石になった少女

雲黒斎草菜

文字の大きさ
上 下
5 / 45

5)消えた村人

しおりを挟む

「それ以上深入りするな!」
 俺の襟首をつかんで、大声を上げるイチ。無表情で白い顔には似合わない真剣な声だった。

「ば、バカヤロ。脅かすなイチ!」
 イチは振り返って抗(あらが)う俺に、より険しい口調で命じる。
「こっちへ来い!」
 いたずら猫みたいに首根っこを引っぱられて、外に引き摺り出された。
「お、おい。ちょっと痛ぇだろ」
 瞬時に俺の自由を奪う突発的でかつ強引な行為に、ちょっとビビるのは仕方が無い。ヤツは今までにないほど厳しい視線で睨みつけてくる。それはマジで冷や汗が滴るほど鋭く尖っていた。

「テル。お前は恐怖の感情を漏らし過ぎている。見ろ」
 クルミが悲しそうな顔をして、しょぼんと道端にしゃがみこんでいた。

「な、なに? クルミちゃんどうしたの?」
 サクラが駆け寄り、抱き上げようとして腕を回すが、それが空しく宙を切った。
「えっ!」
 慌てて引っ込めた手を震わせて、助けを求めるような顔を俺によこした。
「ちょっと、透き通ってるよ! なんとかしてよ。消えていくよ、テルぅー」
 ヤツにしては珍しく情けない声だった。

「あり得ん!」

 幽霊だ──。
 なんてことは思わない。今どきの高校生にもなると、アニメや関連映画から膨大な情報を得ているもんだ。不思議な現象を目の当たりにして、即行で幽霊や宇宙人に決め付けるほど単純な考え方をするヤツは稀な存在だし、見つけるほうが難しい。もしもいたら、そんなヤツは『ガラケー(パカパカ携帯)』扱いにしてやる。

「幽霊よぉ……」
「あ……………」
 こ、こんな身近にいたとは……。

 ガラケー野郎は放っておくとして───。


 人が半透明になる、という不可思議な状態は絶対にあり得ないことで。
 と言うことは……。

「お前らの話、マジか!」

「それがしはウソを言ったことはない」
「今朝、『道に迷った』って言ってたじゃないか」
 イチはじろりとこっちを睨んで黙りこくりやがった。こいつ都合悪くなると黙るタイプなんだ。サクラと同じじゃないか──

「そうか……なるほど、納得がいったぜ……」
 イチはサクラのインスタンスだとか言っていた。つまりサクラに生き写しだということだ。
 じゃあ。こいつもバカだな。

「よかったですぅぅぅぅ」
 突然クルミが飛びついてきた。実体感バリバリで、力いっぱいぶつかるその柔らかい感触に感激する。そのままぐっと抱き寄せたい衝動は、サクラの怖い目で吹き飛ばされたが、この状況に度肝を抜かれつつ困惑し首をひねる。

「どういうことだ? 元に戻ってるぞ」
「さっき、テルさまが恐怖的感情波を放出しそうになったのでぇ、わたしの存在が薄れかかったのでぇぇーす。でももうだいじょうぶでぇぇす。きれーに消えてまぁぁーす」

 俺の腰に抱きついてぶら下がるクルミを引き離しながら、サクラも尋ねた。
「もし、あのまま消えたらどうなるの?」

 クルミの代わりにイチが説明する。

「どうもならんが、何度も繰り返すとスーパークラスにふさわしくないと判断され、オレンジストーンが没収される」
「オレンジストーン?」
「そなたが持っておるオレンジ色の石のことだ」
 イチは何の感情も浮かべない白い顔で俺のリュックを顎で示した。
「オレンジストーンって、そのまんまじゃないか。もっと凝った名前にしろよ」
「そんなこと、それがしに言うな」
 サクラは珍しい石だから持ち帰る、と言ってリュックに入れていたことを忍者野郎はきっちり知っていたんだ。

「じゃぁ。マジでここは戦国時代?」
 語尾がひどく疑わしげな感じに吊り上がる。まだ俺は信用していない。

 眉毛にかかった前髪をキザったらしく掻き上げ、イケ面野郎が堂々と言う。
「それがしはウソを吐かん」
「ウソをー、吐け──っ!」

 タイムスリップはSFでの定番だが──百歩譲って、時間の移動が起きたとしよう。では、いつそれが起きたんだ?
 かっちょいいマシンも見ていないし。それらしい現象も起きていない。どうしてもこれだけは信じることができなかった。

「タイムスリップする時は、こう、空間が『うにゃぁーん』って歪むもんだろう?」
「オマエはテレビの見すぎだ」

「………………………………」
 家庭教師のお兄さんに叱られたような気分だった。

「あんたも忍者のクセに、なんでテレビなんか知ってるんだ?」
「イチはいろんな時代を巡り歩いてるからでぇぇーす。わたしは初めてなのでドキドキしてるのぉ」
 その口調を聞くとこっちがドキドキするんだ。別の意味だけどな──。

 とにかくここでウダウダ言っていても仕方が無い。こいつらが不思議な存在ということは認めざるを得ない。だいたいミミズを食うだけでも、不思議を通り越して、奇態(きたい)の域に達するからな。

「とりあえずだ……。今が戦国時代だとしよう。じゃぁ、あの家は……」
 と言いかけてクルミをうかがった。また、さっきの恐怖的な妄想がよみがえりそうになったからだ。

 イチもそれをすばやく感じ取ったようで、クルミの目線までさっと身を屈め、
「姫さま……?」
「……はい?」
 透き通った瞳を向ける少女に、もの柔らかな声音を落とす。
「お休みのお時間です」
「えぇぇ? まだ眠たくありません」
 クルミは可愛らしい目を見開いて少し口を尖らせ、イチはそれに応えるように、吊り上がった切れ長の目をさらに細くして、柔和に微笑んだ。

「では、ほんの少し目をおつむりください」
「うん」
 コクリとうなずき、素直に目をつむった。

「テツ。ハルト(停止)だ!」
 瞬時にクルミの姿が消えた。

「く……クルミちゃん!」
 サクラが一瞬動揺したのだろう。接触の悪くなったビデオ映像と同じだ。イチの忍者姿の輪郭がぼやけ、数瞬、チラチラと点滅を繰り返した。
 しかし、すぐにしっかりとした姿に戻ったイチが瞳の色を濃くする。
「サクラどの。そなたかなりの修行を積んでおるな。少しぐらいのことでは心が乱れぬようだな」
「まぁね……」
 修行の成果なんかじゃねえ。たんにバカなだけだ。
 それより悪かったな俺は乱れまくりで──クルミの白くて綺麗な足を見るたびに鼓動が跳ねるし、今なんか瞬時に消えたのを見て、心臓が止まりそうになったぜ。

