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1章 始まりの街

24話 憩いのカフェ マーブル

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 午前、午後とバイトを入れている理沙は、バイト先では少し有名人になっていた。きっかけは、悪質な客から店を守った事が発端で、今では客受けも良く、店も繁盛し出した。

「理沙さん、昨夜は私のお店を利用してくれましたね」

「……やっぱり、あの店は咲夜さんの?」

「はい、私もプレイヤーとして、ログインしてるんですよ」

 満面の笑みを浮かべ、咲夜は理沙に話しかける。昨日、亜里沙の後輩たちに案内されてはいったお店が、バイトとして働いている店と同名だった。経営者も目の前にいる咲夜で、何故か、理沙が利用した事を知っていた。

「支払いは、理沙さんがギルドカードで払いましたね? その時に、カード内の情報が読み取られるんですよ」

 情報とは、ゲーム内の情報以外に、リアルの情報を指しており、ギルドカードには個人情報が隠されている。表示はされないが、ギルドカードを使用する度に、個人情報が流失する。

 流失すると言っても、本名、年齢だけで、住所、電話番号は流失されない。プライバシーは一応、管理されている。

「ギルドカードで支払うと、プレイヤーの情報が使用店に流れ、リアルで反映される仕組み何ですよ。それにより、ゲーム内で訪れた人が、実際に訪れたら、店側でサービスを提供してるんです」

 理沙はその話を皿洗いをしながら聞いていた。

「理沙さんが、私の店を訪れてた時は、驚きましたよ」

 昼間の忙しい時間を過ぎ、咲夜は休憩をしながら話しかけてきた。【憩いのカフェ マーブル】は現実に存在する店で、理沙のバイト先でもある。理沙自身もバイト先の店に訪れるとは思ってもみなかった。

(何となく、雰囲気がこの店と似てると思っていたけど)

 今思うと、メニューも実際に提供している物と同じだった。ゲーム内の料理と同じ物を、現実の店にも出している。

 ゲームとリアルの違いは、料理の食べた時の満腹感だけであり、食感、味覚、匂いはリアルと全く同じである。再現率が高いのは、実際に店で働いている人がプレイヤーとして、ゲーム内で料理をしているからだ。

 TDOの料理は、食べる事でステータスの異常やHP、MPを回復する効果がある。回復ポーションもあるが、料理の方が効果が高い物が多い。只、利便性と即効性はポーションの方が高い。

 液状のポーションは戦闘中でも飲む事が出来る。しかし、料理は食べるという行為を行わなくてはならず、戦闘中の摂取は困難である。余裕のある時、タワーないで休憩をする時は料理を食べて回復する。

 料理とポーションは区別され、どちらも需要の差別はない。

「じゃ、たまに、休憩時間に姿を消しているのは…」

「ログインをして、店の準備をしてるわね」

 咲夜が休憩中、理沙は、皿洗いを行い、店の掃除をしている。今日、珍しく前にいるのは、理沙が店に訪れた事が嬉しくて、話したくてこの場にいる。

 星乃咲夜、今年で20歳になる独身の女性。夢は自分の店を持ち、カフェを開く事。その夢が実現し、店を開けたが…。客が来ない。そこで、咲夜はTDOに目を付け、投資した。

 投資金額が少なく、店を持つ場所が決められていたが、彼女曰、競争相手がいないので逆に宣伝になったらしい。始まりの街で咲夜の様に、店を開いているプレイヤーが何人かいる。

「投資金額が少ないから、始まりの街にしか店を出せなかったけど。今では満足のいく収入を得て、嬉しいわね」

 咲夜は、10万円の投資で、始まりの街に店を開く事が出来た。最も宣伝効果が高い国は、エドリア王国で、飲食業界が多く投資を行っている。有名なケーキ店、高級レストランなど、多くのプレイヤーの店があり、リアルと同じメニューを提供している。

 ゲーム内で食べて美味しかったから、リアルの店に行こう。そういう考えを持つプレイヤーがいるおかげで、咲夜の店も営業し出してから徐々に収益を伸ばしていた。

 ――――理沙が【憩いのカフェ マーブル】に立ち寄ったのは偶然だった。

 自宅のアパートから電車で1時間半と言う距離にある店で、バイトとして雇われたのも、トラブルが原因で、成り行きからだ。

 当時、理沙はバイトの面接の為、近くの工事現場を訪れていた。TDOの知名度が広まり、大掛かりなゲーム施設の開発が行われていた。理沙は体力に自信があり、力仕事も苦にはならなかった。

 時給2千円という金額も高く、理沙の様な建築の知識がなくても作業員は募集されていた。しかし、少女と言う事で雇われなかった。男が多い現場に、理沙の様な若い娘がいると、何かが起きるかもしれない。

