バラのおうち

氷魚(ひお)

文字の大きさ
上 下
3 / 20

第3話 優しいクリス

しおりを挟む









 どうしてあのとき、オレを拾ってくれたのか。
 まだ青年だったはずのオリヴァーとクリスが、どうして二人きりで暮らしていて、オレを育ててくれたのか。
 その答えを知ったのは、ずっと後になってからだ。





 + + +





 二人に拾われてから、オレは田舎の森の中で暮らすことになった。
 金髪に青い目のオリヴァーは、整った顔立ちをしていたから、怒ると迫力があって怖い。
 黒髪にグレイの目をしたクリスは、優しい風貌で、微笑む姿をみるだけで安心した。
 オレは明るいブラウンに緑の目で、もちろん二人と少しも似ていない。
 だけど、クリスはいつも、オレの目をきれいだと言ってくれた。
 二人と出会った頃はまだ3つで、両親が恋しくてよく泣いたらしいけど、ぜんぜん覚えてない。
 だって、クリスは優しくて、オレの遊び相手になってくれる。
 オリヴァーは怒ると怖いけど、オレが泣いてるとすぐに抱っこしてあやしてくれる。
 寂しいと思ったことはなかった。
 オレはよくクリスと一緒にいたけど、クリスは不器用で、オリヴァーが言っていたように何もできなかった。
 森で野兎を捕まえるための罠もうまく作れないし、弓を使うのも下手だった。
 庭にはバラがいっぱい植えてあって、オリヴァーとクリスが世話をしているのをお手伝いしたけど、クリスはよく肥料をひっくり返したりして、いつもオリヴァーに怒られていた。
 家の中のことも、そうだった。
 片付けをしようとすれば、逆に散らかすし、皿やカップを割るのも日常茶飯事だ。
 だからなのか、料理をするのも、オリヴァーの担当だった。
 クリスは、食事をするオレのとなりで、いつも優しく見守ってくれる。
「ノア。また野菜残してるよ」
「だって~、にがいんだもん」
「がまんして食べないと、大きくなれないよ」
「おっきくなんなくても、いいもん!」
 クリスにそう言い返すけど、今度は怖い返事が返ってくる。
「好き嫌いする子は、あとでオリヴァーに怒られるよ?」
「や、ヤダ!」
 オリヴァーは怒るとホントに怖い。
 叩いたりはしなかったけど、睨まれると、息もできなくなるくらい胸が重たくなる。
「ずるい!」
「どうして?」
「クリスもオリヴァーも、コレたべないのに、ノアばっかりいう!」
 フォークを持ったまま抗議すると、クリスが笑って頭をなでてくる。
「これはノアのために、特別に作った料理なんだよ。だから食べないと」
「なんでクリスはたべないの?」
「僕が食べるものは、決まってるから」
「スープ?」
「そうだよ。大きくなると、あれだけで十分になるんだよ」
 ニコニコと笑顔でそう言うから、オレはその話を信じた。
 オリヴァーが作る、バラの香りがするスープ。
 庭のバラを使った特別なスープだって言っていた。
 それだけしか口にしない二人を、変だとは思わなかった。
 オレの世界には、二人しかいなかったから。
「ノア。それをぜんぶ食べ終わったら、森に遊びに行こうか?」
「うん!」
 クリスは一日中だって、ノアの遊びに付き合ってくれる。
 森の中の散策も、近くの小川での水遊びも。
 庭でバラのお手入れをしたり、木でおもちゃを作ったり。
 雨の降る日は、家の中で絵本を読んで、文字を覚える遊びをして、歌を歌って過ごした。
 クリスは、本当に優しかった。








しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。 引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。 二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に 転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。 初のアルファの後輩は初日に遅刻。 やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。 転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。 オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。 途中主人公がちょっと不憫です。 性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

【BL】記憶のカケラ

樺純
BL
あらすじ とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。 そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。 キイチが忘れてしまった記憶とは? タカラの抱える過去の傷痕とは? 散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。 キイチ(男) 中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。 タカラ(男) 過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。 ノイル(男) キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。 ミズキ(男) 幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。 ユウリ(女) 幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。 ヒノハ(女) 幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。 リヒト(男) 幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。 謎の男性 街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...