「クルミちゃんはどこ行ったの?」
「インスタンス化を一時的に解除しただけだ」
 イチが俺のせいみたいにこっちを睨み、
「何度も姫様の実体を不安定にさせたくないからな。オマエのせいで……」
 腹立つヤツだ。しっかり言い切りやがったぜ。

「とりあえず。一度現実を見てもらう。それからこれを肝に据えて二度と動揺するな。驚く程度は問題ないが、恐怖心が最も影響が出る。何が起きても怯えてはいけない。我を忘れてパニックに陥ったりすると確実に姫様に影響が出る。いいな、テル!」

「なんで俺ひとりが責められてんだよ。つまり俺は怖がりだというのか! バカにすんな。こう見えてもサバイバル部の部長だ。何があったって怯むわけが無いだろう」

「ではこちらに参れ」
 イチに誘われて、もう一度家の中へ。

「いいか。よく目を開けて、現実を見つめろ!」
 イチはボロボロになった障子を勢いよく開けた。

「な────っ!」

 凄惨な光景が視界に飛び込んできた。
 あまりの生臭さに手で口と鼻を押さえ、胃の内から込み上げてくるモノを堪えた。腰が砕けそうになり、足がぶるぶる震えている。
 立っていられないかも………。

 部屋の中は血の海だった。だけどだいぶ時が経ったのだろう。血液は黒々と変化しており、粘り気のある液体を白い畳の上にバケツでぶちまけたような光景だった。
 見た瞬間にはっきりと認識できた。何かで斬りつけられ、致命傷にまで達したコトを。

 苦し悶えた犠牲者は暴れ回り、何本もの赤黒い平行な筋を障子から畳にかけて走らせ、激しくのた打ち回った後が、影みたいにくっきりと残っていた。

「………野武士の仕業だ」


 ──説明しよう。
《テルたちが飛ばされたのは一五九六年である。つまり歴史の上では、八年も前の一五八八年、天正一六年に豊臣秀吉が刀狩令を出しており、農民は武装などせず農業に専念せよ、としたのである。だがこの物語では、まだ荒々しい戦国の時代が続いていることになっている。これはこの先の伏線であるので、悪しからずであ~る》


 この凄惨な状況を見ても、イチはまったくの無感情だった。
 俺は込み上げてくる苦い唾液を必死で堪え、
「これは映画だ……」
 そう、こんな現実はあり得ない。昨日までは……映像の向こうでの出来事だ。

「その目でよく見るんだ。これが現実だ……」
 細く尖った鋭利な視線でイチから射すくめられて、幕が下りるように目の前が暗くなった。
 足が勝手に震えだし、背筋が粟立ち、意識が遠のく。
「気を失っている場合ではない。この時代ではこれが日常なのだ。しっかりしろ!」
 パンッ、とイチに背中を平手打ちされて、失いかけていた意識が戻った。

 サクラが気がかりになったが、この忍者野郎が何事も無く動き回っていると言うことは………。
 案の定、歯を食いしばってしっかりとこの光景を睨みつけていた。

 マジでこいつ女か?
 肝が据わっているどころか、さらに磨きがかかってんじゃんかよー。驚愕を通り越して、一周して戻ってくるぜ。このブーメラン女め。

 ナイーブな俺はそうは行かない。
「おぇぇぇ」
 立ち込める不気味な臭気に、突然と嗚咽が込み上げてきた。

 くそっ!
 せっかく食った昼飯が……もったいねえってんだ。

 もう何考えてんだか、支離滅裂のくちゃくちゃだった。頭の中は恐怖と驚愕と戸惑い。腹からは押し寄せる嘔吐感。味わったことのない悪寒の混ざる混沌としたスープに満たされ、それを吸った脳髄が延びきったラーメンみたいに、ぐだぐだになってきた。

 なのに──、
 もう限界だとわめいているというのに、イチはとんでもないことを言い出して追い討ちを掛ける。
「それがしはこの時代が好きで、この村で何度も暮らしていた。初めは野良犬として住み付き。その後は、鶏(にわとり)として飼われていたこともある。この家の幼女にもよく追いかけられたものだ。あの頃が懐かしい。可愛らしい子供だったな」

「ニワトリっ!?」
 なんちゅうことをのたまうんだ、この忍者野郎。
 お前は支離滅裂、インチキ野郎だ。
 と、文句のひとつでも言ってやりたいところだが、クルミが消えるシーンを見せ付けられていては、声にも出せなかった。

 もしそれが真実だとすると……イチは気になる言葉を残していた。
「この家の幼女って………ここか?」

「これよ、テル……」
 マジ顔のサクラが、部屋の隅を指で示した。
 久しぶりに見る険しい顔つきに驚きを感じつつも、そっちへ視線を振った。

 かろうじて血の海に触れることなく、そこには余った布切れで作ったと思われる稚拙な人形がひとつ。それと同じ着切れで拵えられた蒲団が掛けられ、寝かされていた。大切にされていたのだろう。ちゃんと小さな枕まで準備されていた。

「可愛いまくら………」
 サクラはそっと蒲団をめくると、人形を抱きしめて声を震わせた。
「こんな小さな子がいたのに……………なんてことを……野武士…………絶対に許さない……」
 桃○郎侍みたいなセリフを吐き、険しい目付きで俺を睨んだ。その目の奥に光る覚悟を見つけてたじろいだ。

「お前、マジで怒っているのか?」
 抜けそうになる腰を無理やり引っ張り上げ、半分、這うようにして外に逃げ出した。

 サクラはぐっと奥歯を噛み締め。握りこぶしを震わせて土間から出て来ると、じっと地面を睨みつけている。それは何かの決意と何かを耐え忍ぶ不気味なオーラを発散させていた。

「お、おい。サクラ………」

 こいつが今ここで放っている研ぎ澄まされた刃物にも似た威圧感──これが初めてではない。

 中三の時、学校一の悪(わる)グループから、体育館の裏へ一人呼び出されたサクラ。その時、放った威圧感もこれと同じだった。
 俺も掩護すべく、震えながら付いて行ったんだが──結局、その必要はなかった。こいつの武道歴は嘘ではなく、マジで強かった。ま、女だてらに強いという噂が相手のプライドを傷付けたらしく。なら本当かどうか見極めてやろうと、最初は脅し半分、おちょくり半分で呼び出したようだ。サクラにはそれが逆に気に入らなかったらしい。

 ヤツは本気で怒った。相手のボスが持っていた木刀を格闘家のような動きで奪い取り、それで全員をめった打ち。逆に俺が止めに入ったぐらいだ。それ以降、連中は全員サクラの家来となって中学を卒業した。その噂が今の高校のうざい連中にも浸透しており、入学当時から姉御と付き纏われた。

