上 下
93 / 100
第四巻・反乱VR

 タスクキラー・戦慄のキャザーン である

しおりを挟む
  
  
「あっ、痛てててて。何すんだよキヨ子ぉ」
 半パンから伸ばした足のすね毛をキヨ子に引っ張られ、アキラは後ろに下がり、キヨ子はクララへ忠告めいたことを言う。
「宇宙人のつもりだか何だか知りませんが。もっとSF映画を見ておきなさい。これでは安物のアニメだと言われてしまいますよ」
「ワタシの想像力が陳腐だと言いたいのか?」とクララ。
 二人の会話を聞いて最初は解らなかったのだが、少し考えて納得した。ようするにこの世界はクララが具現化したもの。彼女の思考行為からできておるのだ。

 ところがクララはビューワーに映る少女を指差して反論した。
「確かにキャザーンの復活を願いこの世界を創造した。だが、このオンナはワタシの考えたモノではない」
「あら、ま。となると。もうご登場ですか。ちょっと早計過ぎませんか?」

 ぱーっと光が広がり、
『あはははは。ユーザープロセスの分際でよく見破ったわね。褒めてあげようかしら。でも早まったわけでもないのよ。キヨ子さんにご挨拶でもしておこうと思ってね』

「出るわよ、キヨ子さん。カーネルプロセスよ」
 小声で伝えるNAOMIさんの前、ビューワーの中で胸のでかい宇宙人が指をパチンと鳴らすと、間髪入れずに、我々がいる司令デッキの中央で光球が弾け、閃光と共にリョウコくんが現れた。

 先ほどまでの宇宙人ぽい服装は一変して、桜園田東高の制服姿に変わっていた。その子が丁寧膝を折り、
「こんちはキヨ子さん」
「ようこそNANAへ。カーネルさん」
 リョウコくんの正面へと体の向きを変えたキヨ子どのが、平然と挨拶をする。

「センタッキーのカーネルジイさんでっか?」
 ギアの一言はキヨ子の睨みだけで黙殺。我輩は首を捻る。
「カーネルとは何である? この子はリョウコと名乗っておったぞ」
 キヨ子どのはフンと鼻息も荒く股を拡げて仁王立ち。

「人の名を語ろうが、語るまいが、しょせんラブマシンが起動させたハーレムクラスオブジェクトのカーネルにすぎませんわ」

 キヨ子も傲然とするが、向こうだって負けずに尊大にでっかい胸を張る。初めて会った時と同じ制服のブラウスがはち切れそうだ。
 アキラは猛烈に目を輝かせて、
「恭子ちゃんといい勝負だ。すっごいおっぱいが大きいや」
 そう、ここはアキラのために作られたシミュレーター。当然だが現れた少女はアキラの理想像なのだ。そりゃあもう。立派にボン、ボインである。

「オマはん、言うことが古いな」
「でも、あんな女子は東高にはいないよ」
 言い切るアキラにクララは仏頂面で、
「高校の女子は大勢いるのだ。知らない子だっていて当然だ」
 我輩は指をメトロノームのように左右にチッチッと振る。
「アキラは全学年、全クラスの女子の名前と容姿体形を記憶しておるのだ」
「せやでクララはん。コイツ、ごっつい記憶力しとるんやけど女子専門の脳や、男子になると数名しか覚えられへんねん。アホやろ」

 クララの表情がみるみる憐憫にかげり、
「北野博士の天才的な部分が歪んだところに隔世遺伝したんだな。勿体ない」
 言うとおりである。少しずれていれば北野博士の二世となり、物理学の道を歩んだのに、残念な青年なのだ。

「ねぇ、キミ。東高の転校生だろ? バストいくつ?」
 博士と同じ挨拶の仕方をするのは、同じ遺伝子のなせる技なのだ。

 キヨ子はアキラを引き摺り倒して、グイッと迫る。
「カーネル自らがお出ましとは、えらく仰々しくありませんか?」

「あたしを舐めないでね。何を考えてるのかすでにお見通しよ。数人の人間がどんな思考的行為を起こそうが、常に瞬間的に把握できるわ。あんたたちはしょせんユーザープロセスなのよ。あたしはカーネル。この世界すべての動きをそのバックで監視してんのよ」
 我々とは異なる路線を突っ走る双方の視線がバチバチと火花を散らしておった。

