アカネ・パラドックス

雲黒斎草菜

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【第三章】追 跡

  亡 霊  

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 ザリオン人の亡骸(なきがら)を弔(とむら)う儀式に集まったアンドロイドたちは雑多な色に混ざり合い、ボディの形も大きさもまちまちだが、規則正しく二列を成して長蛇の列となっていた。

 副主任はエボシの形を整えながら、しみじみと言う。
「今度のマスターはどこか一味違うな」
 そうしてそれを深々と被ると、
「おっと、こうしてはいられない。カトゥースが一桁の者なのに列のしんがりにいたら医局長に睨まれる。悪いが先行くぜ」
 昼休憩終了間際のサラリーマンみたいな言葉を残して白衣をはためかせた。
 表情は見て取れないが、副主任は明るい声を風に漂わせて、参列の先頭へと足早に消えた。


 俺たちも参列の群衆に紛れ込むことで、検非違使の目から逃れようとしたが、よけいに大きくなる騒ぎに戸惑ってしまった。
 人々は口々に「お誕生なさった」とか、「お産(う)まれさまです」などと、性能を疑ってしまいそうな誤変換をコミュニケーターがするし、「生成おめでとうございます」なんて言われた日には、俺は薬品か! って叫びたくもなる。

 とにかく副主任の言ったことは真実で、集まったアンドロイドは生命体を認識することはできるが、それがこの星を作った住民であるかなどということはどうでもいいらしく、奉仕することを目的として機能することがはっきりと理解できる。ただし優衣を生命体と誤認識し続ける理由がよく解からない。連中はどこでアンドロイドと知的生命体とを見極めているのだろう。

「さて、調査を開始するわよ」
 考えるよりも先に体が動くゼンマイ仕掛けのバカを引き止める。
「ちょっと待てよ。いきなりどこへ行く気だよ」
「どこって。調査じゃない」
「お前ねぇ。浮気調査に行く探偵じゃねえんだぜ」
 呆れて物も言えんな。単細胞オンナめ。
「ここのシステムがどこで集中管理されているのか、目立たないように探るんだ」

 俺は改めて玲子の鼻先を指でびしっと示し、
「とくにお前が目立つ。トラブルを起こすな。つまらんことで腹を立てるんじゃない」

 玲子は俺の指をさっと握り締めて引き下ろすと──優しくじゃないぜ、竹刀を握るぐらいの力を掛けて、
「わかってるわよ。あなたこそドジしないでよ」
「痛ててて。俺がいつドジったんだよ。こら放せ。ほらみろもう怒ってんじゃねえか」
「あっらー。あたしはぜんぜん怒ってませんことよ」
 悪戯っぽく微笑んでから、握っていた指を、ぬあんと曲がらない方向へと力を加えやがった。

「いでっええええ……。バ、バカ、折れるじゃないか!」
 指を包んでいた玲子の白い手を振り払い、ふうふう息を吹きかけ揉みほぐす。

「あたしはいつも冷静よ。おほほほ」
「いまの行為は何ですか?」
 優衣は可愛らしくキョトンして、玲子はするりと俺との間合いから抜け出し、笑いながら片目をつむって見せた。

 優衣のキョトン度がレベルアップする。サイドポニーテールを背中に払って、不思議そうな顔をした。
「今のも何かの合図ですか?」

「んーとね。コミュニケーションの一部かな」
 無責任な説明を玲子がしたので、
「ば、馬鹿やろ。指を折るなんてコミュニケーションはねぇよ」
 人差し指を何度も摩り、世紀末オンナの顔を睨んでやるが、すっげー清々しく綺麗な顔立ちにちょっとビビッた。

