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ジェイは奔走した。ナラーがおらず騎士団の訓練も無い今こそ自由に、それもナラーに悟られる事なく動ける時間だった。ナラーはリナ達後援会(ファンクラブ)がナラーの傷を癒そうとしている事には少し感づいているが、それにジェイが噛んでいる事はまだ知らない。

 

ジェイは後援会の会員である貴族夫人が裏でコソコソではなく表立って行動できるように、貴族当主との面会を増やした。

現第三王子であり、今後は臣に下り公爵となるであろうジェイとの縁が新たに出来た貴族も多く、喜ばれる事になる。王太子や第二王子より少し国家転覆を警戒されるが、ジェイには全く興味が無くナラーのためだと説明する事で、穏便に事は済んだ。

 

この国にはナラーの傷を治す医療は発達していない。

 

可能性があるとすれば傷の残っている皮を剥いで自然治癒で任せる方法ぐらいだった。

小さい傷であればそれも出来るだろうが、ナラーの傷は広範囲に渡っているため流石に無理だった。

他国や伝承まで見れば「聖教国の聖女」「癒しの水泉」「エリクサー」あたりならどうにかなるかと思われた。

聖女が個人の依頼を聞く事は無い。彼女は大災害時のみ祈りを捧げるために現れる。

そして若返りの薬とも長寿の薬とも言われる伝説の治癒薬エリクサーは、調べていくうちに癒しの水泉の別名である事が考えられた。

 

最期の癒しの水泉については存在している。

そこにたどり着くまでにほぼ全ての生物が死ぬと言われている死の砂漠の果てにある。

稀に辿り着いた者が水筒に入れて持ち帰り、多大な富を得る事が出来る。しかし他人が使おうとしても使えない。泉から汲み取った本人が癒したい者の体に塗る事で治癒の効果を発揮するためだ。最後に市場に出たのは10年程前である。

 

「治癒の水泉の水を手に入れればナラーを治癒できるが、それを依頼するとなると金もかかれば治療の際にナラーの体を見られる事になる…」

 

そしてナラーは未だ乙女のはず。そして元来の硬い性格に比べて騎士である。

裸を見られた結果、どのような行動に移るかわからない。

 

「もしかしたら責任を取れ!と結婚を迫ったりするかもしれない…」

そうなったら僕は耐えられないだろう。

「やはり…僕が、僕が行くしか!」

 

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