「あかん、熱すぎる。この二人には付いて行けんデ」
 ギアは降参と両手を振るが、クララの目の色は相変わらずギラギラと燃えていた。

「しっかり見ておけ。こんなに度胸が据わった6才児など。宇宙広しと言えどもキヨ子が初めてだ」

 我輩はクララの嬉しげな表情を窺った。キャザーンのクイーンがキヨ子を認めたのだ。もしかすると自分の後継者として選んだのかもしれない。そうなるとすごいことになるのである。

「せやけど、何をゆうてんのか難しすぎてさっぱりわからへんがな」

 キヨ子どのはギンっとリョウコくんの姿を睨み付け、会話だけは我々に語る。
「これは難しいのではありません。専門的すぎるだけです」
 と言ってから、リョウコくんを正面から指差し、
「ユーザープロセスからでもカーネルを牛耳れることを証明してさしあげます」

「よく言うよキヨ子さん。じゃあさ。量子軍(りょうしぐん)と娘子軍(じょうしぐん)を戦わせてみる? するまでもないけどさ」
「なんだとっ!」
 憤然といきり立ったのは、もちろんクララ。
「たかがマシンごときにワタシが怯むとでも思っておるのか! 我がキャザーンを舐めるなよ。受けて立ってやる!」

「あははは。宇宙の詐欺集団なんか目じゃないわ」

「ぬのヤロウ……」
 奥歯をギリッと軋ませたクララの前を腕を出して遮ったキヨ子どのは、居丈高にNAOMIさんへ命じる。
「システムサービスディスパッチャを切りなさい。こんな鬱陶しい乳牛は見たくありません」
 いやー。乳牛のほうは見たくないが、このリョウコくんならずっと見ていたいな。
 とは、アキラの考えであるからな。そんな目でじっと見つめておる。

「バイバイ、またねー」
 NAOMIさんが手を振ると、瞬間にリョウコくんが消えた。

「どうやって消したのだ?」
「描画プロセスを担う部分を混乱させただけです」
「混乱?」
 胡乱げにキヨ子を見るクララ。それには答えず。
「どうですかNAOMIさん? 敵は今スキャンしていそうですか?」

 お人形さんはちょっと考えるような振る舞いをして、
「たぶん相当驚いてると思うから、しばらく大丈夫そうよ」

「そうですか……」

 再びキヨ子どのの難解な説明が始まった。
「先ほども説明しましたが、ハーレムクラスオブジェクトにはいくつかのライフサイクルがあり……」
「キヨ子。講義は易しく頼む。我々は専門家ではない」
 と言い返すクララにうなずき。

「ようは、量子コンピューターであってしても隙があると言うことです。割り込みハンドラに制御が移る時など必ずスタックへデータが積まれます。そして元のプロセスに戻る時にその積まれたデータに従って行動を取っています。そのデータを潰すとどうなると思います?」

「戻れなくなる……な」とクララ。
 キヨ子はこくりとうなずき、
「スタックをいじって狂わすと、ラブマシンのカーネルは混乱を避けるためにマルチスタックから実行経路を逆に戻り処理を最初に戻そうとします。その間にロスタイムが生じて、カーネルの思考処理だけが少しのあいだ停止します」

 後をNAOMIさんが補足する。
「そ。マルチスレッドにマルチタスクなので他には影響は出ないけど、確実にカーネルの思考ルーチンだけがループに入るの。それをうまく利用して、ハーレムクラスオブジェクトの内部からカーネル制御の部分だけを潰してしまおうと言うのが、今回の作戦よ。もちろんこれには人の手がたくさん必要なので、クララさんを呼んだわけ」

「アニメの原作を練るにはちょうど良いと思ってな。しかもキヨ子の作ったタスクキラーという武器は使えると直感したので参加させてもらった」

「タスクキラー?」
「現実世界に戻された時にNAOMIさんと拵えて、すでにセッティング中です」
「それがあると内部から破壊工作ができるのか?」
 よく解らないモノは疑問ばかりを増殖させるのだ。