 それを嫌った彼女は、わざと俺を慕う弱々しい女子を演じて、事情を知らない一般生徒の前で仮面を被っている。おそらく仮面を脱いだ本当のサクラを知っているのは、俺とその悪連中だけだろう。


 俺たちの後を追ってくるイチの輪郭がボケて、時々チラついていたが、
「そなた、やはり精神力の強いオンナだな。あの状況を見て……。この程度で済むとは」
 腕を広げて自分の存在状況を俺たちに見せつけた。

 イチの不安定さはすぐに解消し、それへとサクラが尋ねる。
「あの家の人たち、どうしたの?」
 こいつ、声も震えていない。本当にイチの言うとおり、すげぇ精神力してんだ。
 こっちは息をするのがやっとだ。まだ腰に力が入らなくて歩くのもままならない。家から少し離れた場所まで移動して地面の上に座り込むのが精一杯だった。

「警察に知らせたほうがいいんじゃないか?」
 震え声で見上げる俺をイチは鋭い視線で睥睨して、今の言葉を無視した。

「この時代は強いものが生き残る世界だ。野武士が暴徒化しているのが日常的なんだ。だから農民も身を守るために武装化した。だが戦う必要の無いものが手を出すと、あの家のように悲惨なことになる。かといって、手をこまねいていると、すべてのものを力ずくで奪われる」

 サクラ、お前は信じるのか──ここが戦国時代だということを……。

「村人は皆殺しに遭ったの?」

 俺は信じないぜ………。

「四十人の村人は覚悟を決めて戦ったが、男や老人は全員切り殺された。女は辱(はずかし)めを受けて、生き残った子供もどこかへ売られた」

 なぁ。応援を呼んだほうが………。

「死体が無いじゃない」
「この家は野犬が綺麗に掃除したようだ」

 うぉぉっぷ。
 またまた何かが込み上げてきた──早く自分ちへ帰りたい。

「……他の家は見ないほうが身のためだ」
「そうね……」

 ──誰も聞いちゃくれない。俺ひとり草の生えた道端で放置プレイ。イチとサクラが向き合って会話をしている。
「かわいそう……」
 小さな声で、ぽつりとサクラ。
 俺だって同情しているぜ。その連れ去られた女の人たちを……。


「どうだテル。少しは落ち着いたか?」
 イチは幾分優しい表情に戻っていた。
「まだ信じられないようだが、ここは間違いなく戦国時代だ」

「現代に生まれてよかった……」
「正直だな」
 イチに言われてもなんだか嬉しくないし、まだ少し釈然としなかった。

「あたしはここでもいい……」
「何だ? 唐突に……」
「いちど本物の刀を振ってみたかったんだ」
 俺は長い溜め息を吐いた。
「あの光景を見た後に、女が言い出すセリフじゃねえな」

「ふっ………」

 イチは忍者衣装のスカーフを草風になびかせ、口元を持ち上げてテツへ命じた。
「姫様の再生を再開して、オマエは夕食の準備と武器を見つけて来い」
 はふっと、息を吐いたテツは一目散に村の奥へと走って消えた。
 と同時に、堅く目をつむったクルミが現れる。きゅっと閉じた小さな唇がほどけ、
「……ねえ? もういいの?」
 可愛らしい声が漏れた。

 イチはちらりと俺の様子をうかがってから、
「結構ですよ、姫様」
 瞬きをしてから目を開ける愛くるしいまでのクルミに向けられたその声は、とても優しかった。

 武器って……マジかよ……。
 イケ面忍者の言葉が、俺の鼓膜の奥で何度も木霊していた。

「とにかく野営地に戻ろう」
 どう見ても現代風の家屋ではない家を後にして、俺とサクラはトボトボとイチとクルミの後を付いて歩いた。

 行き先は山から出てきたところに広がっていた村外れの広場だ。やはり今日はそこで野宿をすることになるのだろう──あんなに好きだったキャンプが、今はとても重たく負担に感じる。

「なぁサクラ……。どう思う?」
 隣で胸を張って歩いているサクラへ、溜め息混じりで問いかける。
「うん。村の人たち可哀想……何とかしてあげたい」

「半年も前のことだ。もう手遅れだ」
 クルミの手を引いて先頭を歩むイチから伝わる声が痛い。
 サクラは、キッと険しい視線に切り替えるとその背中を睨んだ。
「じゃぁ。野武士の連中をぶっ殺す」
 びっくりしたような表情を浮かべて、歩きながら後ろへ顔をひねるクルミ。

「姫……」
 前を向くようにとイチに頭をねじられて、少女はその無表情でつかみどころの無い顔へ大きな瞳を上げた。
 邪気などをまったく感じさせず、着ている純白のワイシャツよりも濁りの無い面差しで、まっすぐイチを見上げていた少女は、朗らかに微笑むと、長い黒髪を風にはらませて前を向いた。
 見ていてとても眩しいクルミとは対照的に、俺の気分はこれから起こり得る状況を想像して暗く沈んでいた。

 …………憂鬱だ。

 サクラは決心したらしく、毅然とした態度を取っているというのに、俺はまだ怯えていた……。こいつはどこまで強い精神をしているんだろう。なぜ動じないんだ?
「あたしは、悔いが残らない生き方をしたいの。人生は一度きり。学校でも家でも。どこにいても何をしても、やり直しはできないでしょ。だから、あたしは正直に生きるの、まっすぐに突っ切るの」

「正直すぎるのも良し悪しだろう。最悪すべてを失うぞ。そいうのは暴走人生っていうんだ」
「失ってもいいの……。ひとつだけ残っていればいい、」
 サクラは意味深に言葉を区切って立ち止まり、
「──ね。憶えてる?」
 柔らかそうなポニーテールを揺らして、こっちに顔を向けた。

「ん?」
「中三の時、あたし番長グループをぶっ潰したことあったでしょ」
「おいおい。女の吐く言葉じゃねえぞ……」
「あたしが怒りに暴走した時、テルが止めてくれたの……憶えてる? あれ、嬉しかったよ」
「そ、そうなのか……よかったな」

 あの時、不良グループを相手に暴れるサクラはとてつもなく強かった。逆に臆病な俺は怖くて震えていた。今とまったく同じだ。
 女を守るのは男のほうなのに、手を出せないでいる自分が無性に腹立たしくて、でも体はすくんで動かなかった。恐怖に目をつむってしまい、気づくとサクラは暴走していた。だから無我夢中で止めただけなんだ。許しを乞うのは俺のほうだ。それが嬉しかった、と言われて、今、とっても困っている。