 優衣がしつこく訊いてくる。
「では、片目をつむったのは?」
「んー。アイコンタクトのひとつでウインクって言うの。これもコミュニケーションのひとつね」

 キョトついた素振りで、優衣は俺たちの顔色をうかがっていたが、やにわにうなずいた。
「学習しました。いつかワタシもユウスケさんにやって差し上げます」

 ──いらねえよ。ぜってい指折れるよ。

 変なところばかっり学習されて、このまま行きゃ、優衣が玲子のコピーになっちまうぜ、とかブチブチ言い、俺は能天気に頭上をふらつくシロタマを呼び寄せる。

「おい、タマ。お前は運よく連中に無視され続けてる。もっと奥深くまで侵入して情報を集めて来いよ」
「オメエにそんなこと言われなくてももうやってるじぇ。それよりレイコとユウスケの繁殖行為を見てみたい。対ヒューマノイドインターフェースとしては当然の権利」

「ばっ! バカ野郎。そんな…………バカかお前」
 言葉を失い、ひとまず玲子をうかがう。変な意味ではないけれど、針の先ほどの期待を持ちつつ。

「………………」
 奴は真っ赤な顔をして、口をぱかりと開けていた。
「郵便ポストかよ! 気ぃー、失ってんじゃね?」

 意外に純な玲子に少し驚くものの。
 あまりこの話題に触れて欲しくないので(人工生命体に対して説明が困難極まるからな)、俺も話を逸らした。

「それよりタマ。なんで検非違使の奴は優衣に従順なんだ? 何かオーラでも出てんのか?」

『Fシリーズ特有の識別EM輻射波以外何も放出されていません。これは推測ですが……』

 何か言いかけたタマだったが急に黙りこけた。

「……どうしたの?」
 繁殖という言葉に石化していた玲子の呪縛が解けたようで、シロタマに声をかけるが、今度はこっちが固まっちまっていた。

「…………」

 何か言いたげだが、柔軟なボディをプヨプヨ揺らすだけ。
「ちょっと。なに黙り込んでるのよ?」

『…………』
 二度目の問いかけにも沈黙。

「こらっ、何とか言え……」
 宙に浮かぶ球体を両手で摘まみ下ろし、左右に引っ張り始めた玲子の腕を押止める。
「手荒に扱ってやるな。餅じゃねえんだからそんなに引っ張ったら壊れるって」

 玲子は俺ではなく優衣に振り返り、何も言わなくなったシロタマの説明を求めた。
「この子どうしたの? 故障?」
「故障ってことはないだろう」

 その異変に訝しげな吐息をする。
「ははーん。何か企んでやがるな」
 喋るなと言っても要らぬことまでペラペラぶちまけるお喋りな奴が、黙り込めば、誰だって疑り深くなる。

 優衣はその理由が説明できるようで、許しを乞うような視線を一瞬だけ俺に向け、吐露を始めた。
「たぶん時間規則に関することだと思います。ワタシたちは時間規則に反する会話はすべて削除される仕組みになっています」
「じゃぁ。それに関することがあったわけ?」
 玲子は不要になったシロタマを空中へ戻し、優衣に小首を傾けた。、

「いえ。今の段階では何も解りません。ただそれが時空間に関することなら、同じようにワタシも喋ることができません。ですが──」
 ちらりと水槽に放たれた金魚みたいに泳ぎだしたシロタマへ目をやって、
「今のところそれを裏付ける現象は起きていませんので、そうじゃないかもしれません。とにかく不可思議なコトが続いていることだけは事実です」

「またそれかよ……」
 いささか食傷気味で、そんな話には耳を塞ぎたくなる。だけどシロタマの報告モードが俺の懇願を虚しく蹴散らした。

『時間項が未定の現象を予測するのは、あまりに非現実的です』

「非現実的って……もしかして占いみたいなもんだと言いたいのか?」
『はい』

「何だそれ。じゃぁ何もわからないじゃないか。進展しねえなー」

「黙れユウスケ! オメエももっと調べるでシュ。シロタマばっかりに押しつけるな!」
「うるせえなあ。俺だって考えてるワ」

『ユウスケの回答を求めます』
 瞬時に切り替わる、こいつの二面性が気に入らん。

 実は何も思いついていない。だから回答など求められても……。
 思案に暮れる俺へ、玲子は口の先を尖らせた。

「なによ。やっぱり何も考えてないじゃない。よくそれでエラそうに言えたわね」
「べ、別に威張ってなんかないぞ。お前らが怯えちゃいけないから安心させてやろうとしてんだ」
「おあいにく様ぁ。あたしは全然心配なんかしてませーん」

