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第10話 生きていてくれたら
しおりを挟むルディは、幼い頃から生死を共にした、ただ一人の相棒だった。
ヴァンパイアと呼ばれる、呪われた一族に生まれて、生き残るために、人間の振りをして社会に溶け込んだ。
ハンターと呼ばれる天敵はいるが、一族の方が圧倒的に強かった。
俺もルディも、一族の中ではトップレベルの実力だ。
だから一族の里に留まらず、放浪しながらハンターの拠点を探り、密かに始末してきた。
時には、仲間を増やすこともあった。
血を分け与えれば、人間もヴァンパイアになれる。
だけど、仲間にしたいと思える人間に巡り合ったことがなかったから、一度も試したことはなかった。
それなのに、ルディを通じて親しくなったクリスが、仲間になりたいと言った時、自らクリスの手を取った。
「えー? オリヴァーがするの?」
ルディは自分が儀式を行うつもりだったようで、不満げな声をもらした。
「お前より俺の方が強い」
「そうだけど、誘ったのはオレなんだよ?」
唇を尖らせるルディを、オリヴァーはするどく睨みつける。
力の強い者が血を分け与えるのが、一族の間では普通のことだった。
「えっと……オリヴァーがしてくれるの?」
クリスは戸惑った顔で、オリヴァーとルディを交互に見る。
一族の慣習など知るはずもないから、二人のやり取りにどうしていいか分からないのだろう。
「しょうがないなぁ。今回はオリヴァーに譲ってあげる」
ルディが恩着せがましく言うのを、睨みつけた。
クリスはおずおずとオリヴァーを見上げて、ふわりと笑った。
「じゃあ、よろしくね。オリヴァー」
その笑顔を、今でも忘れない。
嬉しくて、頬が緩みそうになるのを、ぐっとこらえたことも。
+ + +
「オレたちの血は、クリスには合わなかったみたいだね」
ルディが、眠るクリスを見つめながら呟いた。
「……」
「責めてるんじゃないよ? オレがクリスにやったとしても、同じ結果だったよ」
ルディの言葉が慰めでないことは分かっている。
たまに、一族の血が合わない人間がいるのだ。
せっかく強者の血を分け与えても、体も弱く、能力も使えず、不便な体になってしまう。
「ま、オレたちが側にいるんだ。守ってあげれば、大丈夫だよ」
ルディはにこりと笑ってそう言った。
そしてルディは、その言葉通りに、クリスを守って死んだ。
―――オリヴァー……クリスのこと、頼んだよ。
クリスを守るために、囮になって、ハンターを返り討ちにしたルディは、けれどもう瀕死の状態だった。
俺に、クリスの居場所を知らせると、そのまま息絶えた。
ルディが死んだ悲しみよりも、クリスの安否が気がかりで、仲間が止めるのも構わず駆けだしていた。
森の茂みで気絶したクリスを見つけた時は、安堵のあまり涙があふれた。
そして、クリスを守ってくれたルディに、心から感謝した。
クリスが生きていてくれたら、それだけでよかったんだ。
クリスが俺を見てくれなくても。
今なお、ルディを愛していても。
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