「あたしのことを見守ってくれている人がいるって、思ったの……」
 そんな恥ずい言葉を平気で並べやがって………、俺はお前の暴走にビックリして止めただけだ。
 こういう場合、女が止める側だろ………。
 つうことは、こいつより強くならなければ、いつまで経っても俺はサクラのブレーキ係ということか……。

「頼むから無茶はやめてくれよな。俺は臆病なんだから」
「ううん」
 なぜかサクラは、伏し目がちに頭を振る。
「臆病じゃないよ。怖いってことが分かるから……それだけ大人なのよ。あたしはダメ。バカだから熱くなると周りが見えなくなるの……」

「……でもやっぱ男は強くなきゃダメだろ? 俺も修行積むから剣道教えてくれっか?」
 サクラは嬉しそうに顔を上げ、目元を桃色に染めた。
「無理しなくていいの。テルは今のままでいいよ。スケベでアホで、それでも元気で、あたしのことを忘れないでいてくれたらそれでいいの」

 淡く色づいた頬をぷるんとさせて、サクラは足早にクルミとイチを追いかけた。
「歯が浮くような言葉を並べんじゃねえ……」
 その背に向かって小声でつぶやく。

 しかしまぁなんだ。お前ほどのじゃじゃ馬をコントロールできるヤツは、そういないだろうからな。それを俺がやるってのも………いいかもな。

 イチとクルミも数メートル先で立ち止まり、半身をこちらに向けて待っていた。柔く優しい光を帯びたクルミの視線が俺たちに注いでいた。

「クルミちゃん。いこ……」
「はいぃ……」
 二人は手を繋いで広場へと急いだ。

 雑草が茂る広場へ戻ると、俺たちはテントを張った。今さらジタバタしても自宅へ帰る道は途絶えている。だけど、まだ淡い期待を持っていた。明日の朝、目覚めたらすべて元に戻っている、という、ほんとうに薄っぺらな望み……夢オチでもなんでもいい。そうだこれは夢だ。きっともうすぐ目覚めるはずだ。


「イチ。暗くなる前に俺たち焚き木を拾いに行って来る」
 夢の割に現実的な提案をする俺をイチが制する。
「待て。野武士が近くにいるかも知れぬ。焚き木拾いはそれがしが行く。オマエたちは姫とここでテツの帰りを待て」
 とってもリアルなことを言ってくれるじゃないか。これは夢なんだろ?
「現実だ!」
 やっぱし……。
 となると従うしかない。
 高飛車に言われようが、上から目線で告げられようが、今の俺たちはこの時代に詳しいイチにすがるしかないのだ。


 暮れ始めた空が赤く染まり出した。澄み切った青空が真っ赤に燃え、ひんやりとした透明な空気が漂う。夏休みは始まったばかりだというのに、イチの言うとおりここは秋の色一色だった。

 原っぱでは赤い太陽へ向かって、クルミが『夕焼け小焼け』を口ずさんでいた。もしかしてと思うが、俺の記憶までコピーされているのだろうか。別次元の生命体が童謡など知るはずが無い。なのにクルミは朗々と歌い続け、またその澄んだ歌声は、この光景にぴったり当てはまっており、違和感の無い状況に心が落ち着いた。

「子供がかえったあとからは………」
 夕日に赤く照らされたシャツを風になびかせ、クルミは歌の二番に入る。俺の記憶には二番の歌詞は無い。

「なぁサクラ……野武士って、本気かな?」
 すらすらと唄い続ける少女をぼんやり見つめながら、サクラに尋ねた。
「ん~。どうだろうね。出会ったら分かるよ、テル」
「相変わらず、お気楽なヤツだなお前……」
 何かとんでもないことがあの家で起きたことは確かだ。だが、クルミたちがおかしな連中なのはわかるが、ここが戦国時代だという確証はまだ何一つ無い。

 落陽のスポットライトを浴びていた歌姫は、唄い終わると、たたたと俺たちの前に駆け寄り、いつものように膝からダイブして、
「これが夕焼けなんですねぇ。初めて見ましたよぉ」
 ぷにゅぷにゅした頬をほころばし、暮れゆく茜色の空を見上げた。
「はぁ………綺麗ですぅ」
 オレンジ色に輝かせた無垢な瞳を夕空の中に巡らせて、思いを馳せている様子だった。

 やがて空が濃い紫色に深まるころ──、
「あっ、それって何ですかぁ?」
 忙しなく膝でにじり寄り、サクラの胸ポケットから頭を出しているモノを指差した。
「あぁん」と、取り出したのは、惨劇のあった家にあったボロ切れで作られた人形だ。

「お人形よ……」
 人間界でこれを見るのも最初なんだろう。簡素な作りの人形なのに、クルミは目を大きく丸めた。
「すごぉい。どうしたんですかぁ、それ?」
「うん。一人で寂しそうに蒲団に入っていたから、一緒に行こうって連れて来たの」
 サクラは胸ポケットから出して、クルミの小さな手に握らせた。

 透き通ったガラスのような瞳を好奇に輝かせ、喜色に満ちた面差しをそれへと向け、
「これが人形?」
 ゆっくりと広げた手のひらで、それをそっと寝かせた。
「可愛い………。これって人間の赤ちゃんのレプリカなんですよね? ね。これ、わたしにください。大切にします」

 きゅっと胸に抱いて、ワイシャツの裾を翻して舞うクルミに、サクラは慈愛に満ちた暖かい視線を注いだ。
「いいよ。きっとその子もこの半年間、寂しかったと思うんだ。大切にしてあげてね」

 天使のような笑みを浮かべて、サクラからボロ人形を受け取り、それへと頬を寄せるクルミ。
「ありがとうございます。サクラさん」
 歓喜あふれるにこやかな顔で人形を抱きしめると、少女は再び草っ原へ戻った。

「あの人形の持ち主も、きっとこの広場で遊んだことがあるはずよ……きっとね」
 ギリッとサクラが噛み締めた奥歯の音が聞こえてきた。俺も胸の中が熱くなり、何やら煮えたぎってきた。野武士の野郎ども、見つけたら皆殺しにしてやる。

 ガサリと茂みが揺れて、飛び上がる、俺。
「あひょ~。野武士か!」
 テツだった。

 口には名も知らない二匹の山鳥と、丸々と太った紫色のアケビをたくさん咥えていた。
「テツ。お帰りぃ」
 もうサクラんちのペットだ。テツも頭をサクラに擦り付けて軽く挨拶らしき儀式を済ますと、とすんとお座りをして、今夜のご馳走を地べたに並べた。