「この蛇オンナ。ペロペロ舌ばかり出してんじゃねえ」
「なにさっ、ハエ男! いつでも相手してやるわよ」

「こ、このヤロ。何でも腕力で解決できると思ったら大間違いだぞ」
 拳を握って構える女を眼前に男としてこのセリフはどうだろうか、と反省の意味合いも込めて首をひねっていると、周りから好奇な目が押し寄せていたことに気が付いた。俺たちはいつの間にかアンドロイドの群衆に取り囲まれていたのだ。目立つ行動は控えようと誓ったばかりなのに、人目もはばからず葬儀の最中に言い争いを披露してりゃあ、誰だって目を引く。しかもここの連中からしたらこっちは新参者。興味津々の眼差しを集めていた。

 アンドロイドたちは口をそろえて言う。
『このメスとは仲が悪そうだ。子孫繁栄には不向きではないだろうか』とか、
『こっちのメスは従順なので早く子供ができるかもしれない』
 などと勝手な憶測を飛ばすもんだから、さすがにこれは俺でも引いた。
 葬式の最中に恥ずかしいワードを平気で並べたくられ、俺と玲子は互いに目を伏せ続けた。



 葬儀は前面をガラス張りにしたホールにも似た施設で行われるようで、参列した機械人間たちはガラスの向こうを眺めながら入って来た順に詰めて行く。
 これよりガラスの外に広がる深海を舞台にした海洋葬が執り行われるのだ。たぶん海洋散骨となるのだろう。

 どちらにしても退屈な儀式は厳(おごそ)かに進み、シロタマは耐え切れずにどこかへ飛んで行ってしまうし、俺たちも葬儀など二の次だったが、連中は真剣に、かつしめやかに執り行い、花で飾られた祭壇に一礼すると、全員が透明なガラスの外、藍色の深海へと向き合った。
 一拍おいて、鈍い発射音が響き、海中にお棺が打ち出され、泡となって消えていく亡骸を機械たちは静かに見守っていた。

「意外とここの連中、真面目(まじめ)なんだな」
「それを存在意義としているようですから……パニックにならないのは、次に控えるワタシたちが居るからでしょうね」
 ぽつりと漏らした優衣の言葉が、重く肩に圧し掛かってきた。


「おい、オマエら」
 数段高い位置から物を言う傲然たる声を背後からぶっ放され、飛び上がらんばかりに驚いた。

 振り返ると赤い服装をした検非違使が立っており、
「オマエらの住居が決まった。今から連行する」
 と言ったのでカチンと来る。俺もだが、やっぱりこいつが先だ。
「なにさ、鉄面皮!」
「テツメンピとは、何かっ?」
「あんたみたいな面(つら)の皮が厚い奴を言うのよ!」
 無理だと分かっていても突っかかるのは玲子の習性だ。おかげで何度も痛い目に遭っているのは俺だけでない。優衣がさっと手を広げて、飛び出そうとする玲子を引き留め、毅然とした態度で対面する。

「ワタシたちを犯罪者のように扱うのはやめなさい!」

 検非違使から剣呑な気配がさっと緩み。
「お許しください。決してぞんざいな扱いをするつもりはございません」
 困惑した口調に急変した。

「だったら、なぜそのような傲慢な言葉遣いをするのですか!」

「そ、それはですね。仕事柄と申しますか……」
 居丈高な態度が優衣を前にした途端、反転する様は謎を含みつつも胸がすく思いがする。

「ここは優衣に任せておこう。そのほうがうまく事が運ぶ」
 握り拳を震わせるオンナ瞬間湯沸かし器の肩口から囁いた。

 玲子は激情を堪える悩ましげな表情でうなずき、斜め下から子犬のような面持ちで上目遣いに俺を見た。
 なんだか勘違いしそうな表情にどきりとする。
「わかったわよ。帰ったらビールおごってよね」
「ああ。付き合ってやるよ」
 怒りの感情を表に出さず黙っていれば、優衣に引けをとらない美形なんだけどな。