 現場監督の言い方に不満を感じたが、実際に働いているのは男性ばかりだった。理沙は、仕方なく諦め、帰宅をしようと思い、昼食の時間に気づき、咲夜の店に立ち寄った。

 工事現場から数百m離れた場所で、目の前の大通りから、少し奥に入った場所に、咲夜の店があった。目立たない隠れた店。それが入った時の第一印象で、和風テイストの落ち着いた感じだった。

 その時は、理沙しか客はおらず、咲夜も暗い雰囲気で接客をしていた。何かに怯えたような感じで、口調も元気がなかった。

 その理由は、ガラの悪い若者のたまり場になっていた事だった。

 茶髪に、耳にピアスをした数人のグループが入って来ると、テーブル席に座り、注文する事なく、コンビニで買ってきたビールを開けて、飲みだした。煙草は吸うし、声はうるさいし、最悪な状況だった。

 理沙も美味しそうに食べていたパンケーキも、彼らの煙草の臭いで台無しになる。

『ごめんなさいね…騒がしくて…』

 申し訳なく話す咲夜の顔が印象に残り、理沙は騒いでる若者に苛立ちを感じていた。バイトに落ちた事もあり理沙は機嫌が悪かった。その彼女に、酔っぱらった若者が絡んできた。

 凄くイライラしていたので、理沙は手を挙げた。店で乱闘が起き、咲夜は怯えてカウンターに身を潜めた。理沙は、酔っ払いの若者全員をフルボッコにした挙句、店から叩き出した。

 咲夜に若者を追い払ってくれた事で感謝されたが、店の弁償も言われた。理沙たちが暴れたせいで、テーブルや椅子が壊れたり、食器が割れたりした。それを弁償する事になった。警察に届けはされなかったが、理沙も暴れた事を反省し、弁償の代わりに働く事になった。

 2時間かけてきている事を話し、交通費も出してくれる優遇具合に驚きながら、今日まで働いていた。理沙は、店を守る店員として、時々来るガラの悪い客の対処をしていた。

「本当に、理沙さんがいてくれて助かるわね」

「最近、大人しくなりましたからね」

 咲夜の店が、溜まり場として使われていたのか、理沙が働き出した時は、良く、ガラの悪い客が来ていた。今では、一般人が多く、店は繁盛しているが、咲夜曰く、理沙のおかげでTDOに投資する事を決めたらしい。

 正直、理沙を雇う程、店は繁盛していない。バイト代も支払えるか不明だと言われた。それが、宣伝効果で客が増え、理沙に給料を払う事が出来た。理沙がゲームのHDDを買う事が出来たのも、宣伝効果によるものである。

「そういえば、咲夜さんはゲーム内でも?」

「サクヤですね。アバターもリアルと体形は同じで、種族は、エルフにしましたわ。金髪で、職業はフードクリエイターですね」

 咲夜が言うには、料理に関わる職業で、素材さえあれば、調理器具がなくても料理が出来るらしい。ステータスも種族によって初期値が異なっており、エルフは魔法が得意と言う事で、MPが100からスタートする。

 フードクリエイトというスキルは、理沙のMPゴーレム作成と同じようにMPを使用する。より美味しく、よりリアルに近づける為に、多くのMPが必要という。

 それに、投資をした事で店と、店番用のNPCを提供される。昨夜は店の準備を行いつつ、時間を見つけてはレベル上げを行っている。

「理沙さん、今夜ですけど、一緒に出掛けませんか?」

「咲夜さんと? ゲーム内ですよね?」

「はい、理沙さんともっと親しくなりたくて」

 何故か赤面している咲夜である。保護欲を誘われそうな女性。理沙より年上なのだが咲夜は小柄で、制服を着ると女子高生に見えてしまう。それに、幼顔で、理沙も時々、愛撫でしたい衝動にかられる。

(恐ろしい人だ)

 理沙は、皿洗いを終えると、咲夜の向かいの席に座る。休憩時、好きに飲みたい物があれば飲んでいいと言われていたので、コーラをコップに入れて持ってきた。

「店は、どうします?」

「いつもより早く閉めるわ」

 午前は10時~13時まで、午後は15時~18時まで、3時間しか開けないが、今日は17時に閉めるらしい。いつも、18時に店を出て、19時半に帰宅し、夕飯とシャワーを浴びて、ログインしている。

「明日は休みだし、理沙さんとは、フレンド登録も行いたいしね」

「分かりました。ログインしたら店に行きます」

「ええ、待ってるわね」

 休憩時間を咲夜とゲームの事を話しながら過ごし、午後の営業を行う。予定通り1時間早く閉めると、理沙は帰宅する。咲夜も19時ぐらいにログインすると話しており、理沙もその時間帯に入る様に支度する。
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