 テツの帰還に気づいたクルミが、原っぱから舞うように戻って来た。
「ご苦労様です。テツ……ええ……はい。イチは山に芝刈りですわ」
 頭を撫で回しながら語りかけるその仕草は、どう見てもこの動物と会話をしているようだ。
「なぁクルミ?」
「何ですか、テルさま?」
「テツは何て言ってんだ?」
「はい。今晩は焼き鳥だそうです。それと……あれをイチに渡して欲しいそぉでぇす」
 小さな指で茂みの奥を示した。
 銀狼はちゃんと言葉を理解しているようで、力強い足の運びで茂みへ移動し、その奥に隠れていた長細い物体を咥えて戻って来た。

「帰ったか……」
 タイミングよく焚き木を担いだイチと合流。
 バサバサと枝の束を地面に積み上げ、テツが咥えている物体を拾い受けて俺たちに見せた。

「か、か、か、刀か?」
 さて『か』を何回口にしたのだろう──どうでもいいか……。

 背筋を凍らせる鋭利な金属の摩擦音と共に、イチがそれを引き抜いた。

「に、日本刀だ……」
 磨き上げられた表面はまるで鏡だ。濃紺の空と煌きだした星が綺麗に映り込んでいる。
「そうだ。なかなかいい仕事をしている」
 刀鍛冶みたいな目で、裏と表を繰り返し観察していたイチが、俺の問いに冷然と答えた。
「お前もテレビの見すぎじゃないのか?」
 渾身の嫌味をイチは無視しやがった。

「ねぇ。イチさん。それってまさか本物?」
 イチは前髪を微妙に揺らし、柄の部分をサクラに向けた。
「お、おい。気をつけろ、まんがいち真剣(しんけん)だったら危険だぞ。いくらお前が剣道何段だって言っても持ったことは無いだろう? 本物だぜ」

「模造刀なら何度も振ってるよ」
「なんなんだよ、お前ぇ~ほんとに女かぁ?」
「だって、竹刀だと軽すぎるんだもん」

「……………………………………」
 言葉を失って、数秒沈黙──。

 気を取り直して。
「だ、だめだ。触るな。すぐに警察へ連絡しよう。山でとんでもない物を拾いましたって、な」
「とりあえず、本物かどうか振らせてよ」
 俺の忠告など聞かず、サクラは柄を両手で握り、上段に構えて数度振り下ろした。

 イチの整った顔に驚きの表情が浮かぶ。
「刃先がぶれていない。たいしたもんだ」
 感情の無い口調だが、そこには薄っすらと驚嘆の色が見えた。
「テル、これ本物だよ……すごいよ」
 さすがのサクラも息を飲んで、刃紋へ煌かせた瞳を向けている。

「そんなにすげぇのか?」
「うん。模造刀とは輝きがぜんぜん違うもん」
「なんか、お前、怖ぇぇぞ。目が行っちまってないか?」
「ばぁか。剣の道を究めているあたしに、なに言ってんのテル」
 サクラは片手で鞘を持つと、いとも簡単にそれへと刃を突っ込んだ。

「慣れているな……」
 一連の動きを切れ長の目でじっと注視していたイチがつぶやいた。

「ほんとかよ?」
 カタチのいい顎をコクリと動かして、
「この時代でやっていける」
 それって褒めてんのか?
 イチは短く鼻で笑うと、焚き火の準備に入った。

 俺も連れ添って手を出す。
「焚き火の準備ぐらいは俺でも出来るぜ。あんたは料理を頼むよ。あれだけはちょっと無理だ」
「よかろう……」

 俺たちの会話をちゃんと理解しているらしく、テツが山鳥を銜えてきた。それを受け取るイチの肩越しに尋ねる。
「なぁ。あの刀どうしたんだ?」
「テツがどこかで手に入れてきたようだ」
「マジかよ?」
「それがしは、ウソを言わぬ」

 ひと呼吸、俺の目をちらりと見て付け足した。
「この時代。あれが無くては生きていけぬ」
「うそだろ……やばいとこに来ちまったもんだ」
 サクラが素振りをしている銀白色の物体を見つめて、首をすくめた。

「あいつ、また抜いてやがる……」
 イチもチラリと目を遣る。
「生まれた時代が悪かったんだ」
「ばーか。あいつは女だ。変なこと言うな」
 白く整った面立ちに薄い笑みを浮かべて、イチは鶏の調理を始めた。

 しばらく素振りをしていたサクラは、再び手馴れた仕草で刀を鞘に戻すと、ジーンズの腰に差そうとしている。まるで侍気分だ。大声で忠告してやる。
「二十一世紀の人間が持つものじゃない……。銃刀法所持違反になるぞ」

 ヤツは目を丸くして、こちらへ視線を向けてきた。
「そっか……」
 サクラは渋々という表情でイチに日本刀を返した。まぁ俺的にはイチからも取り上げて、警察なり、役所の関係所轄に連絡して、山で発見したことを知らせたいのだが、携帯は相変わらず圏外だし……。

 イチは受け取った日本刀を背中に回すと、紐で括りつけた。
 刀は斜めに背中を縦断し、肩口に柄の部分が覗いている。これで正真正銘の忍者装束の完成だった。

 テレビでしか見たことのないイケ面忍者──背中には模造刀では無く、真剣が差さっている──そんなヤツと一緒に晩飯の準備をする。
 なんとも言い表しにくい複雑な気分で作業が終わった頃には、山はどっぷり暮れていた。空には満点の星がギラギラしている。それはこれまでに見たことも無いような力強い輝きだった。

「今日は三日月か……」
 ぽつりとつぶやいた。なぜなら昨夜は満月だったからだ。
 あまり考えたくないが、時間が狂っているのは確実だ。携帯の時計は午後三時を表示している……。

「文明の利器も、こうなったら、何の役にも立たねえな」
 独白めいた声と共に、俺は携帯の電源を元から切った。無駄にバッテリーを消耗させるのがもったいなく感じたからだ。電話と時計が役に立たなくなっても、カメラとその照明用の白色LEDは電灯代わりになる。
 それからランタンを点けるのもためらった。燃料が残り一回分ほどしかなかったため、緊急時のために取っておくことにした。

 夜の暗闇に慣れてくると、焚き火だけでもかなり明るい。サクラがクルミと懐中電灯で遊んでいるのを見つけて、急いで取り上げた。
「何よ。せっかくお化けゴッコしてたのに」
「無駄なことはやめろ。俺たちはいつ元の時間に戻れるか分からないんだぜ」
「それは姫様次第だ……」
 ポツリとイチが漏らした。そんな重要なことをいきなり告げるんじゃない。

「どういうことだよ」
「スーパークラスと共に時間跳躍できるのは姫様の能力があってのこそだ」
「俺が動揺を見せたらあの子は消えるんだろ? 何とかって石を没収されるって言っていたよな。そうなったら俺たちは……」
「そうだ、この時代に置き去りだ」
「社会勉強が終わるときは?」
「元の時代に帰していただける……はずだ」
「はず?」
 何だ、そのあやふやな返事は……。

