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3話 白亜:どうしたら
しおりを挟む使わなくなった家電や家具が積み重なっている物置部屋の一角が、白亜の寝る場所だ。
簡易ベッドが置かれ、白亜はそこで眠っている。
マットレスは薄くなって、寝ていても背中が痛い。
だけど、そのベッドの上だけが、白亜のスペースだ。
枕元には、ママの写真をおいている。
「モモちゃん、ごはんです」
白亜は、枕に寝かせていたモモに話しかけた。
すでに薄汚れて、洋服もボロボロだが、愛くるしい顔はそのままだ。
ママにもらった、大切な、もう一人の家族。
巳影に踏みつけられたこともあるけど、目や口元の縫い目は丈夫で、まだ取れたことはない。
いつもズボンのポケットに入れているが、食堂で皿洗いをする時は、部屋においている。
前に洗い場で落として、濡らしてしまったときに、なかなか乾かなくて悲しかったからだ。
「モモちゃん。何してましたか? ボクは、おしごとでした!」
モモが「がんばったね」と微笑んでいる。
「ハンバーグ、おいしそーでした」
思い出して、ぐぅぅ、と腹の虫が鳴る。
今日の夜ご飯は、食堂の炊飯器から、余ったご飯をラップに包んだだけのおにぎりが二つ。
キッチンは伯父が仕切っていて、ホールは伯母の担当。
白亜の仕事は、皿洗いだけ。
夜ご飯は、食堂を閉めた後で、余りものを伯父が分けてくれる。
今日はメニューが売り切れたからと、おにぎりだけだった。
伯父たちは今頃、仲良く三人で夕食を食べているだろう。
「モモちゃん……ボク、ガマンします」
おにぎりをパクっと食べて、よくかみしめる。
一気に食べたら、すぐ無くなるから。
モモを胸に抱いて、ゆっくり、ゆっくりかんで食べた。
「ボク、いい子です……」
だからママも「えらいね」って、きっとそう言ってくれる。
長時間立ちっぱなしだから、毎日、足が痛い。
指先は赤くなって、しもやけになっている。
大変だけど、しかたないことだ。
「……食べちゃいました」
おにぎりはなくなってしまった。
ぐぅ、とまたお腹が鳴る。
まだお腹が空いているのに、食べるものがない。
白亜は空のペットボトルにいれた水道水を飲んで、空腹をごまかした。
食事を終えると、いつものように、部屋の窓を開ける。
秋になって、夜もだいぶ涼しくなった。
冷たい風が入ってくるが、かまわずに、夜空の星を見上げる。
「ママ、見てますか?」
両手を、空に向かって伸ばした。
天国は、あの空の、ずっと向こうにある。
白亜にそう教えてくれたのはママだ。
「つらかったり、寂しいときは、空を見上げるのよ」
ママがそう言ってくれたから、白亜は毎日、空を見上げた。
「ママ」
大好きなママの笑顔を思い出す。
胸が苦しくて、歯をくいしばる。
涙が、うるうると、あふれてきた。
何度も何度も問いかけた言葉を、また空に向かって放つ。
「ボク……どうしたら、ママのところに行けますか?」
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