 検非違使はかしこまった態度で、恭しく頭を下げて優衣に言う。
「とにかく。ワタクシについて来ていただけますでしょうか。マスター様のお住まいが決定いたしまして、そちらへご案内させていただきます」

「とにかく落ち着く場所が必要だ。まず、そこへ行こう」
 小声の俺に優衣は小さくうなずき。
「では、案内してください」

「ははっ」
 丁寧に礼をする検非違使だったが、優衣には「こちらでございます」と伝え、やっぱり俺たちには「ついて来い」だった。
 ちっとも変わらないのが、しゃくに障る。

 偉ぶった鉄仮面野郎を先頭にして、連なって歩いていると、丘陵地帯から街へ入るちょうど境目辺りで、動物の雄叫びが響いてきた。低音の声から想像してかなりの大型獣だと思う。

「あれは?」
 玲子が声のするほうへ首を向けて立ち止まる。
 検非違使が無視して進もうとするので、優衣が代わりに尋ねた。

「あの鳴き声はなんですか?」

 素直に立ち止まり、遠くを見る仕草をして答える。
「あれは、育成中の大型獣が餌の催促をしてるのだと思われます」

「あの検非違使さん?」
 妙にしんみりと訊く優衣。

「何でございましょうか?」
「これは仮定のお話しですが……もしマスターがいなくなったとしても、あの動物たちはこのまま新天地に運ばれて行くのですか?」

「マスターがいなくなるなんてことは、絶対にございません」
 検非違使は吃驚(びっくり)したふうに声を引きつらせて、はっきりと言い切った。

「いえ。仮定の話です。気を悪くなさいましたか?」
「とんでもございません。ただそのようなこと考えたこともありませんでしたので……」

 検非違使は何か考える仕草をして空をぼんやり仰ぎ、
「もしそのようなことが起きましたら、おそらくここは崩壊するでしょう。そういう仕組みになっております」

 これで医局長の説明は真実を語っていたと理解した。
「そうなるとあの動物たちの世話をする人もいなくなるのですね」
「いかにも。マスターが存在しない世界など、動物たちも考えられないでしょうからな」
 勝手な考えだぜ。自己中丸出しじゃねえか。

 しばらく丘の向こうを遠望していた検非違使が動きだしたので、俺たちも後を追う。

 そして百メートルほど行って角を曲がった時、先頭の検非違使と黄色の服装をしたアンドロイドが出会い頭にぶつかった。

 検非違使は倒れることは無いが、黄色の奴は弾き飛ばされ尻餅をついた。

「無礼者! マスターを襲う腹積もりか! この狼藉者めがっ!」
『と、とんでもございません』
 黄色のアンドロイドは慌てて起き上がり、謝罪するが、検非違使は収まらない。

「うるさい! 言い訳するな。我らは高度な検知機能を持っておるはず、衝突など有り得ん! 故意にやったのであろう」

 一方的に決めつける不快な口調に耐え切れず、優衣が飛び出した。
「ワタシたちには何の問題もありません。出会い頭です。ぶつかることもあるでしょう。ここは穏便に処理してくれませんか?」

『あ、あ、あぁ。これはマスター。ありがたきお言葉です』

 地面に突っ伏し、泣き声で懇願するアンドロイドの右手首から先が垂れ下がっていた。
 その手をまろやかに寄せて優衣が尋ねる。
「故障したのですか?」
 アンドロイドは瞬間強張り、検非違使から隠すように手を後ろに回した。

『故障ではありません。別に問題ありません』

 検非違使は乱暴にアンドロイドの胸ぐらを鷲掴みにすると、相手の腕を握り、荒っぽい仕草で振り回した。
「自立回路が切れておる。これでは指が動くまい。オマエ、ウソを吐いたな!」