「イチの冗談はおもしろいですねぇ」
「これっぽっちも笑えねえぜ」
「そうですかぁ? わたしは面白いと思いますけどぉ」
「あんたらの世界はよほど笑いに飢えているんだろうな……。ま、今ここで漫才でもしてもらったって、笑える気分ではないからな。戦国時代に飛ばされたうえに、野武士に襲われて廃村になっちまった、そんな場所でキャンプしてんだ。誰でもビビるっちゅうもんだ…………バカを除いてな」
 焚き火の炎で丸い頬っぺたを赤くギラギラとさせているバカは、俺の言葉の意味などちっとも気づいていない。あきらめ気味に吐息を落としてから、もう一度イチの顔を見る。

「時間跳躍が思い通りに出来るようになれば、社会勉強は終わりだ。お前たちも元の時代に戻れる」
「クルミ、次第というわけか………」
 えらい迷惑な話だな。

「姫様のお相手ができるだけでも光栄なことだ」
 俺はわざとらしく肩をすくめて空を見上げた。
 まだ電灯が発明されていない日本列島は夜の闇に沈んでいるのだろう。星の輝きが尋常ではなかった。天の川の輪郭まではっきり見えていて、無秩序に散らばった光の粒に混ざって、見慣れた星座がかき消されていた。

「すげぇぇなぁ」
 戦国時代の天空は、その中に意識までも吸い込みそうなパワーを持っていた。

 その時、忽然と銀狼が頭をもたげ、闇の一点を睨んだ。
 一拍空けたテツは、ぐいっと巨体を立ち上げ、クンクンと鼻を鳴らしてから唸りを上げた。
「どうしたんだ?」
「訪問者のようだ」
 無表情な面持ちで、イチもスリムな体を立ち起こすと、テツと同じ、廃村となった集落のほうを睨みつけた。

「あっ」
 すぐに妙な違和感を肌に覚えた。ぴりぴりとした空気が皮膚を撫でてくる。
 しばらくして遠くから腹に響く低い音が伝わってきた。
「何だろ?」
「馬の蹄(ひずめ)だ」
 冷然と告げるイチの声に、ワケ分からず強張っていると、すぐに俺たちは馬に乗った集団に囲まれた。

 馬の嘶(いなな)きと、蹄(ひづめ)が土を打ち鳴らす乾燥した低音の連打。そしてまだ興奮が冷めず、ぶるぶるという鼻を鳴らす巨体を制する掛け声。それに加えて怒声のような荒々しい声が響く。

「若頭(わかがしら)の鼻は確かだぜ。こんなところで火を焚いてやがった!」
 俺たちを取り囲んだのは馬にまたがった五人の男。一見して、ザ・荒くれ者。自己紹介なんて必要が無い。はっきりと言ってゴロツキだ。少し遅れてやって来たガタイの良い無頼漢へ向かって、
「若頭。やっぱり人ですぜ。ひゃはははー」
 頭の悪そうな口調で馬から飛び降りると、若頭と呼ばれた男が乗る馬の轡(クツワ)を握り、それを静めさせた。

「どぉどぅ、どぉぉぉ」
 体をしならせて手綱を引くと、そいつも馬から飛び降りる。ガチャガチャと体につけた鎧(よろい)をうるさく鳴らして、焚き火の前で仁王立ちになった。

「ようこそいらっしゃいました」
 ワイシャツ一丁の白い手を広げて、すべてを受け入れるような体勢で迎えるクルミ。不気味な空気を押し返す無邪気な仕草は、逆に連中を強張らせた。

 遅れて来た男に手綱を返すと、無骨な態度で俺たちを一瞥した。
「なんだ、こいつら? 変なカッコしてやがんな」
 刀を抜こうとする男の前に、テツが鼻にシワを寄せて激しく唸り寄る。
「うわっ! この連中、狼連れてやがる。若頭っ! こいつらタダもんじゃねえですぜ!」

 馬の上から半壊した鎧をガシャガシャ言わせて、一人の男がわめいた。連中の格好は完全な鎧姿ではなく、上半身だけを包んでいる者や、手足だけに防具をつけている者もいた。

「おい、忍びもいるぜっ!」
 その声を合図に、他の男たちも一斉に刀に手を掛ける。イチが対峙すべく、背中の日本刀へ手を出そうとした、寸前。

「抜くな!」

 ひと際、頑強そうな体を直立させて片手を水平に上げた人物。それは若頭と呼ばれていた男だった。
「へ、へい」
 五人のゴロツキはその命に従い、素直に刀から手を離すとそれぞれに馬から下りた。

 見るからに時代めいた格好の連中だが、近くで映画の撮影をしていて、俺たちが誤ってそこへ紛れ込んだのだと説明されてもまだ納得できた。だが次の刹那、誰かが放した言葉が俺の脳髄を激しく揺さぶることになる。

「うひょ~。女が二人だ。こりゃ高く売れますぜ」
 眉をひそめたくなるような二十一世紀ではあり得ない言葉だ。それを聞いた途端、ここが戦国時代だと言っていたイチのセリフが、いきなり現実味を帯びてきて、俺の意識に警鐘を鳴らした。

 ところが──。

「誰だ今言ったヤツ!」
 耳に沁みる聞きやすいバリトンの声、若頭だ。
 声はいいが、滲み出す雰囲気は辺りを凍らせる。
 男は抑圧する眼光を伴った、とてつもなく恐ろしい視線で声のしたほうを射すくめた。

 瞬時に静まり返った草原を圧し潰すように数歩進むと、男は野太い声で言う。
「ワシらは武士だ! 山賊でも盗賊でもない。義を忘れ元の流浪の身に戻りたい奴はさっさと去れ! そしてワシの前に二度と現れるな。それを破ったヤツは、」
 ギラリと一同を剣呑な視線で睨みつけ、一拍切って短い言葉を投げつけた。

「その場で、たたっ切る!」

 それはもの凄まじいまでの威圧感。サクラのそれどころではない。圧倒的な強さを内面から噴き出している。
 大勢の男が群れているにもかかわらず、抜けて通る風に踊らされた枯れ草の乾いた音と、焚き火の爆(は)ぜる音しか耳に入ってこなかった。

 ここで謀反を起こそうなどと思うヤツはまずいないだろう。それほどにこの男が持つ眼光には驚愕に匹敵するまでの自信に満ちた光があふれていた。恐怖や脅しという力で群れを束ねているのではない、ある意味不思議な魅力だった。

「そ……そんなつもりは毛頭ねえぜ。すんません」
 刀だけは立派だが、ボロギレのような衣服とガラクタのような鎧を纏ったゴロツキたちは、圧せられおとなしく数歩下がった。

 男は組んでいた太い腕をほどき、風を巻き起こすような勢いで俺たちへ体を旋回させると、
「お前らはここで何をしている?」
 この男がこの団体のリーダーだというのは、その堂々とした態度と、みなぎるオーラに包まれた自信あふれる行動を見れば一目瞭然だ。この時代なら頭領と呼ぶんだろう。

 そいつが研ぎ澄まされた日本刀のような鋭い眼光を放ち、さらに俺たちに一歩迫った。

 間髪を入れずこっちのリーダー、イチが前に出る。って、いつからこいつがリーダーになったんだ?
「気に入らぬのならオマエへ譲るが?」
「いえ、けっこうでございます」
 さっさと引き下がる俺。

 向こうの頭領とイチが対峙し、その背後に荒くれ者五人が控えていた。それに対してこっちは女子二名と、男子高校生一名、そして犬が一匹。

 ……なんだこの取り合わせ?

