友人になりたかったのに

Koko

文字の大きさ
上 下
1 / 21

変わったお客様

しおりを挟む
 8年前、10歳となりバース検査を受け、Ωだと診断された。その日、孤児院まで娼館の人が迎えに来て、俺の人生は大きく変わった。

5歳の時、領主様の屋敷に呼ばれ、夜の相手を頼まれた。自分の何倍も大きい人から手が伸びてくる姿は幼かった俺にはまるで地獄から手を伸ばしてくる悪魔のようにしか見えなかった。伸びてきた手を払い除け、領主様を殴って逃げて来てしまって、孤児院への支援は2分の1へと減ってしまった。それから先生の俺に対する態度が明らかに変わった。見た目がいいからと他の子より少し優遇されていたのが、ご飯はみんなの2分の1、服もボロ雑巾のような物になった。

それなのに、痩せこけた俺を娼館の人は俺を引き取ってくれた。俺の顔は美しすぎるから、と口だけが見える狐の面を被るように言われ、俺はそれから1人でいる時以外は絶対に面を外さないようにした。

初見世から5年。俺はこの娼館の人気NO.1になった。


ーー
ーーー

「シュカ、今から来るお客様には特別丁寧に接しなさい」

部屋で客を迎える準備をしていると、店主のコーディさんからそう言われた。

「はい」

今までも貴族や商人など地位が高めの人の相手をすることはあったが、今回のように「特別丁寧に」と言われるのは初めてだった。
どんな人が来るのだろう、と考えながら準備を済ませた。

客を迎える部屋にゆき、ただ人を待つ。
どんな人が来ても、喜んで貰えるようにするのが俺の役目だ。

「失礼しても良いだろうか」

扉が2度ノックされた後に、声をかけられた。
驚いた。ここに来る客はみな、ノックをすることはあっても、扉を自分で開けずに許可を待つ人などいなかったからだ。

「どうぞ」

こちらからそう言うと、彼は静かに扉を開けて入ってきた。面を挟んで、彼と目が合う。

αアルファだ。

入ってきた時の、圧倒的な存在感がそう伝えて来る。

「…すまない、俺は君を抱くつもりはない」

αの存在感に唖然としていた俺に聞こえてきた言葉に思わず耳を疑った。

「…抱くつもりがない?」

「金はしっかり払う。ただ俺は、部下に無理やり連れてこられただけなんだ」

「…まあ、お金を払っていただけるのならいいんですけど」

「でも、あと2時間何するんですか?」

「この部屋、決まった時間を過ごすまで部屋の鍵は開きませんよ」

「そうなのか…」

大きな肩を落とし、申し訳ないような素振りを見せる彼。

「では、俺と話をしないか」

今まで、色んな客の色んな要求に答えてきた。だが、「話さないか」と言われたのは初めてだった。

「…いいですよ」

「ありがとう」

「なに、話します?」

「君の名前を教えてもらいたい」

「俺はリシュカルです」

「リシュカルか、俺はアレクセイだ」

「アレクセイ・ライリー」

ライリー、という姓を聞いてコーディさんに「特別丁寧に」と言われた理由がわかった。
この国の三大公爵のひとつ、ライリー公爵家。
娼館からあまりでたことのない俺でも知っているかなりの名家だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傾国の美青年

春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。

婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。 そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。 それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。 しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。 ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。 前半は受け君がだいぶ不憫です。 他との絡みが少しだけあります。 あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。 ただの素人の小説です。 ご容赦ください。

ルピナスの花束

キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。 ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。 想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。

「俺の子を孕め。」とアルファ令息に強制的に妊娠させられ、番にならされました。

天災
BL
 「俺の子を孕め」  そう言われて、ご主人様のダニエル・ラーン(α)は執事の僕、アンドレ・ブール(Ω)を強制的に妊娠させ、二人は番となる。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

番って10年目

アキアカネ
BL
αのヒデとΩのナギは同級生。 高校で番になってから10年、順調に愛を育んできた……はずなのに、結婚には踏み切れていなかった。 男のΩと結婚したくないのか 自分と番になったことを後悔しているのか ナギの不安はどんどん大きくなっていく-- 番外編(R18を含む) 次作「俺と番の10年の記録」   過去や本編の隙間の話などをまとめてます

βの僕、激強αのせいでΩにされた話

ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。 αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。 β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。 他の小説サイトにも登録してます。

処理中です...