「世間一般で言うタスクキラーとは、スマホの常駐アプリを消すモノですが、ここでは少しニアンスが違います。まぁ簡単に言えばデバッガーです」
「む――。ちっとも簡単になってないな」

「目には見えないプログラムの流れを追い掛ける物ですわ」
「目に見えまへんの?」

「もうよい。キヨ子。こんなバカは放っておけ」
「クララどのは理解しておるのか?」
「さっきも言っただろう。直感したと。それだけでじゅぶんだ」
 なるほど。透明な脳ミソをお持ちのようだ。

「よし。後は実行のみだ」
 クララは堂々と胸を張り、我々の前で毅然と命じた。
「もう隠れている必要は無い。全員姿を現せ!!」

「はい、お姉さま」
 奥から小気味の良い返事がしたかと思うと、司令室へ次々と人が入ってきた。

「この世に怖いモノは無し。リリー・ベルナード参上!」

「いつも爽快、軽快、スカッと爽やかニーナ・ケンドリックでーす」

「深碧(しんぺき)の妖精、アヴィリル・ドルベッティだ」

「こんにちはー。深海の蒼い目。キャロラインでーす。愛称はキャロちゃんと呼んでね」

「シャインズ・イレッサよ。赤いヘアーが特徴なの」
 舞台で使う簡易的な自己紹介と共に現れた5人の少女。もちろん娘子軍のトップである。

「うほぉ~。豪華な面々やセンターからサブまで全員集合やがな」
「うはぁぁ……」
 アキラは言葉も無い。テレビでおなじみのKTNの面々である。それがまだ地球人には見せたこともない戦闘コスチューム姿で勢揃いしたのだ。
 粒ぞろいの至高の美少女たち。映像の中で見る姿とは異なる勇ましく厳しい目付きがそのコスチュームに映えて、我輩は鳥肌が走るのを覚えた。
  
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀

黴男
SF
数百万のプレイヤー人口を誇るオンラインゲーム『SSC(Star System Conquest)』。 数千数万の艦が存在するこのゲームでは、プレイヤーが所有する構造物「ホールドスター」が活動の主軸となっていた。 『Shin』という名前で活動をしていた黒川新輝(くろかわ しんき)は自らが保有する巨大ホールドスター、『Noa-Tun』の防衛戦の最中に寝落ちしてしまう。 次に目を覚ましたシンの目の前には、知らない天井があった。 夢のような転移を経験したシンだったが、深刻な問題に直面する。 ノーアトゥーンは戦いによってほぼ全壊! 物資も燃料も殆どない! 生き残るためにシンの手にある選択肢とは....? 異世界に転移したシンキと、何故か一緒に付いてきた『Noa-Tun』、そして個性派AIであるオーロラと共に、異世界宇宙の開拓が始まる! ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

【なろう400万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間1位、月間2位、四半期/年間3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

【完結】Alternative『この世界でめっさ幸運の持ち主がオルターナティブで負ける訳がない』

すんも
SF
主人公の天願也沙は、幸運の持ち主だった。 ある日、幼馴染みに教えてもらったゲームを始めてみる。 そのゲームの大会が開かれる事を知り、也沙はその大会に出場する事を決意する。 しかし、その大会にはゲームとは別の目的があった。 そこで知らされる也沙の過去、そして大会に隠された真実とは…… 【テーマ】 馬鹿とハサミは使いよう! 使い方によっては、人を幸せにも不幸にもしてしまう。 十人十色で様々な考え方があるけれど、原子力みたいな過ちは繰り返して欲しくないなぁーといったテーマとなっております。 稚拙な文章ですが、そういったものを感じとって頂けたら嬉しく思います。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

人材派遣会社トラスト タクティカルチーム-邪神

JUN
SF
 国家間のパワーバランスの変化により、日本が名のみ存在するばかりとなった未来。人材派遣会社トラストは宇宙コロニーに独立国建国を果たし、世界中に社員を派遣していた。業務内容は、子守から戦闘までと何でもあり。ご相談は、是非お気軽に。(注)一回目だけは、長くて説明調子です。

処理中です...