『ウソは吐いておりません。確かに指が数本動きませんが、仕事には支障が出ませんので、ここはお許しください』
「ならんっ! 小さな故障でも大惨事になる。オマエは再生センター行きだ!」
 怯えるアンドロイドの前で検非違使は怒鳴り散らすと、無線で仲間を呼び寄せた。

 数分で二人の検非違使が駆けつけたが、それは同じ顔、同じ服装の鉄仮面だ。
「この者を捕らえろっ!」
 黄色い服装のアンドロイドは左右から押さえつけられ、無理やりひざまずかされた。

「弐拾番殿。何事ですか?」
「こやつ、マスターを襲った上に、故障を隠しておる。再生センターへしょっ引け!」
「ははっ!」
 何もなす術もなく見守る中、一方的に剣呑な方向へと事が運ばれていった。

「ちょっと待ちなさいよ!」
 やはり黙っていられなかった玲子が、あいだに割り込んで仁王立。

「この人は嫌がってるじゃない。犯罪者でもない人が、どうして引っ張って行かれなきゃならないのよ。再生センターって何よ?」

「故障したら修理する、これのどこがおかしい。我々の問題に文句を言われる筋合いはない。口出し無用だっ!」
 その主張は的を射ており、俺たち部外者が文句を垂れるところではない。
「検非違使の言うとおりだ。やめておけって……」

 それは息巻く玲子を急いで止めようと手を出しかけた時に起きた。

「な、なんだこれっ!?」
 奇妙な物体を発見した。

「それなら、どうしてこんなに怯えてんのよ!」
 腰に手を当てていきり立つ玲子と、それに一歩も引かない検非違使の足下を横切って行く無彩色の影。半分透けた人型をした物体がゆっくりと通り抜けようとしていた。
 最初は自分の目を疑った。だが、
「だいたいね……え?」
 玲子の視界にも入ったのだ。同じ歩幅で検非違使の左足を透過して、奴の背後へと消えて行く謎の物体を目で追っていた。
「なによ、今の?」
 怒気を含んでいてもなお秀麗な面持ちが、一瞬で困惑へと変わった。

 玲子は検非違使の横へ飛びつき、その後ろへ回ったが、もうその姿は無かった。

「何事だっ!?」
 不可解な行動を起こした玲子に釣られ、検非違使も振り返るが、謎の物体は煙のように消えた後だった。

「幽霊……よね?」
「レイコさんも見えました?」
 優衣も一緒になって目を見開いているところを察すると、幻でも錯覚でも、もちろん霊的なんてことはない。アンドロイドが持つ電子の目にも映る物質なのだ。
 半透明の物体は確かに歩いていた。全体は無彩色の影だが、手足を振って検非違使の左足辺りを透過して消えた。
 もやもやとして顔などもはっきりしない灰色の物だったが、あれは確実にヒューマノイド型をした何かが歩いていたと言い切れる。

「煙じゃねえよな」
 煙のイメージが最も近い形容だが、そんなモノが手足の輪郭を作るわけもなく、ましてやクロスするなどあり得ない。

「何を不可解なことを申しておる」
 体をねじって背後に何もないことを確認した検非違使は、再び胸を反らして会話を巻き戻しにかかった。
「とにかく、我々のすることにいちいち口出しするな」
 その話は俺たちの頭からすっかり消えており、いつまでも消えた空間から目を逸らさなかった。

 その様子に首を傾げつつも、検非違使は急かす。
「さぁ。そろそろ日が暮れる。行くぞ」
 俺たちは否応無しに従い、前へと歩みだし、腕の故障を咎められたアンドロイドは二人の検非違使に引っ立てられた。

『お願いです。まだ仕事はできます。修理には出さないでください』
「うるさい。故障すれば修理される。これは決まりだっ!」
 執拗に懇願する声も虚しく、アンドロイドは二人の検非違使に連行されて行った。


「故障を直すだけなのに、あんなに怖がるものかしら……」
 修理と言う言葉の意味が、この星ではずいぶんと違うものだと気づいたのは、その光景を怪訝に眺めていた玲子が最初かもしれない。
  
  
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