 頭領はヒゲ面をゴシゴシ擦り、興味深そうに俺たちを観察していた。
 焚き火の明かりに揺らされて、その面立ちがよく見える。若頭と呼ばれているだけに、ヒゲがなければ意外と若々しい張りのある肌をしていた。その野生的で精悍な顔が焚き火の炎で赤く照らされていた。

 細面のイケメン顔を自慢げに……かどうかは知らないが、イチは相手に負けない鋭利な視線で、ぐいっと睨みつけ、
「我々は旅の者だ。今日はここで野宿をしている」

 おいおい。忍者姿で旅の者はおかしいだろ。
 我慢できず、胸中で突っ込む。

「幼女と女を連れて忍びの者が……どこかの姫君でも逃そうってのじゃないのか」
 思ったとおり、対峙していた男が片眉をひそめた。
 後ろで控えている連中が一斉に顔を見合わせる。鎧の硬い音が草原を響き渡った。

「あなたたち野武士ね! 覚悟しなさい。成敗してあげるわ」
 バ、バカか! 藪から棒にいきなり喧嘩売るヤツがあるか!

「なんだと、この女(アマ)!」

 ほらみろ~~。

 中で最も馬鹿っぽい男が刀を抜いてサクラに飛び掛かってきた。──が、彼女の敵ではなかった。振りかぶる刀を紙一重でしゅらりとかわして、男の腕を引っつかむと、ぐにゅーんとひねった。俺がよく掛けられる技だ。相手の力を利用してひねり回すヤツだ。

 女だと思って舐めていたのか、本気でマヌケなのかは知らないが。そいつは濡れたボロタオルを回転させたように空中で舞うと、どしんと背中から落下。サクラの手の中には、相手から奪い取った日本刀が握られていた。

 あぁ。このまま意識を失くして、何もかも忘れたい。そしたらどれだけ楽だろう……。
 サクラは奪い取った刀を、今まさに上段に構えようとしていた。

 過去の光景が目の前によみがえった。この後サクラは風みたいに舞ったのだ。中学生といっても、校内一でかい連中を何人も相手にして全員をボコッったんだ。
「ば、ば、ば…………」
 セリフは最後まで言葉にならず、呼吸音に変わっていた。あの時と状況が非常に似ている。

「女では無理だ!」
 イチも手を出して止めるが、
「村人の仇っ!」
 構えやがった。

 馬鹿サクラ……。
 事が大きくなるだけじゃないか。バ……カ……ヤロめ……。

 俺はサクラのブレーキ係りとしてひどく焦った。ここは本気の戦国時代。学生を相手にしているのとはワケが違う。怯(ひる)むヤツなどいるわけがない。
 俺の懸念は現実のものとなり、機敏な動きでゴロツキ連中が俺たちを取り囲み、金属音を連発させた。

「ほ、ほら見ろ! やべぇぜ」
 全員が刀を抜いたのだ。

 それを受けてテツが唸りを上げ姿勢を低くし、イチが肩越しに刀の柄に手を掛け強張った。その後ろで俺、超ビビりまくる。
 だが恐怖心を出してはいけない。クルミが消えちまう。そうするとこの連中をもっと緊迫させてしまう。この時代に、いやどの時代であっても、人間が消失するなどあり得ない現象だ。

 ここはひとつ冷静になって深呼吸だ──。
「さ、サクラ。刀を戻せ。俺たち子供に適う相手じゃない」
 ヤツはぎんっと怖い顔をして、
「なによ。いつもは大人だとか言っておきながら、こういうときは子供になるの?」
「違う。子供の喧嘩では済まされないという意味だ」
「子供の喧嘩かどうか、試してみないと分からないわよ」
「バカヤロ。相手は刃物持ってんだ。意味わかるだろ? それともお前はそんなにバカなのかよ」
「うるさーい!」

 俺たちの痴話喧嘩的な言い争いが連中の緊張を緩めたのか、角ばった顔の男が構えを解くと、刀を肩に乗せて笑い出した。
「がっはははは。女に刀持たせて、なんか童(わっぱ)がほざいていやがるぜ」

「俺は何を言われてもいい、ここは引けってんだサクラ」
「むぅー」
 不服そうに唇を噛んでいたが、ひとまずサクラは切っ先を地面に向けた。

 頭領の視線がイチの頭越しにサクラへ注がれ、
「確かにワシらは野武士だが、それがなんだと言う?」
「この村をこんな有様にした張本人のくせに」
 男は大きく溜め息を吐いた。
「ワシらには知らぬことだ。今日この土地に入ったばかりだからな」
「ウソおっしゃい!」
 もう一度、男は片眉をゆがめ、視線をイチに戻す。

「忍びの。何だこいつは、女のクセに偉そうなヤツだな」
「サクラ殿は少々おてんばなだけだ。口の利き方を知らぬ」
「ふん。サクラっていうのか、いい女じゃないかよ。いひひひひ」
 鎧で覆われた男の手が伸びる。
「汚い手で触らないで!」
 サクラは目を吊り上げそれを払いのけた。

「ひょぉぉぉっ。怖ぇぇぜ。この口調、こいつぜってぇどこかの姫だぜ」
 そこへ、とことこ、とクルミが出てきて、
「姫はわたしです。あなたたちはどこの人?」
 こいつが出てくると、もっと話がややこしくなる……。

「あんたが姫さんか?」
 腰を屈めて、骸骨と言ってもいいほど痩せた男が顔を近づけた。
「姫のワリには粗末な人形を持っているんだな?」
 きょとんとしているクルミが持つ人形を取り上げると、高々と挙げて焚き火に照らした。

「返してくださぁい。大切なお人形さんです。お願い返して……」
「こんなゴミみたいな人形が大切なのか?」
 すがりつくクルミをゆらり、ぬらりと避けながら男はそれを弄んだ。

