アカネ・パラドックス

雲黒斎草菜

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【第二章】時を制する少女

未来から来た調査員(会社にて)

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 お気に入りの女子と行くはずの楽しい社員旅行が、ケチらハゲと世紀末オンナの黒い策略により、3万6000光年の彼方へ飛ばされる遭難ツアーに変更を余儀なくされ、超新星爆発で噴き出した水素の濁流を遊覧観光するという非常識なオプションまで付いた、数日間の恐ろしい旅行から無事帰還したと思ったら、こっちの世界では2年も経過していた。

 どうだい。まるでリアル浦乃島太郎だろ。しかもこんな不可思議な経験をしたのに、けろりとできる俺もたいしたもんだと思う。

 なんだって?
 浦乃島太郎ってそっちの星にもあるの?
 浦島?
 知らねえよ。こっちは『浦乃島』だからな。助けたイルカに乗せられて竜宮城へ行って、帰ってきたらジイさんになっていたって話さ。
 そっちにも似たような話があるって?
 あそ。だから?


 そんなこんなで。
 あれから1ヶ月半後のある週末。仕事が終えた俺はケチらハゲが経営する会社のロビーを歩いていた。

 ちなみにケチらハゲというのはここの社長のことで、芸津(げいつ)と言う名があるのに、裏ではケチらハゲと呼ばれている。見ればすぐに納得さ。ドケチでハゲ散らかしたオッサンだからな。

 ところで俺が急いでいるのには理由がある。受付のマナミちゃんの顔を拝んでから帰りたいからだ。あのクリクリとした可愛らしい目で見つめられながら、一言でいいから声をかけてもらうだけで、同じ安酒であおる晩酌であってもランクが一段上がるっちゅうもんだ。

 言っとくが可愛らしいと美人は意味合いがだいぶ異なるだろ。もちろん可愛らしいだけでも十分だけど、美人も捨てがたい。しかもだ、マナミちゃんは可愛らしくて美人なんだ。両方を備えた女子はそう違ないぜ。美人で怖いっていうオンナなら一人知ってるけどな。世紀末オンナって呼んでんだ。

「よ、お疲れ、ユウスケ」
「やぁ」
 追い抜きざまに同僚から肩を叩かれた。

 ややもして。
「ゆうすけ、元気か?」
 今度はすれ違いざまだ。
「ああ」

 そしてまた肩口から声を掛けられる。
「よ、お疲れ。もう少しでプロジェクトが終わるから、ケチらハゲの相手頼むぜ」
「わかってるって」

 もうお分かりだろう。すれ違う連中から友好的に声をかけられるのは、俺がケチらハゲに気に入られた数少ない従業員の一人で、その遊び相手を任せられているからだ。

 この親父のドケチ振りは病的で中でも俺が配属された開発部では全員がその被害を受けて泣きの日々さ。どんなに頭をひねって部品点数を減らしても、さらに減らせと命じてくる。これ以上無理だと言うチーフの訴えも聞かずに強制的だぜ。しかも完成した製品は一級でないといけないという矛盾したことをほざきやがる。

 つまり開発部はその鬱憤が渦巻く坩堝(るつぼ)と化してんのさ。
 そこで俺が社長の目を社外に向けさせることで、会社の運営が円滑に回るんだ。
 俺たちが漂流して行方不明だったこの2年間はさぞかし過ごしやすかっただろうな。

 いったいどういう社長なんだと言いたいだろうが、この破天荒な行動が次々と発表される突拍子も無いアイデアのトリガーとなることが多々ある。

 このあいだの衛星探査で、超低空をあんな速度で飛べたのは、ケチらハゲが考案した、3Dマップと照らし合わせて飛ぶことができる航空制御システムを開発したからで、それを早速商品化することを業界に打診したところ、とんでもない数の称賛を受けたそうだ。

