴァー、大丈夫?」
「……クリス?」
 目を開けると、すぐ近くに心配そうなクリスの顔があった。
 枕元のランプの光が眩しくて目を眇める。
「うなされてたよ」
「ああ……嫌な夢を見た」
 起き上がると、クリスがタオルで額を拭いてくる。
 シャツを羽織っただけのクリスの体には新しい鬱血の跡が見え隠れして、思わず顔を顰めた。
 またやってしまった。
 出そうになったため息をぐっと堪える。
 クリスは俺の様子には気づかず、丁寧に首筋や胸元までタオルで拭いてくれた。
 だけど、うつむきがちに俺から視線を逸らして、表情を見せてくれない。
「服、着替える?」
「ああ」
「ちょっと待ってて」
 クリスはベッドから降りると、代わりの服を持ってきた。
 俺に渡すと、ベッドには戻らず離れようとする。
「クリス!」
 腕をつかむと、クリスは視線を逸らしたまま、小さく答えた。
「ノアが隣で寝てるから」
「朝まで起きねーよ」
「もし目をさましたらどうするんだよ……」
「ノアを言い訳にすんな」
「……」
「こっちを向け、クリス」
 強く命令するとようやくクリスが顔を上げる。
 腕を引いてベッドの中に引き戻すと、逃げられないように上から押さえつけた。
 だけどクリスは何の抵抗もせず、責めるような眼差しで俺を見上げる。
「まだ、するの?」
「……」
「いいよ。オリヴァーがしたいなら」
「クリス……」
 諦めたようにクリスは目を閉じた。
 俺から顔を背けて、呟くように言う。

「僕に出来ることなんて……他に何もないんだから」

「クリスッ!」
 パンッと乾いた音が響く。
 意識するより先にクリスの頬を叩いてた。
 無性に腹が立って、また殴りそうになるのを堪える。
 クリスの赤くなった左頬に涙がいくつも流れる。
「ふざけんなよ、お前」
「……っ」
「下らないこと言ってんじゃねぇ」
 何故だか怒りがおさまらなくて、クリスの首筋に噛みついた。
「ッ! ……痛っ……」
 歯を立てれば痛みに声を上げる。
 けれど俺の名前すら呼ばず、クリスはずっと泣いているだけだった。
 気持ちがすれ違っていくのは分かったのに、どうすることも出来なかった。








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