「野武士のクソ野郎……!」
 こういう言葉だけはよく聞こえるんだ。
「なんだと、こらぁ」
 サクラのうめき声が相手に伝わった。

「女っ! もう一度言ってみろ!」
 その言葉が禁忌に触れたのか、いきなり怒り出した男は人形を地面に叩き付け、さらに踏みにじった。
 その足に絡みつくクルミ。
「お人形……やめて……お願い返して」

「やめろ! 頭(かしら)の言葉を解さぬのか! 女、子供を相手にするんじゃないと言っておる!」
 一歩控えていた、ひと際ガタイの大きな男が大音声(だいおんじょう)で怒鳴り上げた。
「ひ、姫様」
 男の足元で転んだクルミを抱き上げ、槍のようなきつい視線で睨み返すイチ。
「ほぉぉ。そっちのガキが姫か。忍びの、お前の主君は誰だ。まさか石田家ではあるまいな!」
「こらガキ。もっと顔を見せてみろ。なんだか変な着物を着てやがるな。白装束か?」
 取り返した人形が再び地面に落ち、その上を重い甲冑(かっちゅう)を身につけた男が歩いた。

「お人形が……」
 悲痛な声を上げたクルミに迫る甲冑の男。
「こんガキっ! 石田家の姫か! 我ら越前松平家に仕える者と知ってのことだろうな」
「ふんっ、その時々で西についたり、東についたりする輩が何を偉そうに……」
 い、イチ。あんまり火に油を注ぐような言葉を吐かないでくれ。
「な、なにをっ!」
 重そうな甲冑をいとも簡単に翻して、男が刀を抜きクルミに向かって振り下ろした。

 ギャンッ!

 金属と金属の弾ける音がして、その動きが止まった。

 ──出たぁ。サクラだ。

 イチが強張り目を見開く。サクラの刀と男の刀が宙でクロスしたまま停止していた。

「なんだ、女! 邪魔立てするか!!」
 両者一度刃を引き、男は目もくらむ速度で上段から切りつけた。しかしサクラは振り下ろされた白刃を自分が握る刀で、肩すれすれの神業の距離で払い、流れるように背後に回った。

「サクラやめろ! 俺たちの時代ではそれは人殺しだ!」
「そうだ! そなたは人を殺(あや)めてはいけない!」
 イチも同時に叫んだ。いままでに無く緊迫している。

 敵の頭領も間に割り込んで刀を抜いた男を蹴り倒した。
「女、相手に本気になるバカがいるか! くだらぬものに命を賭けるな!」
 眉を吊り上げ、肝に響く低音で猛然と怒鳴りあげた。

 男は甲冑ごと向こうへ飛んでいき、ひっくり返ってもまだ怒りの視線を突き刺してくる。
 頭領は片手のひらを甲冑男に向けて制止させ、残りの片方をサクラの刀の先にあてがい、ゆっくりと下ろさせた。
 そのまま男はガシャリと鎧の音を鳴らし、大きな体を屈ませる。太いその腕には似合わない小さな人形を拾い上げ、クルミに渡した。

「あっ」
 その手から布で拵えた人形の片腕がポロリと落ちた。
「あぁぁ。サクラさん。お人形さんが……。ごめんなさい。ごめんなさい」
 腕の千切れた人形を抱きしめ、むせび泣く背中が小さく震えている。

 野武士の頭領はサクラが握り締めている刀を受け取り、代わりに千切れた人形の片腕を渡し、俺たちに背を向けた。

 男はゆるゆると視線を這わせると、ゴロツキたちの中から一人を睨め上げ、
「女に奪い取られるとは、情けないやつだ」
 ぽいっ、と刀を投げ返した。

「いひひひ、ありがてぇ」
 馬鹿っぽい笑い声を上げて、男は刀を拾い自分の鞘へと戻す。
 サクラは拳を握り締め、それから地面を蹴り上げることで悔しさを紛らわそうとした。

「なんだ?」
 周囲の異変に気づいた。上からだ。
 空を見上げ、その光景に凝然とした。

 上空から舞い降りて来る冷たいミルク色の大気。ギラギラと輝いていた満天の星がみるみる消えていく。
「き、霧だ!」
 さらに奇妙な光景に体が凍りつく。野武士の連中が固まっていた。
 それは蝋人形館にありそうな展示物、戦国武将コーナーの一角とまさに同じ光景だった。男たちは霧に驚いて凝然としているのではなく、動いていた状態のまま固まっている。まるで3Dの静止画を見る光景だった。

 乳白色の気体は、重々しく幕を降ろすように下り続けた。
 辺りは完全に無音だった。いや正確には、
「どういうことだよ?」
 不思議な現象だった。クルミを中心に俺たちは自由に動ける。サクラのジャンバーがガサガサと耳障りな摩擦音を出しているし、目の前では焚き火が爆ぜてもいる。
 異常に気づいた頭領が、体をこちらへひねってイチと睨み合い、そいつはむふっと鼻息を浴びせて、太い腕を仁王立ちの腰に当てていた。

 そしてつぶやく。
「面妖な……」
 男も静かに白く染まっていく頭上を見上げた。黒目の奥で焚き火の炎が揺らいでいる。
 さらに霧が濃くなり、泣き続けるクルミの肩を優しく抱き寄せているサクラの姿まで、薄っすらと消えそうだ。

「だいじょうぶ。お人形さんは、あたしが直してあげるから……泣かないで」
 霧はますます密度を上げ、地面へ折り重なっていく。それは降り積もる雪を見るようで、俺たちの動きをも鈍ませるかのような濃さだった。
 俺は慌ててサクラに駆け寄る。イチもテツも、そして、敵の頭領も自然と寄り添ってきて、
「……何だこの霧。こんな濃いのは経験がない」
 低い声を漏らしながら空を仰いでいた。

「昨日の晩と同じだ……」
 つぶやく俺をじろりと睨む野武士の足元へと白い気体が折り重なっていく。やがて俺たちはその中に冷たく沈んでいった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アカネ・パラドックス

雲黒斎草菜
SF
超絶美人なのに男を虫ケラのようにあしらう社長秘書『玲子』。その虫けらよりもひどい扱いを受ける『裕輔』と『田吾』。そんな連中を率いるのはドケチでハゲ散らかした、社長の『芸津』。どこにでもいそうなごく普通の会社員たちが銀河を救う使命を背負わされたのは、一人のアンドロイド少女と出会ったのが始まりでした。 『アカネ・パラドックス』では時系列を複雑に絡めた四次元的ストーリーとなっております。途中まで読み進むと、必ず初めに戻って読み返さざるを得ない状況に陥ります。果たしてエンディングまでたどり着きますでしょうか――。

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...