 そんなオッサンなので誰も文句は言えないが、自分たちが請け負った仕事には口出しをして欲しくない。だからその御守(おも)りをするのがこの俺の職務さ。そうでなければチンケなウエブデザイナーだった俺がこんな大会社の開発部に就職できるはずがない。

 てなわけで、社長の御守(おも)りが俺の主な職務さ。持て余した時間は受付の女の子に鼻の下を伸ばしてりゃいいのさ。



「ちぇ……」
 舌打ちと共に足を止めた。

「もう帰っちまったのか」
 お目当てのマナミちゃんの姿は見えず、広いエントランスの一角に設けられた受付のデスクには照明が消えていた。
 マナミちゃんともう一人、今日は誰だっけかな。芳江(よしえ)先輩だったかな。この人も少し年上だが整った面立ちは美しい。その姿も無いところをみると今日は早々に引き上げたのだろう。

「しかたがない。今日はまっすぐ帰るか……」
 こういう日はおとなしくするにかぎる。

 てな時に。
「ユウスケさん♪」
 どこか甘えた感じがするこの声と微妙な力加減で肩に掛けられた細い指の心地良い感触。
 ゆるゆると後ろを振り返ると、そこにはナナの可愛らしい笑顔があった。

「おぅ。どうした?」
 俺の人生で最大級の謎を持った女性だ──少女かな?

 なにしろ年齢不詳、出身地……衛星の裏? とにかくなんだかよく解らない子なんだ。

 ナナという名は俺が付けた。初めて会ったときに自分は『F877A』だと型番を宣言したので、そこから『7』を取って『ナナ』さ。

 でも型番って、おかしいだろ?
 そう察しのとおりこの子は人間じゃなくて管理者と呼ばれるどこかの進化した星に住む宇宙人が作った人造人間だ。
 あー、いや。訂正しよう。
 そんな不気味な言い方ではあまりに可哀そうだ。人工生命体、いやガイノイドでどうかな。

 ガイノイド……。
 聞き慣れない言葉だが、つまり女性のカタチをしたアンドロイドのことだ。
 なーんだロボットか、って思うなよ。その辺のおもちゃとか発展途上のギクシャクとした不細工なロボットを想像してもらっては困る。

 容姿、口調、会話能力、運動能力どれをとっても生命体と寸分違(たが)わない。いやそれ以上かもしれない。いやいやいや、それ以上だと断言しておこう。彼女を作った管理者のこだわりは神様レベルなのだ。

 その中でも、まず一押しは容姿だな。
「そう。オンナはスタイル!」
 おっと興奮して声を出しちまった。数人の社員が怪訝な目で見て通ったぜ。

 一度視線を向けるとしばらく目が離せなくなるほどのメリハリのあるボディは必見だぜ。理想的な『ボンッ』『キュッ』『ボンッ』だ。
 原型となったモデルに会ってみたいな。管理者め、恐るべし異星人だ。このスケベ。

 そのガイノイドが俺に告げる。
「今夜ね。レイコさんにクラッシックコンサートとかいうのに連れてってもらうんですよぉ。ね。ユウスケさんも行こ?」
 ロボットにはあり得んセリフと、上目遣いに俺を見つめてこっちの胸中を探るべく生々しい感情表現にこっちは凝然凝固の姿勢で縫い付けられる。

 透明の光を満たした瞳から放たれた無垢な視線に吸い込まれそうな、俺は完璧な蝋人形だった。

「で……どうだ? 秘書課は慣れたか?」
「あ、はい。秘書って社長さんをアシストするんでしょ。ワタシのためにあるようなお仕事ですよー。こういうのをテンショクって言うんですよね?」
「あ。その発音だと『転職』になっちまう。意味が違う。『天職』な」
「天……職?」
 小首をかしげるナナの容姿は襟の無いビリジアン色のハイネックスーツ姿。同じ色のタイトなミニスカートから、すらりとした美しい脚を惜しみなく曝け出した制服は世紀末オンナ、ようは玲子と同じ秘書課のものだ。

 初めの約束ではナナは一般事務から会社に慣らしていく予定だったのだが、即日で玲子の目の届く秘書課に移動となった。

 なぜなら、こいつのCPUから見ると人間の事務計算など園児のお絵描き以下なんだろう。瞬時に簿記をマスターして、会計士の舌を巻かせただけでなく、全課の給料計算から税務計算。はたまた株主資本変動計算書までをこなしてしまい。人間ではないことが暴露されかかったところを玲子がなんとかゴマかして、自分の手元に置いたというわけさ。社長決裁がすぐ下ったのは、ナナがアンドロイドだとバレることを懸念しての処置だ。

 そらそうさ。このアルトオーネではまだここまで進んだアンドロイド技術が無いからな。
 そうそうナナが持って来た黄色いリボンの続報だが、社長が精密な年代測定をその道に詳しい業者に頼んだところ、少なくとも3000年以上は経過したナノチューブが織り込まれた特種リボン。つまり玲子の物と鑑定された。

 これを手短にまとめると、ナナはウソを言っていないということと、管理者製のアンドロイドはなんて長寿なんだという驚きの事実さ。

 となると……さーたいへんさ。
 ナナはとんでもないことを暴露してんだ。

 まず社長が救助した絶滅寸前の住民たちは、ナナを作った管理者の祖先だということ。
 そして衛星の裏側に現れた謎の建造物は、先祖を助けた社長に対する感謝の印として贈られた物であること。

 だけどここでおかしなことに気付くだろ。
 助けた祖先の遥か未来の管理者がナナを作ったらしいが、その祖先が苦難していた惑星に俺たちを送り届けたのも何を隠そう、そのナナだ。だから惨状を見かねた社長が救助の手を差し伸べた。正確には今田薄荷の協力も得てだがな。

 ナナが作られなければ先祖は絶滅だ。だったらナナは完成しないので衛星の裏に謎の建造物は出てこない。だってその調査にオレたちが出向いたのだからな。出てこなければ俺たちはそこへは行かない。なのに現れた。ということは祖先が助かったわけだ。だけどその時、俺たちはまだ救助に行っていない。

 どうだい、頭が熱くなったろ。俺なんてこのおかげでずいぶん毛が薄くなっちまったんだぜ。どうしてくれんダ。

「よ、ユウスケ!」
 と肩を叩かれて、飛び上がらんばかりに驚いた。意味不明の妄想をしていたから、そりゃ吃驚仰天(びっくりぎょうてん)さ。

 振り返ると、俺と同じ部署の課長が立っていた。
「こんなとこでナナくんとイチャついてると、ほかの若手男性社員から恨まれれるぞ」
「ば……バカなこと言わないでくださいよ、課長」

 俺より五つ年上の上司だ。
「課長。俺はですねー。社長の命令で世話してるだけで……」
 音量を落として課長の耳元で囁く。
「俺にはマナミちゃんがいるんすよ。変なこと言わないください」

 課長は眉根を少し寄せた。
「秘書課のエリート、玲子くんとも仲がいいし、ナナくんは寄り添って来るし、なんでお前みたいな男がモテるんだよ?」
「モテてませんて……」
 モテるもモテないも、どっちもまともな女じゃねえし。片やロボット。片や鉄の女だぜ。ついでにマナミちゃんに関しては、まったくの一方通行だし。

「ま。うまいことやってくれ。じゃな」
 課長は笑いながら肩をすくめると、片手をポケットに突っ込み、残りの片手で宙を払って歩き去った。


 ひとまずナナがロボットだということはバレていない。しかも玲子が世紀末オンナだということもな。
 うちの会社は、バカばっかりだな。


 しばらく課長の背中に小さな手を振っていたナナが、再び黒髪を翻した。
「ワタシ『音楽』に行くの初めてなの。うれしいな」
「お前、音楽って何だか知ってんのか?」
「あ、はい。知らないです」
 ためらいも無く返事しやがった。肯定してから否定すんなよ。若い奴らと同じだぜ。

「あのな……ま、いいや」
 こんなところで俺が親父臭い文句を言っても始まらない。こういうのは教育係のあいつが悩めばいいのだ。俺はコマンダーだからメンテナンスしかやらん。しち面倒臭いことやってられるか。

 ところでコマンダーというのは……。ま、いっか。その話は後回しにしよう。

「レイコさんが音楽は美しいって言ってましたから、きっと綺麗な物を見に行くんでしょう? ねえ一緒に行きましょうよ」
「いや俺はいい。クラッシックは性に合わん」
「え~~~? 行きましょうよぅ~」
 柔く肩だけを左右に振るが、やっぱりこいつは完全に誤った認識をしてやがる。『見に行く』って、美術館か何かと勘違いしている。玲子もたいへんだぜ。



「お待ちどうさま……」

 高級そうなコートを羽織り。すんげえ芳しい香り撒き散らしたとんでもない美人がそこにいた。
 出たな。世紀末オンナめ。

「く──いい匂い」
 こいつがハゲの専属秘書、玲子だ。ナナの教育係を自ら買って出た秘書課のチーフさ。

 チーフだからと言って、別に年を取ったお局(つぼね)さんではない。ナナが幼く見えるため、どうしてもそう見てしまうが、大勢控える秘書の中では若手で、最も美しくスタイルも抜群なのだ。

 とか聞いて鼻を伸ばしてっと、ひどい目に遭うからな。
 こいつは社内で最も威勢のいいオンナで、あらゆる武道の達人さ。運動神経、度胸、そして男を男と見ない度も社内一で、その喧嘩早い性格が災いして、社内では高嶺の花どころか、猛獣的存在だ。だから怖がって近づく者はいない。なにしろ人を殴るとき笑ってやがるからな。恐ろしい女なんだぜ。

「あ、レイコさん」

 ナナは黒髪を風になびかせながら全身を旋回させた。艶やかで細い髪の毛が俺の鼻先をすり抜けたので、こっちでも深呼吸する。
 それは高級そうなシャンプーの香りだった。

 ロボットのクセに風呂に入るのか?
 どうやって体を洗うんだだろ?
 いや。洗い方なんかどうでもいい。どんな格好をしてだな……。こほん。こほん。
 こういうことを考えると必ず玲子は感づいて首を絞めてくるので、いくつかの咳払いをしてごまかした。

「あなた、まだ会社の制服着てるの?」
 感づいていない……よかった。

「あ、はい。ワタシこれしか着るもの無くて…」
「そっか……。お給料が出たら、付き合ってあげるから買いに行こうか」
 ナナの教育係を自ら買って出ただけあって面倒見はいいようだが、ついでに金ぐらい出してやれよ。金持ちのクセにケチな奴だ。

「それがレイコさん。一緒に行きましょうってユウスケさんも誘ってるんですけど。行かないって言うんですよぅ」

 ナナは口先を尖らせて不服感を前面に押し出すが、玲子は鼻で笑った。
「こんなバカが行くわけないじゃん」

 バカで悪かったな、アホ。

「クラッシックよ。そうね。たぶん5分で寝ちゃうわね」
 3分が精いっぱいだ。

「音楽って眠りに行くのですか?」
 不眠治療にはもってこいさ。

「あ。時間がないわ。こんなヤツ放っておいて行くわよ」
「同じヒューマノイドなのに行動を共にしなくていいんですかぁ?」
「人間には好みっていうのがあってね。この人は呑みに行くことしか頭に無いの」
「お前だって、そっちのほうを優先するじゃねえか」
 と口答えする俺をあっさりスルー。

「はい。おっ疲れぇー」
 俺とタッチすると、玲子は戸惑って瞬きを繰り返すナナの腕を引いた。

「さ。行こう。タクシー待たせてあるのよ」

 俺は引き摺られるようにして離れて行くナナに向かって、悔し紛れに言い放つ。
「これが個性というものさ、覚えておいても損はねえぜ」
 ナナは振り返り振り返り首をかしげた。

「個性って……なんですかぁ?」

 まぁ、あいつが混乱するのも無理はない。『個性』なる単語一つで、片づけられてしまうほど単純なネットワークで生命体は構成されていないからな。それにしても音楽会へタクシーで乗り込むとは、やっぱ金持ちだな。俺なら地下鉄で行って、余った金でビール飲むな。

「ふっ──」
 玲子の言うとおり、結局、呑むことしか頭にないことを改めて気付かされた。



 次の日、ナナから音楽についての報告を受けた。
 なぜ前日の出来事をいちいち俺に報告をしに来るのかと言うと、学習結果をコマンダーに報告するのもガイノイドの義務らしい。

 あー。またコマンダーという言葉が出てきたな。致し方ない。補足情報で悪いが説明を加えておこう。

 俺はナナのコマンダーとか呼ばれるワケの解からない役に従事することとなった。無理やりにな。
 事の発端は衛星の裏で見せつけられた長距離転送装置、ハイパートランスポーターを試すにはそうしないといけない規約があるようで、勝手に決められただけの話だ。

 ついでに聞いてくれ。コマンダーって言うから、なんだか特別な役割を与えられたような気がするだろ。でもそれは大いに勘違いだぜ。ただの雑用と代わらない。そのひとつにナナのメンテナンスを定期的にしなければならんのだ。会社にあるコンピューターのメンテナンスですら億劫でやったことないのにだぜ。

 さらに釈然としないコトがある。それならせめてコマンダーの命令に従うのが道理だろ。それがアンドロイドだろ。
 それなのにこいつは玲子や社長の言うことばかり聞いて、俺さまの命令なんざ、ちっとも聞いてくれない。

 ま、ここで愚痴っていても始まらん。で、その報告なのだが──。

 ナナはコンサートで初めて経験した『音楽』と呼ばれる情報形態に圧倒されたらしい。
 最初は視覚情報を伴うものと想像していたのだが、これは大きく外れており、聴覚のみの形態にもかかわらず、これほど幅広い情報量があるとは思っていなかったらしく、彼女は驚愕に震えたという。

 そしてその膨大な情報量は彼女の処理能力を一時的にオーバーしてしまい、しばらく視覚と皮膚感覚情報を遮断して対処したと言った。でも周りの人間も同じように情報遮断状態(トランス状態)に陥っていたので、誰も自分の異常には気付かなかったのだと嬉しそうに報告した。

 どちらにしても音楽は非常に興味深かく、経験の無いインスピレーションを得て大いに感動したらしく、それに対して意見を求められた。

 感動って──。
 ロボットがインスピレーションって言いやがったぜ。

 マジで理解してんのか?
 俺だって上手く説明できないのにな。

「え? って、おい、俺の意見を待ってんの?」
 妖しげで、かつ熱い視線を俺に据えて、じっと言葉を待つナナにたじろぐ。

 メンテナンスって体の隅々に油を注したり、お風呂に入れてやったり、てなことを当初は想像していたのだが、不埒な妄想はもろくも崩れ去るのさ。

 こいつの言うメンテナンスとは、学習結果に対して適切な感想やアドバイスをしてやり、アンドロイドの記憶デバイスに正しくデータを蓄積させることだそうだ。簡単に言うと、話し相手をするんだな。これが……。

 ばーか。それならメンテナンスって言うな。勘違いするだろ。


「めんどくせえな」
「え~。そんなメンテナンスワードダメですよー」
「じゃあ。音楽聴けて良かったね、でどうだ?」
「もう。感情が入ってませ~ん」
 ナナはぷうぅと膨れて見せ、俺をさらに仰天させた。

 マジでこいつロボットなのか?
 人工生命体が俺に向かって感情が無いと言い切りやがったぜ。

 もはや俺の前では生気溢れる一人の少女だった。
  
  
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