4 / 20
第4話 二人のケンカ
しおりを挟む「ノアはかわいいね」
そう言ってクリスはよくオレを抱きしめる。
クリスの体はいつもオレより冷たい。
それを少しでも温めてあげたくて、夜一緒に寝るときにはクリスにぴったりくっついて眠った。
「クリス、あったかい?」
「うん。あったかいよ。ノア」
「えへへ」
クリスが笑ってくれると、すごく嬉しい。
オレはクリスが大好きで、料理ができなくても不器用でもかまわなかった。
4歳になっても5歳になっても、三人での生活は変わらなかったけど、オレはクリスにばかりくっついていた。
もちろんオリヴァーのことも好きだったけど、クリスにべったりだったのは理由がある。
クリスの方が優しくて、オリヴァーは怖かったから。
そして、二人はよく口ケンカをしたけど、必ずクリスが負けちゃうからだ。
クリスが何かを頼んでも、オリヴァーは許さなかった。
「ダメだ」
キッパリと断るオリヴァーに、クリスが必死に言い返す。
「なんで? どうしていつも、ダメっていうんだよ!」
「当たり前だろ。お前にできるわけがない」
「僕だって、それくらいできるよ!」
「うるせぇな。お前は足手まといなんだよ」
「っ……そんなの、やってみないと分からないだろ?」
「分かるから言ってるんだ」
まったく聞く耳を持たないオリヴァーに、クリスはいつも食い下がる。
「オリヴァーに何が分かるんだよ!」
「はあ? 何もできないくせに、偉そうな口きくんじゃねぇ!」
「でもっ!」
「いいから黙ってろ!」
「……」
オリヴァーに睨まれて、クリスが唇をかみしめる。
眦に涙を浮かべて、そのままリビングを飛び出して行った。
こうなると、クリスは部屋に閉じこもってしまう。
オレがいくら呼んでも、出てこなくなっちゃうんだ。
「オリヴァー、クリスをいじめないでよぉ!」
「ふんっ、あいつが勝手に泣いてんだろ」
「オリヴァーのせいだよ!」
ちっとも悪いと思ってないオリヴァーの背中を、ポカポカとたたく。
でもオリヴァーにはまったく効かない。
青い目でジロッとにらまれて、オレは悔しくて涙があふれてくる。
「うわぁぁんっ! オリヴァーのバカぁぁ!」
「うるせぇ。お前まで泣くんじゃねーよ」
「クリスにあやまってよー!」
「めんどくせぇな」
顔をしかめながら、オリヴァーはティッシュをつかんで、オレの鼻をかんでくれる。
でも、オレの言うことなんて、聞いてくれないし、まともに相手もしてくれない。
オリヴァーがクリスに謝ったことは、一度もなかった。
だからいつも、目元を赤くはらしたクリスが部屋から出てくるのを待つしかない。
オレは、クリスのいない、オリヴァーと二人きりの時間が嫌いだ。
クリスが部屋から出てくるまで、オリヴァーがひどく憎たらしくて、しかたない。
「ノア、ホットミルク飲むか?」
「いらない!」
「飲まないと寝れないんだろ?」
「ねむれるもん!」
言い返すけど、オリヴァーは気にした様子もない。
ぐずぐず言ってるオレにブランケットを巻いて、ソファーに座らせる。
そしてキッチンに向かうと、あっという間にホットミルクを作って持ってきてくれた。
「ほら」
「……」
「落とすなよ、ノア」
湯気の立つホットミルクは、とても美味しそうだ。
オリヴァーの作る物は何でも美味しいから、オレは黙ってブランケットのすき間から手を伸ばす。
めいっぱい頬をふくらませて、マグカップを受けとると、オリヴァーをにらんだ。
でも、オリヴァーは口元に笑みを浮かべると、オレの髪をぐしゃぐしゃっとかき混ぜて、キッチンに戻っていった。
「……おいしい」
ちょうどいい温度で、飲みやすくて、ちょっといい香りがして、コクがある。
飲み終わるころには、お腹がいっぱいで、そのままソファーで眠ってしまう。
クリスに謝ってくれないオリヴァーは嫌いなのに、オレはいつもそうやってごまかされるんだ。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

【BL】記憶のカケラ
樺純
BL
あらすじ
とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。
そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。
キイチが忘れてしまった記憶とは?
タカラの抱える過去の傷痕とは?
散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。
キイチ(男)
中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。
タカラ(男)
過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。
ノイル(男)
キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。
ミズキ(男)
幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。
ユウリ(女)
幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。
ヒノハ(女)
幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。
リヒト(男)
幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。
謎の男性
街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる